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114話 生理現象なんだから仕方がない!

「アシダカー! しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」


「エスドエム…すまんガニ」


「愚か者がッ! 我輩なんかをかばったばかりに!」


「大丈夫ガニ。こんな時のために触手が…あ」


「触手? ま、まさか…触手に蓄えるというのは栄養は、非常時の治癒にも使えるのか?」


「……そうだガニ」


「なれば、我輩のせいではないか!」


「……そんなことはないガニ。エスドエムがいなければ、魔獣ライーをあそこまで追い詰められなかったカニよ」


「結局は逃げられた! 我輩はなんの役にも立っては…」


「……気がかりなのは、尋常じゃない魔獣の強さガニ。あそこまで強いはずが…ゴフッ!」


「アシダカー!!」


「……さ、最期に頼みが…あるガニ」


「最期だなどと言うな! 我輩が必ず…」


「き、聞いて欲しいガニ…」


「……」


「君の住む町…コルダールにもアシダカーと同じ種族が…」


「ああ! チチンガーがおる! 我輩の町にも住んでいる!」


「……ガニンガーだガニ。だから、アシダカーが、エスドエムに触手を差し出した件は黙っていて欲しいガニ」


「な、なぜだ!? 我輩のせいで、貴様は…」


狩人イェーガーにとって獲物を仕留められなかったことは…最大の不名誉ガニ。ましてや魔獣ライーは、ガニンガーの宿敵。その敵を倒さずに、他種族を助ける……優先順位を履き違えたこと、アシダカーにとっては恥辱になってしまうガニ」


「そんな…そんな理不尽な話があってたまるかぁッ!!

 アシダカーよ! 貴様は我輩の命の恩人だ! それを我輩に黙っていろと言うのか! 我輩のせいでこうなったと言うのに!」


「……エスドエムが、コルダールを己が命よりも大事にして守るように、アシダカーにも命よりも大事なものがあるガニ。それが狩人イェーガーとしての名誉ガニ……」


「アシダカー…」


「……頼むガニ」


「わかった! 貴様との約束は必ず守る!

この件はチチンガーには口外せぬ!」


「……ガニンガー…ガニ。ありがとう…エスドエム……最高の…友…よ……」


「アシダカー! 眼を! 眼を開いてくれ! アシダカー!!」




──




「……マスター! ギルドマスター!」


 部下の声に、しばし物思いに耽っていたエスドエムはゆっくりと眼を開く。


「来たか?」


「はい。北に100、東に150、東南に230という数で分散……扇状に部隊を展開しています」


「そうか…。彼らも我輩の愛する民だ。できることならば平和裏に解決したかった。

 だが、そこまでして、このコルダールを落すというなれば戦う以外に手はあるまい」


 エスドエムは辛そうに己の眉根を掴む。


「敵は雷撃魔法に対抗するためのアイテムも所持している模様。海側にも潜伏していると思われますが、偵察部隊はすでに迎撃されており、敵の正確な数までは不明です」


「ふむ。姿を見せているのは、我輩らを誘い出すつもりか」


「はい。数で下回るレンジャーをおびき寄せての撃破…こちらは防衛戦の構えと知っていてならば下策ですが、わざと演じている可用性もあります」


「そうだろう。この難攻不落のコルダールを相手に向こうも数が少なすぎる。本隊の合流を待たずに突破口を開くには、海側を起点に一斉攻撃……いいや、違うな。本当の狙いは我輩だけだ」


「え?」


「…被害を最小限に抑えるためには、敵の狙いに乗ってやる他あるまい」


「向こうは持久戦ができるほどの兵站は持ち合わせていないはずですよ。ましてや頼りの本隊も手負いです」


「持久戦ができない? なんともヒューマンだけの視点での意見だな」


 ガニンガーが持久力に長けていることは、アシダカーと行動を共にしていたエスドエムにはよくわかっていた。


「持久戦に持ち込まれたら、こちらの疲弊と損害は間違いなく計り知れないくらいになる。ならばこそ、短期決戦しかない」


「迎撃にでると?」


「いや、南側大通りのレンジャーを外壁と海辺へと回せ。普通に戦えば負けることはないし、どうせ大将軍が辿り着くまでは時間稼ぎだ。こちらを分散させるために派手に暴れ回るであろうことはわかりきっている。侵入だけはさせぬように、上手く立ち回るように伝えろ」


「し、しかし、そうなると当然に手薄になった南側大通りを目掛けて攻めて来るのでは?」


「そうだな。それが罠だと知りつつも来るだろう。我輩に大将軍をぶつけるために…なればこそ、それに乗ってやろうというのだ」


「なぜ敵の策に乗る真似を…」


「チチンガーには、ちと借りがあってな」


 エスドエムは遠い目をする。


「ガニンガーです、ギルドマスター。しかし借りとは? これはガニンガーどもが吹っ掛けてきた戦争じゃないですか!」


「……言うな。フージアが言うには、ガニンガーたちは荒ぶりしすぎておって、話し合いに応じる気もないらしい。『いま某が喋ってるでしょうが!!』と、一方的に罵詈雑言を浴びせられるのだそうだ」


 何度も対話を試みようとエスドエムは、フージアに命じて機会を設けようとしたが一度も実現しなかったのだ。


「そういえば、副ギルドマスターはどこへ行かれたんでしょうか? ずいぶんと姿を見てない気が…」


「トイレだろう。アイツはお腹が弱いからな」


「トイレですか…」


「そうだ。大を通り越した特大だ。仕方あるまい。生理現象だ」


「いや、しかし…」


「生理現象だ」


 念を押すかのように、エスドエムは顔を近づけて言う。


「腹が減った、トイレに行きたい…こういったものはもぉー仕方がない! 我輩はそういうことには寛大なのだ! 我輩は許そう! そいつのすべてを許そう!!」


「は、はぁ…」


「……貴様もトイレは済ませておけよ。戦いになったら行けんからな」


「い、いや、緊張で出ないんですけど…」


「そうか。我輩はさっき行ったばかりだ。特大だった」


「は、はぁ…」


 なんでそんな報告を聞かなきゃいけないのかと部下はそう思った。

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