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110話 大号泣の謝罪

「なんでこんなことに…」


「誤解を解く余裕はないね」


 ユーデスの言う通り、ガニンガーたちは完全に頭に血が上っている。

 

 今まで理不尽に仲間を殺され、それを理性で抑え込んでいたんだから一度暴れ出したら止まらないのはわかるけれど…


「ヒィェェ…」


 ヘタリ座り込んでいるリュションを尻目に、アタシは眼の前で斬り結んでいるガニンガーを蹴り飛ばす。


「さあ、立って!」


「なんでぇ、私なんかぉ…」


「そんなん考えるのは後にしろ! こういう時の根暗思考はだいたいよくないことになるから!」


 これは私の経験論だ。陰キャは思考迷路に入ると抜け出せない。命がかかっている時にそんな馬鹿なことをしても百害あって一利なしだ。



「愚かなことを!! ヒューマン!!」


 向こうでローストが叫んでいる。彼もこれは望んだ結果じゃないはずだ。だけれども、彼の制止を誰も聞く余裕はない。


「う、ううッ!」


「動くな! 動いたら斬るよ!」


 どっちに味方していいか迷っていたケガニンに剣を突きつける。


 道案内してくれた人に悪いと思ったけれど、本人のためにも今は動かないでいてくれた方がいい。


「こ、こうなっては話し合いも無理だわい!」


「わかってる! 逃げ道を見つけて! 距離をとって、冷静になるのを待つしかないよ!」


「そのつもりだ! けどよ! コイツら!」


「練度が半端ないよ! 気を抜いたらやられちゃうよ!」


「にゃあ! 魔法使う余裕がないにゃ!」


「敵の陣地で、しかも隊列が崩されてるのは不利よ!」


 全員、眼の前の敵を相手にするのが手一杯だ。敵は単独でも攻撃の手数が多いし、少しでも隙を見せようものなら毒液を飛ばしてくるし、連携して来るから厄介だ。



「クソッ! かくなる上は!!」


 敵の親玉、ローストが槍を構えて飛んでくる!


 そして、標的は…アタシ?!


「っと! 待てよッ!」


「君がリーダーだと判断した! なれば、君を倒して事を収める! そうでもしなければ示しがつかん!」


「なにが示しだ! 互いに武器を下ろせばいいだけだろ!」


「では、そちらから手放せ!」


「手放したらこっちがやられんだろ!」


 ローストの槍はしつこくアタシを狙ってるし!


「そうだ! こうなっては決着をつける他ない!」


「レディー! ダメにゃ!!」


 クソ! ローストの攻撃が激しくて、みんなから離れて行ってしまう!


 ガニンガーどももそれを察してるのか、アタシとローストが一騎打ちになるように誘導してる!


「悪く思うな! 【荒天晴雨突】!!」

 

 まるで嵐のような連続突!!


「【魔衝激】!!」


 アタシはユーデスの反応に合わせて魔力の刃を放って迎え撃つ!!


「うッ! 魔法剣士か!? 【饗天落雷】!!」


 まるでロースト自身が雷になったかのように激しく動き回り、上から魔力の刃を叩き潰す!


「その技は見切った! もはや某には通用しない!」


 そんなことを言って、さっきよりも距離を保っている。

 アタシが他の隠し玉を持っているかもと警戒しているんだろう。


「……レディー。気をつけて。強敵だ」


「ああ。ユーデスの攻撃を真正面から受け止めるなんて信じられない」


「ガニンガーが使う槍術は“槍装甲術”と言って、守備力の高さを活かして強引に攻め口を開くものだ。それと流剣派に近い魔力を使ったものにも近い」


 どうりでフィーリーみたいに武器に魔力が流れているわけだ。他のガニンガーには見られないことから、大将軍と呼ばれるだけあって強さも別格らしい。


「今のを咄嗟に食い止められたってことは相当な腕前だよ」


「勝てるか?」


「もちろん。だけれど…」


「だけれど?」


「魔力が若干心許ない。向こうが魔法でも放ってくれるならそれを吸収すればいいけど、近接強化タイプだとそれも難しい」


 ユーデス曰く、エスドエムみたいな自身を強化する補助魔法をメインで使う敵は苦手らしい。

 身体に直接に触れられればいいけど、そんなことをさせてくれる敵なんているはずもない。


「…なら、頑張って攻撃を受けないようにする。ユーデスもギリギリまで防御魔法使わないで」


「……わかった。温存するよ」


 戦いはユーデス任せ…ってわけにはいかない。ユーデスが魔力の調整や反射神経を補ってくれるけど、実際に敵に近づいたり離れたりはアタシ自身の足でやらなきゃいけない。


 アタシだってボケーとしてたわけじゃない。エアプレイスやイークルで散々にフィーリーにしごかれたし、船の上でマイザーたちと何度も訓練してきている…多少は成長しているハズだ。


「けりをつけよう…」


「アタシが勝つ!」


 アタシとローストが深く構え、互いに攻撃を仕掛けようとした時だった。


 突如として、頭上から…

 

「鎮まりたまへ!! 鎮まりたまへ!! 吾輩の愛する山で好き勝手は許さんッッッ!!!」


 何度も聞いたことのあるフレーズだ。


「あれを見てください!」


 ダルハイドさんの影に隠れていたギグくんが空を指差す。


 アタシとローストも、ウィルテたちやガニンガーたちが一斉に空を見上げる。


「エスドエム…? なんで…ここに?」


「ダブルパイパイ様!!」


 リュションが歓喜の声を上げた。


 真っ赤な派手なマントをバタバタはためかせて浮かんでいる。

 今回はあのバカでかいメイスは持っていない。


 そしてエスドエムは降りてくる…ってか、なんか落ちてんじゃねってスピードで降りてきた。勢いを殺せずに、たたらを踏んでいるし。


「エスドエムッ!! どの面を下げて我らが地にやって来たか!!」


 アタシと戦っている最中も冷静だったローストが、明らかに怒気を含ませた声を張り上げる。周囲のガニンガーたちの殺気もさっきより増している。


 エスドエムは周囲をジロリと見回すと、大きく息を吸って……


「吾輩が悪かった!! まっことまっこと申し訳がヌァァァい!! ウァッホハハッハァーォアーンッ!! こ、心より心より謝罪スルぅ!! ウァッホハハッハァーォアーンッ!!」


 大号泣で土下座した。

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