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107話 空気読めない娘

「えーっと、とりあえず話をまとめると、エスドエムが悪いってことでいい?」


「ああ。俺たちはそう判断した」


 アタシたちは坑道を抜け、無事にマイザーたちとの合流ができた。


 坑道に落としたのはわざとではなく、本当は落とし穴程度の規模だったらしい。

 思ったより爆発の威力が強すぎて、ガニ堂落たちのいた巣穴にまで繋がってしまったわけだ。


 アタシたちの後ろにはここまで道案内をしてくれた怪我人…じゃなくて、ケガニンがいる。


 マイザーたちの後ろには、大将軍ロースト・ボイル(名前を聞いた瞬間にお腹が空いた気がした)やガニンガーたち。


 ローストたちやケガニンは険悪という程じゃないけれど、かといって親しい仲間という感じもしない。互いに緊張している感じがする。

 クラスに違うクラスの子がポツンといるようなアウェイ感だ。アタシは元陰気なデヴだ。そういうの察する能力が高いからわかる。


「んで、エスドエムをどうするにゃ? アイツを倒すとなると、ギルドやコルダールを敵に回すことになるにゃ。降格程度ならまだしも、ウィルテらのレンジャー資格剥奪もありえるにゃ」


「そんなことわかっている! だからって、このままガニンガーたちの無念を放置していいのか!? 女子供まで犠牲になってんだぞ!!」


 正直なところ、アタシもマイザーと同じ気持ちだ。


 ローション家の誇りとやらは当てにならない。エスドエムが好き勝手やって、ガニンガーたちを酷い目に遭わせてるならそれは許せないことだ。


「でも、エスドエムさんは……英雄アシダカーに命を救われ、共に魔獣を倒したんですよね? なら、やっぱり不自然な気がしませんか?」


「ええ。私たちも同じことを思ったわ。けれど、ガニンガーたちが襲われた事実は事実よ」


 ギグくんの問いかけに、トレーナさんが答える。その通りだとローストも頷いて見せた。


「で、でも、ダブルパイパイ様はそれをお認めになられ…たんですかぁ…?」


「認めておらん。ガニンガーの言いがかりだと、聞く耳を持たんらしい」


「だから争いになって、ちょうどウチらがやって来たときに、タイミング悪く大攻撃が始まったってこと」


 ダルハイドさんとシェイミの説明に、アタシの後ろでケガニンが「はやまったことを…」と首を横に振っている。


 でもこうなると、エスドエムかガニンガーたちのどっちかが嘘をついているってことになる。


 実際、アタシらは話を聞かせて貰っただけだ。その現場を目撃したわけじゃない。


「魔獣を倒したまでは…間違いないんですよね?」


「それもわからないですぅ。ダブルパイパイ様は誰にも告げずに長期間留守にすることもありますから…でも、コクント深林に魔獣がでたとか、そこにレンジャーを派遣したなんて話は聞いたこともないんでぇ…」


「ならば、我らが英雄、狩人イェーガーアシダカーがホラ吹いているとでもブヒッ!?」


 なんかローストの隣にいたガニンガーが怒り狂っている。


「えー、ホラっていうかぁ、そもそも本当にそのアシダカーなんて人ぉいたんですかぁ〜? なんか実在が疑わしい気がしてぇ〜?」


 リュション、本当に空気読めない。それって逆鱗に触れるんじゃないの。


「なんだと! 貴様ガニ!!」

 

「我らが誇り、狩人イェーガーの存在を疑うとは!!」


 ほらやっぱり。


「喰っちまえばいなくなったも同じことだと言いたげだブヒィ! 我らガニンガーが美味なことに気づき、バクバクと喰らってしまうヒューマンはやはり野蛮!! ブチ殺すしかないだブヒィよぉ!!」


 いや、なんかそれは自分たちを卑下しすぎじゃね?


 ってか、大興奮して唾液スゴイな!


 ビチャビチャ飛び散ってるんですけど!!


 汚いんですけど!!


「…落ち着け。ガニカマ」


 ガニカマ? 


「話によれば君たちは外部から来たと聞く。なにもエスドエムに敵対しろと言っているわけじゃない。某らの邪魔をしないでいてくれればいい」


「邪魔って……なにをする気だよ?」


「戦力で言えば、エスドエム率いるレンジャー隊に、某らが命を懸けても勝てる見込みは万にひとつもないだろう」


「え?」


「これから最期の攻撃を行い、エスドエムに一矢報いてくれる所存」


 コイツら…命を捨てるつもりなんだ。


「そんなもの無駄死にではないか! なぜ堂落様の待てが聞けぬ!?」


 ケガニンが怒鳴る。


「待ってどうなる? 某らは戦いを選び、そしてエスドエムはそれに応じた。もはやガニンガーを滅ぼすことも厭うまい。かといって戦わねば、真実は有耶無耶にされ、喰われて死した者は永遠に浮かばれぬ」


「そうだブヒィ!! 美味な味を堪能させちまってるだブヒヒィ!!」


 ガニカマっての本当にヤバいな。大将軍にまでヨダレ飛んでるんですけど…。


「えーっと…」


「ワシらは一旦町に戻ってエスドエムともう一度話すつもりじゃ」


「そう! そうだよ! ダルハイドさんの言う通り! エスドエムと話さないとわかんないことだらけじゃん!」


「ワシらの言葉にも聞く耳を持たぬようなら、ガニンガー側に加勢する」


「ダルハイドさんの恩人なのに?」


 ダルハイドさんはエスドエムに命を助けられたことがあるんだった。


「それとこれとは話が別だわい。私利私欲で動く畜生になったのであれば、それはもはやレンジャー…ギルドマスターの器ではない」

 

 うーん、確かにそうだ。理由はなんにせよ、エスドエムが悪なら断罪されるべきだろう。


 ウィルテは何か言いたそうにしたけれど、結局口は開かなかった。


「攻撃は今から3日後。元より宣戦布告はするつもりだったが、改めて避難を呼び掛けてくれると助かる」


「…勝手なお願いだにゃ」


「勝手は重々承知。その上で頼んでいる。無用な犠牲は求めてはいない。某らの標的はエスドエムと、好戦的なレンジャーだけだ」


「……考え直す気はないのか。ロースト。大将軍という立場なればこそ、ガチチやプリリを遺して散る以外の道を選ぶべきだろう」

 

「…あの子たちならばいつかわかってくれるさ」


「そうだブヒィ! ブチ殺し尽くしてくれるだブヒヒッ!! 血の滴る腸を食ってやるだブヒー!」


 いや、いまかなり大事なシーンだから。


 向こうにも空気読めないヤツがいるよ。


「……さあ、行くがいい。若きレンジャーたちよ。君たちが正しい選択…」



 ゴッカーン!



「ンガァッ!!」


 アタシたちに背を向けたローストの頭に、拳大の石が当たった!


「だ、誰が!?」


「うへへへッ! ダブルパイパイ様の敵はぁ、私の敵ですぅ!! 敵が背を向けた今がビックチャーンス! ブン殴り殺してやりましょうょ! みなさーん!!」


 例の凶悪武器を肩に担ぎ、反対の手で次弾と思わしき石をポンポン弄びながら、黒目をグルングルンさせたリュションがいた!


「なにやってんだ! オマエは!?」 


「不意打ちで石投げるにゃんてどこの蛮族にゃ!?」


「ちゃんと今までの話聞いてたのかぁ!?」


「頭おかしいんじゃないの! この娘!」


 男連中は唖然としていたけれど、アタシらは揃ってリュションを嗜める!


「敵を油断させる作戦見事ですぅ! いっけん話を聞くフリをして、ガニンガーの首領の懐深く潜り込み、命殺(タマァと)るとはぁ! 感服、感服ですよぉ!!」


「な、なんだと!?」「貴様らぁ!!」


 ガニンガーたちがイキリ立って真っ赤になる!


「俺に案内させたのには、そんな狙いが…」


「ち、違うって! 初耳だよ!」


 マズイ! ケガニンもアタシらから警戒して距離を取り始めている。


「ラマハイム氏ぃ! サイサー氏ぃ! さっすがダブルパイパイ様が見込んだレッドランク様たちはスゲェですねぇ!! 私みたいな底辺レンジャーは、乳だけしか取り柄ないもんで嫉妬しちゃいますぅ! 産まれてきてどーもすみません〜! うへへへっ!」


「サイサー?」


「俺の名字だ! マイザー・サイサー!」


「そうなの? 初めて聞いた」


「前に名乗って…なかったか?

 そんなことより、コイツ、なに言ってんだ!? なんかヤベェ薬でもやってんのか!?」


 マイザーの言い分はよくわかる。


 リュションはなんかどっかおかしい。情緒不安定すぎる。


「そうかぁブヒィ! やっぱりブチ殺し合うしかねぇブヒィよぉ!!」


 向こうの空気読めないヤツが余計なことを!


 でも、ガニンガーたちもリュションの煽りに殺気立っている!


「…皆、落ち着けい。ここで殺し合おうてもなんにもならん。冷静に話し合おう。投石は意図せぬこと。謝罪…」



 ゴッカーン!



「ンギァッ!!」


 ダルハイドさんの口があんぐり開く。


 リュションの2度目の投石が、ローストの頭に直撃したからだ!


「オマエ、ええ加減にせえよ!!」


「ブチ殺し決定ブヒィーッ!!」


「うへへへッ! ブッキルですよぉ!!」


 こうして、空気読めない2人のせいで否応なしに戦闘が始まった!!


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[気になる点] リュションがガチクズ過ぎて好き。 [一言] ローストとかガニ堂落とか相手の食欲を刺激する名前付けるガニンガーにも問題が…
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