1話
書きたくなったぜひゃっほう
「あー、クソねみい。何でこんな寒いときにゴミ出ししなきゃなんないんだよ」
白い息を吐きながら悪態をつく女性が一人、大きな袋を提げてマンションの一階にいた。
彼女は伏原音羽、口が悪いうえにヘビースモーカー、おまけに酒癖も悪いとダメ人間のトリプルコンボだ。ちなみに職業はイラストレーター、なので引きこもり。
音羽はゴミ袋を投げ出すと、じっとしている女性がいることに気づいた。女性は何かをする訳でもなく、青白い顔でゴミ収集所を見つめていた。
「…………?」
様子がおかしい、というよりかは不気味な女性を音羽は睨めつけると、彼女が何かを呟いていたことに気づいた。
「……しなきゃ、あ、………もしたっけ……あれ………」
どうやら、彼女は何をしていたか繰り返し確認していたようだ。ただ、その割にはその場から動かない。
「気味悪」
それだけ吐き捨てて音羽が部屋に戻ろうとすると、後ろから何かがぶつかってきた。
反射的に後ろを向くと、さっきの女性がいた。女性は口をパクパクさせ音羽のことを見ていたが、走ってわざわざ階段を登っていった。
「何だ、あの人。……帰ろ」
幸い、それだけじゃキレることはない音羽は頭を掻きながら彼女の背中を見送ってエレベーターに乗り込んだ。
音羽が住むのはマンションの5階にある角部屋。人付き合いが得意ではない彼女にとっては好都合であり、手放したくはない物件だ。
部屋の中は暖房がガンガンについてあり、音羽がそこまで生活に困っていないことを暗示させる。
彼女は乱雑に書類が積まれているテーブルから煙草の入った箱を掴み取り、ベランダに出た。
外はやはり寒く、1月の空を凍えさせている。音羽は煙草を一本つまみ取り、ポケットの中に常備しているライターに火をつけた。
「あー、染みるわ。禁煙とかぜってー無理だろ。………あ?」
結婚適齢期の女性が言っていいとは思えない台詞を煙と吐いた彼女は、一本吸い終わるのと同時に足元に何かが落ちているのを発見し、拾い上げた。
「んだこれ、ブラじゃん」
音羽自身もお世話になっている存在を見てから、彼女は仕切りを一瞥した。このマンションは仕切り一枚を挟んで隣の部屋がある構造だ。つまりこのブラジャーは、
「お隣さんかよ。胸でけえな」
どうでもいいことにも気づき、音羽はブラジャーを片手に部屋の中に戻った。その後、適当な紙袋にそれを入れ、隣の部屋のインターホンを押した。
「………はい」
「あ、すんません。隣の伏原ですが、お宅の下着が家に入ってしまい」
「!、すいません、今開けます!」
他人にしては棘のある言葉使いで要件を申し出たが、隣人は気にせずすぐにドアを開けた。
「あ、さっきの」
出てきたのは、先程ゴミ捨て場にいた女性だった。音羽が驚愕していると、女性も仰天したのか、目を見開いていた。
「っあ、これです。すんません、洗濯もしてないですが」
先にショックから抜け出した音羽が紙袋を渡すと、隣人もおっかなびっくり受け取り、謝罪と感謝を告げてドアを閉めた。
「米沢、さん」
初めて知った隣人の苗字を何となく音羽は呟いた。
誤字脱字の指摘お願いします