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あいうぃるりぃゔいんでぃすわーるど  作者: 迷い猫
第一章 覚めない現実
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第一章5 「和める可愛さ」



 二人の背中について行き、四苦八苦しながら森を抜けて見えてきたのは、巨木と家っぽいものが融合した木造住宅群だった。


「おおぉ……!」


 思わず感嘆の声が漏れ出る。

 自然の中にありながらも全く違和感のなく、綺麗に人の住む場所と森が融合しているのだから。これぞまさに、漫画的かつイメージ通りっぽいエルフの住処と呼べる。


「お、やっと来た。おーい!」


 その住宅群の中にある一つの家の前に幾人かのの人が集まっていた。その中の一人がこちらに手を振っている。

 先程別れたマリリンさんだった。


「みんなー!」


 ネリスが大きく背を伸ばし、元気よく手を振り返す。

 すると、二人の子どもが駆け寄ってきた。男の子と女の子。背丈から見て、ネリスと同い年のお友達だろうか。


「よかった! 無事だったんですのね!」


「おい! 大丈夫か!? ケガとかしてないよな!?」


 二人がネリスに詰め寄り、無事を確かめるように質問責めにする。女の子の方は、若干涙声だ。

 余ほど心配したのだろう。


「うん! 大丈夫だよ!」


 そんな二人にネリスは安心させるようににっこりと笑みを返す。どこも怪我してないと示すように手足をのびーっと伸ばし、肩をくるくる回している。

 友人が無事だと確信したのか、男の子と女の子は心底ほっとしたようで。男の子はふへぇとため息、女の子は眦の涙を拭う。

 友達との感動の再会というやつかな。こういう様子を見ていると、俺も頑張ったかいがあるもんだ。

 そのまんま3人で抱き合うか泣き出すか。若者の青春を眺めるような心地で見ていると、何故かネリスが俺の元へと駆け寄ってきた。


「このお兄ちゃんが助けてくれたから!」


 歓喜にあふれる声をあげつつ、おもっきり抱きついてくる。その勢いは結構なモノで、思わず呻いてしまうところだった。どうにか耐え、よろめかないように体に鞭を打ち踏ん張る。


「なっ……!」


 男の子がびっくりしているようだ。物凄く驚いた声を出し、固まってしまっている。女の子の方も目をまんまるに見開いて俺を見ていた。


「ははは……」


 ネリスの可愛らしい行動に自然と笑みが浮かぶ。思わず、胸元にきた頭に手を置き撫で始めてしまった。

 助けた、という自覚は正直あまり無いが、慕われるのは嬉しい。


 それはそれとして……。男の子にすごーく睨まれているのだけど。何故に? いやまあ、いきなり出てきた見ず知らずの男に友達が懐いてたら警戒するのは分かるのだが……。

 明らかに敵意というかなんというか……。そんなに怖い顔で俺を見ないでください。


「あらら、すっかり懐いちゃったわね」


 聞き覚えのない声が聞こえた方を見ると、フィオネさんの横に一人の女性が立っていた。綺麗な緑色の髪を後頭部でざっくりまとめ、前髪から覗く顔は小さい。フィオネさんを見ていなかったら間違いなく魅入ってしまうであろう美人。碧い瞳が俺を見据えている


 一瞬、フィオネさんと横に立つ女性が重なって見えた。思わず、幾度か目を瞬く。その女性は、フィオネさんにとてもよく似ていた。雰囲気はどことなく違うような気がするが、顔立ちは大変似通っている。


 二人は姉妹だろうか? そう思うと、ネリスもなんだか似ているような気がしないでもない。


「母さん、来てたんだ。仕事はどうしたの?」


「そりゃあ、娘の一大事なんだもの。仕事は後回し」


「大丈夫なの?」


「大丈夫。ジュウロさんに許可は貰ってるし、残りの仕事はローレンさんが引き受けてくれたから」


 フィオネさんの発言に耳を疑う。


(母親……、母親!? えっ……、ええっ? そうは見えないんだが? めちゃくちゃ若いし、お姉さんとかじゃないの?)


 あまりに若すぎる。若すぎるというか、若々し過ぎだ。とても、子どもがいるようには思えない。不躾に眺めるわけにはいかないのでチラッと見た程度だが、シワも全くないし。


 そこで、はっと思い当たる。

 フィオネさんはネリスのことを妹だと言っていた。ということはつまり……。


「なあ、ネリス」


「ん? なぁに?」


「あの、フィオネさんの横に立ってる人さ……」


 ネリスは、フィオネさんと話している女性に視線を移す。


「うん」


「……ネリスのお母さん?」


「うんっ! そうだよー」


「…………」


「強くて優しい、私のお母さん!」


 唖然とするというのはこういうことだろうか。


 よくテレビなどで見かける若々しさを保っている母親たちがいるけれど、ネリスの母親は、失礼かもしれないが、そんな母親たちとは比じゃないくらい綺麗だ。少し雑な表現になるが、異常と言っても過言ではないかもしれない。


 びっくり仰天して呆然としていると当の女性が近づいてきた。そして、目の前で立ち止まり、深々と頭を下げてくる。


「え? あ、あの……?」


 突然で意味が分からず大混乱。慌ててしまう。

 顔を上げた女性は、真っ直ぐ俺の瞳を見つめていた。あまりの美しさに惹きつけられてしまいそう。女性への免疫のなさが心臓をドキドキさせ、まともに思考が働かない。


「娘を助けてくれて、ありがとうございます」


「あ、はい。えっと、まあ、成り行きみたいなものですから、気にしなくていいですよ。はい」


 なんだか緊張してしまい、無意味に二回も、はいと連呼してしまった。恥ずかしくなり、視線を右往左往してしまう。


 先ほどの男の子が、むすっとした顔で地面を蹴っているのが目に入った。


「ふふ、それでも、ね。ネリスを助けてくれたのは事実なんだから、そう謙遜しないで」


 女性は口元に手を添え、お淑やかに笑う。


「ははは……」


 なんと返せばいいのか咄嗟に思いつかなかったので、とりあえず笑っておいた。俺のコミュニケーション能力は低いことを自覚してしまう。もっと粋な、イケメンー、な感じの受け答えが出来たら良かったのに……。


「ーーあんたか、いきなり結婚申し込んだってのは!」


「うわっ!」


 ーー突然横から体をぐいっと引き寄せられ、肩を組まれる。ぶつかった感触は固く、ガタイが良いことがうかがえた。すぐさま顔を横に向けると、男が一人。


 その男はニカっと笑みを浮かべ、からかうような目つきで俺を見ていた。

 なんだこの人?


「初対面でいきなり結婚なんて、あんた勇気あるな〜! 男として尊敬するぜ!」


「え? あ、いや、あの」


 この男性は一体……?

 というか、近い。てか、なんでそのことを知ってるんだ!?


「ちょっとマリ! あんた、テジットに言ったの!?」


 フィオネさんがマリリンさんに詰め寄っているのが見える。

 まさか、今さっきのことをマリリンさんがこの男の人に話したのか? ああ、なんて恥ずかしいことを……!


「えへへ〜、ごめんごめん」


「ごめんって、あんたねぇ……!」


 マリリンさんはテヘッ、と効果音が付きそうな軽さで謝っている。しかし、俺としてはそんな軽いノリで片付けられるものではない。ただでさえ、恥ずかしいというのに……!

 ……まあ、自業自得だから仕方がないとしても。黒歴史になりそうなことを無邪気に広めないでほしいです……。


「まあそうカッカすんなよ。結婚申し込まれるなんて、女としては誇り高いことだろ〜?」


 隣の男。というかさっきから引っ付いているむさ苦しい奴がフィオネさんをからかう。何か言うのは構わないけど、早く離れてくれないかい?


「うっさい。他人事だからって……。……ねぇ、マリ」


「ん?」


「まさかとは思うけど、テジットだけじゃなくて他の人にも言ってないでしょうね?」


 知らず知らずのうちに、ゴクリと唾を飲み込む。

 そして、マリさんは、


「……テヘっ」


 可愛らしく誤魔化しただけだった。ふざけんなぁっ! 心の中の前俺が叫ぶ。口には決して出せません。度胸がないので。

 というか、その誤魔化し方はほぼ確定ですよね。隣のテジットとやら以外にも広まってるのかよ……。


「はぁ〜……、やっぱりね……。もう、最悪……。絶対めんどくさいことになるわ……」


 めんどくさいことって、具体的にどうなるんだろう? 他の人がどんな人たちなのか知らないから余計に不安なんだけど。


「そ、それじゃあ私、何人かで熊さん調査してくるねー!」


 そう言ってマリリンさんは、ささっとどこかへ行ってしまう。見事な逃げっぷりだ。

 あんなに口が軽い人だとは……。自業自得とはいえ、面倒な人に見られたものだ。タンスの角に小指でもぶつけないかな? ぶつかることを願おう。


「いや〜、モテる女は違いますなぁ。あ、そうだ! 俺テジットってんだ、よろしくな!」


「え? ああ、柏木直也です……。よろしくお願いします……」


 なんだか、ドッと疲れてしまった。とりあえず、さっきからずっと抱きついていたネリスの頭を撫でて癒されることにする。


「んふー……、くすぐったいよぉ〜」


 鳩尾辺りでもぞもぞ動くネリスは大変可愛い。心が和む。



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