6.私は乱暴者という訳ではありません・・・よ?
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大変です。
シエルがパンケーキの虜になってしまいました。
初めて食べた、ふるふるフワフワしゅわしゅわのパンケーキにすっかり魅了されています。
量は変わらないのに、人型ではなく小さなドラゴン姿で食べて、沢山食べた気になっています。
お腹をポンポンにさせていますよ。
それでいいのですか、竜王・・・
私はこれを、毎日食べさせると太ってしまうと思ったので、たまに出す特別なおやつということにしました。
シエルは落ち込んでいましたが、彼の為です。
コロコロに肥え太ったドラゴンなんて見たくありませー・・・
いや、可愛いかもしれませんね?とチラリと思ってしまったのは内緒です。
シエルには我慢してもらいましょう。
しかし、パンケーキは父や母にも大絶賛されました。
褒められ、私の頬はゆるゆるです。
自信が出てきました!
村で手作りしたお菓子を売ったりするのも良いかもしれませんね。
こうしてしばらく平穏な日が続きました。
たまに家を訪れる魔王のおじちゃんとシエルは仲が悪く、顔を合わせる度に口喧嘩をしています。
魔王のおじちゃんが最近まで家にシエルがいることを知らなかったのは、シエルがワザと顔を合わせないようにしていたからみたいです。
本当に仲の悪い一人(魔王を人扱いしていいのかはわかりませんが)と一匹(ドラゴンの数え方は・・・なんでしょう?)ですね。
それはある晴れた日のことでした。
『久しぶりに村に勇者様がやってきたみたいだよ』と、お隣のお姉ちゃんが声をかけてくれました。
数年前、聖女として勇者様と魔王討伐に行ったお隣のお姉ちゃんは、その後その勇者様と結婚し、今では二児の母親です。
子供が二人いるとは思えないくらい、若くて美人で可愛いお姉ちゃんとは、今でも仲良くしてもらっています。
お姉ちゃんの旦那様の元勇者様は、どうやら先に新しい勇者様に会いに行かれたそうです。
私も、シエルと遊びに来ていた魔王のおじちゃんと一緒にどんな勇者様が来たのか覗きにいくことにしましょう。
ところで、魔王は今ここにいるのですが、それでいいんですかね?
村の広場に人が集まっているので、どうやらそこに勇者様がいるみたいです。
どれどれ?と、人垣から広場の中央を見てみると、広場の中心にいたのは5人の勇者パーティーでした。
豪華な鎧と剣を纏った屈強な身体の勇者らしき男性が1人
鎧をまとい槍を持った男性が1人
簡易な武装で弓を持った細身の男性が1人
神官服を着た女性が1人
魔法使いのローブをまとった女性が1人
どこにでもいそうな、勇者一行に見えますがー・・・
その人たちからは、なんだか嫌な感じがしました。
私は眉をしかめてしまいます。
なんというのでしょう・・・
勇者もその連れの方々も、人を見下したような、上から目線でこちらを見ています。
失礼な人たちだなと思っていると、新しい勇者様が声を発しました。
「おい、ここか?魔王に負けた惨めな奴らが住み着いている村っていうのは」
・・・は?!今、なんて・・・?!
・・・この一言で、私の額に青筋が浮かびます。
な、なに様のつもりなんでしょう、この人たちは!!
本当のこととはいえ、言い方が酷いです!
村人のみなさんも、渋面ですよ!
魔王のおじちゃんは、面白そうにニヤニヤ笑っていないで!
「はっ!本当に、こんな村があったんだなあ!」
「魔王に負け、そのまま生き恥をさらしているだなんて、恥ずかしいとは思わないのか!」
「死んじゃえばよかったのにー」
「きゃはは、それは酷いって!」
な、なんでしょう。
本当にむかっ腹がたってきます・・・
暴言が酷いっっ!!
魔王に挑んですらいないのに、何故そんなに偉そうなんでしょう・・・
どこの国の勇者ですか!
首を絞めたい!
場の空気は最悪です。
村人との一触即発な気配・・・
そんな時でした。
勇者がこちらに目を向けて、大きな声を出したのです。
「おい、そこにドラゴンがいるぞ!」
「わっ!本当だ!魔物じゃん!」
「ええー、気持ちわるーい!」
な、なんですと?!
こんなに可愛いシエルに向かい、何てことを言うんですか!
私はシエルを抱きしめ、勇者一行の視線から隠すように庇いました。
そんな私に勇者たちが近づいてきます。
「殺しちまおうぜ」
「魔物なのですから、当たり前です!」
「あっれー?なに?ドラゴンなんて庇っちゃって。もしかして、この娘、ドラゴンをペットとして飼ってるとか?」
「うわ、最悪ー!」
「それ、ないわー」
勇者たちの笑い声が広場に響きます。
それを聞いた私はーー・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
ーーーーーーぶちっ・・・
カンニンブクロノオガ、キレマシタ。
私は、抱きしめていたシエルをソッと離しました。
そして、にっこり笑顔で、自ら勇者一行に近づいていきます。
一歩
また一歩
・・・拳を握りしめながら。
数歩歩んで、勇者一行の目の前まで来た私はーーー・・・
勇者一行を一人ずつ殴り飛ばしていきました。
あはは・・・人って、あんなに綺麗に放物線を描いて飛んでいくものなんですね。
平民の私にワンパンチでのされる勇者一行とか、笑えます。
男も女も関係なく、一人ずつ丁寧にぶん殴ってやりました。
シエルがペット?
魔物だから気持ち悪い?
ふざけないで下さい!
シエルは私の家族です!
悪く言う人は許しません!
そりゃ、暴力は良くありませんよ?
けれど相手は、勇者一行なのです。
戦闘のプロなのです。
そんな人たちが平民の私に!
簡単に殴り飛ばされるとは思わないではありませんか!
なんで勇者なのに、そんなに弱いんですか!
マッチョな男性が、何故、女の子にボロ負けするんですか!
本当に勇者なのですか?!
・・・私のせいじゃない。
この惨劇は、決して私のせいじゃない!
はい、そこの魔王のおじちゃん!
盛大に拍手をしないで!
やめて!
こうして村にやってきた嵐は、私が追い払ったことになりました。
ふ、普段はこんな乱暴ではないのですよ!
家族の悪口を言われたから、つい・・・!
シエルも『さすが、我が番』とか言って、惚れ惚れとこちらを見ないでください!
ーーーそして無礼な勇者一行が村を出て数日
『覚えてろよー!』とテンプレの捨て台詞を残し去っていった勇者一行は、ボロボロの姿で再びこの村に現れたのです。
・・・・・・あの場にいた魔王のおじちゃんが、あの後これでもかという程に、勇者一行を打ち負かしたみたいです。
それにしても、あれだけ威張り散らしていたのに結局ボロ負けし、よくまたこの村に顔を出せましたね。
まあ魔物の国の近くにあるのは、この村だけなので、寄らないという選択肢が出来ないとは思いますが。
勇者一行の厚顔無恥さに呆れます。
村人の対応も冷たいものです。
私も冷ややかな目で、勇者一行を見るのでした。
そんな彼らに・・・ちょっと・・・怯えられている気がするのは、気のせいですよね。
実はソコソコ強い主人公
ただ、周りにいる人の方が強いので、本人はあくまで平凡な平民だと思っています。