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不幸とは悪循環するのか

歳月は流れ、マリヤ姫は十八歳の誕生日を迎えられました。

美しい姫は、誕生パーティーの時も、ひときわ目立つ美しい花でした。

各国から王子様が来られ、素晴らしいお祝いの品々に囲まれて幸せいっぱいの春でした。

しかし、そのような幸せが、音もなく崩れていたのです。

それは、お妃さまが倒れられ、重い病気になられたのです。

お妃さまはマリヤ姫の手を握り

「マリヤ、幸せになってね。それだけが私の願いです」

「お母様、死んだりしないで。せめて私が素敵な人に巡り会う日まで死んだりしないで。お願いだから死んだりしないで。お母様」

「マリヤ、私もそうしたいのですが、体がきつくてきつくて。それに神様がお召しのようです。マリヤ、私がいなくなっても、お父様がいらっしゃいます。力を落とさず、マリヤ、幸せになるのですよ」

そう言い残して、お妃さまは息を引き取られました。

王様は

(妃の分まで、マリヤを幸せにせねば)

と、心に誓われるのです。

世話好きの大臣たちが、王様に

「マリヤ姫もご成人なさったことだし、新しいお妃さまをお迎えください」

と、言います。

そして、美しい人を連れてきたりしますが、王様はマリヤ姫のために結婚なさいませんでした。

それに、チューリップを忘れることのできない王様でした。

王様はマリヤ姫に、王位を譲ろうと決心なさいました。

そうすることがマリヤ姫の幸せになると思ってなさったのですが、、、


このお城には、先祖から伝わる金の玉がありました。

その玉を持っている人が王の位につくことができるのです。

王様は、マリヤ姫をこよなく心から愛していらっしゃいましたので、この金の玉を最愛のマリヤ姫に渡すために載冠式が行われました。

その載冠式は、お妃さまの他界の悲しみを吹き飛ばすかのように、盛大なる式典が行われました。

(厄払いになればよいが)

と、願いながらなさったのですが、、、


金の玉はマリヤ姫の手のひらに輝いています。

玉の光が美しいマリヤ姫に反射して、美しいマリヤは尚一層美しく輝いて見えました。

盛大なる載冠式は、滞りなく終わりました。

王様はマリヤ姫に王位を譲られたのです。

王様は今度は素晴らしい王子をマリヤのために探さねば、そして、もっと盛大なる結婚式を夢見て、張り切っておられます。

しかし、不幸とは続くものか、悪循環するのか。

家来が顔色を変えて飛んできます。

「王様、王様大変です!」

「騒々しい、何の用だ」

「金の玉が、金の玉が盗まれました」

「なんと、金の玉が盗まれた?」

座っていた王様は立ち上がりました。

「はい、昨日まではありました。しかし、今みるとないのです。いくら探しても城の中にはありません」

本当に大変なことになってしまいました。

王様は体がブルブル震えるのです。

マリヤは、玉が盗まれたことでどのような大事件が起こったのか想像もつきませんでした。

王様はマリヤ姫の行く末を思うと気が狂いそうです。

ただ、一個の小さな金の玉が、お城を揺るがす大事件となるからです。

何もわからずに、きょとんと目を丸くしていらっしゃるマリヤ姫が哀れでならない王様です。

王様は家来全員にお城の中全部を隅から隅まで探すように命令を出しました。

みんな一生懸命で探しました。

大臣たちもことの重大さが分かるだけに顔色を変えて探し回ります。

探すのに一生懸命だったのか、慌てているのか家来がドアをポンポンと開けて探していると、開けたところに大臣がたっていました。

大臣の額に嫌という程ドアが当たり、そのはずみに大臣はズデンと転びました。

びっくりした家来は

「申し訳ありません」

「慌てずにちゃんと探せ」

と、怒鳴りますが大臣は性懲りも無くドアの前をいったりきたり。

「大変だ、大変なことになってしまった」

と、オロオロしています。

ことの重大さに、頭がボォーっとなってしまったようです。

家来たちは、池の水も落とし中庭の小川の中の草の根を分けて探しますが、玉は見つかりません。

今度は風呂です。

女風呂にどやどやと家来たちが入り込んだので大変です。

女たちは何事かとびっくりして、悲鳴を高々とあげるので、家来たちは困りますが

「おい、みんな風呂を落とせ。お湯を捨ててしまうのだ」

と、怒声をあげました。

このようにして、風呂のそこまで探します。

パンツの裏まで見逃すことがないほどの探しようです。

しかし、玉は見つかりませんでした。

変わっていることといえば、ただ窓ガラスが一枚割れているだけでした。

その他には何も変わったことはありませんでした。

しかし、王様の顔は真っ青になり、声を震わせながら

「ガラスが一枚割れているということは、玉が城外へ持ち出されたことになる。あの窓の外は太平洋だ。太平洋に持ち出されたとなるとこれは大変なことだ。大変なことだ」

そう言って、頭を抱え込み体をガタガタ震わせていらっしゃいます。

(これから先、姫はどうなる。姫はどうなるのだ)

と、王様はなりふり構わずに泣かれます。

王様はじっとしていることもできずにオロオロとあっちへ行ったりこっちへ来たりしていらっしゃったが、突然大きな声を張り上げて

「誰が玉を盗んだのだ、誰が盗んだのだ!」

腹の奥から絞り出すような声で叫ばれます。

周囲の人たちは王様は気が狂われたのではないかと、心配しました。

みんなの心配をよそに、王様は怒声を張り上げ、泣き喚き悲しまれます。


しばらくして、気を取り戻された王様は、このお城の掟についてマリヤ姫に説明なさいました。

「玉を頂いてからなくしたものはこのお城には住むことができない掟があります。その玉を探し出さなければ、お城へは戻っては来られない、これも掟です」

王様は涙を流しながら掟についてなんどもおっしゃいました。

お姫様の顔色はだんだん青くなっていきました。

(これは大変なことになったわ。私が広い海に捨てられるなんて!広い広い海、果てしなく広がる海原で小さな小さな金の玉を探せなんて、あんまりだわ。どこをどう探せというのかしら)

マリヤは心の中で泣き叫びました。

しかし、あまりにも悲しんでいらっしゃる王様を見ると、声にはならないマリヤです。

(私は姫として産まれ、それはそれは大切に育てられ、何不自由なく暮らしてきたのに、これから先も今までと同じように暮らしていけるものと思っていたのに、あんな恐ろしい海に捨てられるなんて)

まだ、夢を見ているようで、どうしても現実とは思えないマリヤでした。

そういうマリヤに王様は

「王という地位にありながら、私の力ではどうにもなりません。この小さな地球の掟ですから王と言ってっも名前だけのように不甲斐ないものです。こういえば愚痴になりますが、盗まれるようなら、私が持っている時に盗まれるとよかったものを、、、今となってはどうにもなりません。女一人の海の旅とは、、、」

そう言って、王様は歯を食いしばりながら無念の涙をハラハラと流されます。

家来たちもことの重大さにオロオロするばかりでどうしてやることもできない苛立ちをじっとこらえています。

王様はよろけながら姫のそばに来て

「マリヤ、一日も早く玉を探して、帰ってきてください。私も心から姫の無事を祈っております」

王様は姫をしっかり抱きしめて涙を流しながら別れを惜しまれます。

「お父様、お父様、、、」

姫の目にもいっぱい涙がたまっております。

王様は

(金の玉1個ぐらいで親子の絆を裂くなんて、こんな事なら王なんぞに生まれなければよかった。貧しくとも親子で暮らせる幸せは到底地位や金では買えない尊いものなのに)

王様らしくない愚痴を思われます。

マリヤは

(私はもう子供ではないわ。こうなった以上、玉を探さなくては)

と、心を新たに決心なさいます。

「お父様、ご安心ください。このマリヤがきっと金の玉を探して戻ってまいります。それまでお父様、お体に気をつけて、お元気でいてください。お父様お体に気をつけてください」

「マリヤ」

と言って、王様はまたマリヤ姫をしっかりと抱かれます。

そして、王様は少しづつマリヤを胸から遠ざけておもむろに

「別れはきりがない。マリヤ、気をつけて元気で帰ってきてください」

と言って、姫に背中を向けて奥の間へ行かれました。

王様はその部屋で嗚咽をあげて泣いてらっしゃいます。

二度と見る事ができないかもしれない姫の姿を思い出し、またあのような広い海で小さな玉を探し出すなんて到底叶う事のない儚い望みです。

その事を承知で海へ行かれる姫のいじらしい心が尚一層、不憫に思われ、大声をあげて男泣きに泣いていらっしゃいます。

大臣や家来たちも、戦争なら戦ってお役に立てるのですがどうにもならない自分たちが惨めに思え涙を流しながら姫との別れを惜しみました。

「マリヤ姫様はお優しいのにどうしてこんな事になったのだろうか」

と言って涙を流します。

姫は心の中で泣きながら門の外へ出ました。

広い海へと向かわれるのです。

門番が別れを惜しみながら

「姫、申し訳ございません

と言って、重い鉄の扉をがちゃんと閉めます。

姫は振り返り

「お父様、お父様」

と言いました。

しかしそこには今まで想像する事もできなかった無情の冷たい鉄の扉が横たわっているだけでした。

(私は一人ぼっち)

マリヤの目に涙が光りました。

元気なようでも女は女です。

辺りを見渡すとそこはもう太平洋の海原でした。

共の者も一人もいません。

これも掟の中の一つです。

玉を探すのに犠牲者を出し玉を汚してはいけないので一人で探さなければいけない、と決められているのです。

広い海に出られた姫は、恐ろしくて寂しくって仕方がありません。

大海原の木の葉のような自分の存在が哀れに思われます。

水圧でこの体が粉々になったら、、、

そしてこのような広い海で、あんなに小さな玉を探し出す事ができるだろうか、と不安になられます。

このような苦しく寂しい時に思い出すのは、亡くなったお母様の事です。

お母様と楽しく遊んだ日々が思い出されてなりません。

「お母様、お母様」

(お母様なら助けてくださるかもしれない)

儚い望みとは思いながらも叫んでみたくなり叫びました。

すると、美しい母の姿が幻となって微笑みかけてきました。

その微笑みは

「マリヤ、頑張るのよ」

と言っているようでした。

「お母様、どうしてこんな事になったのでしょう。悔いても詮無い事ですがマリヤはつろうございます。お母様、天国から見ると金の玉のある場所がお分かりですか」

それには応える事もなく幻は消え去りました。

マリヤが我にかえるとただ不気味な海のうねりごえだけです。

辺りを見渡すと、海藻がたくさん茂っております。

その海藻をよく見るとそれはなんと肉食海藻です。

姫はただガタガタと震えるだけです。

絵本でしか見た事のないあの恐ろしい肉食海藻が目の前にうねりをあげているのです。

(私はいつ食べられるのだろうか)

と思うと姫の小さな胸は恐ろしくて張り裂けそうです。

身動きひとつできないのです。

その姫に追い打ちをかけるかのようにサメが姫を狙って大きな口をカプカプさせながら突進してきます。

姫たちの小さな地球にはこのような大きなサメはいません。

大きな地球のサメは大きく、このように大きなサメとの出会いは初めての姫です。

いくら乗馬や弓で鍛えたとはいえ、大きなサメが目の前で大きな口をカプカプさせているのを見ると、体が硬くなって思うように動きません。

ただやけに体がガタガタと震えるだけなのです。

りんご割の早業も肉食海藻やサメの前には太刀打ちできませんでした。

体がだんだん海水に飲み込まれるような錯覚を感じました。

(姫として大切に育てられた私が魚の餌食、、、)

情けなくなり腹が立ちます。

腹を立てれば立てるほど、体は硬くなり動きません。

なんだか悪い夢でも見ているようでした。

むしろ夢であればどんなにいいだろう。

夢なら早く覚めてほしい。

しかし、サメはだんだん近くに迫ってきます。

(私はサメに食べられて死んでしまう)

と姫は思いました。

このような苦しみの中でひらめくのは神様の存在でした。

姫は神様に助けを求めて祈りました。

すると、誰かが姫の手を握り引き上げる人がいました。

姫の体は宙に浮き海面へと浮き上がりました。

姫は助かりました。。

サメの攻撃をかわす事ができたのです。

突進してきたサメは肩透かしをくらいました。

スピードを出しすぎたサメはそのままの勢いで岩に激突しました。

姫は

(誰かが私の手を握っているわ。誰かしら)

と思って見上げますがあまりにも恐ろしい思いをしたのではっきりとは見えません。

ぼんやりと何かが波打って見えるだけです。

そのとき聞き覚えのある声が耳に入りました。

「マリヤ姫、マリヤ姫ではありませんか」

マリヤはその声で少しづつ頭の中が整理されてゆき、何もかもがはっきりと見えるようになりました。

我に返り、よく見ると声の主は西の城のリヤ王子様でした。

マリヤは、リヤ王子に助けられた事にやっと気がつきました。

「まぁ、リヤ王子様危ないところをお助けくださって本当にありがとうございました。こんなところでリヤ王子様にお会い出るとは思いませんでした」

「僕も同じです。お怪我はありませんか」

「はい、おかげさまで」

「それはよかったですね」

「はい、王子様のおかげです。もし、王子様に出会う事がなかったら今はサメの胃袋の中ですわ」

王子様と姫は今の無事を嬉しく思い、顔を見合わせてにっこりとなさるのです。

二人とも少しはにかんでいらっしゃいます。

恋の芽生えでしょうか。

「私は一人ぼっちで心細く怖い思いをしました」

「それはそうでしょうね。でもどうしてこんな危ないところにいらっしゃるのですか」

姫は今までの出来事を話されました。

王子も心から同情なさいます。

「本当にお気の毒に思います」

王子は姫をいたわるように姫の現在の惨めな境遇を少しでも忘れさせようとするかのように、優しく姫の肩に手を乗せ

「マリヤ姫のお誕生のお祝い、それに載冠式はそれはそれは素晴らしいものでした。僕は夢の国にきたように思えました。これがまさしく天国だ、と思いました。どうか気を強く持って楽しかったときを思い出しながら頑張って下さい。そして、一日も早く玉を探し出し元の幸せを取り戻して下さい」

「はい、ありがとうございます。リヤ王子様、そのように言われてみればそんなこともありましたけどずぅーっと昔の出来事のようでもあり、自分とは無縁のことのように思えてきます。あのときに比べると今の自分はあまりにも哀れすぎます。天と地の違いとはこのようなことなのでしょうか。でも、私はリヤ王子様のお言葉通り元気を出します」

姫はくじけませんでした。

一日も早く玉を探し出しリヤ王子様がおっしゃる通り、あの幸せを勝ち取ろう。

勝ち取らなければ、と自分に鞭を打ちます。

王子様は気の毒そうな顔をして

「私も一緒に探してあげたいのですが、母の病気によく効く海藻があると聞いて探しに来ました。やっと見つかりました。これです」

王子様は袋の中から茶色の海藻を取り出し葉っぱみたいな物を見せられます。

「この薬草を少しでも早く母に飲ませなければなりません。姫をお助けしたいのですがそうした訳ですので申し訳ございません」

「いいえ、お気持ちだけで十分です。私も母を亡くし、母を亡くすということがどのように辛いことか見にしみてよくわかっております。どうかお母様を大切にしてあげてください。それに、金の玉は一人で探さなければならない掟がありますのでお気になさらないでください」

「そうですか、マリヤ姫、頑張って下さい。では失礼します」

「さようなら」

姫は手を振ります。

王子も手を振りながら

「姫、十分に気をつけてください。早く玉が見つかるように祈っております。さようなら」

姫はまた、ひとりぼっちになりました。

(リヤ王子様とまたお会いできるかしら)

と、ぼんやりしていらっしゃいます。

その時、ボー、ボーと大きな船の音がします。


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