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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
99/297

西東京大会準決勝 (VS都立目野2)


 三回表はランナーを出しながらも無失点に切り抜け、三回裏の攻撃前に円陣を組んだ。

「ベルトより少し高めは捨てる、か――打ち頃を振らない、てことだよな」

「井上くんは上から投げ下ろすから、少し高めから来る感覚あると思う、気をつけて」

「カーブは軌道と球速が違うからいいとして……落ちないスライダーの時だってあると思うけど?」

「今まで見てたけど、そのスライダーはボール半個から1個半低いとこから来てる。あの高さは現時点では落ちるスライダーよ、やっぱり」

 志田や度会の問いかけに、早口で応えるみづほ。


「自信ないなら――僕がベンチから、ウエストのサイン出そうか?」

 大屋監督がにゅっと首を突っ込んできた。

「監督、1イニング、いや2イニングは俺たちにやらせてください。何かあったら必ず報告しますから」

「OK。君らなら、そう言うと思ってた」


「いいですよ、やってみましょう。確かに一打席めのスライダー、そんな感じでした」

 福富がそう言ったので、決定。


「勝とう」

「おう」

「甲子園に行こう」

「おうっ!」

「それじゃあ行くぞ――りょくりょーお」

「ファイトッ!!」


 先頭打者の安田が倒れ、ラストバッターの志田が打席に向かう。

 井上は志田にはシンカーを投げず、外のスライダーとチェンジアップ、ストレートで料理した。

 出来るだけ引っ張らせないで、内野安打を防ぐ方針だ――緑陵の手の内は熟知している、ということだ。

 注文どおりのセカンドゴロで2アウト。


 福富が打席に向かった。

 相変わらずバットを担ぐように構え、頭上でくるりと回してタイミングを取る独特のフォームだ。

 これで結構打てているのだから、この構えが身に沁みついているのだろう。

 井上は快調に、ポンポンとストライクを稼いでいく。

 1ボール2ストライクからの四球め、例の高さにボールが投げ込まれた。

 「ボール」

 明らかに空振り三振を狙って、自信を持って投げたスライダーだった。

 見送られた井上の顔が、わずかに厳しくなる――ほんと分かり易いわ、井上。


 ファウルをひとつ挟んで、もう一球、落ちるスライダーが来た。見送る福富。

 これで、フルカウント。

 七球めが大きく外に外れ、福富は四球を勝ち獲った。


 続く船田も、巧かった。

 2ストライクからの落ちるスライダーをやはり見送られ、マウンドで頬を膨らませ、おおきく息を吐く井上。

 船田はレフトフライで、チェンジ。布石はこれで作れたと思う。


 ところが、四回表に試合が動いた。


 1アウト二塁、打席には5番の相馬さん。強い打球が三遊間を襲った。

 二塁ベースカバーはみづほに任せ、三遊間をあらかじめ締めておいたので、なんとか届きそうだ。

 三塁側に駈け寄り、必死にグラブを伸ばしてキャッチ。

 ランナーが三塁に走っているのが見えるが、サードの船田は打球を追いかけて塁を離れており、安田のベースカバーも間に合いそうにない。

「ファースト!」

 根来の声が響く。右脚で踏ん張り、ノーステップで一塁へ送球――際どいな、こりゃ。

 ヘッドスライディングの相馬さん。判定は――


「セーフ!」

 目野、気迫の内野安打。塁上でガッツポーズの相馬さん。

 スタンドから、歓声と太鼓の音が鳴り響く。

 ベースカバーから戻る安田と目が合った。

「すまん」

「こっちこそ、すまん」

 かるく言葉を交わして守備位置に戻る。


 打席にはレフトに入っている6番、村田さん。

 大きな選手が少ない目野にあって、村田さんと井上の両投手は、図抜けた長身である。

 打棒を買われてのスタメンなのは、容易に想像できた。


 1アウト一三塁のピンチに、緑陵内野陣はゲッツー狙いの体勢を採った。

 バッテリーも心得たもので、低めにボールを集めてゴロを打たせる方針で行く。

 1ボール1ストライクからの三球め、多分ボールのコースだった。

 長い腕を伸ばして、アッパー気味にスイングする。

 カキーン。

 打球は左中間へ。レフトの志田が、前進気味の守備位置から後退して捕球動作に入る。

 走者生還、犠牲フライとなり、目野が先取点を獲った。




 四回裏の攻撃は、みづほから。

 先頭打者を出したくない目野は、みづほに対して最大限の注意を払った。

 人工芝&みづほ対策に、内野は深めの守備位置。外野は通常より一歩前くらいだが、ゴロやライナーが来た瞬間、チャージして来るだろう。

 バッテリーの配球も、丁寧に緩急をつけて的を絞らせず、要所要所ではストレートで押していく。

 何が何でも出塁させない、という気迫が全員から感じられた。


 ――目野の、何がいちばん怖いって、この気迫なんだよな。


 みづほはみづほで、得意とするヒットゾーンの大半を潰され、気合の入ったストレートで長打の芽を摘まれながらも、ファウルで粘りながらチャンスを待っている。

 具体的には甘いコースに入ったカーブやチェンジアップをジャストミートして、外野の頭を越すことを考えているだろう。

 しかし井上もさるもの、なかなか打てそうなコースに投げてこない。


 2ボール2ストライクからの八球め。

 外寄りのチェンジアップをみづほが振り抜き、ファーストの頭を越すハーフライナーとなった。これは技有りヒットのコースだ。

 ライトが懸命に前進し、頭からダイブ、わずかに届かない。

 打球も切れてファウル――フェアだったら捕られていた打球だった。


 九球め、例の高さ、真ん中近くにストレートが来た――打てっ!

 みづほは見送った。ボールは膝元に落ち、ボール。

 ……つい、冷静さを欠いてしまった、反省。俺の打席だったら三振だ。

 伝家の宝刀、落ちるスライダーが通用せず、マウンドで天を仰ぐ井上。


 みづほは11球まで粘り、四球を選ぶ。

 こっちとしても待望のノーアウトのランナーだ。

 ひと呼吸置く目的だろう、タイムが掛かり、マウンドに目野野手陣が集まった。


 俺の打順――相手のタイム時間を利用して、井上の分析をおさらいしておく。

 注意すべきは球威のあるストレート、そして最大の武器、落ちるスライダー。

 井上のスライダーは、右バッターから見ると、外から内に切れ込むストレートの軌道を通ってくる。

 内角の、ベルトより少し高いところのストライクゾーンを目指してやって来たボールは、インパクトの手前で大きく膝元に落ちて視界から消えるのだった。

 そしてカーブ、スライダーと、やはり外から内に切れ込んで来る系統の持ち球が多い。

 外に逃げる球はカットボールくらいだろう。


 基本は、クロスファイア気味に胸元に切れ込んで来るボールを強く振る。

 外のボールなら、ストレートかカットボール、稀にスライダー。

 あとは、タイミング。そうイメージしながらバットを構えた。


 プレイ再開。井上は一塁に一度牽制を入れた後、投球動作に入った。

 4番の俺に対しては、一応長打警戒なのだろう。外中心の配球である。

 守備体系にしても、内野は深めのゲッツ―態勢に、外野は定位置。軽打を防ぐ意味合いだろう。

 強いて言えば、一二塁間と三遊間が少し空いているが――高いバットコントロールの技術が必要とする。


 そうだろうな。この局面でいちばん嫌なのは、繋がれてランナーを溜められることだ。


 井上は、最も効果的と思われる場面で、もう一球だけ落ちるスライダーを投げてきた。

 1ボール2ストライクからの四球め。もちろん見送って、ボール。

 井上の顎がクイッとかるく上がり、すぐに帽子を目深に被り直した。


 五球め。外のボール球――いや、違う。少し球速が緩い。

 ボールからゾーン内に入って行くカーブだろう、と思ったら、果たしてその通りだった。

 カキーン。手応えあり。

 かなり巧く捌いて流し打ったつもりだったが、セカンドがジャンプ一番、頭上で捕球した。

「あっちゃあー」

 思わず両手でヘルメットを抱え込む。みづほは急いで帰塁し、1アウト一塁。


 松元には、ベンチからバントのサインが出た。

 対左投手の打率が2割を切ってるらしいので、仕方ないだろう。

 バントは成功し、2アウト二塁。これも仕事したうちに入る。

「ナイスバント」

 戻って来た松元を、みんなはハイタッチで迎えた。


 緑陵は、この試合初めて得点圏にランナーを進め、バッターは野口。

 同点にしておくと、展開としては理想的だが――取りあえず、アレは振るなよ。


 野口はストレートに強い、という情報が入っているのだろう。目野バッテリーはカーブ、スライダーでストライクをポンポンと取り、三球めに落ちるスライダーで来た。

 見送る野口――あー、ドキドキしたぁ。


「見極められてると分かってる筈なのに、あのスライダーを全然捨てないなあ。敵ながら大したピッチャーだよ、井上くんは」

 腕組みをしながら、大屋監督が感心したように呟いた。


 野口は頑張った。

 変化球に苦しみながらもファウルで粘るが、やっと来たストレートに、今度は振り遅れてしまう。

 詰まったレフトフライで3アウト。

 四回を終了して、0対1で目野のリードである。


 覚え書きです。目野のスタメン。

 1(右)若林 2(遊)大橋 3(三)脇 4(一)近藤 5(捕)相馬

 6(左)村田 7(二)島田 8(中)九条 9(投)井上

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