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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
98/297

西東京大会準決勝 (VS都立目野)


 準決勝の第一試合は、早田実業-明王大附属。

 第二試合の俺たちは午後の試合開始なので、学校でかるくアップして球場に向かう。

「早田実業が勝ったわ」

 先発隊でビデオ撮影をしていた青柳さんと花に、合流。

「スコアは?」

「3対1」

「そう――紫苑、花ちゃん、お疲れさま。後でゆっくり観せてね」

 試合内容が気にならないと言えば嘘になるが、今日負けたら何の意味もない。

 目の前の試合に、集中しよう。


 球場入りの時間になって、毎度のことだが、マネージャーの女子たちが、みづほとこころを抱きしめて励ましていた。

「頑張ってね、みづほ。頑張ってね、こころ。頑張ってね、みんな」

「ありがとう。頑張るよ」

 三人の女子マネとふたりの女子選手が、計6回ハグし合うのを、俺たちは見守ってるところだ。

 マネージャーもベンチ入りできたら、いいのにな。彼女らも立派なチームの一員なんだし。


 本日の緑陵のスタメンは、以下のとおり。

 1(中)福富

 2(三)船田

 3(二)遠野

 4(遊)秋山

 5(右)松元

 6(一)野口

 7(捕)根来

 8(投)安田

 9(左)志田

 小細工一切なし。走攻守すべてのバランスを重視した布陣だ。

 一方、目野の先発投手は二年生の井上だった。

 左の松元が苦手とする左投げだが、緑陵サイドにとっては予定通りのオーダーだし、目野としても、してやったりという感情はないだろう。

 ともに、全力を挙げてぶつかるだけだ。


 目野は好投手四人の、投手力のチームだが、打線だって侮れない。

 注意すべきバッターだが、みづほの意見は――

「全員よ」

 昨日のミーティングで、みづほは毎度ながら応えた。切れ目のない打線ならではの、目野の特徴だ。

「でも、敢えて挙げるなら」

 みづほが言葉を継いだのを思い出す。

「キャプテンの若林さん。出塁率が上がってきてるの。トップバッターが出塁することで目野の得点力が上がってるわね」

 緑陵も福富、船田の出塁率アップで得点力が上がっているし、それはお互い様だろう。

 今日も若林さんは1番ライトでスタメンに名を連ねていた。


 先攻は目野高校でプレイボール。

 トップバッターは、みづほが要注意と目した若林さん。

 若林さんは、しぶといバッターになっていた。八球粘り、最後はショートゴロだったが、スムースな処理だったのにタイミングはぎりぎり。

 人工芝用の深めの守備位置を採っていたのだが――修正が必要そうだ。


 続くバッターもセンター前に打球を巧く運ぶが、「いいところに」守っていたみづほの好捕に遭う。

 結果的には三者凡退だったが、安田は16球を投げた、いや、投げさせられたと言うべきだろう。

「目野の打球だけど、人工芝効果でさらに速くなってるわ――野口くん、船田くん、ライン際気をつけてね」

 みづほの指示に、ふたりがグラブを上げて応えた。


 一回裏、緑陵の先頭バッターは、福富。

 左対左だが、タイミングを取るのが巧く、左投手を苦にしない。

 ボールをしっかり見極めながら、慎重にバットを振っていく。

 福富への四球め、おそらく試運転のスライダーに、みづほの顔つきが変わった。

「えっ――」


 みづほの呟きの意味が、俺にも分かった――井上のスライダーは進化している。

 ベルトよりやや高めからボールがスッと落ちて、外の地面すれすれで捕手がキャッチ。

 驚くべきは、そのキレだ。まるでプロのそれみたいな軌道を通っていた。

 福富のバットが空を切り、これで2ボール2ストライク。


「――みづほ……」

 みづほは瞬きもせず、井上の投球を見つめている。おそらく目に焼き付けてるんだろう。

「回転かなあ……足腰だよね、きっと。とすれば真っすぐも――そうだね」

 福富がセカンドゴロに倒れたのを見ると、みづほはネクストに向かった。

「じゃあ、行ってくるね。微調整した方がよさそう」

「了解、ガンバ」


 今のを通訳すると(足腰を強化した成果で、井上が投げるボールの回転が増してキレが良くなっている。スライダーだけじゃなく、ストレートを始めとする他の球種も、以前とは違っているだろう。今までのイメージを踏襲しつつも、対応をやや変える必要があるだろう)という意味になる。


 船田も凡退し、みづほのアットバット。目野守備陣は、内野をやや深めにしたオーソドックスな体系を採る。

 2アウトランナー無しなら、シングルヒットまでならOK、という考えだろう。


 マウンドの井上は、初球で外角低めの直球でストライクを取ると、二球めに早くも決め球のスライダーを放ってきた。みづほのバットはピクリとも動かない。ボール。

 ボールを受け捕りながら、井上がかるく肯いた。

 ――おそらく、スライダーを見極められているかどうか、確かめたかったんだろう。


 それにしても、より近くのネクストサークルから見ると、以前よりキレが増してるように、やはり感じた。

 ――これ、試合終わるまでに、眼が慣れてくれるかなあ。


 ひとつの対策としては、井上のスライダーは一定の高さから地面すれすれまで落ちてくるから、思い切って、あの高さのボールは全部捨てる、という手もある。

 ストレートや落ちないスライダーだと、見逃しストライクになってしまうが、そんなの堂々と見逃せばいい。

 落ちるスライダーを多投してくれたら、もしかすると見極められてると勘違いしてくれるかもしれないな。


 目を皿にして投球を見つめながらそんなことを考えていると、みづほが低めのカーブを巧くセンター前に弾き返した。

 さて、俺の打順。序盤の一打席めだし、シンプルな作戦で行こう。

 ボールをよく見る。そしてベルトよりやや高めの打ち頃っぽいボールは、全部見逃してみよう。

 井上はコントロールも悪くないし、甘いところに来る球は罠だと考えてしまおう。

 そう考えながら打席へ向かう。


 とにかくボールをじっくり見て、甘いコースの判断は、高低よりも内外で。

 バットを構える。ランナーをチラッと見て、投球モーションに入る井上。

 井上は行けるところまで行くつもりなのだろう、初回から飛ばしていた。

 前回の対戦よりもストレートが速く感じるし、スライダーもカーブもキレがある。これはきっと、調子云々の問題じゃないだろう。

 井上は、成長している。


 おそらくこの数ヵ月で急成長したのではなく、冬期に体を鍛えた結果が、徐々に現れてきたのだろう。

 俺も冬のトレーニングでパワーはついたし、少しだが足が速くなった。

 持久力もアップして、その分プレイに余裕が生まれたような気がする。


 四球め、外のカーブを強振した――ライト方向に大きく外れる、ファウル。これで2ボール2ストライク。

 ――感触では、球筋自体は今までとほぼ同じような気がする。

 単純にスケールアップした、と考えてよさそうだ。これはみづほの見解と一致する。


 五球め。ほぼ真ん中の打ち頃に、鋭いボールがやって来る。

 これだっ! これを見送るぞっ!! 見逃し三振でも構わない。

 反射的にバットが出そうなところを、必死に抑える。

 果たしてボールはベースの手前で俺の視界から消え、胸元を抉るようにして落ちていった。

 ボール、フルカウント。井上がおやっ? という顔をする。


 こいつ結構、顔に出るなあ。

 それにしても凄いスライダーだった。


 その後ファウルをひとつ挟んで、俺はレフトフライに打ち捕られた。

 真ん中低めのストレートを捉えたが、少し差し込まれた感触だ――ストレートも走っている。

「ちーちゃん、あのシンカー、よくバット止まったね」

 ベンチに戻ってきたみづほが話し掛けてきた。

「ああ――後で話すよ」


 二回裏が始まる時に、俺の採った作戦をみづほに話した。

「あ――そうかぁ。三振でもいい、という発想はなかったわ」

 そうだな。みづほの思考だと、真っ向から攻略することからまず入って行くし、だいたいどんな球でも打っちゃうからな。


 もっともこの作戦は、緑陵の監督が大屋さんだったから思いつけた、とも言える。

 傍から見れば、失敗したら絶好球をみすみす見逃したように映るだろう。

 その時に理由も訊かずに怒鳴りつけるような監督だったら、そもそもこの発想は、ない。

 出来るだけ失敗しない「精いっぱいやりましたよ」的アピールをするような、そういうプレーに落ち着いてしまうだろう。


「その作戦、シンプルだけど、いいね。円陣組んでみんなにも話そうよ」

「待った」

 大屋監督が珍しく声を挟んだ。

 ネクストに行こうとする野口を呼び、何やら耳打ちすると、俺たちふたりに隣に座るよう手招きする。

「これで種をいたよ。まあ、見てて」

 意味あり気にそう呟くと、監督はそのまま視線をフィールドに向けた。


「えー。私の推理が確かならぁ」

 監督が変な口調で話し始めた――誰かの口真似らしいが、一向に分からない。

「井上くんはー、ベルトの高さのストレートを投げてきましゅよ」

 監督。頼むから普通にしゃべってください。


 松元に対して井上は、追い込んでからの四球め、監督の言ったコースにストレートを投げてきた。

 やや甘いコースなので、左の苦手な松元でも対処できる。捉えたかに見えたが、いい当たりのライトフライに倒れた。

「さすが、優秀だね。うちが落ちるスライダーを見極めているかどうか、早速確かめに来たよ」

 監督が、我が意を得たりといった感じで呟く。


「で。野口くんにはさっき、ベルトより少し高めのボールは捨てるよう、指示しといた。井上くんは、今度はスライダーを投げてくるから、見送られた相手バッテリーは、疑心暗鬼に陥るだろうね」

 うーん、さすが元捕手、見事な揺さぶりだ。


 ところが。

 野口のヤツ、追い込まれた四球め、ベルト付近に来たボールを強振し、落ちるスライダーに空振り三振を食らってしまう。

 その瞬間ベンチで思いっ切りズッコケる、俺たち三人。

 参った……野口の選球眼の悪さを、甘く見ていた。


「いやあ、すいません。思ったよりキレてますね、あのピッチャー」

「野口のバカヤロッ、全部台無しにしやがって」

 頭をポリポリ掻きながら戻って来た野口を小声でなじり、軽いボディブローを入れる。

「まあ、仕切り直して再チャレンジしよう」

 監督がなだめるように言った。

 こんな凡ミスをやらかすのが野口なら、相手のベストピッチをスタンドに持っていくのも、また野口なのだ。


 ただ、監督も優しいばかりではない。

 次の打席で同じミスを繰り返すようなら、しばらく野口にスタメンのチャンスはないだろう。

 緑陵野球部には、そういう緊張感がある。野口も、そこんとこは分かっている筈だ。


 二回裏、緑陵無得点。

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