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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
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みづほとデート、のようなもの2


「へえ。秋山くんのお兄さんは、中学の頃ピッチャーだったんだ。道理で肩が強いわけだね」

 バックネットの関係者席に、桑野さんを真ん中に三人並んで、みづほの作った弁当を食べながら和やかに会話は進んだ。

 桑野さんは仕事先から弁当を貰っていたのでいったん遠慮されたが、じゃあ一個だけということでおにぎりを頬張った。食べてもらったみづほが、すごい嬉しそうにしている。

「お兄さんはかなりの粗削りだけど、将来楽しみな選手だよね。高校出たばかりで、この長打力は驚異的だし、チャンスに強いとこが、何よりいい」

 兄貴を褒めてもらって、俺も嬉しい。


「桑野さんは兄貴のバッティングフォーム、どうお考えですか? 明らかに無駄が多過ぎると思うんですが」

 長尺のバットを、あちこちに無駄な力を使いながらブンブン振り回すバッティングスタイルは、高校時代のままだった。

「うーん……彼についてはフロンティアーズさんは、大きな壁にブチ当たるまでは、あまりいじくらない方針みたいだね。二軍とはいえ、一定の結果は残してるし。お兄さんは一般の常識とは離れたとこに居る選手だから、球団もそのつもりで育ててるんじゃないかな」

 ああ――ありがとうございます。


 間もなく試合開始。兄貴は六番ライトのスタメンだった。

「桑野さんお目当ての選手って、どなたですか?」

「今日の先発ピッチャーだよ。ルーキーの丹羽くん」

 みづほの問いに応える桑野さん。高卒のドラフト2位、甲子園で活躍した本格右腕だ。

「わー。テレビで知ってる人です――あれ? 去年とフォーム、違いますよね?」

「そうなんだけど――よく気づいたねえ」

 桑野さんが驚きの声を上げた。


 桑野さんの解説によれば、丹羽選手はバッターからボールの握りが見えやすいフォームだったので、腕を少し後ろから振り上げて、リリースポイントを少し遅らせるフォームに矯正中だと言う。

「高校レベルだと球種がバレても抑えられてたけど、プロじゃそうはいかないからね」

「まだ矯正の途中ですよね――ストレートの速さが変わってないのは流石だけど、以前より打ち易い軌道になってるかも」

「いや――その通りだよ。いやあ、驚いた」


 桑野さんの解説は、ものすごく勉強になった。ピンチの時や強打者を相手にする時、投手が何を考えてるか、ベンチやバッターの反応を見ながら、どのような布石で攻めていくのか。さすが、超一流だった投手の言葉は全然違う。

 一方、みづほは試合開始と同時に、スイッチが入ってしまったらしい。もう、グラウンド以外のとこを見ようともしない。桑野さんの解説や呼びかけに受け応えしてはいるが、目はずっと選手たちの動向に釘付けになったままだ。


「すごい集中力だね――こうやってノートを作ってたのかあ」

 桑野さんが俺の方に向き直って笑顔をみせた。

「はい、一緒に偵察に行ったマネージャーから聞いたんですが、強風でスカートが捲れ上がっても、まったくお構いなしで練習観てたそうです」

 パンツ丸見えの姿が選手たちの注目を集め、ようやく気づいたそうだ。

「なるほどねえ」

 桑野さんは、感心したように腕組みした。


「あっ」

 四回表、フロンティアーズの選手が打った瞬間、みづほが突然声を上げた。

 やや強めの打球がセカンドに飛んで行く。守備範囲だったが、それをタイタンズのセカンドが大きく弾いた。記録はもちろんエラー。

「今のはちょっとプロらしくなかったね――遠野さん、今叫んだのって、エラーするのが分かってたの?」

「え……いえ、あの――セカンドの第一歩めが……あの打球であのステップだと、バウンドを合わせた時に足が揃っちゃうか、捕りにくいバウンド位置での処理になっちゃいますから……」

 多少言いにくそうにみづほが説明した。


 桑野さん注目のタイタンズ丹羽投手は、六回を投げて2失点。クオリティスタートを果たしたが、5四球と少しコントロールが定まらなかった。

 兄貴といえば、一二打席とも、とんでもないスイングで連続三振、スタンドの失笑を浴びる。しかし六回表の三打席めにバットを折りながら右中間まで打球を運び、タイムリー二塁打となった。

 しっかし――バット折られてあの当たりかよ。人間じゃねーぞ。


 そして八回表、2アウト一二塁で、兄貴は四打席めを迎えた。

 タイタンズは投手交代。サウスポーの谷口投手がマウンドに上がった。かつてのリリーフエースも、衰えと不調で今は二軍暮らし。明らかに、左打者の兄貴に対するワンポイントリリーフだ。

 兄貴が打席で、鼻をピクピクさせてるのが見える――集中してる証拠だ。


 初球だった。

 様子見とでもいうべき、内から外へ逃げてくスライダーを、兄貴は強引に振り抜く。

 ブンッッ。

 打球は、わずかにポールの外側を通って、なんとレフトの場外に消えていった。

 ファウルなのに、あまりの飛距離にスタンドがどよめく。


 二球めはやはり外、速い球。兄貴は凄いスイングでボールを捉える。

 今度は矢のようなライナーが、ライト奥のファウルゾーンに突き刺さった。

 桑野さんが、かるく頚を横に振る。

「冷や汗もんだねえ――秋山選手って、ホントに高卒?」

 はい。年齢をゴマカしてはいないと思います、ガキの頃から一緒でしたので。


 ツーナッシングからの三球め。明らかに外に外した、ハーフスピードのスライダーだった。

 ブンッッ。

 もの凄いスイングスピードでバットを振り抜く。

 ――タイミングも合ってたものの、ボールはミットにちょこんと収まった。

 そりゃそうだよ、完全なボール球だもん。どーして手を出すの。

 インパクトだけは凄かった、空振りの三球三振、チェンジ。

「あ~あ、なにやってんだよ~」

 隣を見ると、桑野さんが天を仰いで盛大にズッコケてた。




 タイタンズ対フロンティアーズ戦は、4対2でタイタンズの勝利。

「いやぁ、今日はどうもありがとう。楽しかったし、勉強になったよ」

 桑野さんがとんでもないことを言ってる。

「いえいえいえっ! あたしたちこそ、桑野さんからいろいろ教わって、たいへん勉強になりましたっ、ありがとうございましたっ!」

 俺たちは恐縮しまくって、頭をぺこぺこ下げている。

「今度、練習の見学させてね」

 にこやかに手を振って、桑野さんは去っていった。


 再び俺とみづほ、ふたりきりになった。

「面白かったぁ。桑野さんと一緒に試合観れるなんて、すっごいサプライズだったね!」

 みづほは、これ以上ないくらい、ニコニコしている。


 さて。日が暮れるまでは、まだ時間がある。

「遊園地、行く?」

「うん、行く」

 幸い、今日のためにお袋から軍資金もゲットしている。

「それじゃ、観覧車とかジェットコースターとか」

「うん」

「お化け屋敷とか」

「絶対、イヤ。死んでもイヤ」


 まだ陽が高いうちに、観覧車に乗ることにした。これだけ天気がいいと、きっと富士山も見える。

 観覧車の前は結構な行列で、家族連れに混じってデート中とおぼしきカップルの姿も、かなりいた。


 みづほが俺に耳打ちしてくる。

「前の人たち、さ……」

「うん」

「ちょっと、凄いね……」

「――うん」


 俺たちの前に並んでる男女の二人連れが、さっきから尋常じゃないラブラブ光線を放っていた。

 ずっとベタベタくっついてて、男が女の髪の匂いを嗅いだりしている。

 わりと地味めの、俺たちと同年代の学生風なんだけど、見かけに寄らないイチャイチャ振りだ。


 バカップルを伏し目がちに見つめるみづほの頬が、真っ赤だった。

「あのふたり、観覧車の中で絶対チューするよねぇ……」

 いや、それ以上だと思う。だって既に現時点で、キスに近いことしまくってる。

「あまりガン見しちゃダメだよ」

「うん……」


 俺たちの番が来て、向かい合わせに座る。

 ガタン、ガタンとゆっくりしたモーター音と、わずかな風の音だけがする。静かにゴンドラは上昇し、俺たちはしばらく無言のまま、外の景色を眺めていた。


「もうすぐ、富士山が見えるんじゃないかな」

 そう呟いてみづほを見ると、口を真一文字に結んで、モジモジしている。何かを我慢してる時の、みづほのいつもの癖だ。

「ちーちゃん……こっち来て、くれる?」

 俺と目が合うと、蚊の鳴くような声で、そう囁いた。


「んーと……怖いの?」

「ん」

「高いとこ、苦手だったっけ?」

「ん。実は、ちょっとだけ」


 それなら乗る前に言ってくれよ、とも思ったが、小動物みたいに身を縮めているみづほも、それはそれで可愛かった。

 みづほを驚かさないよう、ソロリソロリと移動していく。

 隣に腰掛けた瞬間、みづほの手が伸びて、俺の手をギュッと握ってきた。

 しっかり怖がってんじゃん。


 観覧車のゴンドラは、どんどん昇っていく。

 手を繋いだままの俺たち。せっかくいい景色だから、頑張って観ようよ――って、結構きっちり観てる様子だ。

「ありがと。ちーちゃんと一緒だから、平気よ」

「そ、そう。よかった」


 実は、こっちは少し平気ではない。みづほが俺にすっかり体を預ける格好で景色を観ているので、みづほの体がぴたっと密着してて、汗ばんだ甘酸っぱい匂いとか、柔らかい胸や腰の感触とかが、ダイレクトに俺に伝わってくる。

 顔も、近いしなあ。

 帰国子女だからなのか、みづほの性格なのか。親父とも平気でハグするくらいだから、こういうボディタッチに抵抗が少ない印象がある。俺としては、戸惑うこともかなり多い。


 だがそうして密着しているからこそ、みづほが細かく震えてるのも伝わってきた。恐怖を紛らせてやろうとして手を強く握ると、みづほは眼を閉じて少しだけ笑顔をみせ、吐息を漏らしながら握り返してきた。


 デートの筈なのに、4分の3が野球でしたね(^-^;

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