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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
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クラブ選抜戦・予選リーグ


 九月第三週、全国クラブ選抜戦が、いよいよ始まる。

 チームは全部で12。北海道、東北、北関東、南関東、東京、甲信越、東海、近畿から2チーム、中国、四国、九州沖縄の、各地のシニアクラブから選抜した選手が一堂に会し、予選リーグを戦う。

 シーズン最後の、お祭りみたいな雰囲気の大会だが、俺たち選手にとっては、重要な意味を持つ。


 試合会場には、甲子園強豪校の関係者も多数顔を見せる、と聞く。中にはプロのスカウトもいるらしい。例えば英峰の櫻田みたいな大物は、すでにどこかの野球特待生に内定しているはずだ。

 ただ俺や、みづほみたいな中小クラブの、全国的に無名の選手は、活躍すればもちろん、そうじゃなくても潜在能力を見せることで、彼らに好印象を与えることができるだろう。

 うまく行けば、高校からクラブに声がかかったり、セレクションに有利に働くことがあるかもしれない。


 それに予選リーグは神宮の杜第二球場で行われるが、翌週の準決勝、決勝は後楽園ドーム。

 俺レベルの選手にとって、ドーム球場でプレーできる機会なんて、そうそうない。勝ちたい気持ちは、人一倍あった。


 東京チームは、北海道と近畿Bチームのリーグに入った。

 今日の相手は近畿Bチーム。いきなり優勝候補同士の対戦だ。

 俺もみづほも、スタメンに名前を連ねた。みづほは7番セカンド、俺は6番、ポジションは残念ながらサード。ショートは櫻田が守り、3番を打つ。

 漆畑監督は「選手の実力に応じて」チャンスを平等に与える、と言ってくれた。二試合めの北海道戦には、ショートをやらせてもらえる。

 本選に勝ち残れたら出番ももう少し増えるだろう。負けちゃいられない。


 予選第一日めの今日は、リーグ戦を計四試合。三連休を利用して三日間行われる。東京-近畿B戦は第二試合だった。


 第一試合を少し観戦して、ウォーミングアップのために球場脇に向かう途中。

「おーいっ、さくらだぁ~」

 近畿の選手が大きく手を振りながら、大股でこっちにやって来た。

「おー。丘じゃん、久しぶり。全国の準決以来か」

 櫻田もそうだが、丘と呼ばれたこいつも、ホントに中学生か、と思うくらいデカい。

「そうや、お前がいいとこで打ちやがって、うちらは負けたんや」

「それ以外はお前にひねられたじゃないかよ」

 櫻田と丘は胸をかるく叩き合った。


「で、何の用だ?」

「おう。お前のチームに女の子が選抜でおるやろ、遠野ってヤツ。紹介してくれ」

「お前、試合前にナンパか?」

「ちゃうわっ! 見かけ以上にすごい選手と聞いてなぁ。あと結構可愛いらしいやないか」

 後半の言葉は小さくて聴き取りにくかった。


「このエロ丘が……遠野、来てくれ。こいつ、丘。大阪棚方シニアのエースピッチャーだ」

櫻田がいきなり、遠野の肩を抱いて引き寄せた。

 お前も充分、エロ櫻田じゃねえか。

「きゃ」

 一瞬体を強張らせたみづほだったが、すぐに笑顔を作った。

「遠野みづほ。よろしく」

「丘大樹や、よろしくな~。みづほちゃんかぁ、噂より別嬪サンやないけ。アイドルも真っ青や」

丘が、みづほと握手した手をなかなか離そうとしない。

「選抜になるほどの選手や。女やからって、舐めるような真似は絶対にせんわ。でも女には負けたない、ちゅう気持ちに嘘はつけへん。よろしくな」

 丘がみづほを見据えながら、手を強く握り直した。


「んじゃ、またな~みづほちゃん。ついでにさくらだぁ、今日の試合こそ、ひねってやるからなぁ」

 手を振って去っていく丘。

「あの馬鹿、今日先発するって自らバラしやがった」

「ははは……」

 ちいさく手を振るみづほの額に青線が入っている。

 ちなみに、俺はみづほの隣を歩いていたはずなのだが、このやり取りの間、一切無視されていた。

 くー。


 歩きながら、櫻田が呟いた。

「遠野、秋山。丘の速球は、速いというより重い。当てに行ったら絶対振り負けるからな」

「うん、わかった」

「お……おう」




 試合に向かうところで、観客席で俺たちに向かって手を振る一団に気づいた。

「安田! 根来!」

 千秋シニアを卒業したメンバーが、全員いた。

「みんな、来てくれたんだね。ありがとう……」

 にこやかな顔だが、みづほの瞳が潤んでいた。意外に涙もろいんだよな、こいつ。

「みづほ、アキ、頑張れよー」

「お前らのすごいとこ、みせてやれー」

 ふたりして手を振りながらグラウンドへ駆けて行った。


 試合前の挨拶が終わり、後攻の東京チームは守備に向かう。

 俺はサードの守備位置に就いた。みづほがずいぶん遠くに見えるなあ……

 ショートの櫻田は守備範囲が広く、三遊間はヤツにある程度任せられる。

 近畿Bチームは右バッターの強打者が多いので、ライン際をかなりケアすることになるだろう。ショートとは打球の質がかなり違うが、頑張ってみるさ。

 肩には自信があるので、深めのポジションをとった。


 東京の先発は、英峰のエース、幸田。オーソドックスだがいい投手だ。やはり予選屈指の好カード、観客も多い。

 プレイボール。先頭打者の鋭い打球が、サードに飛んできた。

 幸い、真正面に近い。腰を落として捕球し、アウトにする。

「ナイスサード!」

 グラウンドからも、ベンチからも声が飛ぶ。いくらか緊張感がほぐれた。


 一回表は無失点。一回裏、東京の攻撃。

 近畿Bの先発は大方の予想通りというより、事前に口を滑らせていたが……丘。

 180㎝はとうに越えている体からオーバースローで投げ込んでいる。

「きゃっ、すごい軌道」

 丘の投球練習を見ていたみづほが、思わず声をあげた。

 みづほの視界には、俺の見えてない物が多数見えているような気がして、ならない。確かにバッターボックスに実際に立ってみると、丘の速球の凄さを、改めて感じるのだろう。

 みづほは、横から見ているだけでそれが分かるんじゃないか。そんな気がした。


「球種はストレート一本。それはさっきミーティングで聞いたよな」

 櫻田がいつになく真剣な声で話した。

「分かってても打てねえんだ。調子いい時の丘は、しっかり捉えないとボールが前にさえ飛ばねえ」

「厄介よね。コントロールよりボールの質を重視してる感じ」

 みづほの言葉に櫻田が肯く。

「丘って、多分思ったより不器用なんじゃないかなあ。変化球は投げないんじゃなくて、まだモノに出来てないんだろ……そう言えばマウンドのあいつって、全然表情変えないんだぜ。完全なポーカーフェイス」

「へえ……」


 今日は調子のいい時の、丘だった。

 バットに当たっても当たり損ねのファウルボールがせいぜい。

 櫻田でさえ、ファウルで粘ったはいいが、最後はインコースの速球を空振りして仕留められた。

 三者凡退。


 二回裏も2アウトとなり、打順が回って来た。ネクストから立ち上がり、打席に向かおうとする。

 と、すでに次打者のみづほが、そぐそこにいた。

 みづほは滑り止めを渡しながら手短かに囁く。

「バットを指ひとつ短く、ベルト付近の高さ。打てるコースは、そこだけよ」

 俺は肯きもせず、黙ってヘルメットを両手で被りなおす。

 了解、の暗黙の合図だ。


 みづほの指示どおり、バットを指ひとつ分短く持ち、打席に入る。

 マウンドの丘が無表情に振りかぶって、投げてくる。第一球。

 ギュイイイン、ズドン。

 いや、ボールがミットに収まった時、確かにそういう音がした。

 世の中には、こんなピッチャーがいるのか。

 とんでもなく高い所から放られたボールが、見たこともない角度で唸りを上げながら、俺に向かって襲ってくる。

 ……すげえ。ボールに対してびびったのは、初めてかもしれん。


 深呼吸をして、バットを握り直す。こうなりゃ、開き直るしかない。

 みづほの言ってたコースにボールが来たら、思い切り振るだけ。

 来なかったら玉砕するだけだ。

 二球め、三球めとボールを見る。一本調子の投球で、タイミングは掴めそうだ。

 2ボール1ストライクと、カウントも悪くない。

 ベンチのサインは――と確認。指示は、普通のヒッティング。


 さあ、来い。


 丘が振りかぶって投げる。ボールが唸りながらこちらへやって来る。

 ベルトの高さだ。

 俺はほとんど目をつぶって振り抜いた。手応えあり。

 ボールは金属音を残して、三遊間を破っていった。


 チーム初ヒットに、ベンチは湧いた。

「ナイスバッチ」

「あざっす」

 一塁ベースコーチとかるくハイタッチする。丘は表情ひとつ変えなかった。


 ベンチのサイン、確認。「隙を見て走れ」だ。

 そうだろうな。こういう投手は脚で掻き回さない限り、崩すのは難しいだろう。

 櫻田の言う通り不器用なタイプなら、クイックは得意じゃないはず。しかもセットポジションなら、嫌が応にも球威は落ちると考えていい。


 指示があったのだろう、初球から丘が牽制を入れてきた。

 向こうさんも盗塁を警戒している。一球外してくることもあるだろう。ちょっと盗塁のタイミングは難しくなったかな……

 相手の外野は、長打警戒で深めの守備位置。

 これは、みづほを毛ほども舐めてないことを意味する。女だから長打はないだろう、という甘い認識を捨て去っている証拠だ。


 ベンチのサインは、変わらず。そうなると意地を張って、リードは大きめにとるしかない。

 一球め、外に外れてボール。


 二球め。ベンチからはっきり「走れ」のサインが来た。

 漆畑監督、勝負かけてきたな。確かにウエストする可能性は低い。

 同じタイミングで投げる投手なので、モーションも盗めなくはない。


 行こう。

 丘が投球モーションに入ると同時に、スタートを切った。


 みづほがセーフティバントの構えを見せて、バットを引く。

 ボールは高めに浮いて、ボール判定。

 キャッチャーからは、矢のような送球。俺は足から滑り込んでいった。

「セーフ!」


 よっしゃー!

 これはデカい。

 得点機を作っただけじゃなく、2ボール0ストライクと、カウントがみづほにとっても有利に傾いた。

 近畿Bバッテリーにとっては、みすみす盗塁されただけでなく、警戒した挙句にカウントまで悪くしたのだから、結果としては最悪に近い。

 しかし、マウンドの丘の表情は、まったく変わらなかった。


「ツーアウト! 落ち着いていこう!」

 グラウンドから声が飛ぶ。

 外野はバックホーム態勢。少し浅めに変わる。

 ワンヒットでは点を取らせない、という意志の顕れだ。


 三球め、バッテリーはストライクがぜひ欲しいだろう。で、みづほならコースが甘ければ100%打ってくる。

 何としてもホームを駆け抜けてやる。俺も身構えた。


 果たしてボールは、ベルトの高さに少し甘く入ってきた。

 みづほが木製バットを振り抜く。ベンチの全員が立ち上がる。

 ボールは浅めに守っていた外野の頭を越え、右中間のフェンスにダイレクトでぶち当たった。


 丘は、5回1失点でマウンドを降りた。2安打1四球の内容。

 俺の二打席めには、修正がすでに入っていて、ベルトの高さにはもう投げてくれなかった。ボテボテのピッチャーゴロ。

 みづほは四球を選んだ。厳しいコースを突き続けた結果だった。


 試合は、1対1で迎えた六回裏。値千金の、櫻田の決勝ツーランが飛び出した。

 最終回の近畿Bの猛攻を1点で辛くも抑え、3対2で東京チームが逃げ切った。


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