表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
89/297

夏の予選・展望


 毎週末に組まれた練習試合も一段落。ひとりの故障者も脱落者も出すことなく、緑陵野球部は無事に夏のシーズンを迎えた。

 間もなく、夏の甲子園に繋がる西東京大会の組み合わせ抽選。来月初めには大会が始まる。


 今年の西東京は、二強と言われている。

 まず、昨年の秋季大会を準優勝し、春の甲子園のセンバツ大会ベスト8の、都立目野高校。力のある投手、三枚看板に加え、一年生の浅野も充分戦力になる。豊富な投手陣で優勝を狙う。

 それに拮抗どころか丸ごと食ってしまいそうな勢いなのが、大日三高だ。1番から9番まで、どこからでも得点の期待できる強力打線が売りで、春季大会はあの帝山を打ち砕き優勝、関東大会ベスト4。

 緑陵も練習試合で対戦したが、粉砕された。安田が2巡めに捕まり、六回5失点。代わった西井は通用せず、2対10で八回打ち切りの屈辱的大敗を喫した。


 この二校に続くのが、大会屈指の好投手を擁する昨年の優勝校、明王大附属高。打線はやや弱くなったが、紛れもない実力校だ。

 わが緑陵は、さらにその次の伏兵的存在といった位置だろうか。優勝、そして甲子園出場が夢ではないところまで、早くもやって来られた気がする。


 チーム作りは、最後の段階に入った。数々の練習試合で培った経験をもとに、主に守備面での熟成を行っている。

 打撃は水モノだが、守備は練習が嘘をつかない。特に緑陵は強打者が少ない守備型のチームなので、妥協は許されない。幸い、創部してから一年以上ほぼ同じメンバーで練習を続けてきたので、一年生が入っても破綻はほとんどなかった。


 各チーム対策は、どこと当たるか分からないので、現在はサラリと。自分の力を出し切る方が、よっぽど大事だ。

 ただ、大日三高戦の大敗には、少しだけ理由がある。

 試合前のミーティングで、各バッターの傾向と癖を知りたかったみづほが、安田と根来のバッテリーに、じっくり攻めるよう頼んであったのだ。いろいろ試して球数を増やしてしまった安田は早目に捕まったが、その見返りは確実にあったようだ。

「みづほのデータが、笑っちゃうほど詳しくってさ――こないだのようには打たせないよ」

 根来が不敵に笑う。

「知ってるよ。みづほ、『このままじゃ安田くんに申し訳ない』って、あちこちからデータ取り寄せて、家で頑張ってた」

「みづほらしいよな」


 チームの背番号発表は、組み合わせ抽選会の前日だった。全員ベンチ入りは確実だが、無風だった去年と違って、今年は多少の変動が予想された。

 数多く組まれた練習試合でも、当初は均等にチャンスが与えられたが、後半になるにつれて、徐々にメンバーも固定されていった。試合をたくさんしたのも、経験を積む目的だけではなく、チーム内での選手間の力関係を知らしめる目的もあったのだろう。


 だから、一年生の船田が背番号5を、福富が背番号8を獲得しても、不満の声は表向きはなかった。

 レギュラーナンバーを外れた二年生は、昨年と同じ背番号10の竹本は別にして、度会と有沢だった。最近では有沢が一塁、度会が三塁ベースコーチに就くことも多くなっていた。志田はレフトに回り、背番号7。

 その他の二年生の六名は、引き続き同じ背番号を背負うことになった。


 度会は現在、サード、ファーストの他に、外野の守備練習もしている。

 松元が、左投手に対する弱点を克服出来ていない。左投手の登板時には、背番号11の度会にも充分スタメンのチャンスがあった。

 松元の代わりに試合に出られるとすれば、度会がそのままライトかレフトを守ることになるだろう。または、船田や野口の代わりに出場することも考えられ、大事なスーパーサブである。

 夏の甲子園に向けて、チームの士気は変わらず高かった。


 西東京大会の抽選会。第1シードが大日三高。緑陵は、なんと第2シードだった。春季大会での帝山との接戦が評価されたのだろう。以下、目野、明王大附属……と続く。

 夏大会のシード校は、春季大会のベスト16が自動的に選ばれ、三回戦からの登場となる。

 今大会のシードは7校。緑陵は、準々決勝で大日桜丘と、準決勝で目野と当たるブロックになった。大日三高は別の山で、決勝まで行かないと当たらない。


「で――五回戦までは、どんなブロック?」

 部室で、組み合わせ表とにらめっこ。

「四回戦までは東大和東くらいかなあ――都立広瀬、またこんな近くにあるね」

「え、愛菜さんのとこ? ほんとだ、四回戦で当たるかも知れないのね。何か縁があるなあ」

 みづほも感慨深そうに覗き込む。現実的には、広瀬にとって四回戦はきついかも知れないが。

「五回戦は国志館か久我山学院が来るだろうな」

「ああ」


 トーナメント戦の性質上、全部勝たないと甲子園には行けない。

「ひとまずは目の前の三回戦だね」

「そしたら、二回戦のここ、あたし偵察行ってくるね」

「待った、みづほ」

 赤川さんが呼び止める。


「偵察はあたしたちに任せて。みづほは練習してていいよ」

「花ちゃんも連れてくから、新偵察三人娘、結成ね」

「キコ、紫苑……」

 赤川さん青柳さんは、船内泊で伊豆大島まで偵察に行った経験もあるし、青柳さんのビデオ撮影もしっかりしている。花ちゃんはともかく、この二人なら任務遂行に問題はないだろう。


 そうだな。大会が始まったら駆け足で日程が詰まってくる。

「みづほには練習にいて欲しいな、やっぱり」

「そうね――キコ、紫苑、よろしく頼むわ」

「任せといて」




 大会前の日曜日は休養日になった。緑陵は効率のいい練習を信条としてるので、時に体を休める日を設定している。

「ちーちゃん、今度の日曜さ、タイタンズ球場でフロンティアーズ戦あるの、知ってる?」

「おっ、そうか。兄貴が来るんだ」


 タイタンズ球場は、東京タイタンズの二軍のフランチャイズで、しばしばイースタンの試合をやってる。

 昨年のドラフト3位でフロンティアーズに入団した兄貴は、幸い二軍でバリバリ試合に出してもらっている。

 専門誌によると「野球は下手だが体力は新人離れ」という評判の兄貴は、打率2割そこそこ、二打席に一回は三振するが、ヒットの半分が長打、3分の1がホームラン、しかも終盤の勝負どころに集中して打ってるという、なかなか魅力的な選手になっていた。

 ――実の兄貴がプロ野球選手だもんな、成績が気にならないと言えば嘘になる。しっかり調べてたよ……みづほが。


「あたし、カイ兄ちゃんの応援行きたいなあ――ね、一緒にいかない?」

 そうだな。鎌ヶ谷は遠いけど、タイタンズ球場のある多摩なら、わりと簡単に行ける。

「いいな。あそこは遊園地もあるから、試合終わったら少し遊ぼう」

千秋せんしゅうのみんなも、行きたがるかな?」

 安田、根来、志田は兄貴と一緒にプレーした間柄だ。そうかもしれないな。

「OK。連絡してみる」

「キコと紫苑も来るかなあ――誘ってみるね」


 安田に早速連絡してみたら、予想外の返信が来た。


 >このバカタレが。みづほに誘われたんなら責任とって二人で行って来い


 ――俺、そんなに怒られるような誘い方、したかなあ。

 文面をもう一回確認してみる……特に問題はないと思うが。少し真意を問いただすことにした。


 >怒ったならスマン。でも安田も兄貴の応援は行きたいだろ?


 >あ、わりい、言い方キツかったか。怒ってるわけじゃねーよ

 >俺も応援は行きたいけどさ、でもせっかくの誘いだから、二人きりで行って来いよ

 >他のヤツ、誘うんじゃねーぞ! 楽しんでこい


 何か、訳の分からん念を押された……


 みづほはみづほで、頚をひねりながら俺の部屋にやって来た。

「うーん……なんか、怒られちゃった」

 そう言ってラインを見せる。


 >紫苑:みづほのバカバカバカッ! 私たち誘ってる場合じゃないでしょっ!

 >キコ:んだんだ

 >紫苑:あっきぃ誘ったんなら、責任とってデートしてきなさいよっ!

 >キコ:んだんだ

 >紫苑:キコからも何か言ってやんなさいよ、んだんだ言ってないで

 >キコ:みづほチューしてこい

 >みづほ:わかったー

 >紫苑:あ、約束ね、必ずチューして来なさい

 >キコ:リア充、ばくはーつ

 >紫苑:ばくはーつ

 >みづほ:いやそっちじゃなくて


「――というわけで、にべもなく断られました」

 みづほが申し訳なさそうに、チロッと舌を出した。


「ねえ、ちーちゃん。あたしたちって、馬鹿なの?」

「うーん……何か、そういうことになっちゃったなあ」

「安田くんも紫苑も『責任とれ』だって」

「ただ野球観に行くだけなのに……」

 どいつもこいつも、大袈裟に考え過ぎだと正直思う。


「ま、いいや。ふたりで行こうよ」

 二人の方が野球に集中できるし、いいかも知れないな。

 みづほがにっこり笑った。

「うん。あたし、お弁当作るね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ