表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
88/297

練習試合 (VS都立目野)


 週末はいつも通り練習試合、緑陵グラウンドに都立目野を迎える。目野は秋季大会で負けた相手でもあり、夏の西東京大会で再びまみえる可能性だってある。

 是非お返ししておきたいところだ。


 主将同士で挨拶を交わした時、若林さんから申し出があった。

「遠野さんに挨拶したいんですが」

 ああ――死球のお詫びかな? でもそれは昨年わざわざ緑陵まで監督、主将、足立さんが来てくださり、済ませた筈なんだけど。

「その時はリハビリ中で直接謝罪してないし、会わせたいヤツもいるんだ」

「あっ、そうですか。みづほならグラウンドで練習中なので、その時にでも」


 みづほに会いに来たのは、若林さん、足立さんに――浅野じゃないか!

 ひとつ下の、千秋せんしゅうシニアのチームメイトで、俺たちの代では安田とほとんど差のない二番手ピッチャーだった。

「アキさん、みづほさん、久しぶりです」

「そうか、浅野は目野に行ったのかあ」

 懐かしい顔に緑陵の千秋出身メンバーが集まり、浅野を囲んだ。

「浅野、今日は投げるんか?」

「そんな情報、漏らすわけないだろ――是非投げさせてくれ、って監督には頼んだけど」


 浅野らの横では、足立さんの謝罪にみづほが恐縮している。

「いえいえそんなぁー、ヒビが入っただけなので……まったく後遺症もないですよ。元気にしてます」

 すっぽ抜けの死球が多いのはアンダースローの宿命とも言うべきで、足立さんにとっても不可抗力だった。たまたま速いボールが顔付近に来たので、みづほが左腕でかばった為に生じた不幸な事故。こっちとしても遺恨はまったくなかった。


 嬉しいことに、目野はガチで来てくれた。打線は双方とも、ほぼベストオーダー。先発は目野が二年生の井上、緑陵が安田。

 左の本格派ピッチャー井上は、昨年秋にも相当いい投球をされたが、さらにスケールアップしたようだ。速球がグインと伸びてくるし、右バッターの内角低めにストンと落ちるスライダーまでマスターしていた。

 落ちるスライダーは、ストレートと同じ速さで来られると、どうしても手が出るんだよな――振った瞬間、ボールが目の前から消えるんだ。

 一打席め、二打席めと俺は見事に引っ掛かり、シンカーを空振りして連続三振。他の連中も――みづほを除いて――面白いようにクルクル回り、三振の山を築いた。五回終了時で、わずかに1安打1四球。


「あのスライダー、すごいね。今日はストレートと同じくらい走ってる。ボールの回転で見極めるしかないんだけど――出来る?」

 円陣でみづほが放った言葉に、俺たちはプルプルと頸を振った。ボールが速すぎて回転まで分からん。


 一方、安田は井上と好対照に、のらりくらりと打たせて捕るいつものピッチングだった。相変わらず目野はボールを選ばず、強く叩いてくる。ただ以前と違って、明らかに低いのは見送るようになった。

 安田が先発だと、内野ゴロが多くなるから、忙しいけど楽しいんだよな。特に、セカンドで躍動するみづほを見ること、みづほと一緒に守れることが、楽しくって仕方がない。

 守備においても、みづほの目は特殊だ。打者のバットがボールに当たるインパクトの瞬間、打球の方向がある程度分かるとサラリと言われたが、プロでもそんな芸当ができるヤツは、ほんの一握りらしい。第一歩めがべらぼうに早いので、ヒット性の当たりも事も無げに捕ってしまう。


 センターに抜けそうな打球を逆シングルで捕るみづほ。長年コンビを組んでる俺は既に分かっていて、打球を追わずにセカンドベース近くに待機している。みづほが走りながらボールを握り直して、背中を向けたままバックトス。俺はボールを受け取ってファーストに転送する。アウト、チェンジ。

 このプレーは見栄えがいいので、しばしば敵ベンチからも拍手が来る。みづほがにっこり笑って駈け寄って来る。互いにグラブでハイタッチを交わした。


 六回表終了。スコアは0対0のままだった。


 六回裏、1アウトから1番の福富がカーブをセンター前に弾き返す。左対左を苦にしない頼もしい選手だ。2番の船田も、三打席めに入って、もはや落ちるスライダーに引っ掛からなかった。四球を選び、1アウト一二塁と、初めてチャンスらしいチャンスを迎えて、バッターはみづほ。


 この試合でも、目野は他の強豪と同様、内野をやや深めに、外野はかなりの前進守備という、みづほシフトを組んでいた。これは、ある程度の球威がある投手なら、みづほのパワーでは長打は少ない、という計算のもとに、内外野間のヒットゾーンを出来るだけ潰す、という目的の守備体系だ。

 それに対する、この試合でのみづほの答えは、内野間に強いゴロを転がす、というものだった。確かに目野の内野の守備範囲は並程度なので、強いゴロなら内野の間を抜ける公算が立つ。


 ただ、現在のケースは塁が埋まっている。エンドランならまだしも、内野ゴロだと当たりどころが悪ければ最悪ゲッツーだろう。

 相手守備は変わらず、みづほシフト。さて、どうするかな。


 みづほの答えは、ライン際狙いだった。クロスファイア気味に来たストレートを、腕を畳んで強く引っ張った。三塁線を低いライナーが襲う。

「抜けろーっ!!」

 深めに守っていたサードが飛びつくが、わずかに届かない。抜けた! 長打コースだ。

 福富は快足を飛ばしてホームへ。均衡を破る、先制のタイムリー二塁打となった。


 なおも1アウト二三塁と、得点のチャンスが続く。バッターは4番の俺。次打者の松元が対左投手に弱点を持つので、公式戦なら敬遠の満塁策もあるだろう。

 しかし、今日は練習試合。勝つことも大事だが、目いっぱいプレーする方がもっと大事なので、多分勝負だ。

 落ちるスライダーにだけは、引っ掛からないようにしなくちゃ。覚悟して打席に臨んだ。


 インコースで勝負してくるだろう、という予感はあった。外、内と来て、1ボール1ストライクからの三球め。目野バッテリーは、三球めで伝家の宝刀、クロスファイアからインコースに落ちるスライダーを選んだ。済んでのところでバットが止まり、見送りボール。

 おそらくこれを振ってたら、再度同じ球で攻めて来ただろう。そのくらい今日の俺は、井上のスライダーに翻弄され続けていた。


 四球め、スライダーじゃありませんように――祈る気持ちだったが、幸いなことに向こうは「カウント悪くして満塁にしちゃってもいいやー」的な攻めをしてこなかった。

 有り難いことに、真っ向勝負を選択してくれた。

 インコースのストレートを逆らわずに、バットを合わせる。ライトへの飛球は犠牲フライとなった。


 六回裏、緑陵2点先制。


 七回裏、目野は投手交代。浅野の登板となった。右の本格派でストレートも速く、総合力のある投手だ。

 一年生にして、早くもベンチの信頼を勝ち得ている雰囲気だった。

「都立目野、投手王国になったな」

 あっさり凡退を喫した根来が戻って来る。浅野の出来も相当良いようだ。

 元来、目野は投手が揃っていて、エースの村田さんにアンダースローの足立さん。左の二年生、井上がエースを狙えるほどのピッチャーだし、そこに浅野も加わるとなったら……手強いとしか言いようがない。


 八回裏は志田、福富、船田と、千秋出身のなかなか五月蠅いバッターが相手だったが、浅野はストレートを主体にあっさり三者凡退。

「俺たちがいた時より、さらに良くなってるよ、浅野」

 七回に対戦した安田と根来が、口を揃えて讃える。

 浅野は少し残念そうに、ネクストボックスに控えるみづほを見つめながら、マウンドを降りた。


 緑陵の方は、八回からリリーフした竹本の調子が今ひとつで、四球を連発。

 最終回にはとうとう、先頭打者からふたつフォアボールで、ノーアウト一二塁となった。

 マウンドに、内野手集合。

「低めを意識しすぎて、ストライクが入らんな」

「うん……分かってる」

 根来のツッコミにも、竹本は言葉少なだった。少しイライラしている。


 伝令に走って来たのはこころだった。

「すんません竹本さん! 監督からこうしろ、って言われました!」

 そう言うが早いか竹本の真っ正面に回ると、背伸びして両掌で、竹本の頬をぐりぐりと撫ではじめた。

 思わず内野陣に失笑が漏れる。

「バッ……馬鹿ッ。何すんだよぉ」

 口とは裏腹に、まったく嫌がってる様子がない。

「監督命令なら仕方ないわね。あたしもやったげる、竹本くん元気出して」

 みづほもグラブを俺に渡すと、こころに次いで、竹本の両頬をグリグリやった。 


「まあ冗談はさておき、思い切って腕振っていけよ。多少のコントロールミスがあっても、お前の球威なら打ち捕れるから」

「俺って、監督からどういうヤツに見られてんのかなあ……ま、いいや。みづほ、こころ、ありがと」

 竹本の表情は明らかに変わっていた。


 竹本のストレートが唸った。打球は強いが、サードの真っ正面。船田が捕球し、5-4-3のダブルプレー完成。ヒットで1点を失ったが後続を断ち切り、ゲームセット。

 2対1。夏の優勝候補、都立目野に勝利するとともに、昨秋のリベンジも果たした。


「みづほさんと対戦したかったですよ」

 浅野が苦笑しながら、みづほと握手に来た。

「あたしの頭の中では対戦してたわ――ストレートとシュートが凄くなってたね。カーブも良かった。シュートを狙ってみたけど、センターフライだった」

 いつも通り、シミュレートは既に終わっていた。

「はは、みづほさんらしいや」


 主将の若林さんが握手しに来る。

「参りました。夏は互いに頑張りましょう」

「ありがとうございました――大日三高とは対戦しましたか? うちはこれからなんですが」

 俺の言葉に、若林さんから笑顔が消えた。

「――強かったよ。打線がすげえ。うちの村田が、下位打線に連続ホームラン食らった」


 名門の大日三高が、冬を経て強力打線を引っさげ、夏の優勝候補として躍り出た。

 春季大会は帝山の二番手ピッチャーを打ち砕き優勝、春の関東大会でもベスト4進出。

「スコア、教えてもらえます?」

「3対8。うちの負けだ」

 目野の投手陣から、8点も取るなんて――緑陵は来週土曜に対戦予定、これは気を引き締めて掛からないと。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ