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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
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新チーム、胎動


 こころのチーム練習復帰は予定より少し早く、四月の終わり。ゴールデンウィークに差しかかろうとする時だった。

 連休中に若干の練習試合も組んであるので、こころを試合に出場させることもできる。試験には試合形式の実技もあるから、試合勘を養うには重要だろう。

 一年生たちの体作りと基礎練習もある程度の目途がつき、選手18名、マネージャー3名の、総勢21名での練習となった。


「うーん、服着て野球するの、久しぶりですねー」

「そうよねー。かえって少し、変な気分」

 変態師弟が、とんでもない会話をしている。

 ひょっとしてあいつら、ずっとあれで特訓していたのか? スポーツブラとちっちゃなアンサポ、脚元だけ野球しててあとはほとんど裸という、露出狂も真っ青の、あのとんでもない恰好で。

「――してたの。ビーチバレー用の水着は探してみたけど、いい値段したし、期間も短いからこのままでいいよね、だって。特訓自体は激しいから、具も時々出てた」

 青柳さんが、要らん解説をしてくれた。


「あのカッコで野球やったら、気持ちいいかなあ」

「ダメですよー。怪我しやすいし、全身日焼けでヒドいことになりますよ」

「そっか」

 ちーがーうーだーろー。

 誰かこいつらに、恥じらいとか破廉恥だとか、社会通念ってヤツを教えてやってくれ。


 だが。

 守備練習でのこころの動きを見て、みづほが優秀なコーチだと考えを新たにせざるを得なかった。

「あれ、ホントにこころか? すげえ……」

「フットワークもグラブ捌きも、まるで別人じゃん」

 スピードは今ひとつだが、打球に対する第一歩めから送球まで、すべてが一変していた。無駄な動きが一切なく、余裕を持ったプレーをしているので、あらゆる状況にスムースに対処している。

 中でもファーストの守備、内野からの送球を、体の柔らかさを活かした180度開脚での捕球は圧巻だった。


 これなら、昨年の上杉さんと同等くらいの技量はある。それどころか、守備だけなら公式戦でも充分使えるレベルだろう。


「凄いな、みづほ。二週間ちょいで、よくここまで仕上げたよな」

「こころ、すごく頑張ったもん――彼女ね、地肩が弱いから、まだ送球が安定しないかな、これでもずいぶん良くなったけど。女子が肩を鍛えてもたかが知れてるから、投げ方を工夫することかな」


「みづほさん、俺たちにも特訓やらせて下さいよ。とんでもないっすよ、一カ月足らずであんなに巧くなって」

 船田と梶本が、みづほに直談判してる。確かに今のこころは、充分ライバルと考えていいレベルの動きをしている。同じ内野手として、放っては置けないだろう。

「えっ……あの練習を、船田くん梶本くんと? ――ごめんなさい、ちょっと無理かも」

「えーっ。不公平っすよぉー」

 船田たちはむくれているが、まったく同じ練習はいくら何でも、男子相手には出来ないだろう。どっちかが警察に捕まる可能性さえあると思う。




 こころの上達ぶりが注目を集めたが、トレーニング期間を経て、他の一年生たちもレギュラーを狙えるレベルに成長していた。やはりと言うべきか、打撃面では船田が、守備面では福富が頭角を現してきた。

 特に福富はシニア時代から、一年上の志田を差し置いて、センターのレギュラーだった選手だ。守備範囲も広く、肩もなかなか強い。高校野球のスピードに慣れてきた現在、状況判断の的確さには目を瞠るものがある。


 二年生だけで都大会ベスト4という結果を残した緑陵だが、それはチーム全体の手柄であって、個人がけして凄いわけではない。過去の業績に胡坐をかいてるだけでは、わずか一年のアドバンテージはすぐに詰められてしまう。そんな危機感が、俺たち二年生の間にもあった。

 大屋監督としても誰をレギュラーにするか、嬉しい悩みだったろう。現に、連休に組まれた練習試合で、のっけから監督は福富と船田を先発メンバーに使ってきた。


 連休中の練習試合は二試合だけだが、相手が凄い。ゴールデンウィークを利用して、他県の高校が強敵を求め遠征に来ていたところで、光栄なことに緑陵にも白羽の矢が立ったのだった。

 一試合めが新潟の明誠高校、二試合めが栃木の白鵬宇都宮。ともに甲子園の常連校で、春の大会はそれぞれ優勝と準優勝、五月下旬の地区大会に出場が決まっていた。


 明誠に対するラインアップは、以下のとおり。おそらく監督が考えた、現時点でのベストメンバーなのだろう。

  1(中)福富

  2(三)船田

  3(二)遠野

  4(遊)秋山

  5(右)松元

  6(一)野口

  7(捕)根来

  8(投)安田

  9(左)志田


 結論から言うと、この新打線は充分に機能した。

 初回、福富からみづほまでの三人で、相手投手に20球投げさせる。福富がセンターに転がすと、船田はバントに見せかけ、阿吽の呼吸でヒットエンドラン。内野ゴロで渋い進塁打。みづほも相手の手の内を計りながら、アウトローの難しい球をライト前に落とした。

 緑陵、得意の先制攻撃だった。


 五回終了時で3対0とリードし、安田は西井に、船田は度会にスイッチ。西井のデビュー戦は、ヒットを一本打たれたものの、持ち前のコントロールで打たせて捕り、一回を無失点で切り抜けた。

 大屋監督は、その後も小刻みな選手交代を行い、選手全員が何らかの形で出場した。七回の守備からは、竹本がマウンドに上がり、君波がキャッチャー。そして野口に代わってこころがファーストの守備に就いた。みづほと師弟コンビ、女子の一二塁間守備は、相手にとっては新鮮な光景だったろう。

 さらに、一二塁間を破ろうかという当たりをみづほが難なくキャッチし、背中越しにバックトス。それを180度開脚でこころが捕球するという、これ以上ない美しい守備を見せられて、相手はどんな気持ちだったろうか。


 最終回にはみづほもベンチに下がり、こころがセカンドに入った。相手の逆襲に遭ったが、強豪相手に6対3の勝利を収めた。


 数日後に行われた白鵬宇都宮戦では、こころがスタメンに起用された。試験直前に試合勘を養う、という配慮が働いたのだろう。

  1(中)福富

  2(三)度会

  3(二)遠野

  4(遊)秋山

  5(右)松元

  6(左)志田

  7(捕)君波

  8(一)渡辺

  9(投)竹本


 先発の竹本は、六回を3失点。打たれはしたが、強敵にも充分通用するところを見せた。しかし代わった西井が2イニングめに捕まり、4対7で無念の敗戦。


 一年生では船田と梶本が、相手の一線級ピッチャーに堂々と渡り合い、存在をアピール。

 福富は打撃面でも守備面でも、終始安定したプレーをした。

 こころは志田とともにフルイニング出場。内野ゴロと三振のノーヒットだったが、ファーストとセカンドの守備を最後まで集中してこなした。バックアップもベースカバーもしっかりしてたし、バント処理も及第点。これなら認定試験は、かなり期待していいだろう。




 認定試験を明日に控え、みづほもこころも、今日は調整程度の軽い練習を行った。

 ふたりとも気負いのない、いい表情をしている。

 第二回認定試験の受験者は12人。シニア上がりの一年生が六名と多いのが、今年の特徴だ。

 昨年合格したみづほと、都立広瀬の三年生、かこい愛菜さんは、今回は更新程度の簡単な手続きだそうだ。ふたりとも公式戦で活躍してたし、当然と言えば当然か。


「実技試験前に、あたしと愛菜さんで、エキシビジョンマッチやるんだって――愛菜さんがピッチャーで、あたしが打つの、一打席の対戦。愛菜さんのナックル、どんな進化してるか、楽しみ」

 実戦形式の実技試験では、ふたりは裏方に回るそうなので、その穴埋めみたいなもんかな。

「へえ。まともな対決はこれが最後かもしれないな――少なくとも、高校生活では」

「え、そうなっちゃう?」

「ああ。公式戦で当たるかどうか、に懸かってると思うよ」

 新チームになった都立広瀬の戦績は、秋が三回戦、春は予選敗退。向こうから練習試合のオファーがあったが、もはや実力的に釣り合わず、断ったそうだ。

「そうかぁ、少し残念――去年の夏は接戦だったのにね」

「チーム全体の力としては、差が開いたと思うよ。緑陵が強くなったのさ」


 練習の最後に、大屋監督からふたりへ激励の言葉があった。

「みづほくんは普段通りやって、成長した姿をみんなに見せてやりなさい。こころくんは、ええと――やっぱり普段通りやれば、大丈夫だね。今なら普通にやれば、周囲を唸らせるレベルのプレーが出来ます」

 少し締まらない感じだったが、内容に説得力はあった。


「こころ。今のお前なら、大丈夫だ。受かって帰って来い」

「はいっ! 頑張りますっ!」

 少し入れ込み気味のこころに、みづほが苦笑する。

「んーとね――頑張るというより、平常心で、集中力を切らさないように。緊張はしてていいから、ひとつひとつのプレーを確実にこなして行こう。こころなら大丈夫だと、あたしも思う」


 引率の水谷先生たちとは、学校の最寄り駅での待ち合わせになったそうだ。

 練習が終わり、マネージャーたちとシャワー室に消えていく、みづほとこころ。

「今日はみっちりマッサージしたげるから。明日、体がしっかり動くようにね」

「マッサージは有り難いけど、さ――キコのマッサージって、別なのが絶対入ってるでしょ。だいたいどうしていつも全部脱がしちゃうのよっ」

「いいじゃん。みづほ、すごい気持ちよさそうだよ?」

「そうなんだよなあ……他人におっぱい揉まれるのって、何であんなに気持ちいいんだろ」

 お前ら、絶対わざと聞こえるように会話してるだろ。

「みづほ、あっきぃに毎日おっぱい揉ませてるの?」

「触らせた覚えは一度もないわよっ!」


 制服に着替えて駐輪場に戻ってきたみづほは、心なしか頬を上気させていた。

 シャワーを浴びてきたせいだろうが、あの会話の後だけに、別な理由も想像してしまう。

「帰ろ」

「ん」

 本格的な春の陽気のなか、自転車を飛ばしていく。体を通り過ぎる風が気持ちいい。

 信号待ちでみづほに話し掛けた。

「こころは合格できるよな?」

「――やっぱり分かんないよ。どこまで出来れば合格って基準が公表されてないもん。一次試験の記録だってどこまで参考にしてるのか、全然知らされてないし」


 一次試験は体力測定で、通過の目安が50m走7秒3、遠投70m。これは去年と変わらない。

 こころの記録が、50m走7秒6と遠投は70mぎりぎり。女子にしては立派な数字だが、目安には届いてない。

 しかし去年は、数字が出せなかった受験者も二次の実技試験に全員進めたので、通過の基準はやはり曖昧になっている。

 いろいろと不透明な点の多過ぎる認定試験だが、今こうしてみづほが公式戦でバリバリやれているのは、試験のお蔭だ。数を重ねていくにつれ、洗練されていくものと信じたい。


「こころは、やれることは全部やったわ――むしろ出来過ぎと言っていいかも。これで落とされちゃったら悔しすぎるけど、そしたらもっと巧くなって再挑戦すればいい」

 長い赤信号が、ようやく青に変わった。

「躓いても、遠回りでも、人生は続いていくんだから――やれること、やりたいことは、まだまだたくさんあるわよ」

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