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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
81/297

春季東京大会準決勝 (VS帝山3)


 試合が終盤に近づいて来ても、宇田川さんの球威に衰えは見られなかった。緑陵の打線は3巡めを迎えたが、相変わらず打ちあぐねている。


 六回表、1アウトからみづほの打順。センターに弾き返した打球は、みづほシフトに捕まったかのように思えた。浅めに守っていたセンターの守備範囲だ。

 しかしそこから急激に、左中間方向にボールが切れていく――またもみづほは、打球にきついドライヴをかけていた。傍からはセンターが目測を誤った、としか見えなかっただろう。慌てて前進しながらダイビングして、落下点にグラブを差し出す帝山のセンター、岡村さん。


 判定は――アウト。ギリギリだがキャッチしていた。センターのファインプレー。たとえ後ろに逸らしてもレフトがしっかりバックアップしてたので、長打はなかった打球。ダイビングは好判断だったし、これがこの打球の欠点であり、限界だろう。

 岡村さんはアウトにしたにも関わらず、淡々とベンチに戻るみづほの背中をじっと見据えながら、何度も頚を横に振っていた。

 

 2アウトランナー無しでの、俺のアットバットとなった。

 ゆったりしたフォームで投げる時の宇田川さんの球は、迫力が違う。ストレートがベースの手前で、もうひと伸びする感覚だ。

 二球め、外角のストレートを強振する。巧くバットを乗せたつもりが、ボールの下を叩いてバックネットに突き刺さる。ボールが前に飛ばない。


 ――これは力対力の、純粋な勝負になるだろう。覚悟を決めて、バットを構えた。


 ストレートがこれだけ走っていると、時折混ぜられるカーブとの対比が非常に有効になる。こっちとしては、打ち気を外されるうえにタイミングも狂わされ、厄介な存在だ。

 外のカーブで追い込まれ、更にカーブを連続で投げて仕留めに来た。もちろん簡単にはやられはしない。バットを合わせてファウルで逃げる。


 次こそストレートだろう。さあ、来い。


 果たしてストレートがやや内寄りに、唸りを上げてやって来た。気持ちの乗った、いい球だ。4番バッターが勝負しなくては話にならんので、真っ向から強振する。

 カキーン。

 打球は左中間へ――行方は見なくても分かっている。差し込まれてしまった、俺の負けだ。一塁ベースに到達したところで、レフトの捕球を確認した。六回表、緑陵は三者凡退。


 六回裏、帝山も3巡めに入る。1番からの好打順。1アウトからヒットが出て、1アウト1塁で帝山の強力クリーンアップ、まずは3番の櫻田を迎えることになる。


 安田はここで、新技と言うべき投法を披露した。

 安田のクイックは巧く、いつもは短めの腕をいっぱいに伸ばした状態で素早く投げるのだが、櫻田に対しては、テークバックをほとんど取らずに腕を折り畳んで投げた。

 いわば超クイックとでも言うのだろうか、それを織り交ぜて櫻田のタイミングを崩しにかかった。


「俺みたいな技巧派は、進化を止めるとそこで終わりだからな」

 安田は常々そんなことを言っていたが、この局面でフォームを変えて、しかも同じくらいヤスダって来るのだから、凄い技術だと思う。


 明らかに違うリリースポイントから投げられた変化球は、櫻田を、そして弓削さんを翻弄した。すっかりバッティングを狂わされて櫻田は空振り三振、弓削さんも平凡なセカンドゴロ。

 ベンチに戻った安田を、竹本が満面の笑みで出迎えた。ピッチャー同士、安田の新技を竹本は知ってたのだろう。




 ところが。

 帝山打線は、下位に入っても強力だった。

 球威のないピッチャーの哀しさで、ボールにバットが当たってしまうと、簡単に長打を浴びてしまう。

 八回裏、先頭の8番打者に左中間を破られてしまう。まさに出会い頭だったが、ホームランじゃなくて良かったほどの当たりだった。いずれにしても失点のピンチだ。


 ノーアウト二塁、帝山は100%送りバントだろう。打者は既にバントの構えだ。投球と同時に、ファーストとサードがダッシュする。

 コン。巧く三塁側に転がされた。

「ファースト!」

 サードは間に合わない。度会がベースカバーのみづほに送球、1アウト三塁。

 ここで緑陵はタイムをとった。


「コースが甘かったか?」

 マウンドにやって来た根来に、安田が訊ねる。二塁打を打たれた球のことだ。

「ボール半個だけ高かったかな……でもあれは事故に近いだろ」

 根来の言葉に、内野陣の全員が肯いた。


「スクイズで来るよな」

「あたしもそう思う。むしろ何球めに仕掛けてくるかが問題よね」

 間違いない。1番の坂崎さんは左バッターで、今日は安田にタイミングが合ってない。打撃が期待薄な分、小細工を使ってくるだろう。

「外に逃げるボール球で、ファウルを誘おうぜ」

 あのエゲツなく曲がってくるスライダー、な。左打者だと、来るのが分かってても三塁側に転がすのがせいぜいだろう。

 そんな話をしている間に、伝令の竹本がやって来た。


「スクイズだから、外に逃げるボール球でファウルを誘いましょう、て言ってた」

「たった今、その話をしてたとこだよ」

 竹本はそれを聞いてニヤリと笑った。

「で、たった今その話をしてるとしたら、君たちは間違いなくこのピンチを乗り切れるでしょう、て監督言ってたぜ」

「はは、全部お見通しだな」

 監督のシャレた励ましに、みんなでニヤリと笑うしかなかった。


 プレー再開。

「打ち合わせ通りな、ランナー動いたら声出してくれ」

「うん、任せて」

 みづほの甲高い声は、意外にグラウンド内によく通るんだ。

 内野はバックホーム態勢の前進守備。


 安田の初球は予定通り、左打者の内から外に大きく逃げていく、スライダーの速い球。

 みづほの解説によれば、このボールは左打者の視界からいったん消えて、背中からどんどん一番遠いとこまで横滑りしてく感覚だという。しかも今回の場合、ゾーンから外していいので、ボールは更に遠くまで逃げてくだろう。

 おまけに、安田の変化球は変な回転をしてるので、余程慣れないと当ててもファウルになってしまう。

 坂崎さんは地顔なのかもしれないが、すごく哀しそうな顔でそれを見送った。ボール。

 確かに、あれをバントしろと言われたら、同じ立場なら途方に暮れるかも知れないな。


 二球め、ランナーが動いた。

「スクイズッ!!!」

 みづほの声がフィールドに響く。

 元々初球とほぼ同じ球を投げる予定だった安田は、多分意識的にリリースポイントをわずかに早めた。

 初球よりもさらに、外に大きく逃げていくファストボール。坂崎さんは必死にバットを伸ばして、ボールに飛びついていく――


 コン。


 辛うじて当てた打球は、三塁線のファウルラインを越えた。

 取りあえずはスクイズ阻止。


 さあ、相手はどう出るだろうか。スクイズ続行か、ヒッティングか。

 根来のサインは――OK。前進守備のまま、集中する。


 安田の三球め。投球モーションとともにランナーがダッシュ。

「スクイズ!」

 みづほの合図が出る前に、俺たちは既に行動を起こしていた。

 連続でスクイズを仕掛けてくる、というのが俺たちの読みだった。根来が立ち上がって、向かって右に体をずらす。ファーストとサードは本塁に向かってダッシュし、俺とみづほはベースカバーに入った。


 いつもの投球フォームで、ミットに向かってウェストボールを投げる安田。坂崎さんは必死のダイヴを試みるが、当然のようにバットは届かない。

 三本間に挟まれるランナー。後はミスのないよう、ゆっくり料理するだけだ。練習通りの挟殺プレーで最後は安田がタッチ。2アウトランナー無しとなり、相手のチャンス潰しに成功した。


 気落ちした坂崎さんを空振り三振に切って取り、八回裏も無失点。

 1対1の同点のまま、九回表の攻撃に入った。


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