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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
80/297

春季東京大会準決勝 (VS帝山2)


「そうか? 俺にとってみれば、みづほも充分天才だと思うけど」

「あら、あたしは普通よ」

 そんなこと言ってるが、普通の女子が100mを12秒そこそこで走ったり、遠投80mだったり、これだけ打ったり守ったりは出来ない。

 逆に言えば、みづほほどの身体能力があってはじめて、男子と対等に渡り合えるということなのかな。


 いきなり点を取り合う展開になったが、宇田川さんが次第に本調子になり、安田は淡々と低めに球を集め、試合は少し落ち着いた展開になった。

 四回は、緑陵も帝山も3番からの攻撃になる。すなわち、みづほと櫻田。

 この回が次の山場になるだろうことは、容易に想像がついた。


 四回表、まずはみづほが打席に立つ。帝山守備陣は前回と同じく、みづほシフトを敷いた。

 宇田川さんのボールも走ってきたので、そうそう遠くには飛ばされないという計算だろう。

 みづほもそれは承知の上で、バットを短く持って構える。


 宇田川さんは充分に投球間隔を空け、ゆったりしたフォームで投げ込んでくる。

 内外にコースを散らした球威充分のストレートに、鋭く曲がるカーブ。さすが全国大会で活躍しただけのことはある。

 しかし、そんな全国レベルのボールを事も無げに打ってしまうのが、みづほという選手だった。四球め、甘く入ってきたストレートにバットを合わせる。タイミングはバッチリだ。


 少し詰まったようなハーフライナーがセカンドの頭上を越した。みづほシフトで浅めに守っているライトが前進し、捕球動作に――入れない。

 ポーンと上がった打球には、よく見るときついドライヴがかかってて、どんどんライト線に逃げていくのが分かった。必死に追いかけるライト、そして打球の異常さに気づいたファーストとセカンドもボールを追う。

 セカンドの頭上を越えたボールは、結局ライト線ギリギリ近くにポトン、と落ちた。


 みづほ、記録はライト前ヒット。

 この試合初めてノーアウトのランナーが出た。


 素人目には打ち捕った当たりがたまたまヒットゾーンに落ちた、ラッキーな安打に見えるだろう。

 多分、違う。みづほのヤツ、狙ってあそこに打った。しかも絶妙なドライヴまで利かせて。対みづほシフト攻略の第二弾、といったとこだ。

 櫻田もそう感じたらしく、ショートの守備位置で額に皺を寄せて、何べんも頚を横に振っていた。


「凄え……」

 あれを狙って打てるとしたら、防ぐ手立てはあるんだろうか? 見当もつかない。

 今更ではあるが――みづほには何度も驚かされる。

 感心してばかりはいられない、次は俺の打順だ。ランナーを還すことを何とか考えなくっちゃ。


 宇田川さんは、しきりにランナーを気にしている。投球モーションが元々大きいので盗塁警戒は自然な流れではあるが、みづほに足があるというのが、帝山の評価なんだろう。

 本格派の速球投手は、クイックでは球速が落ちるのが普通。さあ、頑張ろう。今回はバットを長めに持ち、あわよくば長打も狙う構えで臨む。


 初球は外角のストレート、ストライク。さすがというボールだったが、目はついて行けた。あるいは、クイックモーションの影響が少しあるかもしれない。

 充分に牽制を入れてから二球め、三球めはともにカーブ。

 盗塁をケアしながらクイックによるデメリットを最小限に食い止めようとする、帝山バッテリー細心の配球だ。1ボール2ストライクと追い込まれた。

 四球めは十中八九ストレートだろう。問題はコースだ。多分長打ケアでアウトコースだろうが、敢えてインコースにも対応できるよう、懐を広げて構えた。

 果たしてアウトコースのストレート――これは仕留めに来た球ではない。見送る。ボール。


 さあ、次の五球めが難しいかな。球種はストレートかカーブの二択、コースは多分アウトコースなんだが――

 宇田川さんみたいな、ストレートで勝負するピッチャーの投げる球ってのは、生き物みたいなもんで、時に見違えるようなほど凄いのがやって来る時がある。気持ちが乗ったボールだと、分かってても打てない。

 ベンチからのサインは、相変わらずダミー。完全にこっちに任せてくれてる。覚悟を決めて、ストレートのタイミングで待つ。さっき一塁上のみづほと目が合ったので、きっと走ってくるだろう。

 ランエンドヒットのつもりで、最悪でも進塁打だ。


 投球動作とほぼ同時に、みづほがスタートを切った。決め球はストレートだ。アウトコース寄りに唸りを上げてやって来た。

 ボールは見えてる。タイミングもOKだ。振り負けないように、一二塁間をイメージして流し打つ。

 カーン。

 軽打ではあるが、鋭いゴロを打つことができた。セカンドが必死になって追いかける――抜けろっ!

 帝山の守備は堅かった。セカンドが伸ばしたグラブの先に、ボールがぎりぎり収まる。うわっ、捕りやがった! そのまま振り向きざまに一塁へ送球。残念ながらアウトになってしまった。


 しかしスタートを切っていたみづほは、悠々二塁へ。

 1アウト二塁、進塁打の形になった。


「惜しい、惜しい! でもナイス進塁打」

 ベンチの根来と、ちょこんとハイタッチ。最低限の仕事、てとこかな。

 あとは松元と野口に託そう。


 松元、野口に対して、帝山バッテリーは徹底した配球を見せた。

 松元にはストレートでカウントを取ってカーブを決め球に、逆に野口にはカーブでストライクを稼いでストレートで仕留めに来た。

 つまり相手打者が苦手な球種で攻めて、得意とする球種で勝負するという、なかなか味なことをやってくる。

 松元は巧く対応して四球を選んだが、野口は打ち損じて、高い高いキャッチャーフライを打ち上げた。


 根来に対しては力負けしないという自信があるのだろう、ストレートでバンバン押してくる。残念ながら簡単にやられて3アウト。

 二者残塁、四回表は無得点。


 塁上のみづほに、グラブを渡しに行く。

「サンキュ、ちーちゃん」

「みづほ、さっきのヒットちょっと凄かったな――あそこを狙って打ったのか?」


「ああ、あれ? ライトがもう二歩、始動が早かったら捕られてる球だし、警戒されたら次は使えないわ。シフトに対する牽制みたいなもんよ、いくらでも破る手段はある、ていう」

 狙って打ったかどうか、直接は答えてはくれなかった。

「やっぱクリーンヒットに優るものはないわよ。あんなだまし討ちみたいな打球、ランナーがいたら味方も混乱させちゃうし」




 四回裏、帝山の攻撃は3番の櫻田から。

 タイミングの合ってた櫻田に対し、緑陵バッテリーは丁寧に攻めていった。一打席めと同じ球種は投げてこない。緩急を巧く使って追い込んでいったが――問題は決め球だ。

 根来は、インコースを選択した。安田がサイドスローからクロスファイアぎみに、アウトコースからインコースに切れ込んでくる、少し速いボールを投げてくる。ヒッティングに入る櫻田。


 多分、櫻田の視界からは、ボールが突然消えただろう。そのくらいの落差を持って、ホームベース手前でボールがストンと落ちた――シンカーだ。

 あれを当てるのは不可能に近いだろう。と言って、カウントや状況を考えると、手が出ても仕方ない球。要するに安田のベストピッチが炸裂したわけだ。

 櫻田のバットは空を切った。空振り三振、いちばん怖い打者を討ち取り、まずは1アウト。


油断したわけではないだろうが、続く4番の弓削さんにはインコースのツーシームを、腰を引かず強引に引っ張られる。詰まりながらもライト前にヒット。さすが帝山の4番、左対左なのに二打席めで既にタイミングを合わせてきた。


 5番の小林さんは低めのストレートをセンター方向に弾き返すが、俺たちはそこがみづほの守備範囲なのを、もう知っていた。早くも追いつき、バックハンドで安定した捕球。

 二塁のベースカバーに入った俺に、みづほは背中を向けたまま、左わきの下を通してスッと送球してきた。見惚れるような一連のプレー。

 長年コンビを組んでる俺には、手慣れたタイミングだ。ステップを合わせてキャッチ、そのまま一塁へ送球。完璧なダブルプレー完成。


「ナイスセカン」

「ナイスショート」

 スタンドから送られる万雷の拍手の中、グラブでハイタッチを交わしてベンチに戻る俺たち。スコアは1対1、同点のままだ。



 

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