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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
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春季東京大会準決勝・前夜


「秋山、一年のすっごい可愛い、野球部のマネージャーになったって、ほんとか?」

 またその話か。

 花ちゃんが野球部に入ってから、今までほとんど話さなかったヤツまで、そのことを訊いてくる。

「花のことか? 城石 花。すごく礼儀正しくて、いい子だよ」

 男子だけじゃなく、女子からの評判もいい。

「そうかぁ。なあ、花ちゃんの写真とか、持ってないか?」

「持ってるわけ、ねーだろ」


 学校中の話題をさらう美少女、てとこかな、花ちゃんは。

 俺の眼から見れば、赤川さんも青柳さんも、同じくらい可愛いと思うんだが。

 そして、野球をしてる時のみづほ。あの美しさに敵う女子はいない、と俺は勝手に思っている。


 もうひとりの一年女子、こころは現在、通常の練習メニューから外れて、黙々とトレーニングと基礎練習に励んでいる。

 目標は、まずは来月行われる認定試験に合格すること。

 それが通常の練習メニューについて行けることにも繋がり、行く行くはレギュラー争いにも名乗りを挙げられるかもしれない――というのが、メニューを組んだみづほと水谷先生の肚づもりだ。


 こころはバットはおろか、グラブさえ持たせてもらってない。

 まずは、ひたすら体幹を鍛えるトレーニング、次いで足腰強化の為の歩き込みに走り込み。

 基礎練習では、転がって来るボールを素手で捕り、送球する動作を、来る日も来る日も繰り返している。

 ジュニア、シニアと本格的に野球を続けてきたこころにとって、屈辱的な練習内容だろうが、指導役のみづほと水谷先生は、至って本気だ。

「一ヵ月でどこまでやれるか分からないけど――体幹が強くなればプレーに余裕が生まれるもんよ。春季大会が終わったら、一年生は全員、体作りしましょ」

 とは水谷先生の言だった。


 春季東京大会はいよいよ佳境に入り、今週の土曜に準決勝、翌日の日曜に決勝戦が行われる。

 ベスト4に残った高校は、さすが錚々たるメンバーだった。


 まず、春の甲子園ベスト8の帝山高校。投打ともに頭ひとつ抜けた印象で、危な気無く勝ち上がってきた。

 同じく甲子園ベスト8の都立目野を準々決勝で下した、強力打線を擁する大日三高。いずれ劣らぬ名門だ。

 続いて、秋季大会でもベスト4だった海東大巣鴨。優勝を狙える実力は充分にある。

 最後の一校が――わが緑陵高校だ。


 帝山戦を控えたチームミーティング。

 みづほの分析を聴いていくにつれ、部員の誰もが上を向いたり下を向いたり、物思いにふけってしまった。

 やっぱり甲子園に行くチームは違うな、と痛感させられる。

 昨年対戦した明王もそうだったが、何と言うか、スケールのデカさを感じる。


「――投打ともに今大会最強だな。つけ入る隙はあるの?」

「そりゃあるわよ、同じ高校生だもん」

 度会の呟きにみづほが反論する。

「それぞれの打者の対策については、根来くんと打ち合わせ済。ただ帝山は機動力もあるから、単純に深めの守備位置だと間に合わないケースも出てくるから――サインは頻繁に出すことになると思うの、確認お願いね」

「おう」


「クリーンアップの長打力は無視できないよな」

「うん、ある程度打たれるのは覚悟しないといけないかも。3~5番の三人で、今大会ホームラン7本打ってるもんねえ――」

「3番の櫻田って、アキとみづほは一緒に野球したんだよな?」

「ああ。シニア選抜でチームメイトだった」

「中学の時も野球センスが凄かったけど、プレーに更に幅が出てきたよね。巧く言えないけど、打撃でも守備でも、状況に応じた柔軟さがあって――凄く綺麗なプレーをする人よ」


 ああ、みづほは櫻田をそんな風に表現するんだ。

 「綺麗なプレー」てのは言い得て妙だが、異性の眼ならではの観点だろう。

 俺なら「走攻守すべてで俺より上」と評するところだ。

「緩急と球種で、どこまでタイミングを外せるかどうか――だよな」

「ああ」

 根来の呟きに安田が反応した。


「打線は、とにかく速い球に慣れておくこと。それに尽きるわね」

 帝山のエースは、大会屈指の速球派、宇田川さん。

 春の甲子園で活躍し、「下町の怪物」と言われて全国区になった。


 球種はストレートとカーブしかないが、それで全国に通用するから恐れ入る。

「140㎞/h後半はあるよなぁ……」

「打席に立つと、もっと速く感じるんじゃないかしら。ベース手前で、もうひと伸びするような感触がある筈よ――凄いストレートね」

「また惚れちゃうんじゃないのー、みづほは」

「うーん、いい線いってるけど、なあ……もう少し儚い感じのストレートが、好みなのよねえ」

 赤川さんの混ぜっ返しに、まさかのマジ答えが返ってきて全員が苦笑した。

 みづほ。その話は、誰にも理解も共感もできないから、やめた方がいいぞ。


「ディフェンスは帝山がやや上、攻撃力は向こうが遥かに上回ってる、てのがあたしの結論。ロースコアの勝負に持ち込みたいとこね」

 そう言いながらみづほは、監督を目で追った。

「――では、監督から一言お願いします」


「楽しみにしてます」

 大屋監督が立ち上がっての第一声が、それだった。

「君たちが帝山を相手に、どんな活躍をしてくれるか。それを思うと試合が待ち遠しくて、楽しみで仕方がありません」

 監督はひと呼吸置いて、俺たちひとりひとりを見回した。


「現時点で、帝山は都内最強のチームでしょう。しかし、君たちも充分に強い。並みいる難敵を倒してのベスト4進出――特に早田実業戦の勝利は、見事でした。自信を持って当たって下さい。君たちが緑陵で過ごした一年間は、どこにも負けないくらい密度の濃い一年だった筈です。それを今度の試合で、証明してください」

「はい」

「はい」


「それから――先週はスケジュールが合わずに来られませんでしたが、今週は臨時コーチの岡くんが、二日間も緑陵に来てくれます。ノンプロの活きたボールを体感してください」

「おお!」

「監督、ステキ!!」

 昨年夏、明王戦の直前に、打撃投手として練習に加わってくれた岡さんが、また投げに来てくださる。

 社会人野球の現役投手だ。仮想宇田川さんとして、申し分のない人選である。


「コーチの報酬に、岡くんが練習後のマッサージを希望してるんだ……ゴメンね、マネージャーさんたち、今回も骨折りお願いします」

「りょうかーい」

「お安い御用です。花ちゃんにもマッサージの仕方、教えるね」

「はいっ、よろしくお願いします」


「日曜の決勝戦は、詳しくリサーチしてないけど――準決勝に全力を注ぐということで、いいわよね。負けたら決勝戦もないわけだし」

「おう、了解だ」

「そうだね。まずは目の前の一戦に集中しよう」

 みづほの一言に、監督も肯いた。



------------------------------


「準決勝の相手は、緑陵高校。創部二年め、二年生10人のチームだ」

 帝山高校のミーティングルームで、ビデオを見せながらマネージャーが説明する。

「エースは安田、おそらく先発で来るだろう。左投げのサイドスロー、見ての通りかなりの変則フォームだ」

「これは――左打ちはタイミング取るのに苦労するぞ」


「ストレートは130㎞/hそこそこだが、打ち損じも多いとこを見ると、多分相当なクセ球だと思う。変化球の持ち球は――分からない」

「えっ? 分からないって、なんで?」

「とにかく左右に下に、えげつなく曲がってくるんだ。多分独特のフォームによるものだと思うが……さらに緩急も極端につけてくるから、同じ球種でも印象がまったく違う」

 マネージャーの言葉に、一同が沈黙した。


「――思ったより打ちにくそうなピッチャーだな」

「コントロールはかなりいい方で、四球が少ない。さらに特筆すべきは、立ち上がりの良さだ。前半五回までの失点が、公式戦でほぼゼロ」

「ゼロ?? 嘘だろ?」

「明王や早田実に対してもそうだからな、こいつの実力だろ」

「後半になって球が上ずったところを痛打されるパターンが多いな――あとは被本塁打がやたら多い」

「タイミングさえ合えば、遠くまで飛ばせる、ということか……」


「このピッチャーは球種にヤマを張るんじゃなくて、タイミングだな――とにかく打席で目を慣らして、甘くなったとこを引っぱたく。多少芯を外されても強引に持ってくくらい強く振らないと」

 とは、4番を打つ主将、弓削の言葉だった。

「最悪のシナリオは、低めのボールを早打ちして内野ゴロを量産させることだよ。準々決の明王みたいに」


「そう言えば内野の守備は相当巧いよな? 緑陵は」

 どこからともない声に、マネージャーが肯く。

「鉄壁と言ってもいいくらいだよ、特に二遊間。これも驚くべきデータなんだが、ゴロで内野の間を抜かれたヒットが極端に少ない。塁間のヒットゾーンが、ほとんどないんだ」

「遠野のせいですよ」

 これまで黙っていた二年の櫻田が、口を開いた。


「遠野って、あの天才少女だろ? 櫻田が入れ込んでるヤツ」

「才能だけなら、遠野は俺より遥かに上ですよ」

「おお……」

 誰もがその野球センスを認める櫻田だけに、発言は重みを持った。

「シニア選抜で一緒にプレーしたんですが、とにかく読みが凄いんです。ピッチャーが投げるコースと相手のバッティングのクセ、あとはインパクトの瞬間に打球の方向が分かる、て言ってました。遠野の指示どおりに動けば、そこに打球が飛んで来るんです――多分、緑陵の守備陣形は、遠野が指示を出してると思いますよ」


 全員が絶句して、ビデオを見つめた。画像には、センターに抜けそうな打球をセカンドが好捕する場面が映っている。

「これだって、普通にセンター前に抜けるよなあ……」

「それを、あんなに余裕を持って捕るのかよ……」

「コントロールの良いエースが、低めにボールを集めてゴロを打たせて、それを鉄壁の内野陣が処理する――なあ、俺たち、もしかしてとんでもない相手と戦うんじゃないか?」

「バッテリーと内外野の守備陣が、ガッチリ噛み合ってるんだよな」


「バッティング面では、3割以上の打率を残してるのは3番から5番の三人だけ。明王戦もわずか2安打だったし、迫力はそんなに感じない。ここらあたりは二年だけのチームだと実感するね――マークしておきたいのは、クリーンアップの三人と、6番の野口だと思う」

「3番の遠野だけど……どうして木製バットなんだ?」

「舐められたもんだな――櫻田、何か聞いてるか?」


 櫻田に注目が集められる。

「ええ、訊きましたよ、どうして金属使わないんだ、って――当時の俺のレベルを超えた回答だったんで、そん時はよく分かんなかったっす。ただ、今なら少し理解できるかな……憶測ですが遠野にとっては、木製の方がバットコントロールがし易いんだと思います」


「――ん? どういうことだ?」

「遠野はフィールドにヒットゾーンを想定して、そこを狙って打ち込んでるんじゃないかな――それが100%出来たら打率10割ですから完全じゃないと思うけど、それでも打率5割だから二回に一回は成功してる計算になりますね」

「でもそれって、こっちの守備範囲やら、いろいろ掴まないと設定できないよな」

「いや、遠野の眼には、俺たちは丸裸になってると思いますよ。以前、一緒に試合を観戦した時ですが――」


 櫻田の説明を聴いて、一同の眼が丸くなった。

「遠野って、試合観ただけで、俺たちと一戦したのと同等の情報量を持ってんのかよ――驚いたな」

「視覚イメージが人並み外れて優れてんのかな……可愛い顔して、えげつないわ。反則だろ、こんなの」

「だから言ったでしょ、遠野は俺より遥か上の才能を持ってる、って」

 櫻田が片眉を上げたまま、半分笑ったような表情で語り、背もたれにドサッと腰を落ち着けた。


「ヤツは――天才ですよ」

久々に、主人公視点以外の、帝山高校ミーティングの模様もお届けします。

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