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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
77/297

春季東京大会準々決勝 (VS明王大附属2)


 七回裏1アウトランナー無し、1対0と僅かだがリード。

 緑陵打線は明王のエース河原さんに抑えられ、ヒットは野口のホームラン1本だけ。

 もっとも明王も散発の4安打という投手戦で、ともにチャンスらしいチャンスすら作れていない。


 試合の流れは、ど真ん中で揺蕩たゆたっている状態だ。

 なんとかして流れをこっちに引き寄せたい、そんな思いで打席に向かった。

 明王バッテリーはカーブやツーシームを見せ球に、ストレートとフォークで仕留める配球に変えてきている。

 それなら、狙いはストレートだ。あの鋭いフォークは捨てる。

 そう簡単に打てるような球ではないが、とにかく振り負けないよう、心に決めた。


 内外野ともに深めの守備位置なのを確認する。

 初球は予想に反して、カーブでストライクを取りに来た。アウトコースいっぱい。的を絞らせない気だ。

 二球めは真ん中からストンと落としてきた。フォークだ。見送ってボール。

 三球め、速いストレートを打ちに行く。

「うっ……」

 球威に押されて振り負けた。一塁スタンドへ飛び込むファウル。カーブ、フォークと、変化球を見せられた影響は否定できない。


 1ボール2ストライクと追い込まれてしまったので、方針を変更。

 ヤマを張らずにストレートのタイミングで、変化球にも対応できる待ち方にする。明王の守備陣も、ほぼ定位置に戻っていた。


 四球め、スピードを殺したボールが来る――フォークで仕留めに来た。

 済んでのところでバットを止めることができた。ボール。

 五球めは一転してストレート。インコースだ――バットを合わせる。ボールは後ろに飛んでバックネットにぶつかった。ファウル。


 俺は粘った。

 河原さんの新技とでも言うべき、ゾーンに入ってくる浅めのフォークを、体勢を崩されながらも何とかバットに当ててカット。

 九球めで四球を選ぶ。実に、ホームラン以外では初回のみづほ以来のランナーだ。


 続く松元。

 インコースのストレートを実に巧く打った。いい当たりがライト前に転がり、1アウト一二塁。

 前打席でホームランを打った野口を、チャンスで迎えることとなる。


 しかし明王バッテリーは落ち着いていた。

 パワーのある野口に対し、フォークで空振りを取り、カーブとツーシームで追い詰めていく。

 最後は落ちるカーブで注文通りに打たされる。

 当たり損ねの打球はピッチャーゴロとなり、最悪のダブルプレー。緑陵は無得点で攻撃終了となった。




 八回表、明王の打順は1番から。初球から守備陣に、みづほのサインが飛んだ。

 安田の投球と同時に、ファーストの野口とサードの度会がダッシュを掛ける。

 セーフティバントを試みようとした相手打者は、すぐ側に野手が来てるのを見て、慌ててバットを引く。

 アウトローの厳しいコース、バスターが決まるような球でもなかった。見送りストライク。

「ナイスファースト、ナイスサード」

 声が飛んだが、ほんとに賞賛すべきはみづほの読みだと思う。


 2アウトまでは順調だったが、3番にレフト前のクリーンヒットを打たれた。

 2アウト一塁で、4番の吉見さん。気合充分の素振りをしている。


「タイム願います」

 マウンド上に野手陣が集まり、伝令の竹本が走ってくる。

「ホームラン打たれるの、禁止だってさ」

 監督のあまりな指示に、みんなの表情が和んだ。

「またそれかーい」

「もっともだけど、ね」


 根来が口を開いた。

「それなら、やるべき事はひとつだけだな」

「ああ。我慢比べだ。10球でも20球でも投げてやる」

 安田も既に分かってるのだろう、真顔になり肯く。

「コースが甘くならないよう、気をつけてね」

 みづほの言葉で解散になった。


 この場面で緑陵バッテリーが、やるべき事。

 明らかに苦手コースのある吉見さんに対して、そこ「だけ」を突いていくことだった。

 すなわち、アウトロー一辺倒。

 カットで粘られるのは避けられないが、しつこく投げ続ける。相手が根負けするか、こっちがコントロールミスするかの、我慢比べの勝負というわけだ。


 これなら余程の失投でない限り、ホームランも出ない。

 さらに、球種が豊富な安田はいろいろと目先を変えた投球が可能だし、コントロールがいいから失投の可能性も少ない。

 この場面では有効な配球だろう。


 最終盤のこの局面、吉見さんも粘りに粘った。

 十球め、2ボール2ストライク。

 130㎞/hのストレートの次に、安田が投げたのは超スローカーブだった。

 ゾーンに入りそうな球なので手を出さざるを得ないが、速い球の直後だけに、吉見さんの体が思いっ切り泳いでいる。

 出したバットはボールが当たるも、カットで逃げられなかった。

 力のない打球がセカンドに転がる。3アウト、チェンジ。


「ナイスピー、安田」

「おう」

 あと一回。

 あとみっつアウトを取れば、昨年夏の雪辱がかなう。


 九回表、いよいよ最終回。

 投球数は130球を越えていたが、今日の安田は安定していた。低めにボールを集め、長打を許さない。

 2アウトランナー無し、最後の打者も強い当たりのショートゴロだった。


 かるく三塁方向にステップを踏んで、正面に近い位置で捕球。

 丁寧に送球してゲームセット。

 1対0。わずか2安打での勝利。

 終わってみれば、被安打6ながら、三塁を踏ませない見事な完封劇だった。


 緑陵、準決勝進出決定。

「安田、ナイスピー。よく我慢したな」

 今日の試合は、なんといっても安田の好投に尽きる。

「ああ、キツかった。準決勝はもう少し楽させてくれよ」

「いや……」

 正直な安田の言葉に、思わず口ごもる。準決勝の相手は、準々決勝を快勝で通過した帝山高校――秋の神宮大会全国優勝、春の甲子園ベスト8だ。

「この試合よりしんどいかもよ、考えようによっては」

「――まあ、頑張ろうや」


 それと、みづほ。

 俺もだったが、今日は無安打だった。

 都立広瀬の時もヒットはなかったが、あれは相手の逃げがあったし、凡退時だって相手投手を消耗させるために粘る必要が生じたからだ。

 今日は、普通に対戦してノーヒット。あの時とは、意味が違う。


「みづほ。今日の試合の感想は?」

 用具の片付けをしながら、みづほを呼び止めてみた。

「うーん、そうねえ――今日はあたしとちーちゃんがダメダメだったけど、それでも勝てたのはチームにとって収穫よね」

「お前の場合はダメダメまでは行かなかったろ」

 打ち捕られた当たりは、いずれもヒットになってもおかしくなかった。

 俺は――ちょっと弁解できないな。完全に力負けした。

「結果がアウトじゃダメダメよ。すごいよね、全員の連携でヒットゾーンを極限まで減らしている……すっごい勉強になったわ」


「あの、さ……みづほ。いつも思ってることだけど――」

 どうしてみづほは、金属バットにしないんだろう?

 今回だって、飛距離さえ伸びてたら外野の頭を越して、みづほシフトは意味を為さなかった筈なんだ。

 女子のパワーじゃ、木製バットでの飛距離には限界があるんじゃないか?


 返ってきた答えは、俺の想像を遥かに上回るものだった。

「うーん……何べんか試してみたんだけど――あたしの場合、フォームを一から変えなくちゃいけないかも。タイミングは一緒でも、芯をボール4分の1くらい外れた時、インパクトの処理が金属だと違うのよ。あくまであたしの場合、だけど。一連の動作に持ってくには、やっぱ初めっからだなあ……あと金属は飛び過ぎるから、狙った場所と速度で打球を飛ばすには、根本から調整しないといけないし――来週じゃ、ちょっと無理だよ」

 ――狙った場所だけじゃなく、打球の速度も調節? 試合で?!

「うん。でもチームの為に必要なら、頑張ってみようかなあ……今度、監督に相談してみる」




 監督の助言はそのままがいいよ、ということだった。

「金属バットにするのは、野球選手としての君にとっては一歩後退にあたる」

 とまで言われたらしい。


 相変わらず俺たちは竹バットでの打撃練習を続ける。

 芯の部分が木製バットよりさらに小さく、しっかりボールを捉えないと飛距離は出ない。

 シニアの頃から使っているバットなので、マシン打撃やトスバッティングなら、俺でも難なくこなせるのだが――みづほはそれに加えて、打球の飛距離や速度まで調節している、と言った。

 流し打ちとか引っ張るとか、そんな生易しいレベルの話じゃないと思う。多分、ほぼピンポイントで狙ってきている。

 しかも140㎞/h台の、活きた投手の球を、だ。


 ――ダメだ。真似しようとしたが、巧くできない。

「どうしたの、ちーちゃん? フォームが少し崩れてるわよ」

 いつの間にか背後にみづほの姿があった。

「いやあ……みづほみたいにピンポイントの打撃をしてみようと思ったけど、俺じゃあ無理だな」

「あら、ちーちゃんはあたしの真似する必要なんかないわよ。あたしは必要に迫られて、そうしてるだけだから」

 みづほに意外そうな顔をされる。


「楽にスタンド越えするパワーがあたしにあれば、あたしもちーちゃんみたいなバッティングしてるわよ。それが出来ないから仕方なく、ヒットゾーンに落とすバッティングしてるの。こないだは予想外のシフトに慌ててやられちゃったけど、次は頑張ってみせるわ」

「へえ……みづほでも慌てることあるんだ」

 見た目には、いつもと変わらず落ち着いていた風だったけどな。

「そりゃそうよ。ちーちゃんに裸見られた時と同じくらい、慌てたわ」

 げっ。それをここで蒸し返すなっ!


「体力ないから、いろいろ工夫しなくちゃ――ね」

 みづほは俺の反応に構わずバッティングケージに入り、惚れ惚れするフォームで打撃練習を始めた。

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