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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
76/297

春季東京大会準々決勝 (VS明王大附属)


 新入生たちが全員参加した、総勢18人での練習風景は、なかなか壮観だ。

 本格的な実戦形式の練習が可能なだけじゃなく、行く行くは紅白戦も出来る。


 こういう分け方は良くないのは重々承知だが、一般組の部員は推薦組に比べると、技量や身体能力の面で僅かではあるが、やはり差があった。

 そう思わせるのは主に、渡辺さん――こころの存在のせいだった。

 同じ条件でレギュラー争いをする以上、男子と同じメニューで臨んだこころだったが、アップのインターバル走で既について行けなかった。

 彼女だって野球経験者だし、水谷先生の話では、女子のなかでは身体能力は高いほうだ、とのこと。

 それでも数日の練習の結果は、改めてみづほが特殊な存在なのだと、思い知らされるばかりだった。


「うーん――困ったなあ……」

 大屋監督の嘆きも理解できる。

 俺たちもこころを見捨てるつもりはさらさらないが、大事な公式戦を間近に控えて、こころのために練習のレベルを落とすわけにはいかない。

 待望の実戦形式での全体練習だが、こころは倒れ込まずに頑張ってるものの、動きはどんどん鈍くなっていった。

 普通のバント処理を二回続けてミスするに到って、監督はいったんこころを練習から外した。

「水谷先生。お手数ですがこころちゃん用の別メニューを組んでいただけますか?」


「気を落とすことはないわよ。まずは来月の認定試験に受かること。それを目標にしましょ」

「は……い……」

 すっかりバテてしまって返事するのがやっとのこころを、水谷先生が慰める。

 ジュニア、シニアと硬式野球をやってたこころは、昨年のみづほと同じで、公式戦出場の可否を問う認定試験の受験資格を既に得ている。

「みづほちゃん、秋山くん。認定試験に参加したのは君たちだけだから、こころちゃんのメニュー組んだら意見聞かせてね」

「はい」

「はい」

「今年は私が試験に同行するわ。去年行っときゃよかったなあ……あーあ、失敗した」


「みづほ」

「ん?」

 帰り際、自転車置き場でみづほに話し掛ける。

「こころはさ、認定試験に受かりそうかな?」

「んー……分かんないなあ――去年はあたし、自分が受かるのに精いっぱいだったから」

 みづほでさえ、そうだったのか――独特の緊張感があったもんなあ、あの試験には。


「認定試験ってさ。勝ち負けとか、何人選ぶとか、そんなんじゃなかったから。ライバルは周りの女子じゃないし、直接対決してるボランティアの男子部員ですらなかった。姿の見えない、もっと大きなものを感じたよ」

 みづほは何かを思い出すように、かるく上を向いたまま話す。

「敢えて言えば、敵は高野連の制度そのもの、かな。そんなの相手にどれだけやれるか、判定に身を委ねるしかなかったから――やっぱプレッシャー凄かったよ」


「でも、さ。制度を引っくり返した女子が四人も居て、それぞれ試合にも出られて――考えてみれば凄いことだよなあ」

「うん。あたしもそう思う――でもね」

 みづほが真剣な眼差しで、まっすぐ俺を見つめた。

「これが一時的なものじゃなくって、あたしが高校卒業してからもずっと続いて欲しいし、東京だけじゃなく、全国の女子選手がチャンスを均等に貰えたらいいな、って思う。あたしに出来ることって言ったら、野球を頑張るしかないんだけどね」


「だけど、こころちゃんが来てくれた。あたしと同じ道を歩むことを選んでくれた、可愛い、可愛い後輩が――ちーちゃん、あたしね、こころちゃんを認定試験に合格させてみせる。大会中はそっちに専念するけど、試験用のメニュー、水谷先生と話し合って組んでみる。大会終わったらあたし、付きっ切りで面倒みるから」

 うわあ……みづほ、本気だ。

「チャンスは最大限に活用しなくちゃ。これが最後のチャンスじゃないけど、それは終わった後で考えることよ」

 こころはみづほじゃないんだぞ、あまり無理はさせるな……俺はこの言葉を、やっとの思いで飲み込んだ。




 迎えた準々決勝、明王大附属戦。

 安田、河原さん両エースは、好調な立ち上がりを見せた。

 後攻を選択した緑陵の初回は、2アウトからみづほが粘って四球で出塁。


 河原さんとの久しぶりの対戦になった――が、昨年に比べてボールのキレが半端ない。

 ストレートもカーブも、ビュンビュンやって来る。

 で、決め球はフォークだった。

 ツーシームとほぼ同じ速度で、ストンと垂直に落ちてきた。

 あまりの落差に、俺のバットは空を切った。


 二回表、明王の攻撃は4番の吉見さんから。

 昨年対戦した時より、一回り大きくなってるような気がする。

 実際の大きさだけではなく、中心選手となってチームを背負って立つ責任感が、彼をそう見せているのかもしれない。


 そして吉見さんは、相当しぶといバッターになっていた。

 クサいコースはカットで粘って、とにかく仕留められない。

 このバッティング、誰かに似ている――みづほだ。

 元々吉見さんは選球眼も良く、ミート力もあるから、みづほのスタイルが合ってるかもしれない。

 そして吉見さんの方が、パワーがある。


 カキーン。

 八球めのインローを巧みにすくい上げた打球は、レフトの後方へ。

 有沢がフェンスぎりぎりまで下がったところで捕球した。


 四回表と裏、ともに主軸に打順が回ってきたが、全員凡退。

 みづほはツーシームをセンター前に巧く合わせたと思ったら、ダッシュしてきたセンターの好捕に倒れた。

 振り返ってみると、外野がずいぶん浅めに守っていた。

 内野の頭を越すヒットが得意なみづほのヒットゾーンを狭める、いわば「みづほシフト」の守備体系だ。

 これは、そう易々と長打を食らいはしない、という河原さんの自信もなくては不可能なシフトだ。


 河原さんがとにかく快調に飛ばしている。四回を終わってなんと緑陵はノーヒット。

 ランナーはみづほの四球ひとつのみ、という内容だった。

 安田は安田で、球数を食いながらも丁寧に低めに投げていく。

 時に外野に運ばれたが、基本的に内野ゴロを打たせて捕るピッチングで、無失点に抑えた。


 五回裏。

 先頭の巧打者、松元をアウトにして安心したのか、野口に対する河原さんの初球、ストレートが甘く入った。

 最近の野口は、迷いがない。スッとバットを合わせ、強振した。

 カキーン。

「これは――行け―!」

 全員がベンチから飛び出し、打球の行方を見守る。

 高々と上がった白球は、レフトスタンドに飛び込んでいった。


 先制のソロアーチ。

「んっ……あーっ!」

 なんとも間延びした野口のガッツポーズを見て、ベンチの全員がズッコケる。

「野口――バッティングよりガッツポーズの練習した方がいいんじゃねえか……」

「ははは……」


 六回表、明王は2番からの好打順。

 3巡めに入り、当たりは強くなったが、内野ゴロふたつで吉見さんの前にランナーを出さずに対戦できた。

 徐々にではあるが、安田が後半に強くなってきている。

 吉見さんにはレフト前に運ばれたが、単打。期待通りに後続を抑えて得点を許さない。


 七回裏の攻撃は、みづほからだった。

 河原さんの球威に衰えはなく、明王守備陣は外野が浅めに守る「みづほシフト」の体系を採っている。

 できれば外野の頭を越す打球を打ちたいところだが――

 明王バッテリーもそれは承知していて、ボールを低めに集めて長打を許さない方針だった。

 そして、終盤に来て配球も変えている。

 決め球だったフォークを多投し、空振りを獲る作戦に切り替えている。

 ストレートがまだ走っている分、見極めは厄介そうだが、みづほは引っ掛からなかった。


 ボールになるフォークを、みづほはしっかり見送っている。

 3ボール1ストライク。

 カウントが苦しくなったが、明王としては先頭打者を出塁させたくないところ。

 五球め、インローのストレートをみづほは引っ張った。

 コーン。

 いつもの、内野手の頭を越すライナーではなく、打球を転がして内野の間を抜くバッティングだ。

 三遊間の深いところへボールは転がっていく。


 しかし、ショートの川南さんは名手だ。

 スライディングしながら、バックハンドでキャッチ。すぐに体勢を整え、懸命に一塁へ送球する。

 みづほの足との競争は――

「アウッ!!」

 微妙なタイミングだったが――と言うより、ありゃセーフだろ――判定はアウト。

 球場は大きな拍手で包まれ、河原さんが雄叫びを上げてガッツポーズをする。


 みづほは淡々と、表情を変えることなくベンチに走って戻った。



 本年もよろしくお願いします。

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