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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
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新入部員募集中!


「ベスト8か。すごいな、おめでとう」

 サッカー部の主将、笹田から祝福を受ける。

 緑陵が元女子高だったせいもあり、数少ない男子主体の部活の主将として、俺と笹田はこの一年間、歓びや辛さを何だかんだで分かち合ってきた。

 だから笹田の祝福は素直に受け取るし、サッカー部が躍進すれば俺も嬉しい。


 それにしても笹田の顔が緩みっ放しだ。

 目元はニヤケたまんまだし、口はニャンコみたいなω型になってる。

「笹田――お前、ずいぶん嬉しそうだな」

「うん。普通にサッカーが出来る歓びってヤツを噛みしめてるよ」

 今年もサッカー部に推薦組が五人入り、レギュラー争いの真っ最中だそうだ。


「野球部も五人入ったんだよな。何人かレギュラーになれそうか?」

「基礎は出来てるし、練習について行ける体力もあるからなぁ。夏には出てくるんじゃないかな」

 一年間のアドバンテージは意外に大きく、現時点では緑陵の練習密度に振り回されているようだが、素質は俺たちと遜色ないと思う。

「高校野球のレベルに早く慣れてくれたら、な」

「あ、そりゃサッカーも同じだわ――なあ。秋はいいとこまで行くぞ、うちは。期待しててくれ」

 笹田の顔がさらに緩んだ。二枚目が台無し。

 なあ。ずっとその顔だと、女子のファンが減るぞ?

 サッカー少年の笹田にとっては、そんなことどうでもいいのだろうが。


「週末に準々決勝か――相手はどこだ?」

「明王大附属。強いよ」

「そうか……確か前に試合しなかったっけ」

「去年の夏やって、うちは負けた」

 今回は、そのリベンジだ。兄貴も真田さんもいないし、今度こそ勝ちたいと心の底から思う。


 明王新チームのデータについては、既に偵察三人娘が記録し、みづほと根来による分析も済んでいる。

 昨年のメンバーは大半が三年生で、力落ちは否めないが、エースの河原さん、4番の吉見さんをを中心に纏まったチームになっている。


「河原さんは昨年と一緒で、ストレートとフォークが最大の武器だけど、フォークが決め球になってるわね。そのせいかツーシームとカーブの割合が増えて、勝負どころでフォークを使う配球に変わってるの」

 というのが、河原さんの分析結果だった。

「去年よりピッチングの幅が出来て、打ち崩すの大変になっちゃった」

 みづほの静かな笑いが、この場に似つかわしくなく、なんとも可笑しかった。


「吉見さんも穴の少ないバッターになってるよな」

 根来がデータを見ながら呟いた。

「そ。アウトロー苦手なのは相変わらずだけど」

「カットで粘る技術を身につけてるよね」

 みづほと根来が目を合わせて、かるく微笑む。


「去年のレギュラーだった河原さん、吉見さんにショートの川南さんがチームの中心かな。この人たちを打ち負かすには、理論的には簡単。単純に彼らを、上回ればいい――」

 一瞬、そう言ったみづほの体に、すっと蒼いオーラが宿ったような気がした。

 が、苦笑とともに、それはすぐに消える。

「……けど、今のあたしたちには、無理ね。結論は、しっかり守って吉見さんの前後を抑える。河原さんのボールを見極めてチャンスを待つ。点を取られなきゃ負けない、我慢比べよ」


「俺の責任、重大じゃんか」

 安田が笑いながら左腕をさする。

「――あ、そうそう、安田くんはホームラン打たれるの、禁止ね。点取られたら負けちゃうから」

「うっわー、そいつはキビしいなあ」

「お前、油断するとすぐ打たれるもんな、ホームラン」

 部室は和やかな笑いに包まれた。




 四月は入学のシーズン。

 新一年生たちが多数、緑陵にもやって来た。二期生ということになる。

 人数は俺たち一期生より少し増えて320人。

 元女子高だった影響で、まだ女子の方が圧倒的に多いが、それでも男子が100人近く入学してきた。

 一期生の男子が48人なので、約二倍ということになる。


 それでも、運動部希望者は限られているので、野球部やサッカー部を含む男子運動部が、数少ない有望そうな新入生を奪い合う状況には変わりない。


 野球部グラウンドには、入部希望者が四人来た。

 男子はふたり、楠城くすきに芦沢。

 ふたりとも軟式野球の経験者で、緑陵の大会での活躍を観て入学を決めたというのだから、嬉しい話だ。

 中学時代のポジションは、楠城が外野手で、芦沢が捕手。

「これで、ブルペンが三列になるね」

 とは、監督の言葉。監督や水谷先生が捕手役になることも、なくなりそうだ。


 女子はふたり。

 ひとりは、ショートカットの元気そうな少女だった。背は150㎝後半といったとこかな。

「渡辺です。渡辺こころ。こてはしジュニアとシニアで、セカンドとファーストをやってました」

 おおっ。選手希望か。

「――その、こてはしシニアってどこにあるの?」

「千葉市です」

 おおー。しかも越境入学。


「今年から東京都に続いて、埼玉県と神奈川県も女子の認定試験をやるそうだけど――千葉県はまだだったね」

 監督の言葉に、渡辺さんがはきはきと応える。

「はいっ。あたし、憧れのみづほさんと一緒に野球をしたくて、緑陵に来ましたっ」

「ええっ……憧れ、って……」

「みづほさんのプレーをテレビで観て、こんなすごい人が女子にいるのか、って感動して――球場で実際にみづほさん観て、もっと感動して。ここで野球やりたいです、入部を許可してくださいっ」

 見ると、みづほが真っ赤に染まった頬を両手で押さえている。


 聞くと、緑陵には寮がないので、近くに下宿して通学しているらしい。

 実力は未知数だが、ここまでやる気のある人を門前払いするわけにはいかないだろう。

「――入部OKですよね? 監督」

「もちろんだ。歓迎します、緑陵野球部にようこそ、こころちゃん」

「あっ、あっ――ありがとうございますっ!!」


 声を詰まらせ、お辞儀をする渡辺さんに、みづほら女子たちが駆け寄ってくる。

「あたし、野球での女の子の後輩って、初めてなの――だから、すっごく嬉しい。一緒に認定試験、受けようね。そして試合に出よ」

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

 みづほに抱きしめられて、渡辺さんは瞳を潤ませた。


「これからもみづほちゃんを慕って、ここに来る女子選手が増えてくるかもしれないわね」

「あたし、そんな大した選手じゃないですよぉ」

 水谷先生の言葉に頬を染めて謙遜するみづほだったが、(いいやお前は大した選手だ)と心の中で思ったのは、俺だけじゃない筈だ。

「――思ってた野球部と、なんか雰囲気違うな」

「だよな」

 楠城と芦沢のひそひそ話が聞こえてきた。

 まあな。うちは女子が活躍するし、発言力もある。


「ええと、あのう……」

 俺たちの目は、声の主に注がれた。

 そうだった。渡辺さんの入部ですっかり盛り上がって、もうひとり女子がいたことを忘れるとこだった。

「入部希望者だよね。君も選手かな?」

「いいえ、私は――」


 もうひとりの女子だが――見覚えあるぞ。

「安田――あの子、見たことないか?」

「ああ、俺も知ってる。春季大会、ずっとスタンドで応援してた子だよな」

 緑陵の応援スタンドは、わりとガラガラなので、応援に来てくれる人の顔を意外に覚えていたりする。

 ただ、名前も知らないこの子を俺たちが覚えていた理由は、簡単。

 彼女が、ひときわ目を惹く美少女だったからだ。


 ちなみに、渡辺さんがスタンドで応援してたことは知らなかった。

 ゴメンな、こころ。


「城石 花です。マネージャー志望です――あのっ、野球のことはよく知らないんですが、よろしくお願いします」

 ちいさな声だがはっきりと話す城石さんは、背がみづほより少し低いくらい。

 顔がちっちゃくて、スタイルがすごくいい。こういうの八頭身とか言うんだろう。

 大人しそうな整った目鼻立ちに、ストレートのロングヘアがバッチリ似合っている。

 学年どころか、緑陵全体でも一、二を争うような美少女だろう。

「花ちゃんね。よろしく」

「わー、びっじーん。みづほ、これだとミス緑陵の座、危ないわよ」

「ちょっ……あたしに何をさせるつもりなのよ、キコは」


 水谷先生が意外なことを言った。

「うちとしては入部に異存はないけど――城石さん、ご両親から許可はいただいてる?」

 ん。他のヤツには……というか、そんなこと訊くの自体、初めてだよな。

「はい、大丈夫です。マネージャーになりたいことを相談したら、意外そうな顔をしましたが」

「そう。それなら問題ないわね。花ちゃん、野球部にようこそ」


 後で知ったが城石さんの家は、結構有名な企業の実質オーナーらしい。

 つまり超大金持ちの名家のお嬢様、ということだ。




「えっ、花が野球部の誰かを好きだって? いったい誰さ?」

「誰かは知らないけど、多分間違いないわ」

 練習後の片付けの最中、赤川さんが話を切り出した。

「だって花ちゃん、野球のことホントになーんにも知らないの」

 それなのに、春季大会の毎試合応援に来て、野球部のマネージャーになる――


「なるほどなぁ。キコのセンサーに引っ掛かったわけだ」

「ピコピコ言ってるわよ。理由は分かんないけど、好きな男のためにあれだけのお嬢様が、身ひとつで知らない世界に飛び込んでくる――健気だなぁ。応援したくなっちゃう」

「うーん。部内恋愛かぁ……俺はそこんとこ疎いからなあ」

「そんなの充分過ぎるほど分かってるわよ」


 部内恋愛を否定するつもりはない。

 第一、俺自身が野球部員とマネージャーの間に産まれた息子なので、(部内恋愛の否定)=(俺の存在を否定)の公式が成立しちゃうもんな。

 ただ、なぁ……あんまりあからさまなのも、困るぞ。

 俺たち、野球を頑張って甲子園に行くのが本道で、イチャイチャするために野球部に入ったわけじゃない。


「恋する乙女って、手強いからなあ。花ちゃんが暴走するようだったら、あたしと紫苑でなんとかしてみる。任しといて」

 赤川さんはそう言うと、屈託なく笑った。

「花ちゃんて、チョー可愛いの。顔だけじゃなくて中味も可愛いわよ」

 初登場の楠城に芦沢ですが、実在の方のおふたりは共に高校野球の指導者として活躍されているそうです。

 楠城さんはコーチとしてですが、九州国際大附が甲子園に出場しました(#^.^#)

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