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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
74/297

春季東京大会四回戦 (VS早田実業)


 緑陵、創部二度めのベスト16進出。実はこれは、少しだけ特別な意味を持つ。

 この勝利で、俺たち緑陵に、夏の西東京大会のシードが確定したのだ。

 東京都の場合、春季大会の上位16校が自動的に夏のシード校になる。

 これは東西合わせての数なので、机上の計算では、西東京では0~16校がシード権を得るわけだ。


 シード校になると一、二回戦は免除になり、三回戦からの出場なので、日程的にだいぶ楽になる。

 当面の目標は達したので、あとはひとつでも上を目指すだけだ。


 そして、ベスト8を賭けて四回戦を争う相手が、次の試合で決まる。


 「大会屈指の死のブロック」と言われた、早田実・普門館ブロック。

 三回戦のもう一試合は、江戸川一高VS早田実業。

 実力校同士の一戦。俺たちだけでなく、周囲からも注目されるカードだった。


 早田実業。野球をやってる者なら誰もが知ってる、超名門。秋季大会はベスト8だった。

 今年はやや小粒との評判だが、俺たちから見れば投打のバランスがとれた、底力充分の強豪だ。

 江戸川一高は東東京の都立の雄。毎年安定した成績を残す、守備型のチーム。


 試合は息詰まる投手戦になった。

 どっちが勝つか分からない展開が終盤まで続いたので、両チームを観察しなくてはいけない三人娘は大忙しだった。

 みづほの呟きはとめどなく続き、ノートの書き込みの量も半端ない。

 時折飛んでくるみづほの指示に、青柳さんのビデオカメラはグラウンドへブルペンへと、場所を変えていった。

 赤川さんがスコアブックを記入しながら、ハンカチでふたりのおでこの汗を拭いてあげるのが、手術室の看護師みたいで可笑しかった。


「そろそろ試合が動くわよ」

 みづほの声を合図にしたかのように七回裏、早田実業が1点を取り、均衡が破れる。

 そのまま1対0で試合終了となった。




 明くる日は始業式。その翌日には早田実業戦を控えている。

 忙しいが、勝ち続けてるが故の慌ただしさなので、苦にはならない――かな。

 普通ならクラス替えに胸躍らせる日だが、噂通り成績順でクラスは分けられたようだ。

 俺は変わらずH組、スポーツクラス。

 笹田や安田らもいるので、どうやらスポーツ推薦組はずっと同じクラスらしい。


 竹本もH組に来た。

「竹本お前、スポーツ推薦だったっけ?」

 成績順でここに居るということは、ビリから何番とか、そんな成績なんだろう。

「うっせーな。お前だって似たようなもんだろ? 知ってるぞ」

 うん、否定はしない。


 雲の上のA組――特別進学クラス――は、文系と理系に分かれ、15人ずつの少数精鋭で勉強をたくさんさせるつもりのようだ。

「みづほは、A組理系? 文系じゃないんだ」

 アメリカ帰りのみづほは、英語はネイティヴ並み。得意の英語を活かした文系クラスだと、勝手に思っていた。


「ほとんど無理やり決められちゃった。理系から文系への受験変更は可能だけど、逆は難しいんだって。進路を決めてないんなら理系にしなさいって、先生やらお父さんやらが」

 みづほの父親は東大出てるもんな、受験には一家言あるかも知れん。

 ちなみに、俺の親父も東大出たと言ってるが、正確には東村山大学の野球学部だ。


「それに――紫苑もA理なの。理系女子4人しかいないから、体育の時とかどうするのかしらね」

へえ……青柳さん、リケジョなんだ。

「そうよ、物理は学年トップなんだから」

「そうかぁ。だからビデオカメラとか、メカに強いんだ」

「――関係ないと思うけど」


 一般入試組の他の連中は、あちこちのクラスに散らばった。

 B~G組は厳密な成績順ではなく、習熟度などによって大まかに分けられてるようだ。


 練習前のミーティングは白熱した。問題は、明日の相手先発予想だ。

「投手は四人いて、新三年生の三人が先発候補かな。エースの田所さんが頭半分抜けてる印象だったけど、昨日の三回戦で完投してる――誰が先発で来るか、あたし迷ってるんだけど」

「普通に考えれば中一日で田所さんだよな。その後一週間空くし」

「田所さんサウスポーだから、うちとの相性考えれば綿貫さんもあるぜ。右のクォーター」

 緑陵は左バッターが極端に少ないから、サウスポーのメリットは低い。

「阿部さんもあるし、なあ……監督、ご助言はないですか?」


 大屋監督は、あくまで自分だったら、という前置きで話を始めた。

「これが甲子園に直結する夏や秋の大会なら、日程的にもいちばん力のある投手を使うとこだよね。絶対に負けたくないから。ただ、今回は春。夏の本番に向けてチームを作っていく段階だよね。シード権も確保して当座の目標は達成したし、僕なら田所くんは休ませる」

 おお……説得力のある言葉に、俺たちは息を飲んだ。


「早田さんの監督の考え次第だけど、この段階では、伸ばしたい選手を重点的に使うのでなければ、、基本はチャンスを均等に与える方針でいくと思うよ。見たところ力量は拮抗してるし、僕ならまだ先発してない綿貫くんで行く。チーム事情や不確定要素が絡むから確実視はできないけど」

「監督、すっごーい」

「一刀両断ね」

 マネージャーたちの感嘆の声に、監督はわずかに眉を上げて応えた。




 四回戦、早田実業戦。先発は監督の予測どおり、綿貫さんだった。

「さすがでしたね」

「外れたら、赤ちゃん青ちゃんにドヤされそうだったしなあ。ドキドキだったよ」

 じゃんけんに勝った早田実が後攻を選び、プレイボール。


 右投げの綿貫さんは、やや腕を下げたスリークォーター気味の投球フォーム。

 サイドスローほどではないが、上手投げに比べてストレートの横の角度が強い。右打者にとっては、少し見えづらいボールだ。

「球種はストレートにカーブ、ツーシーム。スライダーも少しあるのかな……横の変化がほとんどだけど、ストレートが結構なクセ球で、不規則な変化をして来てる。芯を外されないよう、気をつけてね」

 というのが、みづほの綿貫さん評。

 ブルペンの投球を視ただけで、そこまで情報を引き出せるのだから、こっちは大助かりだ。


 一回表。志田、度会と倒れて2アウトとなり、みづほのアットバット。

 いつも通り八球投げさせるが、ストレートに詰まらされてセンター方向の打球をショートに捕られる。

3アウト、チェンジ。

 よっぽど警戒していたのか、綿貫さんが小さくガッツポーズをする。

「失敗しちゃった。あのストレート、ボール半個くらい縦の変化もあるみたい」

 みづほがうなじを掻いて、舌を少し出した。


 安田は平常運転、無難な立ち上がり。

 巧打者の多い早田実打線には、野手はオーソドックスな守備体系で臨んだ。


 二回表は俺からの打順――あのみづほが凡打したストレート、よく視よう。

 横に合わせるだけじゃダメらしい。

 ――が、縦の変化もおそらく不規則なんだろう、でなければみづほが打ち損じる筈がない。

 早田実バッテリーも、先の回で自信を深めたのか、どんどんストレートで押してくる。


 何球か実際に視た結論。こりゃ、法則性ないわ。

 安田のクセ球や栫さんのナックルみたいなもんで、手元で微妙に変化するボールに、その場その場で対応するしかないだろう。

 幸い、向こうはまだまだストレート主体で行くようだし、目も少しは慣れた。

 来たボールを――充分引きつけて――打つ!

 カキーン。

 かるく出したバットは、芯に巧く当たって、センター前ヒットになった。

 しかし後続が倒れて、二回表は無得点。


 安田も淡々と好投し、序盤は静かに試合が経過した。

 三回を終わって0対0、双方得点なし。


 四回表、緑陵の攻撃は、みづほから。

 見た目は変化ないが、一打席めの凡退で火が点いたのか、体から少しオーラが漏れている。

 みづほ、やる気じゃん。


 そうだな。

 投手の球種を絞るとか、疲れさせるとか、そんな気遣いや重荷は脱ぎ捨ててしまえ。

 たまには自分の為だけに打って来い。


 みづほは、二球めのストレートを強振した。ボールをじっくり見るみづほにしては、珍しい。

 コーン。

 木製バットの乾いた音が響き、クセ球らしく打球は凄いドライヴが掛かりながら、測ったようにライト線のギリギリに落ちて、そのままいちばん奥まで転がっていった。

 一塁、二塁とベースを蹴るみづほ。

 三塁コーチの志田が、右腕をぐるぐると回している――ボールはフェンスに少し跳ね返っただけで止まり、ライトが慌てて駆けつけていた。


 みづほは三塁も蹴った。

 陸上のトラックを走る、みづほの姿がダブって見える。


 ボールが内野に戻ってくる。ファーストがカットし、バックホーム。

「行け―! みづほ!!」

 幸い、キャッチャーのブロックはキツくはない。左足だけを残して本塁の前に出ている。

 みづほは手前でかるく回り込み、ホームベースへ飛び込んで行く。

 ワンテンポ遅れてボールをキャッチし、捕手がタッチしに向かう――が、時すでに遅し。


「セーーフッ!」

 主審の右腕が、横に伸びる。みづほ、先制のランニングホームラン。

「みづほ、ナイスバッチ、ナイスラン!」

「サンキュ! あー、走ったぁ」

 思わず差し出した右手に、みづほは静かに息を整えながらハイタッチした。


 みづほのランニングホームランは、こっちに流れを呼び込んだようだ。

 打席に立って気付いたのだが、綿貫さんの腕の振りに、わずかだが勢いがない。その分だけ球威が落ちている。


 呪縛の魔法が切れたかのように、俺たちは打ち始めた。

 俺、松元の連続ヒットを皮切りに、野口の犠牲フライで追加点。

 五回表も1アウト一三塁と攻めたて、みづほの打順で綿貫さんはノックアウト。

 交代した阿部さんから、みづほは丁寧に犠牲フライを打ち上げた。

 五回表終了、3対0。完全に緑陵のペースとなった。


 安田は休養充分だったこともあり、丁寧に低めを突いて内野ゴロを量産していく。

 巡目が進むにつれ当たりも強くなっていくが、俺たち守備陣は確実に処理していった。

 七回を終わって5対0となり、早田実は八回表にエースの田所さんを投入すると、九回表には二年生の佐々木がマウンドに上がった。


 勝負を諦めたというよりは、これが監督の言ってた「チャンスを均等に」ということかな、と思った。


 早田実の反撃をソロホームランの1点に抑え、6対1で安田は完投勝利。

 すべてが巧く回った形で強豪早田実を撃破し、緑陵は初のベスト8進出となった。


 みづほ公式戦初ホームラン、ですね♪

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