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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
73/297

春季東京大会三回戦 (VS都立新田)


 二回戦が終わった、明くる朝。

 朝起きて、そこにみづほの顔があるのも、だいぶ慣れてきた――が。

「あれ? 今朝はみづほ、まだ?」

 居間には親父が居るだけだった。

「もう起きてると思ったけど、部屋に戻ったかな」

 お袋は台所で朝食の用意をしていた。


 そうか。

 昨夜は、青柳さんに撮ってもらった新田しんでん高校の二回戦のビデオを自宅に持ち込んで、みづほとふたりで分析したんだ。

 終盤の豪打には、空恐ろしさを覚えた。

 俺たちにしては夜遅い時間までビデオを観てたせいで、まだ半分寝呆けている。

 みづほは更にノートを纏めるって言ってたから、もう少し起きてたんだろうな。


「顔、洗ってくる……」

「ああ」

 寝ぼけ眼のまま、洗面所に向かう。

 お袋が何か叫んだような気がしたが、耳には入らなかった。


 洗面所で顔を洗う。冷たい水が気持ちいい。

「タオル……」

 手探りで籠の中のタオルを探す――あった。

 ごしごし顔を擦って水分を取る……ん? なんか、感触が変だ。手に取ったそれを、改めてながめる。

 これ、みづほのシャツじゃないか?

 それだけじゃない。俺の小指に引っ掛かってる、これは――どう見ても、みづほのパンツだ。


 その時だった。


 その時、ガチャリと浴室のドアが開いて、バスタオルで頭を拭きながらみづほが現れた。

 シャワーの後らしく、その――何も身に付けていない。

 ……みづほ、いたの?!!

 予想外の出来事に、両手でパンツを持ったまま固まる俺。

 みづほはみづほで、タオルで顔が隠れていたために、俺に気付くのが遅れる。


 そんなわけで――ごめん、みづほ。

 全部見えた。しかもバッチリ。

 日焼けしてない部分は、透きとおるような白い肌だった。

 それがシャワーの温水で、ほんのりピンク色になっている。


 しばらく時間が止まった後で、みづほと俺の視線が合った。

 慌ててみづほのパンツを、籠に戻す俺。最悪のタイミングだ。

 みづほの顔が見る見る真っ赤になり、すーっと浴室の中に再び入って、ドアが閉まった。


「みづほ……その――」

「行って」

「ごめん、俺、そんなんじゃなくて……」

「いいから向こう行って。話は後で聞くから」


 すごすごと居間に戻る俺に、お袋が声を掛ける。

「千尋、みづほちゃんと鉢合わせしなかった? みづほちゃんが眠気覚ましのシャワー浴びてるから、って止めたのに、そのまま行っちゃうんだもん。ちょっと冷や冷やしたわよ」

「うん――大丈夫だった」

 そう言う俺の顔は、真っ赤だったかもしれない。


 気まずい雰囲気の朝食を済ませ、部屋に戻るみづほを追いかける。

 みづほが振り返って俺を見る――よかった。少なくとも怒っている顔ではない。

「ちーちゃん、あたしの服で顔拭いたでしょ。濡れてたもん」

「みづほ、その――ごめん、ほんと分からなくて。気をつけるよ」

 眉をわずかに下げ、苦笑いのみづほ。

「ちーちゃんが覗きに来たとは思ってないよ。どうしてあたしのパンツを持ってたかは謎だけど」

 ゲッ。やっぱ見られてたっ。


「いやっ、俺っ……あれはただの偶然で――いやほんと、マジでごめん」

 そうだよなあ。

 普通に見れば、俺のあの体勢は、みづほの脱いだ服を物色してたようにしか思えない。

 ――もしかすると俺、終わったかもしれん。さよなら、俺の人生。


 狼狽しまくる俺を見て、みづほがクスクス笑った。

「大丈夫だよ。付き合い長いから分かるもん、あたし、ちーちゃんのこと信じる」

「ありがとう、みづほ……」

「あたしのパンツが欲しかったら、いくらでもあげるし」

 ちょっと待てっ! どういう解釈の元に俺を信じてるんだっ。

「裸見られたのだって、責任とってくれたらそれでいいや」

「ちょっ……おいっ、責任って、どうゆう――」

 みづほは笑いながらベロをちろっと出すと、部屋のドアをバタンと閉めた。




 三回戦を明日に控えて、今日は練習前にミーティングを開いた。

 大まかなゲームプランを決めた後に、それを踏まえた効果的な練習をするのが狙いだ。

 みづほはいつも通りにビデオを説明しながら分析結果を話していく。

 俺はといえば、まともにみづほを見ることが出来ない。どうしても朝の記憶が甦ってしまう。


新田しんでんのピッチャーはふたり。エースの加藤さん、背番号10の屋代さん、ともに右のオーバースロー。結論から言うと――攻略は可能よ」

 みづほが俺を見つめ、肯く。昨夜言ってたアレだな。


「加藤さんの持ち球はストレートにカーブ、チェンジアップ。個々のボールは結構いいんだけど――打ち込まれた原因は、これ」

「投球モーションが大きいよな。これだと握りがバレるぞ」

 安田の指摘に肯くみづほ。

「うん。注意して見れば、ボールの握りから球種が特定できるの――国志館もきっと気付いてたと思う」


「そしたら、明日の先発は屋代さんかな?」

 志田から疑問が飛んだ。

「ううん、加藤さんのまま。屋代さんは欠点の少ないピッチャーだけど」

「――屋代さんは、長い回を投げられないんじゃないか」

 みづほの言葉を根来が継いだ。肯くみづほ。

「故障があったのか、単なるスタミナ不足かは分からないけど、屋代さんは四回以上投げた記録がないの。粘って球数を稼げば、屋代さんはマウンドを降りざるを得なくなる」


「守備は堅い方よね、鍛えられてる印象。凡ミスは少ない――問題は、やっぱ打線かな。体大きくないのに、パワフルよね」

 ちなみに俺が今まで見た選手で、いちばん体格にそぐわないバッティングしてるのは、みづほだ。

「各打者の対策は、根来くんと打ち合わせるから――全般的には追い込まれるまでは強打してくるから、守備のサインはその都度確認してね」

「OK」


「あ――明日の先発だけど」

 大屋監督が手を挙げて発言した。

「安田くんは休ませたい。竹本くん、行けるとこまで行ってくれ」

「マジっすかっ! あー、でも強力打線相手かぁ。責任重大だなあ」

 竹本の顔が、喜んだり青くなったりで面白い。


 竹本のボールは何だかんだで球質が重い。力対力の勝負になるだろう。

「低めのコントロールを心掛けることだな。ゴロを打たせれば内野が何とかしてくれるよ」

 根来が、竹本の左肩をポン、と叩く。

「そうね。任せといて」

 みづほが微笑んで、ミーティングは終了した。




 三回戦、プレイボール。じゃんけんに勝った俺たちは、迷わず先攻を選んだ。

 いつもの緑陵なら後攻を選択し、守備でリズムを掴んでいくのだが、今日はなるべく早い先制攻撃で相手にダメージを与え、先発の竹本を楽に投げさせたい、という考えがあった。


 出来れば初回で、先取点を取っておきたい。

 その願いは、あっさりと叶った。


 一回表、先頭打者の志田がカーブを打って、センター前ヒット。

 度会が送ってランナー二塁、次のみづほがチェンジアップを捉える。

 コーン。

 打球は右中間へ。タイムリーヒットとなり、初回の先制に成功した。


 1アウト一塁、打席は俺。

 まずは、マウンドの加藤さんのリリースポイントに注目。

 ボールの握りで球種が分かるか、確かめる必要があった――前の三人を見る限り、大丈夫そうだが。

 一球め、手元に注目……ストレートだ。よし、見える。見送りストライク。

 みづほが何球か投げさせてくれたので、タイミングもある程度掴めている。


 ストレート、カーブとボール球になり、2ボール1ストライクの四球め。

 ボールの握りは――ストレート。

 しかも少し甘く入って来た。これはチャンスボールだ。

 カキーン。

 思い切り振った打球は高く遠く舞い上がり、レフトの頭上を越えてスタンドインした。


 初回に大量リードを貰った竹本は、新田の強力打線に真っ向からぶつかって行った。

 ランナーを出しながらも強気の攻めで、尻尾を掴ませない。

 野手陣も竹本の頑張りに応え、一二塁と一三塁のピンチをダブルプレーで切り抜けること、2回。

 四回を終わって6対1と大きくリードした。


 五回表、みづほからの打順。初球を軽々と左中間に持っていく。

 男子に混じると小柄で華奢な体のどこに、あんなパワーが宿っているのか不思議だ。

 ノーアウト二塁、得点の好機がまたも訪れた。


 マウンドの加藤さんの眼から、闘志の色はまだ衰えていない。

 打たれても打たれても、臆することなく立ち向かって行く。

 おそらく、自分の欠点については、加藤さん本人も分かっているのだろう。あるレベル以上の相手には、自分のボールが通用しないであろうことも。

 それでもエースナンバーを背負った以上、責任を持って投げ続ける。そんな気魄が伝わって来た。


 ただ、既に三打席め。加藤さんのストレートは、もはや俺の手の内にある。

 球種が分かってるならチェンジアップが狙い頃の球ではあるが――変化が意外に不規則なので、打ち損じの恐れがある。

 基本はストレート狙い、ストレートで勝負に来ないならカーブ。そのイメージでバットを構えた。


 相手も、俺のストレート狙いは察知していたのだろう。

 ストレートは見せ球にして、不規則な変化のチェンジアップでカウントを稼ごうとする――が、ストライクが入らない。

 3ボール1ストライクからの五球め、握りはカーブ。よし、これだ。

 カキーン。

 タイミングばっちりのスイング、手応えあり。打球は左中間を破り、連続二塁打で追加点を奪った。


 松元にも二塁打を打たれるにあたって、新田ベンチは加藤さんを諦め、屋代さんにスイッチした。

 8対1の大量リード。確かにこのままだとコールドゲームは不可避である。


 屋代さん対策は、とにかく球数を投げさせること。

 ゾーンを外れた球には手を出さず、ボールをよく見る。可能ならカットで凌ぐ。

 野口は意識し過ぎたか、六球めを引っ掛けてショートゴロだったが、根来は十球粘ってフォアボール。

 そんな感じで、六回表途中で投球数が50球を越えた時、屋代さんは降板した。

 まだ疲れた様子のないところを見ると、やはり故障明けだったのだろう。


 3巡めに入った新田打線から少なからぬ反撃を食らったが、こちらも代わった三人めの金子投手に襲いかかった。

 13対5の七回コールド勝ち。竹本は初完投。

 事前の対策が見事に嵌まった、快勝だった。


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