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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
72/297

春季東京大会二回戦 (VS普門館)


「アキさん。俺、正直、高校野球を舐めてました。やっぱレベル高いっすね」

 隣でキャッチボールをしながら、船田が話し掛けてきた。

 船田の話では、シニアである程度の実績を積んだ自分には、すぐレギュラーのチャンスが巡ってくると思っていたそうだ。

「自信はあったんすよ? 昨日今日、野球を始めたわけじゃないし、観る目だってあるつもりでした――でも練習と試合を観て、考えが変わりました。俺は先輩たちの域に達してないです」

「そうか?」

「ええ」


 確かに緑陵の守備力は、都内でも有数と言っていい。

 安田に根来のバッテリーは野球を良く知っているし、何と言ってもみづほの力に依るところが大きい。

 元々高いポテンシャルに加えて、大屋監督の的確な指導と、水谷先生の個々の力を伸ばすトレーニングメニューで、一年かけてゆっくり熟成された、自慢の守備だ。

 内野間のヒットゾーンは極端に少ないし、中継プレーも素早く躊躇がない。公式戦では、記録に残るようなエラーもほとんどない筈だ。


「そうだなあ――ステップを基本から洗い直して、自分のリズムを掴む。そしてそのリズムを互いに、周りと合わせる」

 ボールを投げながら、船田に話すともなく呟いていた。

「それを一年間かけてやって来た、かな。あとは視野を広く持つことを、サッカーで学んだ」

「サッカー?」

「ああ。冬の三ヵ月間、サッカー部の助っ人に行った。新鮮な経験だったよ」

「――いろいろ、あったんすね」


「なあ、船田。野球部に入ったばかりで、自分の及ばないとこに気付くってこと自体、お前は大したもんだよ。夏の大会まではまだ時間があるし、現時点で差があるとしても、追いつけないほどの距離じゃないと俺は思う。これから頑張って、夏までに巧くなればレギュラー狙えるんじゃないか」

「――あざっす」

 実際、船田に福富の素質は、シニア時代に確認済だ。

 緑陵式の練習で彼らがどのくらい伸びてくるか、楽しみなのは俺だけじゃないと思う。


 明日に二回戦を控えたミーティング。

 各打者の対策も大事だったが、大部分は好投手、小野田さんの対策に絞られた。

「――やっぱり、アウトローのコントロールに自信を持ってる、という結論でいいと思うの。右打者からはかなり遠いボールになるでしょうね……そこの取捨が大きな鍵になる、と思うな。打つためには、目を慣らす必要があるわね」

 そう言うみづほは、おそらく既に目が慣れてるだろう。

 バッターボックスで小野田さんと対峙する感覚で、投球内容を4~50球ほど視ている筈だ。


「小野田さんは縦の変化も横の変化も持ってるから、漫然と手を出してもヒットにならない――基本に立ち返るしかないのよね、結局。ボールをよく見ること、甘い球を見逃さないこと」

「来るコースは分かってるのに、打てない、か……大変だ、こりゃ」

 基本には違いないが、緑陵で常時それを安定して出来るのはみづほくらいだと、俺は認識している。

 松元の選球眼とミート力はみづほといい勝負だが、まだ若干ムラがあるのと、今回は左対左で苦戦が予想される。

 俺を含む他の連中は、まずボールに目を慣らす段階から始めないといけないだろう。

「――ロースコアの勝負になりそうだな」

 安田がボソッと呟く。

 みづほは何か言おうとしたが、思い直したのか無言でゆっくり肯いた。

 現実見なくっちゃな。ここで気休め言っても何にもならない。


 大屋監督が口を開いた。

「普門館さんもタイプは違うけど、守備型のチームだよね。うちに比べて向こうは、エースに掛かる比重が大きいかな――明日は引き算の戦いになると思う。余分なヒット、余分なミスやエラーが少ない方が勝つ。精神的にはキツいけど、集中を切らさないように。フィールドのゲームプランは、根来くんにみづほちゃん、よく摺り合わせしといて下さい」

「はい」

「はい」




 二回戦。

 アップを終え、球場脇で待機していた俺たちの耳に、スタンドの大きな歓声が届いてきた。

新田しんでんの勝ちだって。逆転サヨナラスリーラン」

 国志館と新田の実力校同士の二回戦は、壮絶な打撃戦だった。

 俺たちが離席した時には、六回終了時で国志館が4点リードしていた筈。

 それを終盤で一気に引っくり返した。

 スコアは11対9、最終回だけで5点取っている。

「すごいね、新田」

「すごいね」

 何にしても今日勝たないと、新田との試合もできない。これからの試合に集中しよう。


 一回表、先攻は普門館。

 みづほの分析では、相手打線は中距離バッターが多く、極端に引っ張ってくることもない。二遊間から三遊間にボールが集中するだろう、という予測だった。

「安田くんのボールだから、待ちきれずに引っ掛けてくる打球には注意、ね」

 機動力を売りにはしてないようなので、深めに守備位置を取り、ヒットゾーンを潰す方針。

 但し1番打者に対しては念のため、足を警戒して普通の守備位置で試合に入った。


 結果は内野ゴロみっつで、スリーアウトチェンジ。

 好調時の安田らしい投球で、最高の滑り出しとなった。


 一回裏、2アウトからみづほが出塁し、俺の打順になる。

 いつも通り10球近く投げさせて、手の内を確認した挙句の四球で、普門館にとってはイヤな感じだろう。

 俺に対する小野田さんの投球は、予想どおりアウトロー一辺倒だった。

 ただ球種が全部違う。

 カットボールで外に逃げる球から入って、ストレートでズバッと、次にはカーブでストンと落として来る。


 なるほど。スピードもキレもある。

 どのボールも一筋縄では行かなそうだ。


 球筋からはストレートがいちばん打ち易そうだが、如何せんボックスからの距離がある。

 ジャストミートは難しいかもしれない。

 ――こういう時の迷いはロクな結果にならないのは経験上知っていた。

 よし、踏み込んでカットボールを流し打とう。肚を決めてバットを構える。


 四球めに狙い通りのカットボールが来た――ホントに内角球、全然投げないな。

 そう思いながらも、踏み込んでバットを出す。

 カキーン。

 手応えはあった。

 打球はフェンス近くまで伸びたが、残念ながらライトの守備範囲。3アウトチェンジ。


 緑陵は、三回裏の攻撃前に円陣を組んだ。言うまでもなく、みづほの小野田さん評価を聴くためである。

「さすが、どのボールもいいキレしてるわね――それにしても、左バッターに対してもほとんどアウトロー。小野田さんほどのコントロールがあれば、普通はインコースも使いそうなもんだけど」

 不思議そうな顔のみづほに、安田が応える。

「ピッチャーって、他人には分からないデリケートなとこがあるからなあ……特に指の感覚。あのボールは外でこそ活きてきて、内角ではあまり変化しないのかも、な。俺も不思議には思うけど」

「手の内を隠してる気配は、今のとこ無し――2巡め、3巡めで配球の組み立て変えてく可能性はあるけど、引き続きアウトローに意識を持ってくしかないわね……内に来られても慌てないようにしようね」


 試合は、我慢比べの投手戦になった。

 両チームの守備陣が決定打を許さず、ともに三塁を踏めない状況。

 ゼロが11個、スコアボードに並んだ。


 六回裏、試合が動いた。

 先頭打者の度会が粘って四球を選ぶと、二球めにヒットエンドランを敢行。アウトローのストレートを、みづほが綺麗にライト前に弾き返す。

 無死一三塁という、初めてチャンスらしいチャンスを迎えた。


 そしてバッターは――4番の、俺。




 打線が3巡めに入ったが、今の時点で普門館バッテリーに配球の変化はない。

 相変わらずアウトローぎりぎりを突いた投球を軸にしている。

 内野は前進守備のバックホーム態勢、外野さえ4番相手にも関わらず、浅めに守備位置を敷いている。1点もやらせないつもりのようだ。


 ベンチのサインはダミーだった。つまりは「自由にやれ」ということ。

 これだけ警戒されるとゴロゴーは難しいし、意表を突いたスクイズなどの小技を、ベンチは俺に求めていない。


 俺の答えは、シンプルだ――外野にボールを飛ばすことを考える。

 それを前提にして、狙うべきボールと打ち方を逆算していけばいい。

 ここで一番避けるべきなのは、芯を外されること。その次に避けるべきは、球威に押されて詰まらされることだ。

 中途半端に打たされるくらいなら、むしろ空振りがマシなくらい。


 結論。

 球威のあるストレートと落ちるカーブは捨てて、カットボールのタイミングでボールを待つ。

 ヤマが外れたとしても、空振りふたつまではOK。

 来るべき球が来たなら、早いカウントで勝負を賭ける――例え初球であっても。


 さあ、来い。


 初球からカットボールが来た――が、これはボールになるコース。

 これは振っても芯を外されるので、見送る。相変わらず打ち気を外してくるのが巧い。


 二球め、三球めと、少しボールを出し入れしながらの、ストレート。

 カウントは2ボール1ストライク――ははあ。これはみづほの盗塁を嫌がってるな。

 頻繁に一塁の牽制も入れているし、これだと遅いボールは来ないだろう。

 つまりカーブは、来ない。


 ――となると多分、次が狙い目。90%以上の確率でカットボールだと思う。

 三球続けてのストレートは、さすがに俺を舐めてるだろう。

 四球めの投球モーションで、みづほがスタートを切った。

 多分、これもいい判断。

 俺が打ってくると踏んだんだろう。ランエンドヒットの状況になる。


 普門館バッテリーは裏をかいて来なかった。素直にカットボールだ。

 踏み込んで、シュート回転で逃げていくボールにバットを合わせ、振り抜く。

 とにかく遠くにボールを飛ばしていく意識だ。

 犠牲フライでもOKな局面、ヒットになるかどうかはこの際問題じゃない。

 カキーン。

 狙い通りの大飛球が、センターに飛んで行った。前進守備のセンターが懸命に下がっていく。

 捕られそうな気配だが、これは確実に犠牲フライになるだろう。


 緑陵、1点先制。


 その後も投手戦は続いたが、八回裏に貴重な追加点が入った。

 志田の内野安打を度会が送って、みづほがアウトローの完全なボール球を、ライト線にポトリと落とす、超技有りのタイムリーヒット。

 あれを打たれると、もう投げるボールはないだろうな。

 それにしても小野田さんは、ずっとアウトロー主体の配球だった。


 九回表。

 大屋監督はここで、竹本をマウンドに送った。

 安田が後半に入って球数が多くなり、120球を越えたので、妥当な交代かも知れない。

 明後日、また試合だもんな。

 打順は5番からで、けして緩んではいけない場面だったが、竹本はしっかり締めてくれた。


 2対0、シード校の普門館を降す。

 三回戦の相手は劇的な逆転勝ちで波に乗る、都立 新田しんでん高校だ。

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