春季東京大会一回戦 (VS都立伊豆大島)
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春の甲子園、センバツ大会。
秋季都大会優勝の帝山が、神宮の全国大会でも見事優勝し、東京の代表枠ふたつをゲットした。
優勝校の帝山と、準優勝校の都立目野が代表に選出され、ふたつずつ勝って両校ともベスト8の成績を残した。
甲子園の激闘を、俺とみづほはソファに並んで座り、暇さえあればテレビ観戦していた。
俺たちと戦った目野ナインの躍動、帝山のレギュラーになってる櫻田の活躍――それらのすべてを、俺はしっかりと目に焼き付ける。
シニア選抜の決勝で対戦した全国優勝投手、高須の姿も甲子園にあった。
大阪府代表、大阪樟蔭高校……あいつ、神戸だったよな。大阪の超強豪校に行ったのか。
背番号11ながら、リリーフ登板では存在感を見せつけていた。
櫻田の打った白球が、早春の空に高く舞い上がり、レフトスタンドに突き刺さる。
その様子も、俺たちはつぶさに観ていた。
「――櫻田くん、すごいね」
「ああ」
みづほが画面から目を逸らさないまま、俺の手をギュッと握ってくる。
「あたしたちも――がんばろ」
「ああ」
俺もみづほの手を強く握り返した。
そして、指と指と組み合わせたままテレビを観続けた。
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春季大会の組み合わせ抽選から緑陵グラウンドに戻った時、ちょうど練習が一息ついたところだった。
「どうだった?」
チームのみんなが、俺と安田のとこに駈け寄ってくる。
「普門館と、早田実業のブロックになった」
「わあ、超名門じゃん」
四月一日から始まる春季東京大会本戦。
8つのブロックに分かれ、それぞれのブロックにシード校がふたつ。
四回戦まで行い、ブロックを勝ち上がるとベスト8進出となる。
普門館とは二回戦で、早田実業とは四回戦で当たる組み合わせ。
ともに甲子園出場だけでなく、有名なプロ野球選手を多数輩出している強豪校である。
「それだけじゃない。ここに江戸川一高、ここに国志館。新田だって強いよ」
いずれもシードを外れたのが不思議なくらいの実力校だ。
「これっていわゆる『死のブロック』ってヤツだね?」
ご丁寧なことに「大会屈指の」という枕詞が付く。
全国大会に繋がるものではないが、上位は夏の予選のシード権を得るうえに、決勝進出の2校は関東大会にも出られるので、それなりに大事な大会だ。
一回戦の相手は、都立伊豆大島高校。
「伊豆大島だって結構強いよな」
東京都のレベルだと、本戦では実力校だらけになるのは、仕方ないかもしれない。
「離島かぁ……これは偵察、無理ね」
「ぶっつけは慣れてないけど、練習試合の要領で、手探りしながら全力出すだけだな」
開幕まで数日しかないし、肚を据えてかかれば何とか行けると思う。
そんな会話を交わしていたのだが――
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その二日後。
「ただいまーっ。偵察、行って来たよーっ」
赤川さんと青柳さんが、ニコニコして練習に現れた。
「偵察って……どこに?」
「伊豆大島に決まってるじゃない。ゆうべ戻って来たの」
「え……ええーっ!!」
両マネージャーが昨日練習を休むってのは、大屋監督から聞かされていたので、監督は事情を知っていたと思う。
「巧く行かなかったらカッコ悪いから、監督には内緒にしてて貰ってたの」
会心の笑みを漏らすふたりの説明によると、抽選のあったその日の夜には、大島行きのフェリーに乗っていたそうだ。
「船の中で一泊して、朝早くに大島着いて。レンタサイクルで高校行って来たよ」
帰りはジェット船で、その日のうちに東京に着いた、とのこと。
「楽しかったよねー」
「ねー」
いやぁ、驚いた。すっげえ行動力だ。
「みづほ、ふたりが大島行くって、知ってた?」
「ううん。なんだぁ、キコも紫苑も、あたし誘ってくれたら良かったのに―」
「ダメよぉ、みづほは試合前の大事な時期なんだから」
むくれるみづほをあしらう二人。
「でも……ふたりともホントありがとう! 練習のビデオ、後でゆっくり見せてもらうねっ」
「みづほー」
「あたし、がんばったよー」
「しっかり観光もしたけどねー」
ひしっと抱き合う三人娘。なかなか感動的な光景……のような気もする。
何はともあれ、マネージャーたちの頑張りで、ある程度の下準備のもとに、一回戦に臨むことができた。
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春季大会一回戦。
四月第二週まで、始業式の日を除いてほぼ毎日試合を行い、ブロック代表のベスト8を決める。
三週めの土日に準々決勝、四週めの土日に準決勝と決勝。
これが春季大会の大まかな流れである。
折りしも春休み期間中。時間に比較的余裕があった俺たちは、ブロックの有力校の試合を極力、観察することにした。
まずは二回戦で当たるだろう普門館。好投手の小野田さんを擁している。
小野田さんは、新三年生。サウスポーの上手投げだ。
「ストレートは140㎞/h優に超えてるわね――後は右打者の外に逃げてくカットボール、落ちるカーブ――外寄りのボールが多いわね? 外のコントロールに自信があるのか、キャッチャーのリードの癖なのか、試運転レベルで手の内を見せてないのか、解釈に迷うわ……」
マウンドの小野田さんを視ながら、みづほの呟きが止まらない。
もちろん、ノートへの書き込みも絶好調だった。
そんなみづほを見ながら、新一年の西井らが眼を丸くしている。
この光景も俺たちには見慣れている。
「みづほさんのこれ、懐かしいなあ――みづほさんの話聴くと、野球の見方が変わるんですよね」
「ああ」
福富の言葉に、船田が肯いた。
「小野田さんについては、対決して初めて結論出そうね――ショートの人、守備巧いなあ。間を抜くのは大変かも。二番の山下さん、四番の塩屋さんが変化球打ちが巧い――と。みんな、どうしたの?」
ノートをパタンと閉じながら、注目を集めていたことにようやく気づいて、みづほが話し掛ける。
いや、さっきからずっと、お前しか喋ってなかったんだよ。
試合は普門館が大量のリードを奪っている。さあ、次は俺たちの試合だ。
「そろそろアップ始めようか」
「うん」
試合途中で俺たちは席を立った。
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一回戦、VS都立伊豆大島高校。
都立のチームカラーと呼べるものがあるとすれば、それは「全員野球」だ。
首都圏は野球強豪校が多く、目ぼしい選手はスカウトされたり、チャンスを勝ち獲るべくセレクションに回ったりする。
かく言う俺もそのひとりだった――声を掛けてくれたのは緑陵の一校だけだったが。
だいたい、都立に行くには受験勉強しなくちゃいけないし、個人的には、受験勉強など俺の選択肢には無かった。
その為かは知らないが、都立強豪の大部分が、超有名選手はいないが、日頃の練習で全体的な底上げを行い、チームの総合力で勝負するスタイルを採っている。
もっとも、目野や江戸川一レベルになると、そこで野球をするために受験勉強して入学する選手もいるそうだ。
で、伊豆大島も多分に漏れず、全員野球のチームだった。
突出した選手はいないが、堅い守備と渋太い打撃で、後半に強いことが秋季の成績から窺われる。
対して、緑陵は先行逃げ切り型。
みづほのリサーチで狙い球を絞り、先制パンチを食らわせる。
エースの安田が後半バテがちになるので、負けた試合はすべて逆転負けだった。
伊豆大島のエースは新三年生の中村さん。右のオーバースロー。
厄介なのは、中村さんがシュートピッチャーだ、ということだ。
「ストレートの大部分はシュート回転、さらに内に切れ込んでくるシュートが決め球ね。右打者は、内角球の見極めが大事。外の球を流し打つイメージがベストだけど、死球を怖がって腰を引いてしまったら、相手の思う壺よ」
都立目野戦の、みづほの負傷という悪夢が甦る。
「左の松元くん、安田くんは比較的ボールが見易いと思う。松元くんの前に、出来るだけランナーを貯めましょ」
これがみづほの、ビデオで分析した結論だった。
幸い、実戦形式の練習画像もあった。
打撃面では無理に引っ張らず、センター方向の打球が多い印象だ。二遊間にセンターが忙しくなりそうな予感があった。
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プレイボール。一回表から、緑陵は猛攻を繰り広げた。
志田は倒れたが、粘って球数を投げさせる。
度会が外角球ををライト前にクリーンヒット。テニスの効果は度会にもあったようだ。
みづほ、俺と連続四球で、1死満塁。
狙い通り、キーマンの松元の前にランナーを貯められた。
松元の大飛球は、レフトの好守備でアウトになったが、悠々犠牲フライとなり、先制。
さらに野口が技ありの流し打ちを決め、初回で2点をもぎ取った。こうなると、緑陵のペースだ。
安田はいつも通り打たせて捕る、安定のピッチングだった。
コントロールがいいので、調子の変動が少ない。大島打線は、内野ゴロを量産した。
うちの内野守備陣の仕上がりはよく、ゴロならほとんど処理できる自信がある。
得意のセンター返しも、セカンド寄りなら、ほぼみづほの守備範囲。
ベース近くの打球さえ、球足が速くない限り、みづほのグラブに収まっていった。
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七回表を終了して4対1とリード。ここで大屋監督が、投手交代のコールを告げる。
緑陵は新しい勝利パターン――継投を試すことになった。
「竹本、頼んだぞ」
「おう」
今までは投手交代になるとレフトに移動していた安田が、ベンチに下がる。
安田に代わって竹本。これで、もう投手交代はない。竹本が崩れたら、負け。
竹本は、一人前の投手に成長していた。
ストレートも走っているし、カーブの威力も充分。
何より、タイプのまったく違うピッチャーへの継投が、相手打線を戸惑わせたようだ。
これは、イケそうだ。
やがて新一年生も加わり、チームとしての戦いのバリエーションが広がっていくのを感じた。
伊豆大島の反撃を1点に封じ、5対2で勝利。
終始優位に立って試合を進めた、スコア以上の快勝だった。
高校二年生編、スタートです♪




