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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
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シーズンオフの旅人たち


 緑陵野球部の秋のシーズンは、十月早々に終了した。

 みづほの負傷離脱という、手痛いおまけまで付いて。


 みづほの亀裂骨折は、ギプス固定で済む程度のものだった。

「でもね、全治三週間だって」

 ガチガチに固められた左腕を見ながら、みづほが呟く。

 ギプスのせいで制服のブレザーが袖を通らず、体育用のジャージをずっと着ていた。

「ギプスが取れたらリハビリして、野球できるのが早くて十一月の終わり――シーズン終わっちゃうね」


「まあ、その――ゆっくり休みな。間違っても運動すんなよ?」

「えっ――筋トレくらいできるよね」

「やめとけ」

「じゃあ、じゃあ、走り込みとか……」

「や・め・と・け。安静って言われたんだろ? しっかり治さないとフルに力発揮できなくなるぞ」

「うー……肘から先は動くのに、勿体ないなあ……」

 みづほの性格を見越して、しっかりギプス固定してくれたドクターに感謝しなくちゃ。


 片腕しか使えないみづほには自転車通学は無理で、入学以来初めて、俺たちは別々に登下校することになった。

 俺が登校する時間には、みづほはもう家を出ている。

 駅まで歩いて10分強、電車でふた駅先が緑陵の最寄り駅。

 そこからスクールバスで10分くらい、丘の上に校舎があるのだが――


 学校に連なる昇り坂に差しかかったところで、みづほが歩いてるのを見かけた。

 腕をほとんど動かさずに、ゆっくりと坂を昇っている。

「おーい、みづほ――何やってんの?」

「あ、ちーちゃん、おはよ」

 みづほの説明によれば「歩き込み」のトレーニングだそうだ。

「水谷先生直伝なの。意識したフォームで歩き続ければ下半身を鍛えられるんだって。これなら腕は動かさないで済むし」


 いや、それはいいんだけど――

「お前、どっから歩いて来たの?」

「ん? 最寄り駅から」

 つまりみづほは、最寄り駅からのスクールバスに乗らずに、学校まで徒歩で来た、ということか。

 みづほは脚の運び方を意識しながら、ゆっくり、ゆっくりと歩を進めている。

「こんな感じで、駅からずっと歩いてるの?」

「うん、結構よさそう。お尻と内腿がパンパンだもん」

 駅から学校までは4㎞近くかな。

「そうだね、一時間半くらいかけて歩く。どうせ部活に出られないもん、『歩き込み』に集中してみるよ」


 何はともあれ、みづほが元気になって、よかった。




 野球部に話を戻そう。

 みづほがリタイアして、部員は現在九名。今回の敗戦で、俺たちが学んだ事がある。

 事前のゲームプランニング、チームとしてどう戦うかの、大まかな方針。これは、今までどおりみづほの担当でいいだろう。


 問題なのは、試合中の臨機応変な対応や、狙い球の絞り込みなどなど、かなり細かい部分まで、俺たちがみづほに頼りきっていた事だ。

 そのために、みづほの負傷離脱という不慮の事態に、チーム全員が浮き足立ってしまった。


 仮定の話だが、負傷したのがみづほじゃなく俺だとしたら、きっとみづほなら、残されたメンバーをまとめて踏みとどまっていただろう。


 悔しい。

 そして、恥ずかしい。

 俺だけじゃなく、チームのひとりひとりが、自分で考え、自信を持ってプレーする意識と実力を身に付けたい。

 兄貴が言ってた「独り立ち」ってヤツだ。


 しかし具体的にどうすべきなのかは、俺や安田の脳みそでは解決には到らず、とりあえずその思いを大屋監督にぶつけてみた。


「うん、うん……君たちの出した答えを、まず聞かせてほしいな」

 監督室で、大屋監督はまず俺と安田を応接用のソファに座らせた。

「はい。いちばん効果的なのは、経験を積むこと。試合をたくさんすることだと思うんですが」

「うちの現状だと無理だろう、という結論になっちまいまして」

「うん、そうだよね……」


 部員九名しかいない状態で練習試合しまくったら、チーム自体が疲弊するし、ひとりでも欠けたら試合そのものが出来なくなる。

 それは相手に対しても失礼だ。

 監督も、秋シーズンでの練習試合は考えてない、とのことだった。


「うーん……そうだね、何から話そうかな」

 大屋監督がかるく座り直して、頭をポリポリと掻いた。

「まず意識についてだが、君たちは素晴らしいと思う。僕が高一だった頃なんて、監督や先輩の言うことに従うので精一杯だった。こんなに早い時期にチーム全体の意識を高めようと気づくなんて、目野さんに負けたことはけして無駄じゃなかったね」

「あっ……いえその――そうすか」

 過分な褒め言葉に、ちょっと口ごもる。


「意識の高め方――というより場面場面で各自のやるべきことを分かる方法とでも言った方がいいのかな、それは人それぞれだし、君たちの言った、試合で経験を積む方法は、万人に効果があるだろうね。ただ、うちにはみづほちゃんというお手本がいる。あのは野球を観る時、何をしてる?」

「ええっと、試合をいろんな角度から観ながら、視たこと感じたことを――あっ、ノートに……」

 監督が俺を見つめながら深く肯いた。

「そう。みづほちゃんのノートは、彼女の分身だ。あのの頭脳に入ってる膨大なデータをいったんノートに書き写すことで、考えを整理してゲームプランニングに役立てている――あれが直接、彼女の経験に繋がっちゃうとこが、みづほちゃんの凄いとこなんだけどね」


 意識を高めるために、ノートを――

「俺には、みづほのようなノートは書けないでしょうね」

「日記形式でいいと思うよ。例えば、今日やった練習にどんな意味があるのか考える。練習で出来たこと、出来なかったこと。チームメイトに言っておくべきだった、あるいは言うべきではなかったひとこと。それらを書き留めることで頭の整理をつけて、次の練習に活かす。君たちなら、いいノートが書けるレベルにあると思うけどな」

 出来るかなあ。思わず安田と顔を見合わせる。

「まあ、ほどほどにね。ノートを頑張りすぎて勉強する時間が減ったら、僕が先生方に怒られちゃうから」

 そう言って監督は笑った。


 大屋監督が再び座り直し、両手を組んでテーブルの上に置いた。

「主将も副主将も揃ったとこで、ちょうどいい。秋から春にかけての、野球部のこれからのプランを話そうと思う」

「はい」

「はい」

 監督の両口角がわずかに上がった。

 緑陵としては、部員全員が揃うまでは対外試合は行わない。

 それどころか、野球部全体の練習は週二回に留める、というものだった。

「オフシーズンには、君たちには別のスポーツをして視野を広げてもらいます」

 監督は、俺たちにそう言い放った。


「俺は……野球以外したくありません」

 安田が小さな声で、しかしはっきりと意志を告げた。

「ピッチャーは、特に俺みたいな変化球投手は指先の感覚が命なので、他のスポーツで肘や指先を痛めたくないです。俺としては、オフシーズンも投げ込んで指先の感覚を養いたいです」

「僕の提案には、肘と肩を休めるノースローデイを確保する意味もあるんだよ」

「ノースローは週二――いや、週一日で充分です」

 安田は譲らなかった。


 監督はほんとに愉快そうに、声を上げて笑った。

「よし、分かった。安田くんは野球部に残って、僕と一緒に練習しよう。僕は現役時代キャッチャーだったから、いろいろアドバイスできると思う」

「はい、よろしくお願いします」

「で、秋山くん。君の意見は?」


 真っ先に俺の脳裏に浮かんだのが、サッカー部の主将、笹田の顔だった。

 互いに新設された部の主将同士、入学直後から愚痴や悩みを聴き合ってきた仲だ。

 順風満帆のスタートを切った野球部に比べて、サッカー部は部員が足りずに苦難の連続である。


 大屋監督だって、サッカー部の監督とは直接の交流はないものの、仲は悪くない筈だ。

 俺と笹田の関係や、日頃交わしてる会話も、耳に入ってるかもしれない――それなら、俺の言うべきことは、ひとつだ。

「監督、俺は――」




 俺たち野球部は一時分裂し、来るべき春までそれぞれの道を進むことになった。

 サッカー部に行くのは俺、志田、野口の三人。

 松元と度会がテニス部に入り、リストと反射神経の強化。

 安田、竹本の両投手に根来、そして有沢は野球部に残った。


 サッカーの部室に行く前に、グラウンドに顔を出してみる。安田と根来、竹本と有沢がキャッチボールをしていた。

「アキ、今日からサッカー部だな」

 安田が声を掛ける。

「ああ」

 俺たちサッカー助っ人組は、平日の週三日がサッカー部、残りの二日が野球部で練習。

 週末はサッカー部のスケジュールに従うことになる。

 テニス組も、ほぼ同様の内容だ。


 実は野球部残留組も、バドミントンやテニスへの合流が最後まで検討された。

 バドミントンのフォームは投球動作に、テニスのそれはバッティングに通じるものがあり、それぞれ野球に活かせるからだ。

 しかし安田の場合は、それに当てはまらない。

 彼の投球フォームは、今や左のほぼサイドスローと言ってもいい腕の位置で、バドミントンのフォームとはかけ離れていて参考にならない。

 そういう意味では安田の選択は正解だったと言える。

 根来も、野球職人と言うべき性格とプレースタイルなので、野球部残留も肯けた。


 竹本と有沢の場合は、まだ初心者に近い状態で、伸び代がまだまだ期待できる。

 彼らに関しては、今は野球に体を慣らす時期だろう、という監督の判断だった。


 ちなみに、赤川さん、青柳さんの両マネージャーは、現在野球部には居ない。

 みづほと一緒に、いそいそと最寄り駅までのウォーキングに出掛けてしまった。

 なんでもあの歩き方は、筋力強化だけじゃなく、ヒップアップやら下半身の引き締めやら、スタイルがよくなる効果もあるそうだ。

「じゃ、行ってくるね。ちーちゃんもサッカー頑張って」

「みづほちゃん、歩き方のコーチお願いね」

「じゃあねー。ナイスバディになって野球部帰ってくるから」

 キャッキャッ言いながら、ジャージ姿でゆっくりと歩みを進める三人娘――まあ、女の子が綺麗になるのは、いいことだよ。


 サッカー部の部室に入った俺たちは、部員たちの大歓待を受けた。その喜びようといったら、こっちが引くくらいだ。

「これでようやく11人揃った――単独で試合ができるよ」

 主将の笹田は、ほとんど涙目だった。


「そんなに喜ばれても、なあ……俺たちサッカーのこと、ほとんど知らないぞ?」

「いいんだ、そんなの。冬のシーズンいっぱいは居てくれるんだよな? それでいいんだよな?」

 三月になったら、入部予定の中三も加わり、野球部もサッカー部も新チームが発足する。

 俺たちはそれまで、野球とサッカーの二刀流で頑張ることになっていた。


 笹田は嬉しさのあまり、すっかりハイになっている。

「秋山に、足の速い志田、背の高い野口……欲しい人材が来てくれたなあ。度会は? あいつ器用だよな」

「度会はテニス行った」

「そうか、残念。ところで来週の週末に練習試合するから、早速頑張ってもらうぞ」

 げっ。そんなん聞いてないぞ。

「俺たちゃサッカーは素人だぞ? それが一週間足らずで試合に出るんか?」

「ああ、分かってる。期待してるぞ」

 言ってることが滅茶苦茶だが――こうして俺の、サッカー部の日々が始まった。

 さあ、こっからポジションもロクに知らないサッカーの勉強です(^-^;

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