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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
61/297

秋季東京大会一回戦 (VS都立目野5)


 ゲームの流れは、明らかに目野にあった。

 八回表、ヒット二本を打たれ、カウントは3ボール1ストライク。

 低めのカットボールに、判定はボール。安田は無表情ながら、少しだけ天を仰いだ。

 1アウト満塁のピンチとなる。


 内野陣は前進守備のバックホーム態勢。可能ならば、ゲッツーも狙いたい。

 外野は、やや前め程度。

 ワンヒットで2点献上は避けたいが、相手が振れている以上、長打も怖い。

 中途半端に見えるかも知れないが、安田の球質が軽いため、仕方がなかった。


 カキーン。

 強い打球がセカンドに行った。

 よし、これなら4-6-3のゲッツーを狙える。

「セカン!」

 叫びながらベースカバーに入る。

 度会から送球――覚悟はしてたが、いつもとタイミングが違う。

「うっ……」

 バランスを崩しそうになるが、必死にステップを合わせて体勢を整え、一塁に投げる。慎重に、しかし素早く。


「よっしゃ!」

 一塁アウト、併殺完成、チェンジ。

 ふー。

 傍から見ると普通のゲッツーだろうが、やっぱ相棒が違うと神経を使うなあ。

 二遊間はほぼ固定で練習してきたので、みづほとのタイミングが身に沁みついていたようだ。

「あたし、ちーちゃん無しでは生きていけない体にされちゃった」

 いつだったか、みづほがそんなこと言ってたっけ。

 俺もそうだよ。みづほなしじゃダメな体にされちゃったな。


 なんとか1点差で八回裏を迎える。

 井上は同じ一年生ながら、いいピッチャーだった。

 落差のあるストレートに、小気味よい左右の変化。対戦の記憶はないので、おそらく軟式野球の出身だろう。

 これ程の投手なら、シニアに居たら多少なりとも評判になっていた筈だ。


 こっちとしても、このままズルズルと手を拱いているわけにはいかない。みづほ無しでもやれるとこ見せなくちゃ、男が廃る。

 代役の3番竹本は簡単に捻られ、打順が俺に回ってきた。


 終盤の、下手すりゃこの試合最後の打席。

 様子を窺って――とか、悠長なことは言ってられない。好球必打だ。

 井上は今のとこ、左右の変化しか見せてないが、これだけのピッチャーなら落ちる球も持っている、と考えるべきだろう。

 カウントが深くなれば、投げてくるかもしれないが……迷わず行こう。


 1アウトランナー無し、ひとつでも先の塁を狙う局面だ。

 一球めは胸元にズバッと来た。左投手特有の、外から内に切れ込むクロスファイアだ。

 少し仰け反って見送る。ボール。

 ――いい球、投げるわ。

 これが背番号11なんだから、今年の目野は層が厚い。


 普通に考えれば、ここからは外中心の配球だろう。

 外に逃げていくツーシームには手を出さないよう心掛ける。

 予想どおり外、外と来て、2ボール1ストライク。

 ヒッティングカウントになった。


 ここまでの試合の中で、いくつか気付いたことがあるが、目野のキャッチャー、相馬さんの配球の癖もそのひとつだった。

 とにかくこの人、攻めっ気が強い。

 俺に対しても長打警戒とはいえ、外一辺倒のリードはして来ないだろう。

 必ずどこかで内角を突いてくる筈。そんな確信があった。


 次はストライクが欲しい場面なので、次に内が来るとしたら、ゾーン内で勝負してくるだろう。

 と言って、平凡なストレートなら、俺の餌食。

 きっと得意のクロスファイアか、あるいは俺の裏をかくような、意表を突いてくるボールを投げさせるだろう。

 きっと一筋縄じゃない、何かがある。ここら辺りは奇妙な信頼関係が成り立っている。


 俺は集中した。

 内角球が来たら、打つ。

 それが落ちる球だったら、甘んじて空振りしよう。

 幸いまだ1ストライク、チャンスはもう一回ある。


 四球め。

 井上の投球は内角に来た。

 このまま真直ぐ行ったら俺に当たって来そうな軌道だ――しかし、俺は集中していた。

 ボールの回転がストレートじゃない。

 多分ツーシーム。シュート回転してストライクゾーンに入ってくる。

 肚は決まった。絶対腰を引かない。向かって来るボールを必死に見据える。


 果たして、ボールはベース手前でシュート回転し、内角やや高めに入ってきた。

 逃げさえしなければ、チャンスボールだ。ボールを乗せるようにして、思いっ切りバットを振った。

 カキーン。

 手応えあり。

 打球はレフトの頭上を越えていく。レフトバック。越えろっ! 伸びろっ!!


 一塁を回ったところで、打球がレフトの頭上を越え、スタンドインしたことを確認した。

 俺の高校公式戦初ホームランは、終盤の同点弾。

 ベンチを見ると、緑陵のみんなが歓びに湧き返っている。

 ――そこに、みづほの姿はない。

 会心の一撃だった。

 みづほ。これでお前に、少しは追いつけたかな。

 ダイヤモンドを一周しながら、そんなことを考えた。




 結果から話すと、俺たちは負けた。

 3対3のまま延長戦に突入したが、ランナーを出しながらも粘っていた安田が、十回表にとうとう力尽きた。

 1アウト一三塁のピンチに、犠牲フライで1点を献上。

 続く5番打者にホームランを打たれ、トドメを刺された。


 十回裏、最後の打者は俺だった。

 2アウト走者なし、マウンドには好リリーフした井上の後を受けて、この回からエースの村田さん。

 もちろん集中はしていたが、どこか心が折れていたのかもしれない。

 ボールを捉えることは出来るが、球威に押されてファウルになってしまう。

 六球めの落ちるカーブにタイミングを狂わされ、バットが空を切った。

 空振り三振、ゲームセット。


 3対6(延長十回)、緑陵高校一回戦敗退。


「俺たちの分まで頑張って下さい」

 試合後の整列で、相手主将に手を差し出し挨拶を交わすのは、俺の役目だ。

「ありがとうございます、その――遠野さんは大丈夫ですか?」

 目野の主将、若林さんが済まなそうに訊いてくる。

「病院に行ってます。こちらにはまだ、連絡は来ていません」

「そう……申し訳なかったね」


 仕方ないよ。立場が逆になってしまうことだって、あるだろう。

 まあ安田の速球なら、死球で負傷退場の可能性は限りなく低いんだけど、竹本がやらかすケースは充分考えられる。

「いえ。お気遣い、感謝します。お互い死力を尽くした結果、不可抗力です」

「ありがとう。そう言ってくれると、足立も気が楽になります」

 お互いに複雑な表情で微笑み合った。


 どんなに気をつけても、負傷や故障は避けられない時がある。

 緑陵の場合、極端に層が薄いために、ひとり抜けるとダメージが半端ない。それだけの話だ。

 それに――いかに俺たちがみづほに、おんぶに抱っこされてたのか、思い知らされる試合だった。


 メンバーを集めて大屋監督が話をしている途中で、監督の携帯に連絡が入った。

「ちょっと待ってくれ」

 病院からだろう。事情が事情だけに講話を中断し、電話に出る。

「あっ、お疲れさまです――はい、はいっ、で容態は――あっ、そうですか……じゃ、詳しいことは――」


 水谷先生からの連絡だった。

 驚くことに緑陵には、契約している病院とスポーツドクターがいるらしい。

 そこで診察を受けた結果は、亀裂骨折のうたがい。休日なので一晩入院して、明日もう一度詳しく診てもらう、とのことだった。


 みづほの入院先は、学校最寄り駅近くの個人病院だったので、学校に帰るついでだ。

 監督運転のマイクロバスに乗り、チームみんなで見舞いに行った。

「あっ……遠野さん! 大事な娘さんを申し訳ありませんっ!」

 大屋監督は、駆けつけて来ていたみづほの父親を見つけると、90度のお辞儀をした。

「いや、俺も野球してたから仕方ないのは分かるよ――それよりお前、声デカいよ」

「はっ、ほんとに済みません――」


 みづほはベッドに腰かけて、さっぱりした顔をしていた。

 ある程度、気持ちに整理がついたらしい。

 病衣を着て、左腕は添え木を当てて包帯でグルグル巻きになっている。

「試合はどうだった? みんな、ほんとゴメンね」

 何を謝ってんだよ、まったく。

「ごめん、負けちゃったよ……」

「もう痛くない?」

「うん。ちょっとジンジンするけど、もう大丈夫――それより、残念だったね、試合」

 そう言って、みづほは静かに微笑んだ。


「みづほちゃん、何か困ったこととか、して欲しいこと、ある?」

 青柳さんが父親に挨拶しながら、みづほに話し掛けると、赤川さんもぐいぐい来た。

「そうそう。こういう時は女同士の方が、頼りになるよっ」

「ありがと。替えの下着も持って来てたから、一晩だったら大丈夫――あ、そうだ。紫苑ちゃん、撮った試合のビデオ貸してくれる? 今晩やることないから、観ておきたいの」

 ――この期に及んで、まだ野球かよっ。

 みづほは、どこまでもみづほだった。


 さて。

 いつまでも大勢で押しかけてたら、いろいろな方面に迷惑だろう。

「じゃ、また後で来るから」

「うん。ちーちゃん、ありがと」

 俺たちは病院を後にして、再び監督の運転するバスに乗り込んだ。


 学校に戻り、用具その他を片付けていく。

 勝っても負けてもやるべき事は同じなんだが、負けてしまった後の作業は、少し心が痛くなる。

「秋山、ちょっと」

 練習場に戻り、後片付けが一段落ついた頃合いに、度会に呼び出された。


「――なあ。みづほはどうして裸になってたんだ?」

「ああ。あれか」

 そうだよな。あの時度会が目にした光景は、長椅子に座って上半身裸で泣いてるみづほ、その横に突っ立ってる俺、地面には脱いだみづほの服が散らかっている。

 見ようによってはかなり際どい状況だ。


「いや、あれは別に何でもないんだよ――」

 俺の説明に度会は、怪訝な顔をしながらも肯いた。

「テーピングをしてもらうために、みづほが自分で脱いだのか……みづほもずいぶん、大胆なことするな」

「そうだろ? いくら幼馴染だからって平気で乳掘り出して――俺、男として扱ってもらってるのか、時々不安になるよ」

「ん……なあ、秋山。みづほはお前が思ってるより、ずっと女の子だぞ」

 度会が急に真顔になり、意味不明なことを言った。


「おう、みづほは女だ。でもそれが何か?」

「……とにかく事情は分かった。呼び止めて済まなかったな」

 少し時系列に誤差が生じたかな(^-^;

 みづほ負傷、一回戦敗退は、ドラフト会議の数日後にあったものとしてご理解ください^^

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