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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
58/297

秋季東京大会一回戦 (VS都立目野2)


 四回裏1アウト走者なし、バッターは3番のみづほ。

 愛用の木製バットを片手に、じっと投手の足立さんを見据えている。

 その凛々しさは、これから龍退治に赴く女騎士も斯くあるや、といった風情だ。


 一球め、高めのストレート。これはストライクに採ってくれないことは、攻守ともに分かっている。

 見せ球のボールだが、おそらく今日の最速だったろう。

 二球めのファーストストライクから、みづほは打って出た。外のスライダーにバットを合わせる。

 一塁線を襲うライナーとなるが、僅かに右に切れた。ファウル。


 その後も、みづほは積極的に、ストライクになるコースにはバットを出していった。

 ボールを引きつけて――コンパクトに、スイング。

 俺はみづほの打撃を見つめ続ける。――うん、タイミングが掴めてきた。

 みづほはスローカーブにもしっかりついて行った。

 2ボール2ストライクからカウントが動かない。

 追い込んでいる筈の目野バッテリーだが、投げるボールの悉くを良い当たりのファウルにされ、逆に追い詰められているように映った。


 多分、シンカーしか打ち捕る球がなくなっている。


 八球め、内角のいいところから、ボールが鋭く落ちる。

 シンカーだ。当然のように、みづほは仕留めに行った。

 腕を畳み、腰を素早く回して振り抜き、ボールをすくい上げる。

 コーン。

 乾いた快音。

 俺のイメージ通りの、見事なバッティング――大振りをせず、あくまでコンパクトに。

 一連のフォームの残像を目に焼き付け、心に刻み込んだ。


 打球はぐんぐん伸びて左中間を深々と破った。

 みづほは二塁到達。この試合、初めての長打となる。


 俺の打順だ。

 バッターボックスに行く前に、みづほに向かって両手でヘルメットを被り直した。

 「承知した」という意味の、ふたりの間だけのサイン。みづほも塁上で、同様の仕草をした。

 ――大振りせず、コンパクトに。心の中で繰り返し唱えながらバットを構える。


 みづほが見せてくれた打ち方で、だいたいのイメージは掴めてきた。今ならどんな球が来ても、打てそうな気がする。

 こうした場合、注意しなければならないのは、けして打ち急がないこと。

 そして4番の俺に求められているのは、前打席で松元が、そしてたった今みづほがやったことと同じ――相手の決め球を打ち砕くことだった。

 スライダー、またはシンカー。そこに狙いを定めていく。


 足立さんの配球もだんだん読めてきた。安田もそうだが、技巧派の足立さんは緩急が命の綱。

 まずは速いスライダーかストレートのスピードボールを見せる。

 ――いちばん遅い球から入るのも手だが、長打力のある相手には勇気が要るだろう。

 そして遅いボールでタイミングを崩し、最後は今日いちばんの球、スライダーか、伝家の宝刀シンカーで仕留める。

 これが大きな流れだろう。


 初球、外に大きく流れるスライダーが、ストレートと遜色ない球速でやって来る。

 これには手を出さない。ボール。

 さあ、これから選択肢が山ほどあるわけだが――ボールをしっかり見ていこう。

 二球めは低めにコントロールされたストレート。

 打つのは、このボールじゃない。ただ、タイミングは掴んでおく。ストライク。

 三球め、外に落ちるスライダー。

 迷ったら、手を出さない。幸い判定はボールだった。


 2ボール1ストライク。

 ここで俺に対してフォアボールでいい、という考えはないだろう。

 次は1巡目でいちばんボールが見えていた松元なので、その前にランナーは貯めたくない筈だ。

 可能な限りストライクで勝負、長打力をケアするため、外のコース中心に組み立てる。


 よし、読めた。


 ボールは真ん中やや外寄りに来た。間違いなくここから外に変化してくる筈――スライダーだ。

 果たして読み通りのボール。このボールだ!

 踏み込んで、ボールに逆らわずコンパクトに――打つッ!!

 カキーン。

 流した打球はライナーでライト前に。

 当たりが良すぎてみづほは三塁を回ったところでストップ。先制は成らなかったが、1アウト一三塁とチャンスが広がった。


 三塁ベース上のみづほが、微笑みながらこっちを見て、両手でヘルメットを被り直す。今度は「おめでとう」くらいの意味、かな。

 俺も返礼に、両手でヘルメットを被り直した。


 5番、松元。

 足立さんのボールがいちばん見えてるバッターだけに、期待は大きい。

 ワンポイントで左の井上が来る可能性もあったが、目野は正攻法で、足立さん続投。


 左打席に立つ松元。肩の力が抜けたオープンスタンス気味の構えから、無駄のない速いスイングを繰り出してくる。

 特筆すべきはやはり、卓越したミート力だろう。

 体格に恵まれているわけではないが、どんな球種にも柔軟に対応できる。さながら緑陵では左のみづほ、といった存在だ。

 入学時には長打力に問題があったが、水谷先生直伝のトレーニングで、それも克服しつつある。

 打線の核を担う、貴重なバッターだ。


 目野バッテリーとしては外野に打球を運ばせたくないので、アウトロー中心にストレートや落ちる球で対処している。

 だが、それが分かっていれば、松元には充分だった。

 四球め、アウトコースのシンカーを狙い打つ。打球は低い弾道で三遊間を破っていった。

 手を叩きながら、みづほ悠々生還。

 緑陵が1点を先制し、なおも1アウト一二塁とチャンスを繋げた。


 続くバッターの野口が、バットをワングリップ短く持っているのに気づいた。

 ――野口にも、コンパクトなスイングが意識にあるようだ。

 本人が気づいたのか、誰かの助言なのかは分からないが、期待できるかも知れない。


 足立さんは初球に、見せ球のストレートを投げてきた。

 ややアウトコース、高めに浮いてボール球になる、例の球だ。

 野口は、それを狙っていた。

 どうやらコースに関係なく、ストレートなら打っていくつもりだったらしい。

 タイミングはバッチリ合っていた。やや詰まらせながらも、持ち前のパワーで打球をレフト前まで持っていく。


 三塁コーチャーの志田が、右腕をぐるぐる回している。

 ベースを踏み、加速する。レフトからボールが返ってくる。

 足からスライディング。セーフ。緑陵は四連打で二点目をもぎ取った。




 五回表、目野の攻撃。

 サウスポーの安田への対策のため、右打者をズラッと並べた目野打線だったが、ここでベンチが動いた。

 1アウトからの8番打者に、代打。背番号3をつけた大柄な選手が、左打席に立つ。

 左対左だと、安田の場合サイドに近い変則フォームで投げるので、初対戦だとかなりタイミングが取りにくいと思うが――しかし、今までの目野のスイングを見る限り、油断は出来ないだろう。

 果たして、真ん中低めのカットボールを強振してきた。芯は外れている筈なのに、鋭いゴロが一二塁間を襲う。


 そして――そこにみづほは居た。

 どうして居るんだよ、と訊かれても返答に困るが、安田の投球コースとバッターの傾向、あとは(みづほ本人の談によれば)バットにボールが当たった瞬間、どこにボールが行くか分かるらしい。

 それは俺もマスターしたくて、目を皿にしてインパクトの瞬間を凝視しているが、正直そんなの分かるかっ! というのが現レベルでの俺の応えだった。

 走り込みながらグラブを伸ばすみづほ。ヒットコースなのに、捕球には余裕がある。

 そのまま走りながら、かるいスナップスロー。流れるような守備。2アウト。

 目野のベンチでは、監督が信じられないモノを見るような目付きで額に手を当てていた。


 ラストバッターにヒットが出て打席は3巡目を迎えた。

 バッターのスイングを見ると、少しずつであるが安田のボールにタイミングが合ってきている。

 1番打者はボール球に手を出さなくなった。

 3ボール1ストライクとカウントは悪くなったが、安田は落ち着いていた。外のスライダーで泳がせる――が、相変わらず打球は強い。

 打球はセカンドへ。みづほが難なく処理して後続を断った。


 五回表を終了し、2対0、緑陵のリードである。


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