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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編・秋
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秋季東京大会一次予選


 秋期東京大会、開幕。

 大事なことなので10回でも20回でも言うが、優勝校は春の甲子園が確実になるし、今秋の神宮の杜野球大会にも出場できる。


 一次予選では、全校が20くらいのブロックに分かれ、各ブロックに8~12校。

 それがさらに、基本4校ずつの山に分けられ、トーナメント戦を行う。

 勝ち上がった計64校が本戦に行けるシステムだ。


 各ブロックには当番校が一校ずつ居て、予選の会場を提供するなど、運営に携わってくれる。

 大変そうだが、当番校は試合が可能なグラウンドを持っている野球強豪校がほとんどで、シード校の側面も兼ねている。組み合わせは比較的有利になるわけだ。

 緑陵も、ナイター設備まであるグラウンドを持ってはいるが、部員も少なく歴史も浅く、当番校になれるのはまだまだ先のことだろう。


 緑陵は計8校のブロックに入った。4校ずつの山でA代表、B代表の2校を決める。東東京のグループに、西東京の緑陵を含めた2校がお邪魔する格好になった。

 当番校は帝山高校――シニア選抜で一緒だった櫻田らが行った学校だ。

 幸いにも帝山とは別の山になって、予選での対戦はない。

 会場は、帝山高校グラウンド。

 緑陵の試合日程は、一回戦が第二週の日曜日、二回戦が第三週の土曜日となった。


 試合前のミーティングを部室で行う。いつの間にか司会進行役は、みづほが行うのが慣例になってしまった。

「一回戦の相手は千寿学園――ビデオを観る前に、キコちゃん、紫苑ちゃん、偵察どうもありがとね」

 まずはスケジュールの合間を縫ってビデオ撮影に行ってくれた、赤川さん青柳さんの両マネージャーをねぎらう。

「遠かったよー」

「うん、遠かった」

 足立区の埼玉寄りの方だもんな。

 ここからだと片道二時間くらい掛かったんじゃないだろうか。


 私立千寿学園、夏は初戦敗退。

 ビデオを観る限りでは、投打ともにこっちが圧倒してるように思う。

「そうねぇ……ピッチャーはストレートとカーブの2種だけど、脅威に感じるレベルじゃない。でも軌道が一定してない分、的は絞りづらいわよ」

「適度な荒れ球になると厄介、てことか」


「総合的にはどうかな? みづほ」

「おおよそのプランは出来てるわ。バッティングは練習通りにボールをよく見ること。三遊間が弱めなのと外野のヒットゾーンは広めだから、センター返しから三塁方向へ打球を意識すると、ヒットの可能性は高まる。守備はオーソドックススタイルがベストだと思う」


 相手は強くはないが、緑陵だってそんなに強くない。

 せいぜいシードを狙えるかどうか、の位置だろう。楽に勝てる相手はいない。

「しっかり打って、しっかり守ろう」

 大屋監督の言葉で、ミーティングは終わった。




 試合当日。バスから降りた俺たちを、櫻田と女子マネが出迎えてくれた。

 女子マネはもちろん、みづほの案内だろう。

「遠野。秋山」

「櫻田くん、久しぶりだね」

 帝山は昨日の土曜日に初戦を終えている。五回コールドの好発進。

 試合を観てないので詳細は知らないが、櫻田はスタメンだった筈だ。練習用ユニフォームなので、背番号は分からない。

「櫻田、レギュラーナンバー貰えたか?」

「ああ。背番号6だ」

「わあ、すごいね。帝山で早くもレギュラーなんて」

 櫻田の返答に、みづほが顔を輝かせた。


「なあ、遠野。活躍してくれよ」

 櫻田がみづほを見据えている。

「東東京で地区が違ってるだけで、お前の凄さを知らないヤツが多過ぎるんだよ――活躍して、遠野の実力を存分に見せつけてやれ。帝山の連中も認識を改めるだろ」

「うん。頑張るよ、ありがと」


「――帝山で何かあったのか?」

 櫻田の案内を受けながら、それとなく訊いてみる。

「いや、大したことじゃないんだよ。遠野のこと、お情けで試合に出してもらってると思ってる連中が、思いのほか多くって悔しいのさ。堀内の女子の人もだけど、顔が可愛いから参加できたんだろ、って」

「そうか――」

 世の中の認識ってそんなもんかな。自分の常識から外れたことは、なかなか認めてくれないんだろう。

「遠野は、そんなんじゃないのにな……才能だけなら、俺より遥かに上だよ」

 そう言ってくれるのは嬉しいけど、櫻田がそうなら、俺なんかどうなっちゃうんだろう。

「予選でお前たちと戦えなくって残念のような、ほっとしたような――勝てよ、秋山」

「ああ。サンキュ」


 櫻田のエールがあったせいかは分からないが、試合ではみづほが炸裂した。

 初回から華麗な守備をみせたかと思えば、一回裏の攻撃では、左中間を破るタイムリー二塁打。

 あっさりと先制に成功する。

 その後も攻撃の手を緩めずに、一回裏で一挙5得点。有沢の公式戦初打点のおまけも付いた。


 二回裏も、みづほの右中間二塁打を足掛かりに3得点。序盤で勝負を決めた。


 四回表から緑陵は投手交代、安田から竹本にスイッチする。

 竹本もなかなかの投球をみせ、二回を1安打1四球。最後の打者はチェンジアップで投ゴロに切って捕り、ゲームセット。

 五回コールド、12対ゼロの快勝だった。


「遠野、また守備が巧くなったな」

 試合後、トンボを片手に櫻田が声を掛け、グラウンド整備に走っていった。




 次の週。再び帝山のグラウンドで二回戦の二試合が行われる。

 勝った方がベスト64、来月の秋季東京大会に出場できる。

 少し早めに行って、第一試合の帝山戦を見学した。


 ガキの頃からお馴染みの、縦縞のユニフォームがグラウンドに登場した。

 背番号6の櫻田は、3番ショートでスタメン。


「帝山、強いね」

 みづほがポツリと言った。

 確かに、バッティングの破壊力が並じゃない。

 守備もショートに櫻田が入ったことで、一本芯が通った印象になった。

 投手陣が未知数だが、このチームは強い。


 立ち上がりは静かで、ともに様子を見るような感じだったが、1巡回ったあたりから帝山打線が牙を剥いた。

 三回裏1アウトから、四球みっつを含む6連打。

 仕上げは櫻田がセンターへホームランを放ち、この回だけで11得点と一気に突き放した。

 二回戦も17対1の五回コールドで、悠々と本戦出場を決めた。


「帝山の戦い方は参考になりそうかい?」

「ううん」

 俺の問いにみづほが首を振る。

「眼の前で一回戦やってた筈なのに、レギュラー陣にわざと試合観せてなかったのかなぁ。ぶっつけ本番で相手に当たらせて、試合中に、選手個人個人で対策を考えさせてると思う――うちは真似できないよ、これ。力に相当の差がないと出来ない。凄いね、帝山」

 確かに、な。うちは一回戦のビデオから対戦相手を分析して、試合前の段階で、対策やゲームプランを綿密に練り上げている。

「さ、試合の準備しよ」

 みづほが立ち上がって、尻に付いた砂を払った。


 緑陵の場合、偵察やビデオ撮影はそう頻繁に行っているわけではないが、解析班が超優秀なのだ。

 チーフのみづほに、安田と根来のバッテリーがサブとなってバッチリ脇を固め、少ない材料から数々の情報を引き出していく。

 特に今回は、先週の一回戦をチームで観戦したので、二回戦の相手、西葛西高校はほとんど丸裸状態だった。


 プレイボール。一回表、緑陵の攻撃。西葛西の先発はエースの佐々木さん。

 左の変則フォームで、安田と一見似ている――が、まったく違うタイプらしい。

 まず体が大きいので、ストレートが安田より平均10㎞/hほど速い。

 (ちなみに安田もトレの成果で最速120㎞/h後半までは行くようになってる)

 ただ変化球の制球が今ひとつで、キレがあるので振ってしまうが、80%以上ボール。

 最大の武器は右打者の胸元に飛び込んでくるクロスファイアのストレート。


 結論としては変化球に手を出さず、クロスファイアを狙い打てば全ての翼を毟れるだろう――というものだった。

 おまけに同様の軌道を持った、安田という超優良な練習台までいる。エース攻略は充分な状態で、試合に臨んでいた。


 練習の成果は初回から顕れた。

 志田が変化球を見極めて四球の後、度会が送りバント。

 みづほに対しては、変化球でカウントを悪くした後、無理せず四球。1アウト一二塁で、俺の打席となる。


 俺に対しても変化球から入るが、もちろん手は出さない。

 3ボール1ストライク――次は、おそらく外にストレートか、クロスファイアのどっちか。

 クロスファイアが来た。

 すみませんね、そこは散々練習したコースなんです。

 カキーン。

 タイミングも既に掴んである。強振すると、打球は鋭いライナーとなって、三塁線を破っていった。


 一回表、緑陵は3点で攻撃を終える。


 対する西葛西も、まったく策を講じてなかったわけじゃない。

 安田のスローボールに狙いを定めていたようだ。

 向こうも、佐々木さんを仮想安田にして練習していたのかな、と思われる。


 安田根来のコンビは、技巧派の宿命で、そこんとこは敏感に察知する。

 狙われているボールは微妙にコースを外して、わざとボール球を振らせる。

 1アウト三塁のピンチも、内野ゴロふたつで無失点に抑えることが出来た。


 佐々木さんはきっと、苦しいマウンドだったろう。

 変化球は見送られ、カウントが悪くなる。最大の武器である筈のクロスファイアは狙い打たれ、通用しない。

 ただ、佐々木さんの引き出しはそれだけではなく、外のストレートやチェンジアップで何とか対処していた。

 それでも投球の幅を狭くすることに緑陵は成功したわけで、じわじわと点差を広げていった。


 七回表に追加点が入り、8対1とリード。向こうの1点は「いつもの」ソロホームランだ。

 この裏を無失点ならコールドゲームが成立する。

 大屋監督が投手交代を告げた。

「いっちょ、やってやんよ!」

 右腕をグルグル回しながら、竹本がマウンドに上がる。


 公式戦三度目の登板となった竹本は、やや調子が悪かった。制球が定まってない。

 ヒットを打たれ、なんとか2アウトまで漕ぎ着けるも四球を出して一二塁。


 ベンチを見る。大屋監督は、タイムを取らない。

 このくらいのピンチは自分で何とかするようになってほしい、ということかな。

 それなら、声出しくらいに留めておこう。

「竹本ぉー、打たせていこう!」

「あたしたちが守るからねー。がんばってー」

 みづほも声を出しながら守備体系のサインを出した――長打ケア。

 1点くらい取られてもいいよー、の守備に少し苦笑する。


 根来もストレート一本勝負にリードを切り替えた。来るなら来い、のある意味開き直り。

 点差に余裕はあるし、この際難しいことは考えない方がいいだろう。


 結果は――球威に押されて、詰まった当たりのライトフライ。

 松元がガッチリ掴んでゲームセット。七回コールドで、緑陵は本戦出場を決めた。


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