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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
47/297

西東京大会五回戦 (VS明王大附属4)


 四回裏、緑陵が先取点。

 なおも2アウト三塁の好機は、根来が倒れてチェンジ。


 五回表も安田は快調だった。下位打線に対して丁寧に投げて、無失点に抑える。

 ただ球数は百球目前となった。


 五回裏は8番から。この流れは、緑陵としては良くない流れになってる。

 2アウトランナー無しで、みづほの打席となるからだ。

 みづほと、クリーンアップの俺たちが分断された状態を、なんとか是正したいところだが――あえなく簡単に2アウトになってしまった。


「ふう……」

 空振り三振を喫し、ベンチに倒れ込むように座る安田。

 だが、既に2アウトなので、休む間もなく六回表の準備をしなくちゃならない。

「アンダーシャツ着替える暇、あるかな……」

「よし、分かった。ゆっくりやって来なさい」

 安田の声に大屋監督が反応し、『粘れ』のサインを送った。

 普通は使うサインじゃないんだが、みづほなら期待に応えてくれるだろう。


 みづほは結局、12球粘った。

 ここまで投げさせたら四球もOKなんだが、梅田さんもさすがで、明らかなボール球は投げてこない。

 最後はライトのファウルフライを、兄貴がフェンスに激突しながらキャッチ。

 拍手を貰う。3アウト、チェンジ。

 ゴン!! とここまで激突の音が聞こえてきたが、兄貴は顔色ひとつ変えず戻って来た。


「みづほ、サンキュ。結構休めた」

「安田くん、ナイスピッチよ。ゴロ打たせてくれたら何とかするから」


 その言葉通り、六回表はみづほの守備が光った。

 先頭打者の、2番坂本さんの一二塁間のゴロを、難しい打球の筈なのに、普通に処理。

 まず1アウト。

 3番の吉見さんには、アウトローのボールが少し内寄りに来たところを、センター方向に弾き返される。

「ちーちゃん、来てっ」

 みづほの声が響く。長年組んだ相棒、声の意味は分かっていた。

 走り込んで来たみづほが、センター前に抜けようとする当たりを、バックハンドで捕球。

 そのまま走り抜けながら、二塁ベース上にボールを浮かせるようにトスする。

 俺は二塁ベースに走りながらトスを右手で受け取り、そのまま一塁へ送球。

 アウト。

「よしっ」

「キマったねっ」

 伝家の宝刀のコンビプレー。グラブでハイタッチを交わす。


 球場は一瞬、鎮まり返り、やがて割れんばかりの歓声に包まれた。

 アウトになった吉見さんは、何度も頚をひねりながらベンチに戻る。

 何べんやっても気持ちいいな、このプレーは。

 9割方みづほの手柄ではあるんだけど。


 だが。

 ここからが厄介なのが、ふたり。

 まずは4番の真田さん、この人には欠点らしい欠点が見当たらない。

 今まで投げてきたボールには、すでに目が慣れているだろう。

 緑陵バッテリーは、真田さんに対しては一転して球種を変えてきた。

 今までのカーブとシンカーの組み立てから、ストレートを見せ球に、スプリットとスライダーで攻めてきた。

 変化の幅が違うので有効かな、というとこ。しかも球速は100㎞/h前後――こいつら、マジで度胸あるわ。


 巧く追い込んだが、安田の場合、わずかなコントロールミスですべての計算が狂う。インローのスライダーが少し甘く入り、レフト前にヒット。

 もうひとりの怖いバッター、5番、兄貴の登場だ。

 打席に立つ兄貴の鼻は、相変わらずピクピク動いている。


 夏休みに入ったばかりの、昼下がり。

 グラウンドの体感温度は40℃くらいあるような気がする。

 マウンドの安田が、流れる汗を袖で拭き、両肩を大きく上下に揺らした。


 みづほが根来にサインを出している。根来が確認のサインで応えた。

 ああ、有り得るな。

 内外野ともに、ノーマルに深めの守備位置。安田も根来のサインを覗き、肯く。

 チラッと一塁ランナーを確認し、セットポジションから一球め。


 安田の投球と同時に、一塁走者の真田さんがスタートを切った。

 初球スチール。だが、こっちも読んでる。そのために見せた隙だ。

 安田の投じた球は高く外れるストレート。根来が腰を浮かせ、捕球動作に入ろうとする。

 ショートの俺は二塁ベースカバーに入った、その瞬間だった。


 実際にプレーしてるのでなければ、思わず噴き出すとこだったろう。

 兄貴のヤツ、盗塁ケアのウェストボールを打ちに来やがった。

 集中モードの兄貴は、安田のボールにタイミングが合ってきていたので、バットに当たりさえすればボールが飛ぶ。

 とんでもないクソボールを打った打球は、超当たり損ねながら、大きく空いた三遊間を転がっていった。

 ――んな、バカな。

 口あんぐりのランエンドヒット成功で、2アウト一三塁となった。


 この対戦を通じて、ひとつ分かったことがある。

 うちの兄貴、超馬鹿だ。

 しかし化け物級の身体能力が、兄貴の超おバカプレーをすべて帳消しにしている。


 竹本が伝令に走ってきた。内野手がマウンドに集合する。

「なんか知らんけど安田を和ませて来い、って言われた」

 竹本の第一声が、それだった。


「はははっ」

「ふふふっ」

「監督らしいね」

 普通に聞くならさほど面白いネタでもないのだが、緊張の糸が張ったり緩んだり忙しかったので、確かに少し落ち着いた。

「ついでに、満塁まではいい、ってさ」

「ああ」

「確かにそうだな」


「まあ、キツくなったらいつでも俺が替わってやるよ」

 竹本が……か。早くそうなって欲しい。

「秒殺されるな」

「超おもしれー冗談だ。和んだよ、サンキュ」

「こいつらー……俺は、なぁ……」

 分かってる。竹本は竹本で、本気だ。

「竹本くん、肩は作っといてね。多分代打で出番あるから、素振りもしといて」

「お――おう!」

 こういう時はやっぱり、みづほの出番だった。


 6番の西さんも、クリーンアップの陰に隠れているが怖いバッターだ。

 慎重に攻めていったが、この試合初めての四球となる。満塁。

 一打出れば大量失点となるピンチだが、安田は落ち着いていた。

 右中間にいい当たりが飛ぶも、志田が無駄のない追い方で好捕。3アウト、チェンジ。

 センターラインの堅守が、うちの生命線だ。




 六回裏、緑陵の攻撃。

 明王の先発、梅田さんはきっとこの回が最後だろう。そんな退路を断ったような投球をしている。

 先頭打者の志田は粘ったが、大きく落ちるカーブに見送り三振。

 続く3番の松元は、巧い流し打ちを見せたが、ショートの好プレーに阻まれた。

 2アウトランナー無し。俺の三打席めだ。


 先程の松元に対してもそうだったが、明王バッテリーはカーブで慎重にボールから入っていった。

 更に俺に対しては、外、外とカーブを駆使していく。前打席の長打を警戒しているらしい。

 一球だけ手を出して、一塁方向にファウル。

「ボール。フォア」

 結局、四球で歩かされた。


 ただこの四球は、緑陵にとっては有り難かった。

 この後アウトを重ねても、八回裏は9番から。最悪、1アウトでみづほに回ってくる。

 みづほが出塁すれば、志田は併殺の可能性が少ないから、松元や俺に繋ぐことができる――という算段だ。

 緑陵にとっては待望の展開だった。


 5番の野口は、梅田さんのカーブに翻弄され続けた。空振り三振。

 六回裏終了時で、1対0。緑陵のリードで、残り三回の攻防となる。



 七回表。ベンチ前で明王ナインが円陣を組んでいた。

 シニアの日本一メンバーが居るとはいえ、一年生ばかりの創部間もないチームに、ここまで抑えられているのは、相手にとっても予想外だったろう。

 とはいえ、マウンドの安田、投球数は120球を越えている。替えの投手は居ない。

 このままあっさりと終わらせてはくれないだろう……明王の強力打線の前には、1点リードなど無いも同然だった。

 しかし僅か1点とはいえ、勝っているのは事実。ここはポジティブに考えよう。


 安田は、疲労の色が隠せなくなっていた。精緻を極めたコントロールに徐々に狂いが生じてきている。

 いい当たりをされるのも珍しくなくなった。

 1アウトを取った後、ヒット2本で一二塁。打席には2番の坂本さんが入る。


 改めて低めに球を集めていく。あわよくば内野ゴロで併殺も視野に入れた攻めだ。

 カキーン。

 四球め、真ん中低めのスライダーを坂本さんのバットが捉えた。センター方向に強いゴロが飛んで行く。


 普通ならセンター前ヒット、同点タイムリーの打球だ。しかし――緑陵のセカンドは、みづほ。そこは彼女の守備範囲だった。

 さっきの応用編だ。

 飛びついて捕球したみづほが、転がりながら二塁へ送球。ベースカバーの俺が二塁を踏み、2アウト。すかさず一塁へ投げる。

 打球が強かった分、間に合った。ダブルプレー完成。天を仰いで悔しがる坂本さん。


 七回表も明王は無得点に終わった。


 七回裏、明王は投手交代。マウンドには河原さんが上がる。

 ベンチでは、みづほがヘルメットを被っていた。

「あたし、サードベースコーチ行ってくるね」

 言うまでもなく、間近で河原さんの球筋を見るためだ。


 河原さんが大きなフォームから、ビシバシとストレートを投げていく。

 梅田さんのカーブに慣れた目には、正直ツラい球だ。

 6番度会、7番根来、8番有沢と、三者連続三振。粘ることさえ出来ず、あっさりと切って落とされた。


 わずか11球、変化球は度会に投げた決め球のフォークが一球、あとはすべてストレート。

 ものの2、3分で、七回裏の攻撃は終わった。


 覚書ですが、明王大附属のラインアップです。

 1(中)間宮 2(二)坂本 3(左)吉見 4(一)真田 5(右)秋山

 6(捕)西 7(投)梅田 8(三)中村 9(遊)川南

 主将は捕手の西です。

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