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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
46/297

西東京大会五回戦 (VS明王大附属3)


 四回表。明王の3番、吉見さんが右打席に向かう。

 さすが第1シード校の中心選手だけあって、威圧感が漂っている。

 ただ吉見さんの場合、比較的弱いコースがあるので、バッテリーはそこを執拗に攻めていった。

 アウトローに多彩な球種のボールを出し入れしていく。

 根負けした吉見さんが、アウトローのスライダーを打たされて、セカンドゴロ。

 まず、ひとり。


 4番の真田さんは、前の打席のようなわけにはいかないだろう。

 まず、安田の先ほどの決め球だったシンカーだが、多分今回は通用しない。

 ストライクコースからボールになる球なので、冷静な選手なら見送るだろう。

 負けず嫌いの熱い選手なら、そいつを仕留めようと考えを巡らせてるに違いない。

 真田さんは、どっちかな。


 当たり前の話だが、野球選手は圧倒的に後者が多い。

 負けっ放しでいい、と考えてるヤツなんて、選手に限らずそうそう居ない。

 なんとか相手のウィニングショットを仕留めてやろうと、まずそこから思う筈だ。

 但し現実と理想は違うので、そう思っても実際に打てる選手は、僅かだろう。

 みづほはそれが出来る、数少ない選手のひとり。真田さんも、きっとそうだろう。

 フォアザチームに徹するなら、見送って打ちやすい球を狙うことも考えられるが、今は自由に打って大丈夫な状況。

 さあ、どうするだろう。


 対して緑陵のバッテリー、安田と根来は、真っ向から相手を捻じ伏せようとか、そういう考えはしない。

 だいたい、クセ球とはいえ、ストレートがそこらそんじょの中学生より遅いのだ。まともにやって勝ち目があるわけがない。

 幸い1アウトを取ったので、真田さんに対しても丁寧にコーナーを突きながら、打たれても単打ならOK、の方針で攻めていくのだろう――と思いながら、根来のサインを覗き込んだ。

 うわっ……こいつら、性格悪ぅ。みづほを見ると、守備陣に『引っ張り警戒』のサインを出していた。


 真田さんに対する、安田の一球め。

 何と、前の打席で空振りを取ったのと寸分違わぬ球を投げてきた。

 真ん中付近からクロスファイア気味に、ワンバウンドしそうなほどに落差をつけて落ちてくるシンカー。

 決め球をまさか初球から投げてくるとは思わないだろう。

 これは見送ればボールだろうが――何か、してやられた気はするだろうな。

 といって、打つという手もあるにはあるが、凡退してしまうと、比較にならないほど傷口を広げるだろう。


 見送っても嫌な感じを植え付け、手を出すと更に陥穽に落ちる。

 よくまあ、こんな心理戦思いつくよなあ。


 真田さんの目つきが変わった。舐めんなよ、て顔だ――これ、振るわ。思わず身構える。

 果たして打ってきた。腕を畳んで、思いっ切りアッパースイングで、ボールに食らいついていく。

 カキーン。

 マジかよ、ほんとに打った。

 詰まった当たりがフライになって、俺の頭上を越えて行こうとする。

 背走か?――いや、間に合わない。

 打球を追いながらジャンプした俺のグラブの上をすり抜け、ボールはレフト前にポトンと落ちた。


 緑陵バッテリーとしては、打者心理を突いて難しい球に手を出させ、打ち捕った当たり――ここまでは成功した。

 ただ、真田さんは無理やりながらも、力づくで内野の頭を越し、ヒットにした。

 みすみすリベンジされてしまったわけだが、ここは相手を讃えるしかないだろう。


 1アウト一塁で、5番の兄貴を迎える。ここでみづほは、大胆な守備のシフトを敷いた。

 ファーストの野口は一塁線をがっちり固め、セカンドのみづほはかなり深めの守備位置。

 ショートの俺は盗塁ケアも兼ねて、思いっ切り二塁ベース寄り。

 サードの度会が三遊間にいる。外野は深め。

 明らかに引っ張りの長打を警戒した位置取りだ。


 打席に立つ兄貴の鼻が、前打席にも増してピクピク動いている。

 初回から全力フルスロットルはいつものことだが、今日はさらに気合い入りっ放し、ということか。


 明王としてはランナーを貯めたり進めたりしたい局面。打順的にも進塁打とかチームバッティングとかは要らない。

 兄貴はきっと、少しでも打球を遠くに飛ばすことしか考えてないだろう――もっともプレースタイルを見る限り、いつでもそうなのかもしれないが。


 さあ、根来の腕の見せ所、だが。

 とにかく低めを突いて、なるべく大きいのを打たせない方針のようだ。

 だいたい、何狙ってんのか全然分からないから、こっちはベストを尽くす以外にない。

 ランナーを牽制しつつ、クイックモーションで安田の一球め。低めにコントロールされた、大きく曲がるスローカーブだ。


 ブンッッ!!


 ボールから遠く離れたところで、バットが空を切った。

 少し間を置いて、明王ベンチから野次が飛ぶ。

「おめーはそれでも人類かっ! おめーの進化は猿の時代で止まってんのかっ!!」

 いやいや、あんなこと言ってるけど、みんな分かってる筈だぞ。

 みづほと、思わず顔を見合わせ、肯く――タイミングがバッチリ合っている。


 二球め。打って変わってファストボール。

 しかしかるく沈む、スプリット系の変化球だ。

 ブンッッ……カツッ。

 バットにわずかにかすって、一塁にコロコロと転がるファウル。


 ――間違いない。投球の緩急に関係なく、兄貴はスイングのタイミングを合わせてきている。

 コースがまったく合ってないので、現時点では結果が出ていないが、バットに当たりさえすればジャストミートは避けられない。

 兄貴のパワーと安田の球質を考えると、それは取りも直さず、フェンス越えを意味している。

 まったく……空振りと当たり損ねで、これほど背筋が凍るバッターが、居るかよ。

 それが自分の兄貴であることに、なんとも複雑な感情を覚えた。


 三球め、長いサインの交換があった。四球めを考えての組み立てだろう。

 どんなに怖いからといって逃げるわけにはいかない。

 大きく外に外れるストレート、まあ妥当なとこだよな――ん?

 兄貴のバットが動く。

 打つんか? んなバカな。


 ブンッッ!!!


 思いっ切り腕を伸ばして振り切る。うわっ、当てやがった。

 大外のクソボールなので、さすがに引っ張るわけにはいかず、打球はレフトに伸びていく。

 有沢がバックしながら、フェンスに背を付けた――マジか?! あんなのが、入っちゃうのか??

 しかしボールはフェンス手前で失速し、有沢のグラブに収まった。

 レフトへの大飛球、2アウト。


 打ち捕ったのに、勝った気が全くしない。この感情は、いったい何だろう。

 確かに、三球めは今までの投球と違って、低めぎりぎりのボールではなかった。

 ボール球ではあるが、飛距離を出しやすい高めを狙ったのか――いや、兄貴にそんな頭があったかは、甚だ疑問だ。考えれば考えるほど、分からなくなる。

 まあ、アウトにしたのは事実なので、気持ちを切り替えて次のバッターに集中しよう。それしかない。


 四回表、明王無得点。スコアは0対0のままである。




 カキーン。

「ナイスバッチ、松元!」

 四回裏、先頭打者の松元が、ライト前ヒットで塁に出た。

 このランナーを、出来れば度会までの三人で還したい。


 バッターボックスに立ち、ベンチを確認。

 力関係から言えば送りバントも考えられたが、サインは『自由に打ってこい』だった。

 監督、サンキューです。頑張ってきます。息を少しずつ吐きながら、バットを構えた。


 梅田さんの、一球め。外角いっぱいにストレートが決まる。ストライク。

 うーん。結構遠く感じるし、ボールに力もある。

 コースが甘くならない限り、ストレートを打つのはまだ無理かもしれない。

 かと言って、カーブは変幻自在。

 ただみづほの言うとおり、変化の軌道はある程度予測できるから、ボールを追いながらタイミングを合わせて振り抜くしかないよなあ。


 二球め、インコースだ。多分、カーブ。そこから横に曲がって――真ん中付近へ。

 ボールの勢いが少し殺されて打ち頃の速さに……これ、失投じゃないか?

 こいつを打たなきゃ男がすたる。

 充分に引きつけてボールを乗せるイメージで、思いっ切り引っぱたいた。


 カキーン。

 打球は深々と左中間を破っていった。

 ノーアウト二三塁、先制の大チャンスだ。


 湧き返る緑陵ベンチ、そしてスタンド。

「よっしゃ」

 嬉しさより、4番の仕事が出来た安堵感の方が強い。それでも自然に、ちいさなガッツポーズは出てしまった。


 打席は5番の野口。一打席めはカーブにタイミングが合わず、まったくいいとこがなかった。

 相手はスクイズを警戒しているだろう、が――野口はバントが下手だ。

 送りバントでさえ、かなりの確率で普通のピッチャーゴロにしてしまう。

 果たして、ベンチのサインも『打て』だった。


 そして俺たち、ランナーに出たサインは『ゴロゴー』だった。

 バッターが内野ゴロを打ったら、迷わず次の塁を狙う。

 相手の内野もバックホーム態勢を敷いているので、巧く行く確率は高くはないが、少しでも打球が逸れたらチャンスはある。

 例え内野ゴロで本塁アウトでも、本来の1アウト二三塁が一三塁に変わるだけなので、攻撃側としてはローリスクの局面だ。

 取りあえずバットに当たってくれ、野口。


 一球め、外角にカーブ。

 ファーストとサードの動作を見ると、一応スクイズは警戒している模様。

 来るなら来い、のストライクだった。

 一方、野口はまだ目が慣れてないような見送り方だった。

 こうなると梅田さんは、いちばん自信のあるカーブの連投だろう。

 当たれー。バットに当たれー、野口……の願いも空しく、くるりくるりの空振り三振。

 タイミングがまったく合ってなかった。


 1アウト二三塁となり、打席には6番の度会。

 人間関係でも野球でも器用なヤツなので、ここは緑陵としては、スクイズの一択になる。

 問題は、何球めにやるか。見破られたら折角のチャンスを棒に振りかねない。

 緊張の瞬間だ。


 逆算すれば、一球めか二球めが妥当。

 2ストライクまで追い込まれたらファウルで三振になるので、成功率はグッと下がる。

 結論から言うと、大屋監督のサインは、一二球めとも『待て』だった。


 相手も緑陵を研究してないわけじゃない。

 三回戦での、度会の満塁スクイズの情報くらいは入っている筈だ。

 明王バッテリーは一球めに、大きく外すウェストボールを選択した――初球にスクイズしてたら、おじゃんになるとこだった。


 二球め、インコースにストレートを投げ、1ボール1ストライク。

 三球めに、スクイズのサインが出た。


 配球を読むと、大きく変化するカーブ、しかもボール球である可能性が高いと思う。

 バントし易い球ではないが、度会ならやってくれるだろう――頼む。


 三球め。梅田さんの投球と同時に、ランナースタート。

 直球に近い球速のカーブが来て、ファーストとサードがダッシュしてくる。

 巧く転がさないと微妙なタイミングだ……

 コン。

 度会のバントはファーストの手前に、勢いを殺して転がった。

 松元ホームイン、スクイズ成功。


 先取点は――多分、大方の予想を裏切って――緑陵がモノにした。


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