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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
43/297

西東京大会五回戦・前夜


 西東京大会は、四回戦終了の時点で、数日間の予備日に入る。

 終業式を挟んで、夏休みの始まりと同時に、五回戦が再開されるのだった。


「次の試合、応援に行くよ」

 同じクラスの笹田が話しかけてきた。

 野球部と同じく今年創設されたばかりの男子サッカー部の、キャプテンだ。


「それにしても、すげえなぁ。創部したてでベスト16かよ。こっちは単独じゃチーム組めないってのに」

 サッカー部は結局、部員9人でスタート。いつもは女子サッカー部と一緒に練習しながら、他校との合同チームで大会出場したり、フットサル大会に積極的に参加している。

「お前んとこもそうだけど、コアメンバーがシニアで同じチームだった、てのはデカいよ。サッカー部こそ、女子サッカーのお姉さま方とリア充だって噂じゃん」

「バッカやろ。選手は活躍してこそナンボだろ」

 リア充については否定しないんだ。


「それに女子との練習は、やっぱ物足りねえよ、向こうは強くなれたって喜んでるけど。スピードもパワーも全然違うもん」

 そういや、女子の日本代表レベルが中学男子といい勝負、てのは聞いたことがあるな。

「野球部の遠野は、それ考えるとバケモン……は例えが悪いな。とにかく例外中の例外だよ、普通に活躍してるもんな、男子に混じって。遠野って、プロになれそうか? お前の眼から見て」

「女子プロなら絶対行ける」

「そっちじゃねえ。俺が言ってんのは、ドラフト会議とか日本シリーズとかある方の、プロ野球」

「うーん……俺はプロのスカウトじゃないから分からんなあ。でも守備だけなら、高校でもトップレベルだな」

「じゃ、可能性はあんじゃん。陸上部の監督が遠野を欲しくて堪らないそうだぜ、まともにやればオリンピックに行けるって」

「そうなんだ……」

 ――薄々勘づいてはいたが、みづほって、それほどの素材だったのか。


「次の相手は、強いのか?」

「ああ、強い。第1シードの優勝候補だ。全国レベルの実力ってヤツを見せつけられたよ」

「そうか……勝てそうか?」

 それについては、散々イメトレを俺なりにしてきた。

「安田次第かな。五回を無失点でいけたら、あと、上位打線でどこまで点が取れるか。安田が崩れたら、俺たちに勝ち目はない」

 投手は実質、安田ひとり。

 竹本が頑張っているとはいえ、ストレートだけであの打線には太刀打ちできない。


「お前らやっぱり羨ましいわ。そんな強いとこと、勝ち上がったうえで戦えるなんて、なあ。絶対応援に行くぜ」

 笹田が爽やかに笑った。

「そんで、ケチョンケチョンにやられるとこ、見てやっから――頑張れよ」

「こんのヤロー……ありがとな」




 練習のウォームアップを、大屋監督が熱心にやっている。

「あたしが頼んだの、ノックを全力で打ってください、って。明王の速い打球対策」

 みづほがそっと耳打ちする。

 なんでも、大屋監督の後輩も、助っ人ノッカーで来て下さるそうだ。


 守備練習。大屋監督と助っ人の荒井さんが、交替でノックをすることになった。

「じゃあ、セカンドいくぞっ。どりゃあああ」

 凄い掛け声と共に痛烈な打球が、みづほのとこへ飛ぶ。いつもながら見事な手付きでボールを捌くみづほ。


「かんとくーっ。もう一回、お願いしまーす」

「よし来たーっ。どっりゃあああ!」

 今度は真正面に回り、捕球。

「かんとくーっ。二歩前でノックをしてくださーい」

 みづほの声に監督がずっこけ、笑いが起きる。

「俺の打球は高校生に負けるんか……とほほほ」

「しかたないっすよー。明王、プロのスカウトも来てたっす」


 二歩前の位置で、三度目のセカンドゴロ。

「どっりゃあああああっ!!」

「はーい、オッケーでーす」

 監督の横で、臨時コーチの荒井さんが笑いを噛み殺していた。

「みづほちゃん、なかなか容赦ないっすね」


 実際にノックを受けると、つくづく打球の速さが身に沁みる。

 少しでも反応が遅れてしまうと、簡単に間を抜かれてしまう。

 ――こりゃ、結構キツイぞ。

 キツイのはノックをする方も同様だったようで、最後の方では大屋監督はバテてしまって、専ら荒井さんがノッカーになってた。


 荒井さんは社会人を引退したばかりで、今日は俺たちのために有給を取って下さったそうだ。

 小柄な左打者だが、さすがと言うべき鋭い打球が飛んでくる。

「はははっ、明日は筋肉痛かな。ちょっと一休みさせてくれ――大屋さん、まだ頑張れますか?」

「ひはーっ……大丈夫だ……ふはーっ」

 あまり大丈夫でない感じで、監督が応えた。


 水谷先生が仕方ないな、という感じで助け舟を出す。

「10分間休憩入れましょう。選手は水分摂ったら、そのままバントフォーメーションの練習」

「うっす」

 ライトから戻って来た松元に、目で合図をする。

「松元」

「うん、分かってる」

 荒井さんは、タイプ的に松元に似ている。同じ左打者で、きっといいお手本になるだろう。

 松元は荒井さんの前に立って帽子を脱いだ。

「荒井さん、お手数ですが、練習後に自分のバッティングを見てもらえませんか?」


 それにしても。

 竹本のレフトの守備は、残念ながら素人同然だった。

 最近はずっとピッチング練習に専念していたので、無理もないのだが。

「竹本。守備を有沢にきちんと教わったか?」

「有沢は丁寧だったよ、俺が悪いんだ。あれだよ、グラウンドに立ったら頭真っ白になっちまったんだ」

「そうか」

 俺からは、それだけ。

 それ以上を判断するのは監督の仕事だ……現在、どえらくバテてはいるが。


 監督たちには休憩を20分取ってもらった。ノック再開。

「……じゃあ、また頑張ろう」

「はい」

 いちばん頑張らなくちゃいけないのが監督なのは、誰の目にも明らかだった。

「監督、頑張ってー。後であたし、マッサージしたげるからっ」

「おーっ、頼むよ」

 赤川さんの声援に、やや元気が出た感じの大屋監督。

「荒井さんのマッサージは、私がしますね」

 青柳さんもにっこり微笑んだ。


 大屋監督の対明王プロジェクトはなおも続き、翌日には岡さんが来て、打撃投手をしてくれた。

 監督がキャッチャーをする。大丈夫かな……

 岡さんは何と、現役の社会人チームの投手だ。

 軽く投げただけで140km/hは出る直球に、カーブもガンガン曲がってくる。

「すっげえ……」

「大屋さん、手加減なしでいいんですよね? さあ行くぞー、一年坊主ども」

「はいっ、お願いしゃーすっ」


 ――こういう凄い人と一緒に練習できることもそうだが、その人たちが嫌な顔ひとつせず、こんなとこに来てくれるのが驚きだった。

 大屋監督って俺たちが思ってるより、凄い人なのかもしれない。


 岡さんに迷惑をかけないよう、スピーディに守備を変更しながら、交替で打席に立つ。

 俺の番だ。

「お願いしゃーすっ」

 ヘルメットを取って、岡さんにお辞儀。

「よっしゃ行くぞっ。まずはストレート、次にカーブを二球続ける。その後は秘密だ」

「はいっ」

 気合いを入れて構える。

 シュッ。

 見たこともないようなストレートがやって来る。

 ほぼ真ん中の打ちやすいコースに投げてくれているので、バットには当たるが、振り負ける。

 一塁方向にファウル。

 次のカーブも、シャレになってなかった。タイミングが掴めず、手が出ない。


 岡さん、やっぱ凄いなあ。

 この球で、80%くらいの力で投げてるんだろう。

 こんな人がプロじゃないんだから、プロ野球っていったいどんな世界なのか、気が遠くなる。

「次カーブだっ」

 投げてきた三球めは、ほぼ同じコースの同じようなカーブ。

 さっき見たばかりの球なら、何とか……頑張って食らいつき振り抜いた。


 カキーン。打球はレフトへ良い当たり。

 それを竹本が、見事なバンザイで後ろに逸らした。

「おーいレフト、お前初心者かぁ」

「はーいっ、昨日からレフトやってますぅー」

 岡さんの野次に元気よく応える竹本。

「昨日から?! ぶわっはははっ」

 岡さんは、愉快そうに笑い飛ばした。


「お願いします」

 みづほが打席に立った。

 大屋監督からサインが出たらしく、岡さんが意外そうな顔をした後、少しして肯く。

 シュッ。インコースにストレート――いや、カーブだ。

 インローにストンと落ち、みづほは見送った。

 二球めは外に逃げていくカーブ。

 コーン。みづほは当たり前のように、ライト前に持っていく。

 三球めのストレートをセンター前に運ばれ、岡さんの顔つきが変わった。

 四球め、またストレート。

 さっきより速い――多分、岡さんの本気だ。

 アウトローに来た球を、みづほは見事に流し打った。


 マウンド上で、岡さんが大きく息を吐き、自分からサインを出す。

 五球め、真ん中高めからボールが胸元に食い込んできた。シュートだ。

 みづほのバットは空を切らなかったが、力なく上がったフライはサードが掴んだ。

「みづほくん、オッケー」

「ありがとうございました」

 ヘルメットを取ってお辞儀をしたみづほは、急いでセカンドの守備に向かった。




 ふー。密度の濃い二日間だった。

 社会人の凄い人たちの指導を受けられたのは、俺たちにとって実になるものだった。

 少なくとも、明王の投手や打線に向かって行く心の準備は出来た、と思う。

「マネージャーは?」

「監督と岡さんのマッサージに行ってる。昨日のが、すっごい好評だったらしいよ」

 ちなみにマネージャーのマッサージは水谷先生仕込みなので、きちんと効果がある。

「ふたりのマッサージのお陰で、監督今日も動けてたもんなあ」

「昨日、全力ノックでバテてた時は、どうなるかと思ったよね」


 自主練習が終わり、後片付けに入る頃にマネージャーたちは戻って来た。

「ただいまぁ」

「あっ、お疲れさん」

 ふたりとも少し顔を紅潮させてニコニコしている。

「いやー疲れたよ。こっちもマッサージしてほしいくらい」

「――何か、手伝うことある?」

「うん。後は用具運びくらいかな」


 グラウンドの点検に行こうとする俺に、赤川さんが近付いてきた。

「アッキ、手伝うよ」

「お、さんきゅ」

 懐中電灯を片手に、ふたり外に出た。


「異常なし、だね」

「おっけ」

 わざと室内練習場から遠い所で、念入りに点検した。

 赤川さんが、わざわざついて来たということは、何か俺に話がある筈なんだ。


 果たして赤川さん、俺に話しかけてきた。

「――ねえ、アッキ」

「ん。なあに?」

「みづほちゃんて、エスパーなの?」

「……あんだって??」


 赤川さんの話では、こうだ。

 ふたりはマッサージをしながら、監督たちの会話を聴いていた。荒井さんも岡さんも、みづほの事を「噂以上だ」と絶賛していたらしい。

 彼女は自分たちと違う世界で野球をしている。普通の人には見えてないものが、みづほには見えているんだろう、と。

「――それってさ、超能力じゃないの?」


 確かにみづほは、ものすごく早い段階で、とんでもなく大胆な読みをする時があって、しかも99%は的中する。時にそれは魔法でも使ってるんじゃないか、というほど鮮やかだ。

「それを超能力って言うなら、そうなるよね」

「でしょ?」

「でもさ、なぜそう思ったかをみづほに訊くと、必ず根拠があるんだよ。だから俺は少なくとも、みづほをエスパーと感じたことは一度もない。ガキの頃からずっと一緒だったけどな。人よりも図抜けて野球脳が優秀なんだと思ってるよ」

「ふーん。そうなんだぁ……」


「みづほのかける魔法は、野球をしてる俺たちには理解できるんだ。みづほはエスパーでも魔女でもないから、今まで通り付き合ってくれ、頼むよ」

「んっと……そんなんじゃないから。いやさ、超能力とかこの世にあったらステキかなって、ちょっと思っただけだから」

「そう?」

「ガキっぽいと思われるのがイヤだったんだ。だから、こうして話をしたの。ホントよ」

「うん。わかった」


 わずか部員10人、マネージャーふたりの小さな部ですが、全員を書こうとすると、どうしても影の薄い人物が出てきますね(^-^;

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