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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
42/297

優勝候補・明王大附属


 試合後の取材が終わり、俺は更衣室の前でみづほを待っていた。これから次の試合を観戦する。

 勝ったチームが、俺たちとベスト8を懸けて五回戦を戦うことになる――が、余程のことがない限り、明王大附属が来るだろう。

 兄貴の学校だ。第一シード、優勝候補の最右翼。


 ともかくも俺たちは、兄貴と対戦できる位置まで辿り着いた。

 今日は最初で最後の兄弟対決に向けて、応援と――敵の戦力分析だ。


「お待たせ」

 制服に着替えたみづほが顔を出す。

「行こか」

「ん」

 石倉さんのグルーピー女子は既に退場してると思うが、桜美戦でみづほが受けた野次も考えて、念のためボディガード役を買って出た。


 スタンドへの通路を歩いていると、ユニフォーム姿の一団と出くわした。明王大附属の人たちだ。

「おっ、みづほちゃんだ。髪のボンボン取ってる」

「活躍してたねー。あの石倉をKOなんて」

「制服姿も可愛いなー」

「みづほちゃん、イェーイ」

 ――試合前なのに、いったい何なんだ、このテンションの高さは。


 兄貴と眼が合った。

「千尋、勝利おめでとう」

「ああ。試合観させてもらうよ。待ってるから」

「おう」

 少し間が合って、兄貴が口を開く。

「桜美の石倉だけど……故障か?」

「肘、痛めてたんだって」

「そうか……あいつ、ホントはもっといい投手なんだよな。本音言うと桜美が来ると思ってた」

 うん、それが正当な評価なんだろう。でも、勝ったのはうちだ。

「次、食ってやるから」

「分かった。手加減はしない」


 幸い、スタンドでみづほに絡んでくる女子はいなかった。

「おーい、こっちこっち」

 偵察三人娘を囲む形で、席に腰かける。

 グラウンドでは明王大附属の練習が既に始まっていた。

 さっきまで馬鹿騒ぎしていた選手たちが打って変わって、キビキビした動きでノックを受けている。


 今年の明王が優勝候補なのには、理由がある。

 強力打線もさることながら、好投手をふたり擁しているのだ。

 三年生の梅田さんがエースだが、今年の春から二年生の背番号10、河原さんが急成長。

 ふたりとも右の本格派、ほぼ同等の力を持つと思われる。投手力が強化され、明王は全国レベルへ躍進を遂げた。


「今日の先発は?」

「二年の河原さん」

 明王は三回戦も、河原さんが先発で、一年生投手がリリーフした。エースの梅田さんは、まだ登板してない。


 みづほが早くも、ブツブツ呟きはじめている。

「梅田さんのデータを取るのは難しいかも……ブルペンも要チェックね。紫苑ちゃん、指示があったらカメラ向けてくれる?」

「おっけー」




 四回戦、明王大附属VS聖蹟第一、試合開始。

 先攻は聖蹟第一、先発の河原さんがマウンドに上がる。

「大きくて綺麗なフォーム……素晴らしいストレートね。好きになっちゃいそう」

 キレのあるストレートでポンポンとストライクを取っていく河原さんを見て、みづほが呟く。

「さっきまで石倉さんに夢中だったじゃないの、この浮気者」

「そうよ、うわきものー」


 赤川さんと青柳さんが、次々とツッコみを入れる。

「だってぇ、出逢ってしまったものは仕方ないじゃない♪」

「すっごーい。みづほちゃんの尻軽ぅ」

「で。今まさに、それを征服する算段たててるとこ、と。ドSね」

「やだぁ。そんなんじゃないよぉ」

 キャッキャッとはしゃいでいるが、彼女らがしてるのは恋バナではない。

 野球の話だ。


「あ。フォーク――結構落ちたよ」

 打者のバットが空を切る。三振。

 おお……俺たちだけでなく、周囲からもどよめきが。

「ストレートとフォークのコンビネーションだけでも、攻略は難しいわね」

 一同の見解をみづほが代弁した。


 一回表、聖蹟第一、三者凡退。


 明王大附属の打線は、初回から怒涛の攻めを見せた。

 先頭打者がセンター前ヒットで出塁すると、セオリー通り送りバント。

 3番の吉見さんがレフトへ大飛球、二塁打を放ち、あっさり先制。

 4番の真田さんも渋くライトへ流し打ち、2点めをゲットした。

「振りが鋭いね」

「打球も速いな……」

 間違いなく、今までの相手とはレベルが違う。


 そして1アウト一塁の場面で、5番、俺の兄貴の登場だ。

 秋山海斗、左投げ左打ち。強打強肩の右翼手。

 球場が真田さんの時より湧いているし、何より味方ベンチの野次が凄い――ということは、兄貴はきっと相変わらずだ。


 左打席に立った兄貴は、長いバットをこれでもかと長く持ち、肩に力の入った無駄の多い構え。

 そして初球、相手投手の緩いカーブを、誰に憧れて野球を始めたか見え見えのフルスイングで、豪快に空振りした。

 どよめきと失笑が半々の、観客席。

 おお……明王のベンチで、全員がズッコケてる。

「バカタレが、ちっとは考えろっ!」

「ダブったら殺すぞ、このやろー」

 野次が凄い――味方から、しかも笑顔で。

 チームにおける兄貴の立ち位置って、どうなってるんだろう。


「……相変わらず、カイさんのスイングは心臓に悪いな」

「あれな、実際に対戦すると、空振りでも怖いんだよ」

 安田根来のバッテリーがひそひそ話している。

 兄貴とはわずかな間だが、千秋シニアで一緒にプレイした間柄だ。

「カイ兄ちゃん、ステキ……」

 みづほは兄貴を観ながら、眼がハートマークになってた。

「あー、またみづほちゃんが惚れてるー」

「みづほちゃん、節操なさすぎぃ」


 裏表のない性格が幸いしてかそうではないのか、こと野球に関しては頑固で実直、大の付く馬鹿正直。

 それが兄貴だ。

 とにかく、どんな相手でも、どんな球でも全力プレーの全球フルスイング。

 脆さが同居しているが、ツボに嵌まった時には、全てをねじ伏せる破壊力を持っている。

 何より凄いのが、全力プレーをずっと続けていられる、強靭な体力と集中力だ。


 敗色濃厚に追い詰められても、ひと振りで雰囲気をガラリと変える、そんな頼もしさがある。


 兄貴のヤツ、明王のレギュラーになっても、まったく変わっていなかった。

 それが嬉しくもあり、心配でもあり、はたまた対戦を控えた怖さもあった。


 兄貴はもう一回豪快に空振りした後、またもフルスイングで、ボールを高々と打ち上げた。

 なかなか落ちてこない打球を、セカンドがバックして追う。

 ――まだ落ちて来ない。まだ――セカンド、なおもバック。

 「オーライッ!」ライトがついに、声を掛ける。

 結局、ファウルゾーンまで伸びて、ライトが捕球した。当たり損ねなのに、客席からどよめきと拍手が起こる。

 無表情のままベンチに戻る、兄貴。


 三回表、ブルペンに動きがあった。

「梅田さんがキャッチャー座らせたわ。紫苑ちゃん映して」

「オッケー。また惚れちゃダメよ」

 ここからがみづほの本領発揮で、多分試合を観ながら同時にブルペンをチェックしている。

「梅田さんはカーブピッチャーよね、ストレートも力があるわ……カーブは投げてるのが、緩急で曲がるの2種、落ちるの2種――まだヴァリエーションありそう」


 試合は、明王が得点を重ね、一方的な展開となった。

 トドメは兄貴。四回裏、満塁で疲れの見えた投手の低めのストレートをフルスイング。

 ガッキーン。

 もの凄い音と共に、ライトスタンドのいちばん奥、あわや場外になろうかというグランドスラムを叩き出した。

 球場は一瞬静まり返り、少し間を置いて割れんばかりの歓声に包まれた。


 11対0、五回コールド。河原さんは奪三振7の完投。

 聖蹟第一はバランスの取れた好チームで、緑陵と同等の力量があると見做していただけに、この結果は正直ショックだった。




 学校に戻り、部室でミーティング。

 みづほの分析結果を聴きながら、誰もが押し黙ったままだった。

「――投打、走攻守、全ての面で明王が遥かに上。打線は強力なうえに、ひとりを除いて選球眼もなかなか」

 ひとりというのは……

「カイさんだよな」

「あの人、どんなクソボールでも振るもんな」


「先発は誰だろうね?」

「雰囲気では梅田さんだけど――中三日だから河原さんと8:2くらいで考えていいんじゃない?」

 都大会の場合、四回戦終了で終業式を挟み、五回戦は夏休みが始まってから行われるので、少し日程が空くんだ。

「ふたりの攻略法はある?明らかな癖とか弱点とか」

 みづほが頚を横に振る。

「梅田さんは今日は、手の内の半分くらいしか見せてない感じ。ストレートはもちろん、全部のカーブでストライクを取れてた。食らいついて球数を稼ぐ、としか言いようがないわ」

「河原さんは?」

「フォークは大部分、ボール。気づいたら見送るべきね。あとはカットボールにカーブ、スライダーも試してたみたい」

 ん……

「以上?」

「ん。以上」

 という事は、明確な攻略法はなし、か。


「守備のフォーメーションは、何かプランある?」

「まず打球が速いわね。内野は前進守備の感覚が必要だし、外野は間を抜かれないこと、後ろへの打球は常時ケア」

「だよな」

「極端な守備体系は、却って危険ね。特に上位打線は、内野の間を突いてくるくらいの技量は持ってる。動くとしたらインパクトの瞬間」

 うちでそれが出来るのは、みづほくらいだろう。


 根来が口を開いた。

「各打者の傾向や、癖は?」

「出来る範囲でまとめといたよ」

「さんきゅ。後で摺り合わせよう」

 安田はずっと腕組みをしている。

「1巡目はなんとか抑えても――2巡目にはもう、ヤバいな。4番の真田さんだけど、さ」

「そう。欠点がほとんど見当たらないの、打者としては」


「あとさ。カイさんの鼻ピクって、知ってる?」

「おお、懐かしいな。まだやってるのかなあ」

「えっ。なぁに?それ」

 志田と根来の会話にみづほが疑問を差し挟む。

「カイさんて集中すると、打席で鼻がピクピク動くんだよ。そうなると常識が通用しないんだ。どんな球でも打っちまうから、満塁でも敬遠した方が傷が浅いくらいなんだ」

 みづほがシニアに来たのは、中一の終わりに帰国してからだから、兄貴とは一緒じゃなかったんだ。

「へぇ……ステキねえ。敵としては憂うべきだけど」


「総合すると、さ」

 今まで黙っていた大屋監督が口を開いた。

「小手先の策が通用する相手じゃないね。といって、正面から馬鹿正直に当たったら、今日の聖蹟第一みたいに踏み潰される可能性は大いにある。怯まず、どんな時でも勇気を持って、冷静に対処しよう」

「うっす」

「はい」

「いつも通り配球はバッテリーふたり、守備フォーメーションはみづほくんが担当してくれ」

「はい」

「はい」


「それと、さ……まだ検討段階だが、打順をいじろうと思う。球数稼ぎと出塁を重視した打順にします。スタメン発表は前日にするから――あと、竹本くん」

「はっ……はいっ」

「一塁ベースコーチ、いつもご苦労さん。このインターバルは肩を休めて、バッティングと外野の守備練習をして下さい」

「――あい?」

 疑問顔の竹本を、肘で小突く。

「……野手での出番があるかも知れない、てことだよっ」

「……うをー! はいっ!!」


 ちなみに筆者は『ブル田さん』の白石三郎が大好きでした(#^.^#)

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