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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
39/297

西東京大会三回戦 (VS都立広瀬3)


 みづほはアウトになったが、粘って相手投手の体力を消耗させてくれた。

 このお膳立てを無にしては男がすたるというもの――さあ、いくぞ。

 平沢さんはコントロール重視の技巧派スタイルで、ランナー無しでもセットポジションで投げてくる。

 一球め、足元にワンバウンドしようかというカーブが来た。当然ボール。

 完全なコントロールミス、球に勢いもキレもない。


 しかし、まだ交替はしないだろう。次の松元は左投手が苦手だし、野口は速球派には滅法強い。

 投手が本職でない斎田さんへのスイッチは、かなりの危険が伴う。

 向こうは俺、松元、野口の三人を平沢さんで凌ぎたい。逆にこっちとしては、この三人で何とかしたい、という事になる。


 よし、追い込まれるまではじっくりボールを見よう。甘いコースだけに照準を合わせ、バットを構える。

 ――前回の打席と違って、ボールが全然来ていない。スタミナ切れは明らかだった。

 3ボール1ストライクからの五球め。

 スライダーが真ん中寄りから切れ込んで来るが、キレが悪い。タイミングを取って思いっ切り引っ張った。


 鋭いライナーが三塁線を破る。

 フェア!! 二塁に楽々到達したところで、ベンチのみづほと眼が合った。

 ヘルメットを両手で持ち、被り直す。いろんな意味があるが、概ね肯定的な意味合いの、俺とみづほだけの合図だ。みづほも祝福の印に、両手で帽子の庇を持って被り直した。


 1アウト二塁、5番の松元が打席に向かう。

 前の打席では平沢さんに手も足も出なかったが、何か違うものを感じ取っている筈だ。打撃の構えにも、どことなく余裕が窺える。

 打てる球を充分に吟味してくれたらいいけど。


 一球め。大きく外れるスライダーにピクリとも動かない。

 よし。冷静のようだ。これは期待できる。

 今の平沢さんは、どうにかこうにか内外にボールを投げ分けている状態だ。

 果たして四球め、肩口から甘く入ったカーブを松元のバットが捉えた。

「越えろっ!!」

 思わず声が上がる。ライトオーバーの2ベース。2対0、待望の追加点が入った。


 次の野口が大きなライトフライを打ち上げ、2アウト三塁となったところで、都立広瀬は投手交代。

 ライトの斎田さんがマウンドに上がりピッチャー。平沢さんはベンチに下がった。


 これはある程度、予想どおり。

 斎田さんは重いストレートでとにかく押していく、剛球タイプ。代わりに投球術はあまりない、と見ている。

 ただ、一年ばかりの緑陵ナインでは、その重い球について行けるのは3~6番の四人だけだろう。

 打席に立っている根来を含め、斎田さんを打つのは難しいかもしれない。


 一球めストライクからの二球め。

 ボールに行く先を訊いてくれ系のストレートがやって来る。

 ここで、根来は三塁側にセーフティスクイズを試みた。普通の守備体系を組んでたサードが虚を突かれ、慌てて飛び出してくる。

 ――が。球速に押され、惜しくも打球はファウルゾーンに切れていった。

 思わず天を仰ぐ根来。千載一遇のチャンスだった。


 2ストライクとなり、相手もバントを警戒するため、同じ手はもう使えない。

 根来はセカンドゴロに倒れ、チェンジとなった。




 七回裏、都立広瀬は3番からの好打順。

 ここまでの安田は絶好調で、六回まで70球足らずの省エネピッチング、まだ三塁を踏ませていない。

 まだ体力も充分な筈だが、相手も目が慣れてくる3巡目。要注意の回だ。


 相変わらず球は遅いが、キレは充分だ。

 1アウトから4番の石野さん。

 一打席めは全くタイミングが合わず三振だったが、さすがと言うべきか、二打席めには打ち捕ったものの、タイミングを合わせていいスイングをしていた。

 安田は淡々と低めを突いてくる。

 ボール、ストライク、ボールと続いた四球め。真ん中低めのストレートに、石野さんがバットを合わせて強振した。

 カキーン。

 安田のボールは、タイミングが合ってしまうと驚くほど飛ばされる。

 打球は右中間を破り、二塁打となった。都立広瀬、この試合初めての長打だ。


 奇しくも七回表と同じシチュエーションになった。

 しかし、バテバテだった平沢さんと違って、安田にはまだ余裕が残っている。

 みづほから守備陣にサインが入る。長打警戒の深めの守備位置。外野もバックホーム態勢ではなく、やや深めに守った。

 ファウルで粘られたが打球はショートへ。ランナーを牽制しながらボールを捌く。2アウト、あとひとり。

 6番のキャッチャー、小笠原さんを迎える。


 緑陵の攻撃時、サインはベンチからではなく、小笠原さんから出ていた。

 藤原さん平沢さんの配球、さらにはあの大胆な敬遠策。すべて小笠原さんの手によるものだ。相当に読みが深いと認めざるを得ない。

 要注意バッターのひとりである。

 長打力は未知数だが、安田の場合、常に長打の危険を伴っているので、引き続き深めの守備位置で対処する。


 初球、低めにボール。

 この巡目になると安田も心得たもので、カウントが苦しくなっても簡単にストライクを投げてこない。ただ、それは捕手をしている小笠原さんには織り込み済みなのだろう、平然と見送られる。


 カウント、3ボール1ストライク。

 五球めは膝元にカットボールがビシッと決まったが、六球め、同じコースから落ちるカーブは見送られた。

 フォアボール、2アウト一二塁。


 次の打者は、平沢さんに代わってライトの守備に就いた三年生だ。一呼吸おく意味もあり、マウンドに内野手が集まった。

「安田、疲れてないか?」

「ああ、暑いよ――でも大丈夫」

「あの人、二回戦も出てたよな。バッティングどうだったっけ?」

 根来の問いに、みづほが口を開く。

「八回の守備からで、その裏に打席に立ってた。初球をショートゴロだったかな。なんとも言えないけど振り回してくる感じだった」

「サンキュ。手探りしながら、だね。安田、低め主体で行こう」

「おう」


 ゲーム再開、安田の一球め。低めのスローボールを空振りする。

 やはり大振り気味だ。安田の得意なタイプ――本来ならば。


 事件は二球めに起こった。

 真ん中低めの、多分カーブだが、ボールがすっぽ抜けた。

 おそらく今試合初めての、明らかな失投だ。球が上ずっている。

 ヤバい! 思わず三遊間に守備位置をずらす。


 カキーン!

 打者の大振りバットが、ドンピシャのタイミングでボールを捉える。

 舞い上がった打球はぐんぐん伸びて、レフトスタンドに突き刺さった。

 逆転の3ラン。

 打った本人がいちばん驚いているようで、飛び上がって何度もガッツポーズをしている。

 2対3。一発で試合をひっくり返されてしまった。


「またやっちまった……すまん」

「ドンマイだ安田。ナイスピッチ」

 チェンジ時にうなだれてベンチへ戻る安田を、みんなで慰める。

 安田の場合、球は遅いし軽いし、伏兵に一発喰らうのも、シニア時代から慣れてはいる。

 この時点での逆転は確かに痛いが、ここまで試合を作ってくれたことに、むしろ感謝すべきだろう。


 残り二回で追いつき追い越さないと。

 気持ちの切り替えが必要だ。




 ベンチ前で組んだ円陣の中でも、みづほは冷静だった。

「斎田さんを攻めて、早めに愛菜さんを引っ張り出しましょ。バットは短めに持って、ボールに逆らわないように。後はミーティング通りでいいと思う」

「おう」

「ほとんどストレート、高めは浮き上がってくる感じ、低めはほぼボールだから捨てる、だったね」

「頑張って行こー」

「りょくりょーお」

「ファイトッ!!」


 八回表、先頭打者は8番、有沢。

 ポンポンとストライクを取られた後に、すっぽ抜けたストレートが足元を襲った。デッドボール。

 みづほと俺が救護に向かう。

「有沢くん、大丈夫?」

「大丈夫。ラッキーだった」

「おう、ラッキーも実力のうちだ」

 冷却スプレーを患部に掛けてもらいながら、有沢の顔がパアッと輝いた。

 拍手を受けながら照れくさそうに、全力疾走で一塁へ駆けて行く。


 バッターは安田。

 まずは1点欲しいとこなのでバントだろう――と思ったが。

「いやー打たれたばっかだし、安田くん打ちたいでしょ」

 ちょっと凄い理由で、大屋監督はヒットエンドランのサインを出してきた。

 二球め、高めのストレートを、バスターで流し打ち。

 三遊間の深い所へボールは転がり、内野安打。

 三塁は無理だったが、ノーアウト一二塁とチャンスが広がった。


 打順は1番に戻り、志田。今度こそ送りバント、三塁側に巧く転がす。

 ここでなんと、処理を焦ったサードがお手玉し、オールセーフ。

「おっしゃあああ!!」

 ――相手のミスを喜ぶべきではないのだろうが、この場合は仕方ないと思う。

 ノーアウト満塁、願ってもないチャンスだ。


 都立広瀬からタイムが掛かった――投手交代かな。

 ライトとキャッチャーが下がり、斎田さんはライトへ。

 栫さんのバッテリーがグラウンドに登場した。



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