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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
38/297

西東京大会三回戦 (VS都立広瀬2)


 双方無得点で迎える三回表。円陣を組んだみづほのアドバイスは、

「1巡目はクリーンアップには変化球、それ以外にはストレート主体のリードだったけど、その考えは捨てた方がいい。多分リードは変幻自在に変えてくると思う」

 というのと、

「カーブを投げる時に少し体が開く癖がある。ストレートとチェンジアップは基本フォームが同じなので緩急に気をつける事、ただしかなり飛ばしているので、球威の落ちたストレートは狙い目」

 という事だった。

 案の定、先頭打者の度会はチェンジアップにタイミングを狂わされ、空振り三振を喫した。

 確かに藤原さんはスタミナ云々を考えず、全力で投げている印象だった。


 みづほの打順。

 広瀬バッテリーは、みづほに対してストレートしか投げて来なかった。

 しかもボール球ばかり。あっさりと四球で出塁する。


 ――いったい何のつもりだろう。

 勝負を避けて、わざわざランナーを貯める意図が、よく分からない。

 みづほの長打力が怖かった? いや、そこまでのホームランバッターではない。しかし何はともあれ、チャンスではある。

 釈然とはしないが、気持ちを切り替えて打席に向かった。


 一球めはチェンジアップ、ストライク。

 今日の藤原さんは、チェンジアップがいちばんいいかもしれない。

 キレがあって、思わずストレートのタイミングで手を出しそうになる。


 二球め、わずかに体の開きが早い――カーブか?

 果たしてカーブだった。ボール。

 よし、カーブの癖は掴んだ。追い込まれるまではカーブ狙いで行こう。


 三球めはストレート。ワンバンしそうなほど低い。ボール。

 ストレートのコントロールが今ひとつなのか、それとも見せ球にしているのか。

 広瀬のキャッチャー、小笠原さんのリードを、なかなか捉えきれない。


 多分、4番の俺にはいちばんいいボールを投げてくる確率が高いと思う。

 ――ということはチェンジアップの連投もあるだろう。

 カーブがストライクに来れば打つ。あるいはチェンジアップが甘いコースに来たら、打つ。

 よし、肚は決まった。

 四球め、ストレートのフォーム。

 ということはストレートかチェンジアップか、ツーシーム。

 少し遅めのボールがやって来る――チェンジアップだ! ドンピシャのタイミングでボールを捉える。

 手応え、充分。

 打球は左中間へおおきく伸び、フェンスを直撃する二塁打となった。


 1アウト二三塁。今度こそ先制のチャンスだ。


 都立広瀬は松元を敬遠し、満塁策を採った。

 ――序盤の段階で、ある意味すごい采配だ。オール・オア・ナッシング、大量失点も辞さない構え。

 それとも、次打者の野口攻略に、絶対の自信を持っているのか。


 確かに野口は穴の多いバッターだが、パワーはチームで一番だ。前の試合でチーム唯一の本塁打を放っている事からも分かるだろう。

 大屋監督もそこは承知で、野口には当てるだけのバッティングをさせず、打球を遠くに飛ばす指導をしている。

 何にしても、今日は野口がとことんキーマンだな……塁上で思わず苦笑した。


 野口は相変わらず、ぬぼーっと打席に立っている――あのチェンジアップ、打てるだろうか。

 案の定初球、キレのあるチェンジアップをストレートのタイミングで空振りした。

 あちゃーっ。大丈夫か。

 二球め、ど真ん中のストレートを今度は振り遅れる。

 空振り、ツーストライク。完全に手玉に取られているぞ。


 ただ、マウンドの藤原さんも70球は投げている。炎天下の中、体力は消耗してるはずだ。

 三球め、体の開きが早い――カーブだ! 思わず声を上げそうになる。

 外に外すはずのボールが、少し内寄りに来た。わずかなコントロールミス。

 ボール球だが、野口は踏み込んでスイング、強引に振り抜いた。


 カキーン。

 打球はセンターへ、これでもかと言うくらい高々と舞い上がった。

 センターが少し下がって落下点に入る。犠牲フライには充分な距離だ。

 捕球と同時に、みづほがタッチアップ。

 バックホームをセカンドがカットした。本塁には投げず、みづほ生還。

「野口、ナイスバッチ!」

 緑陵、1点先制。本塁上で小笠原さんが悔しそうな素振りを見せた。




 四回表、緑陵打線は、疲れのはっきり見えた藤原さんを攻めたてた。

 ヒットと四球で、2アウトながら一二塁。

 バッターはみづほ。チャンスに強い、緑陵の誇る巧打者だ。


 ここで広瀬バッテリーの採った選択は――なんと敬遠だった。

 観客席からもどよめきと、少々のブーイングが飛んでくる。俺としても「うっそだろー」の気持ちが強い。

 だって、そうだぜ。俺だってみづほほどじゃないけど、バッティングには自信を持ってる。

 しかも一塁が埋まっているのに、わざわざランナーを進める行為、普通では考えられない。


 ただ、広瀬がみづほとの勝負を避け続ける理由は、なんとなく分かった。

 試験の時の、栫さんとの18球勝負。あれを広瀬の監督が見ていたんだ。

 みづほに粘られていたずらに球数を重ね、投手の体力が消耗するのを怖れたんだろう。

 いずれにしても、今の藤原さんでは、俺はおろかみづほを抑えるのは難しかったと思う。


 予想どおり藤原さんは、これで降板。エースの左投手、平沢さんにスイッチした。

 みづほの戦前のアドバイスでは、

「ストレート、カーブ、スライダー、シンカー、フォーシーム……球種のバリエーションが豊富で、的は絞れない。明らかなボールを振らないことと、球数を投げさせること。スタミナに問題があるので、疲れてくると球速、キレ、コントロールともに劣化してくる」

 というものだった。

 つまり安田と一緒で、立ち上がりは無双状態の可能性がある。はっきり言って難敵だ。


 2アウト満塁。四回の攻撃で、実に三度目の満塁だ。

 打席には4番の俺。攻守ともに痺れる状況。


 セットポジションから一球め。キレのいいスライダーが、挨拶代わりに俺の胸元を突いてくる。

 ストライク。とてもじゃないが手が出ない。

 ――こりゃ、厄介だぞ。

 二球め、落ちるカーブが外角いっぱいに決まってくる。バットが誘われたが、これもファウルがせいぜいだろう。バットを止める。

 判定は、ストライク。広瀬のベンチから歓声が上がる。あっという間に追い込まれてしまった。


 外に大きく外した後に、気迫充分の四球め。速い球だ。

 ただかなりの確率でストレートじゃないだろう――球の回転は……よく分からない。

 どっちだ? どっちに曲がる? タイミングを見計らってバットを合わせる。

 ボールは内に切れ込んでくる――スライダーだ!

 腰を回転させ肘を畳む。振り抜いた打球は三塁線を切れていった。ファウル。


 ふー。きっついなあ。

 次のボールだが、球種は分からないが、コースはきっとアウトローだろう。

 平沢さんはサインの交換もそこそこに、間を置かず投げてきた。この投球間隔なら、ほぼセオリー通りだな。

 果たしてボールは外角低め、落としてきた。これはボールなので見送る。

 さあ、これで次の球が難しいぞ……ストレートに照準を合わせて対応していくしかない。


 六球め。平沢さんの投球間隔は早く、こっちに考える間を与えない。

 なんと、ど真ん中にボールがやって来た。

 どっちだ? スライダーか、落ちる球か。落ちる方にヤマを張る。

 ボールは急速にブレーキがかかり、落ちていった。凄いシンカーだ……いや、フォークか?

 予想以上の落差だ。ボールはバットの下を掠める。

 力ない打球がショートに転がり、セカンドフォースアウト、チェンジ。

 マウンドで平沢さんに、派手なガッツポーズをされてしまった。


 くそっ……やられた。




 そのまま両エースの好投が続き、1対0のスコアで試合が進んでいった。

 七回は、両チームとも3番からの打順になる。

 七回表、みづほの4打席め。

 今まで勝負を避けてきた広瀬バッテリーだが、いくら何でもノーアウトで敬遠はないだろう。

 果たして平沢さんは胸元を突くスライダーから入ってきた。

 内角に外れ、ボール。体に当たりそうになり、仰け反って避けるみづほ。

 二球め、三球めとアウトローに球を集めて来る。

 ボール、一塁線にファウル。みづほはこの試合、ようやく初めてバットを振った。


 ここからがみづほの本領発揮だった。

 平沢さんの投げる球は、いずれもストライクゾーンぎりぎりの際どいコースばかりで、球種も同じものはないように見えた。

 そのいずれにも、みづほのバットはしっかりと付いてきて、良い当たりのファウルを打ち続けた。

 ピッチャーのプレッシャーは相当なものだったと思う。

 三球めから数えて、六球続けてファウル。

 九球めはカーブがすっぽ抜けて、とんでもないボールになった。

 なにしろ真夏の球場。強い陽射しを遮るものなど、何もない。平沢さんの投球フォームにも影響が出て、投げた後に脚がふらつく動作が出てきた。

 ――よし。ピッチャー、バテてきた。


 十球め、甘く入ったスライダーを強振。

 芯を捉えた打球が、ライナーでセンターに飛んで行く。

 しかし、センターの守備範囲だった。打球が伸び過ぎた――1アウト。

 胸を押さえ天を仰いで悔しがるみづほ。何気ない動作だが、妙に女の子っぽく可愛らしく感じた。時々、みづほにはそんな瞬間がある。

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