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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
36/297

あっちの友情とこっちの友情


 球場の外で都立広瀬ナインと鉢合わせした。

「あっ、愛菜さ~ん」

「みづほちゃん! 元気だった?」

 どこから見ても健康そのものだが。

 それにしても女子って、こういう時どうして声が1オクターブ高くなるんだろう。

「愛菜さんナイスピッチでしたぁ」

「みづほちゃんこそぉ。相変わらず凄いね」

 ふたりがキャッキャッはしゃぎまくったお蔭で、漂いかけていた微妙な空気がすっかり吹き飛んでしまった。


「主将の秋山です」

「石野です」

 互いに苦笑いしながら、わりとフレンドリーな感じで握手を交わした。

「ナイスゲームでした」

「緑陵さんこそ、一年生だけとは思えないほど纏まってるよね。こっちが胸を借りなきゃ」

「いえ、そんな……こっちこそ勉強させてもらいます」

 勉強しなくちゃならんのは、本音だ。

 栫さんのナックル対策、バントを絡めた嫌らしい攻撃。いろいろ準備しておかなくちゃ。


「メグさんとこ、負けちゃったね」

「はい。残念でしたが――」

 女子選手でいちばん早く登場したのは早坂さんだった。

 一回戦の最終回、4対9のビハインドで、最終打者として代打で登場。

 豪快な振りで三振を喫した。

 試合後のインタビューでボロボロ泣きながら、幸せでした、と声を詰まらせていた。

 東東京の上杉さんは、シード校なので登場はまだである。




 明くる日の日没後、部員に全員集合し、みづほの分析結果をみんなで聴く。

「ピッチャーを四人見れたのはラッキーだったわ」

 画像には四人の投球フォームが順番に流れてくる。青柳さんの編集だ。


 広瀬が二回戦で投げたピッチャーは四人。三年生ふたり、二年生ふたり。

 エースナンバーの三年生は平沢さん、左オーバースロー。多彩な変化球を投げてくる。

「特に注意するのがスライダー。右打者の胸元に食い込んでくるし、左打者は遠くに逃げていく」

「でも、イニングを食えないフォームだね。下半身が安定してない」

 安田が口を挟んだ。

「そ。コントロールミスも多いわ。明らかなボール球には手を出さないのが、重要だと思う」


 次いで背番号9の三年生、斎田さんと背番号10の二年生、藤原さんの画像。ともに右のオーバースロー。

 斎田さんは外野が本職らしく、パワーで押し切るタイプ。

 藤原さんも似たタイプだが、ツーシームに小さく曲がるカーブ、チェンジアップを織り交ぜている。

「よく考えられた継投よね。少しずつ目先を変えて的を絞らせない――で、問題の愛菜さん」

 画面に背番号11が映し出された。


かこいさん、二年生、右オーバースロー。完成度の高いナックルボーラーよ」

 みづほが栫さんのナックルを解説し始める。

 みづほにはその資格があるだろう。何と言っても女子選手の出場資格を懸けた認定試験で、実際に対戦して18球もナックルを投げさせたのだ。

「ナックルはね、ボールをまったく回転させないで投げるから、風の抵抗を受けてホームベースの手前でボールが大きく揺れてるの。愛菜さんのナックルは横揺れが多かったけど、縦の揺れも入るとボールが残像で二倍くらい大きく見えるの」

「エグいなあ……」

 思わずため息が漏れる。

「で、揺れながらボールが安田くんのシンカーみたいに大きく落ちてく。どこに行くかは投げた本人も分からない」

「そうか、ヤスダってんのか……」

「ヤスダってるだけじゃないの。揺れながらヤスダるのよ」

「おーい、人の名前を慣用句みたいに使うのはやめれー」

 安田が冗談ぽく抗議し、かるい笑いが起きた。

 余談だが、緑陵ではそれ以来、ボールがエグく変化するのを『ヤスダる』と呼ぶようになった。


「ナックルの打ち方って、あるの?」

「愛菜さんのナックルの場合、ないこともない――理論上は、ね」

 ……さすがみづほだ。俺はその場に来たボールを打つことしか考えられなかった。


「――多分だけど、愛菜さんのナックルは一試合に20球前後が限度。試験の時は凄い頑張ってたけど、20球越えたあたりから精度が落ちてた」

「そしたらなるべくバットを振らずにくさいとこはカットして……」

「カット出来たら、ね。それに愛菜さんのナックルは90%がストライク。四球は難しいわ」

 みづほがぴしゃりと言った。


 しばらくの沈黙の後に、みづほが口を開く。

「愛菜さんのナックルは、完成度が高すぎるの。ストライクに来るコースで必ず変化してくる。ほとんどが真ん中高めから。変化するまでの球速も、ほぼ一定なの」

 それはつまり――

「タイミングを掴んで、真ん中高めからいつ落ちてくかをじっくり見極めて、コンパクトにスイング。愛菜さんのナックルを打つには、これ。言葉にはできるんだけど、ね」

 揺れながら変化する、いつ落ちてくるか分からない球をミート、か……確かに言葉には出来るが、だな。


「それが出来るヤツは高校生には少ないだろうね。みづほちゃんは、もうタイミングは掴んでる?」

 じっと聞いていた大屋監督が訊ねた。

「はい」

 ああ、試験の時に掴んでたのか。

「それ、教えられる?」

「できます」

「実はナックル投げられるピッチングマシン、借りられそうなんだ。明日の放課後には間に合う」

「おおー」

「さすが監督」

 部室に歓声が響き渡った。


「あともうひとつ。セーフティバントは有効だと思う」

 みづほの言葉に、あっ、と思った。確かに栫さん、フィールディングは多少難がある感じだった。

 バント攻めで栫さんにプレッシャーをかける。ややからめ手だが、それもアリだ。

「ただ、なぁ」

「ナックルを巧くバントできるかどうか、だよね」

「普通のバッティングよりは可能性あるだろ」

「泳がされてもバントは出来るし、な」

「ま、それも練習してみよ」

 それにしても容赦ないな、みづほ。

 栫さんとだけじゃなく、女子選手同士は仲良しみたいだが、勝負になると別ということか。


 次は攻撃陣の対策。

「左打者は三人。四番の石野さんはパワーがあるうえに左右の打ち分けも得意。厄介よ」

「左対左なのが救いだな。ボールを低めに集めてゴロを打たせるイメージで行こ。悪くても単打で」

 根来の言葉に一同肯く。

「うん。外のボールは流して、内は引っ張るかセンター返し。基本に忠実なバッターが多かった。あたしたち内野陣の、腕の見せ所よ」

「そうだな」

「バント対策は?野口、頑張れよ」

「あー。うー」

「大丈夫ね。フォーメーション確認していきましょ」


 幸い、次の試合まで、少しだが時間はある。

 準備出来ることをひとつずつ、クリアしていこう。




 昼休みに、度会が俺たちH組連中を呼びに来た。

「グラウンドに来てくれ、ってさ」

「ひょっとまってほっ、ごふんへくふからっ」

 急いで弁当を掻き込み、グラウンドへ。そこには大屋監督と、ピッチングマシーンが居た。

「これっすか、ナックル投げるマシーンは」

「おう。手伝ってくれ、頼むよ」


「みづほとマネージャーは?」

「女の子は飯食うの遅いからさ、時間差で呼ぶつもり――そろそろ時間だな。呼びに行ってくる」

 度会はこういう気遣いが出来るから、女子に人気あるんだよな。

「おう。こっちは手が足りてるから、度会も飯済ませてから来いよ」

「分かった。助かるわ」


 みづほたち女子が来た時には、設置も設定もあらかた済んでいた。

「お待たせ……あらら、みんな居るのね」

 だって、新メカ導入だぜ。男の燃えるシチュエーションだ。

「みづほちゃん、バッターボックスに立ってボールを見てくれ。栫さんのナックルを再現したいからコースと球速の微調整しよう」

「はい」


 制服姿にヘルメットを被ったみづほがバッターボックスに立つ。右手にはバットの代わりに、ストップウォッチ。

「まずはコースから。真ん中高め……と」

 ビュン。ボールが投球口から出てきて――思いっ切りヤスダっていった。

「すげえ……」

「眼の前にすると違うなあ」

「安田よりヤスダってるぞ」

 キャッチャー役の根来が楽しそうに捕球している。

「ボール半個分だけ低く……あと球速はもう2㎞/h遅くできますか?」

 みづほの注文はやたら細かく、設定が済んだのは昼休み終了5分前だった。


 こうして準備した、ナックルの打撃練習は楽しかった――のかな。

「かーっ。当たらねーっ」

「カットさえ出来んぞ。これ、どうやって打つんだ?」

 みづほがバッターボックスに立つ。

「体の壁を崩さないように意識して、タイミング外されても泳がないように……ボールが落ち始めたら落下点を予測してコンパクトに」

 コーーン。打球は綺麗にセンター前に。

「振るの」

 みづほ――お前、天才すぎる。


「よっしゃ」

 俺もやってみる――スカッ。

 実際にボックスに立つと、とんでもないボールなのがよく分かる。

「落ち方も一定じゃないぞ、これ」

「目を慣らしていく必要はあるわね」

 バッティングに自信のない連中は、早くもナックルでバントの練習をし始めた。

「ナックルにとらわれ過ぎて、自分のバッティングを見失わないようにね」

 大屋監督が笑顔で話す。

「だから秋山くん、それでいいんだよ。自分の振りをすれば、それでいい」


 結局初日は、ナックルでいい当たりをしていたのは、みづほの他には松元だけだった。

「面白いなあ。もっと打ちたいなあ」

 松元はニコニコ笑いながら、スコンスコンかっ飛ばしていた。

 前より飛距離出てきたかな、松元。ライト方向に強い打球を飛ばせるようにもなっている。

「言ってしまえば、ナックル打ちは相手攻略のほんの一部だからね、根を詰めすぎないように。バントシフトの再確認とか、やることやっていこう」

 大屋監督の声が飛んでくる。

「はい」

 俺たちは声を揃えて応えた。


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