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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
33/297

夏の予選、開幕


 全国高等学校野球選手権、通称夏の甲子園。

 その東京大会が、いよいよ始まる。

 今年は四人の女子選手が男子たちに混じって参加するということで、全国から注目を浴びていた。


「有沢どうしたんだ?ユニフォームずいぶん皺くちゃだぞ」

「だから言ったのに……」

 みんなから突っ込まれる有沢。

 どうやら初めて貰った背番号7が嬉しくて仕方ないらしく、毎晩ユニフォームを抱いて寝ていたらしい。


 東西合同で行われる開会式で一堂に会した四人娘は、メディアの格好の標的だった。

 真ん中に三年生の上杉さんと早坂さん、両隣りに二年生の栫さんと一年生のみづほ。

 四人を記者やらテレビカメラやらが囲んで、途切れなくフラッシュが焚かれている。

 レギュラーナンバーはみづほの4だけで他は二ケタだが、こうして試験に受かった四人全員がベンチ入りを果たし、無事に大会を迎えたことは喜ばしい事だろう。


「秋山」

 声がして振り返ると、櫻田だった。帝山高校の縦縞ユニフォームに袖を通している。

「さすがだな櫻田。あの帝山で早くもベンチ入りかよ」

「ああ。レギュラーは届かなかったけどな」

 振り向いて19の背番号を見せる。

「どうだ?チームの状況は」

「ああ。10人しか居ないけど、なんとか頑張れそうだよ」

「そうか。俺は東だから、甲子園で待ってるぞ」

 超社交辞令だよな。緑陵の現有戦力では、優勝するには奇跡が二百回は必要だと思うが、戦う前から諦めるのは性分じゃない。

「おお。甲子園で会おう」

 櫻田はみづほとも話したそうだったが、時間に追われているようで、そそくさと球場を後にした。


 取材がひと通り終わり、通路を歩いているところで、明王大附属のメンバーに出くわした。

「あっ、カイ兄ちゃーん! 久しぶりー」

 みづほが兄貴を見つけると大きく手を振りながら一目散に駈け寄ろうとする――が、明王ナインの注目を集めることになり、立ちすくんでモジモジし始めた。

「あっ、あの、いきなりですみません……はじめまして、緑陵高校一年の、遠野みづほです」

 明王の人たちは、一瞬きょとんとして、次には好意的な微笑をみづほに向けた。

「いや、知ってる」

「遠野さん、結構有名だよ」


 その後に聞こえてくる、ひそひそ声。

「噂の天才少女……」

「思ってたより、可愛いな……」

「秋山お前、みづほちゃんと知り合いなのか?」

 だんだん声が大きくなってくる。

「ああ、幼馴染。家が隣同士なんだ」

「なにーっ! 羨ましすぎるぞっ!!」

「しかも『カイ兄ちゃん』てなんだよーっ! 妹も同然じゃねえかっ!」

 なぜか袋叩きに遭う兄貴。


「いてて……お前らちっとは手加減しろよ……みづほ、活躍は見てるよ。巧くなったな」

 兄貴の優しい言葉に、思わずみづほの頬が染まる。

「カイ兄ちゃんだって凄いじゃない……また背が伸びた?わあ、鍛えてるう」

 みづほが無防備に、兄貴の胸板をペタペタ触りまくっている。兄貴を見つめる、憧れの混じったウルウル瞳は相変わらずだ。


 ふたつ上の兄貴は、常に俺たちの前を走っていた。

 シニアでも中心的存在で、今や名門、明王大附属の強肩強打の右翼手。

 NPBのスカウトの眼にも留まっているはずだ。みづほが憧れるのも無理はなかった。


「こっちは、弟の千尋」

 兄貴の言葉に直立不動の姿勢を取る。

「緑陵高校一年の、秋山千尋ですっ! 主将をやらせてもらってます」

 兄貴が俺の胸を、コツンと叩く。

「俺たち、絶対に甲子園に行くからな」

「ああ」

「ベスト16まで来いよ。やっつけてやるから」

「――んなの、やってみなきゃ分かんねえよ」

「ああ。その通りだ」

「で。明王っていつも、あんな感じなん?」

 兄貴が俺の指差す方を見つめる。

 そこでは明王ナインがみづほを囲んで、ワイワイ騒ぎながらみんなで記念写真を撮ってた。


「ああ――こんな感じだ」

 兄貴が苦笑混じりに、ナインの輪に飛び込んでいく。ちなみに俺はカメラマン役になり、20回はシャッターを切らされた。




 俺たちは一回戦は不戦勝。二回戦で瑛城高校とたたかう。

「で。瑛城ってどんな高校?」

「おいおい、どんだけ野球しかしてこなかったんだよ」

 問いかけた俺に、ほぼ全員からツッコミが入る。

「男子校の御三家じゃないの」

 あ。みづほも知ってた。大正創立の、伝統ある名門進学校だそうだ。

「野球部はあまり聞かないよな――どんなチームだった?」

 実はテスト期間を利用して、みづほがマネージャーふたりと偵察に行ってくれていた。


 部室に全員集合し、みづほの分析を聴くことにする。

「男子校に女子三人でしょ、目立っちゃって」

 撮影したビデオの用意をしながら、青柳紫苑さんが苦笑した。

「そうそう、『野球部の練習を見学に来ました』って正直に言ったら、守衛さんにますます怪しまれちゃって。テスト期間中だから、学校に確認してくださいとも言えないし」

 みづほも手伝いながら言葉を継ぐ。

「でもみづほちゃんの顔で何とかなったね。『ああ、テレビに出てた子だね』って。お蔭で偵察に来たのバレバレだったけど……ねえ、身動きが取れないの」

「あらら、大変」

 赤川紀子さんの体にコードが絡まり、女子ふたりでどうにか解いた。

 準備完了。偵察したみづほの報告が始まる。


「ビデオ、すごく巧いな――誰が撮ったの?」

「紫苑ちゃん。優秀でしょ」

 青柳さんが照れるように少し俯く。大人しいがしっかり者だ。

「エースの高橋さん、三年生。右のオーバースロー。練習ではストレートとカーブを投げてたわ。ストレートは130㎞/hちょっと、素直な回転してた。カーブは120㎞/h台の小さく曲がるのと、110㎞/hそこそこのスローカーブ、2種ね」

「狙い球は?」

「組み立てが分かんないから、まだ何とも……でも追い込まれるまではストレート狙いでいいと思う」

「オッケー。他のピッチャーは?」

 青柳さんが素早く画面を切り替える。

「ありがと、紫苑ちゃん。二年生の森さんが二番手かな、と。右のオーバースロー、ストレートは130㎞/h弱だけど、結構いいスライダー投げてた。ただ――」

 みづほがちょっと哀しそうな顔になる。

「このスライダー、9割はボールね。まだコントロールがついてない感じ」


「で、次は打撃。みんな振りは鋭いわね。強い打球のプルヒッターが多かった」

「安田、腕の見せ所だな」

 根来がボソッと呟く。

「守備は?」

「守備練習してなかった。練習時間が2時間足らずなの。ほとんど打撃練習」

「うわあ……進学校、苦労してんなあ……」

「だから守備力は未知数だけど、横より縦に揺さぶるイメージを持つといいんじゃないかな――長打力に応じて、内野か外野の頭を越していく感じで」


 総合すると、瑛城は打撃のチームらしい、ということが分かった。

「最近の流れみたいね。練習時間の短い学校は、多少の守備の乱れには目をつぶって、打撃を磨いて打ち勝つチームを目指す――瑛城はそういうチームの可能性が高い、と思う」

 うちも練習時間は、そんな長くないけどなあ。

 日没になると、ボールが見えなくなるので野球の練習は終わり。平日はせいぜい2時間強といったとこだ。

 後は用具の手入れやグラウンド整備をしながら、交替でトレーニングをしている。


 安田と根来が、みづほに長々と質問をしていた。個々の打者に対する基本的な攻めや、有効そうな球種のアドバイスを受けている。

 安田の場合、例えばカーブひとつとっても球速や曲がり方で10種類くらい異なるボールを持っている。引き出しが多いのだ。それと、手元で異様に変化するストレート。

 口は悪いが、まともな球を一球も投げてこない。

 これらのボールとコントロール、投球術で球速の遅さをカバーしている投手だ。データはあればあるほど、安田の投球は冴え渡る。

 情報収集とデータ分析に長けたみづほとの相性は、バッチリだった。


「はーい、しつもーん」

 竹本が手を挙げる。

 おお……ついに竹本が野球に脳味噌を使い始めたか。みんながそう思ったかどうかは分からないが、一斉に衆目を集めた。

「瑛城でナンパされた?」

 ――竹本は、竹本だった。

「えっ……されなかったよね?」

「みづほちゃん、野球に夢中で全然気づいてなかったのよ……私たち、結構声かけられてたわよ?キコちゃんモテてたよね」

「だ・か・ら・さぁ。みづほちゃんは野球観ててガン無視だし、紫苑ちゃんも撮影で忙しかったから、あたしが相手するしかなかったのっ!」

 赤川さんが少し膨れっ面で、女子ふたりに応える。


 まあ、緑陵の制服が結構可愛いうえに、三人ともビジュアル良い方なので、男子校に迷い込んで来た仔羊みたいな感じだったのかな。

「スマートな誘い方が多かったよ。文化祭にぜひ来てね、サービスするよ、とか」

 そう話す赤川さんは、満更でもない感じだった。


 カイ兄ちゃんこと、主人公の兄、秋山海斗初登場です。

 こんなんで明王大附属、甲子園行けるのかww乞うご期待です^^

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