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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
32/297

練習試合 (VS堀内学園2)


 一回裏、堀内学園の攻撃。初心者竹本のデビュー戦である。

 いきなり強敵との対戦だが、投球練習を見る限りは落ち着いているように見えた。

 ――俺たち守備陣が、ヤツを援護しなくちゃ。

 みづほの守備プランは、データ不足および竹本という不確定要素が大きいことを前置きして、アウトローの流し打ちをケアしながら、定位置付近で打ち取った打球を確実にアウトにする。

 オーソドックスであり、ある程度打ち込まれることも覚悟したものであった。


 竹本の第一球。外に外れてボール。

 細かいコントロールはあるわけがないが、腕は振れている。

 悪くない。

 根来も肯いて、励ましながらボールを返す。


 そして、竹本のヤツは……気持ち良さそうに笑っていた。

 ヤツにはプレッシャーというものがないのかな――半ば呆れ、半ば頼もしく思った。

 荒れ球を引っ掛けて、俺のとこに打球が飛んできた。

 平凡なショートゴロを丁寧に処理する。アウト。


 2番バッターの上杉さんが打席に向かう。

 おや――ずいぶんバットを短く持っている。ミートに徹した打法だ。

 一球めから積極的に振ってきた。ファウル。

 試験の時よりも振りが鋭い。マシンの速球に振り負けていたのとは、雲泥の差だ。

 これは安牌なんて言えないぞ――と思っていたら、三球めの内に寄った球をセンター方向に弾き返してきた。


 ヤバい、抜ける!

 ――と思ったら、みづほの守備範囲だった。だから何でそこに居るんだよ。

 おそらく定位置から移動してきたのだろうが、それにしても早い。

 かなり二塁ベース寄りで捕球し、楽々アウト。

 相手ベンチが目をパチクリさせてるのが、フィールドからでも分かった。

 俺も分かる。上杉さん、確実にヒット一本損した。みづほにお返しされた格好になった。


 竹本が2アウトを取った。

 堀内のクリーンアップとの対戦。三番は主将の森尾さん。

 選球眼がいいようで、ボール球に手を出してくれない。五球めをボール、四球を選ばれる。


 ランナーを背負って、初めてセットポジションから投げる竹本。ここで根来はチェンジアップを要求してきた。

 投球動作に入る……ありゃりゃ。

 一球めは高めに外れた。ボール。

「タイム願います」

 根来、俺、みづほが同時にタイムを要求、マウンドに内野手集合。


「ランナー、目で確認しよう」

 内野手全員が、竹本に言った。みんな小声だったが、同時だったので結構な音量になる。

 ちょっと間が空いて大爆笑。

「……見事にハモったね」

「ははは、苦しい……ま、そんなわけで落ち着いていこう」

 ハモったせいで周囲にも丸聞こえで、監督も相手ベンチも、腹を抱えて笑っていた。


 竹本、今度は一塁走者を目で確認。ぎこちない牽制も入れた。

 しかしクイックは巧くない――仕方ないよ、初心者だから。

 果たして三球め、森尾さんに盗塁を決められ、四球めのストレートをライト前にタイムリー。

 あっさり同点にされた。




「くっそー、やられた」

 竹本は三回投げて4失点でマウンドを降りた。

 都大会ベスト16相手に、野球歴わずか二ヵ月の初心者が9つもアウトを取ったというのは充分過ぎる結果なのだが、本人は気付いてないらしい。

「まあ、仕方ないよ。球種がまだ少ないんだし」

 竹本の頭に手を置き、ねぎらう。

「そうだよ。コントロールもまだまだ」

「クイックが遅い」

「カバー忘れてたぞ」

「マウンドで表情出し過ぎ」

「守備ド下手」

 あちこちからツッコミが入り、竹本のハートにグサグサと突き刺さる。

「おっ、お前らなあ……」


「でも竹本くん、デビューにしてはよかったよ。ベスト16相手にあれだけ投げられたら、予選でも出番あるよ」

 いいタイミングでみづほが隣に座り、竹本の左手を両手で握ってフォローする。

「そ……そう?」

「うん、ホントホント」

 竹本、あんまりニヤケるんじゃない。


 大屋監督が肯きながら話す。

「竹本くんにはこれから、西東京以外の高校との遠征試合には、必ず投げてもらうからね。安田くんの情報は知られているけど、竹本くんの情報は掴ませたくないから」

 ああ、それでVS堀内がデビュー戦だったんだ。

 みづほが居るのである程度の注目は集めてはいるが、所詮、一年生ばかりの新設校。他地区の遠征まで、偵察はまず来ない。

「ということは、俺って……」

 竹本がかるく目を剥く。

「秘密兵器ってことだ。ま、後は任せろや」

 試合開始直後から肩を作っていた安田が、四回裏のマウンドに向かった。


 試合は白熱した。

 堀内打線は安田のスローボールに苦戦し、一方では、小刻みな継投で緑陵に尻尾をなかなか掴ませなかった。

 終盤にいったん逆転するも、安田が痛恨の連続ホームランを被弾。5対6で敗戦となった。


 再び森尾さんが俺たちを見送りに来た。

「お前ら、結構強いな。組み合わせ次第では夏でもいいとこ行くんじゃないか?」

「いやあ、堀内さんの壁は厚かったっすよ」

 固く握手を交わす。

「言っとくけど、うちら手ェ抜いてねえぞ? ホント緑陵が西地区でよかったわ」


「早矢香ぁ。うちはこの後も試合あるからな、早く帰ってこいよー」

「うん、わかったー」

 上杉さんがみづほの手を取って、更衣室に消えていく。

「上杉さん、大活躍でしたね」

 今日の上杉さんは5打席で2安打1犠打、守備も機敏で、試験時の非力さが嘘のようだった。

「ああ。試験でみづほちゃんを見て、感じるものがあったらしい。眼の色が変わったよ」


 森尾さんが俺に顔を寄せ、「ここだけの話だけど、さ」と前置きして話した。

「早矢香のヤツ、何かあるとラインやメールでみづほちゃんに相談してるらしいんだ、もちろん野球に関して。みづほちゃんが自分の野球の師匠だ、ってさ。別地区のよしみで、黙認してくれ」

「いや、それはみづほの自由ですから。女子選手同士頑張りたい、て気持ちもあるでしょうし」

 俺の応えに森尾さんは安心したようだ。

「よかった……こういうの、裏切り行為とか思うヤツもいるからな」

「上杉さんには、僭越ですが俺も頑張ってほしいと思うッス」

「早矢香が言うには、みづほちゃん、野球以外はまるで子どもだってさ。そっち方面では自分の方が師匠なんだ、って」

「あー、なんとなく分かります……」

 そんな立ち入ったことまで話してるということは、森尾さんと上杉さんは付き合ってるのかな。

 そんなことも思った。


「お待たせー」

 みづほがバスに戻ったのは、俺たちがシャワーを浴びて着替えて、バスで待機して30分は優に経った頃だった。

「時間かかったな」

「早矢香さんと一緒にシャワー浴びてたの、結構胸板厚くなってたよ。すっごいキレイな裸だった。芸能人は違うなあ」

 ――そんな話を人前で堂々としちゃうか。

 上杉さんの言う通りだわ。こいつ、全然子どもだ。


 後日、みづほ情報で、上杉さんが背番号14でベンチ入りしたと知らせがあった。




 緑陵高校にも嬉しい出来事があった。一年生の女子ふたりが入部を希望してきたのだ。

 残念ながら選手としてではなく、マネージャー希望で、何かお手伝いできれば……という事だった。

 それでもいろいろと手が足りない部の現況を考えると、願ってもない話だ。大歓迎で入部してもらった。


 赤川さんに、青柳さん。ふたりとも150㎝前半くらいの背丈で、小さくて可愛い印象を与える。

 試しに選手もやってみればと、練習に無理やり参加させてみたが、みづほが規格外だということを確認しただけの結果になった。

 水谷先生に言わせると、彼女たちが女子高校生として普通の運動能力で、みづほを基準にするのは間違ってるそうだ。


 週末の練習試合は、東東京や埼玉、神奈川への遠征が主になった。

 もちろん、竹本に経験を積ませるためだ。

 竹本のマウンド捌きもだんだんと堂に入ってきて、2イニングくらいなら抑えられるようになった。

 長いイニングになると、スタミナ切れや球種の少なさを突かれて打ち込まれるのは、現時点では仕方ないだろう。

 まだまだ未完成ながら、竹本も戦力として計算できるようになった。

 これは、大きい。


 夏の予選まで、あと二週間ちょっと。

 うちの場合10人しか居ないから、背番号はすんなり決まった。

 エースが安田、あとはポジション順。初心者の竹本が背番号10。

 今週末には組み合わせ抽選があり――大会直前に、期末テストが控えている。

 俺にとっては、そっちのハードルの方がプレッシャーがかかる。


 だが、竹本が赤点ふたつで、このままだと補習必須ということが判明した。

「竹本、俺よりバカだったの?」

「うっせーな。お前こそ、みづほちゃんに勉強みてもらって、その成績だろ。みんな知ってんぞ」

「ぐっ……」

 それを言われると弱い。

 しかも先生方に勉強のポイントまで教えてもらったとは、口が裂けても言えん。

「仕方ないなあ。練習の後に部室で、みんなで勉強しましょ。あたしみてあげるから」

 溜息混じりのみづほの言葉に、竹本が小躍りする。

「ホント!? みづほちゃんと勉強できるのっ? ひゃっほー!」

 すげえ。『ひゃっほー』っていうヤツ、初めて見た。 


 こういう経緯があったせいかどうかは分からないが、主将の晴れ舞台であるはずの組み合わせ抽選会は、安田とみづほが行くことになった。

「ちーちゃんは学校にいて、勉強しときなさい」

 みづほの言葉が俺の立場を語っていた。

 まあ、中継もされるそうだし、みづほがくじ引くのはビジュアル的にいいよな。


 みづほと安田が帰ってきたのは、練習の最中だった。

「ただいまぁー」

「お疲れさん。どうだった?」

 みんなでトーナメント表を見つめる。


「ラッキーだったよ、一回戦不戦勝」

「おー、でかした。で、初戦の相手は?」

「瑛城だって。で、愛菜ちゃんのガッコがこんな近くに」

「都立広瀬な。二回戦勝ったら、もしかすると三回戦で当たるのか。うちの山、シード校ないの?」

「うん、五回戦までない」

 みづほのくじ運、相当いいな。


「で、そのシード校が……」

 第一シード、明王大附属。兄貴のチームだ。

 兄貴んとこ、春の新人戦で準優勝して頭角を現してきた。思いっ切り優勝候補だ。

「カイ兄ちゃんと兄弟対決、出来たらいいね」

 みづほが眩しく微笑んだ。

 ベスト16に行くのは大変だけど、みづほと一緒ならやれそうな気がする。


 その前に期末テストだ。ああ、気が重い。


 ホントは新入部員をもう二人入れる予定でしたが、彼らを三年間補欠にするのは忍びなく、しばらくは10人でやっていくことにしました。

 スワローズ選手の実名を拝借した弊害が来てます(^-^;

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