認定試験3(最終試験)
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二回表。守備位置は変わって、ファースト佐藤さん、セカンド山野さん、サード相楽さんとなった。ショートはみづほのまま。
先頭打者は2番の早坂さん。強い当たりのサードゴロを、相楽さんが弾いてしまう。
みづほのバックアップが早かったので、早坂さんは一塁止まりで済んだ。
3番の神崎さんは、送りバントを選択した。巧いバントだ。
ダッシュした佐藤さんが今度は落ち着いて捕球し、一塁カバーの山野さんに送球する。1アウト二塁。
4番の栫さんの打席。後攻チームの男子ピッチャーは、球速こそ130㎞/h近く出ているが、球種はほぼストレート、しかも真ん中から外角寄りにコースも集中しているので、狙い球は絞りやすい。
栫さんが鋭く振り抜くと、打球は低い弾道でピッチャーのグラブを弾いた。
そのまま角度を変えて上がった打球はセンターに抜けようとする。
みづほが駈け寄ってくる。ジャンプ一番。捕った。一瞬の出来事だった。
着地とほぼ同時にセカンドの山野さんにトス。カバーが遅れた山野さんは、ボールを受け取るとダイヴして、グラブで二塁ベースにタッチした。
二塁ランナーの早坂さんは、必死に帰塁したが間に合わない。アウト、ダブルプレー成立。
球場から静かな拍手が湧き起こる。
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二回裏、みづほの打席。
守備位置変更。ファースト神崎さん、セカンド早坂さん、上杉さんはサードに入った。
みづほを見て、栫さんの顔つきが変わる。マウンドでキャッチャーと入念な打ち合わせの後、投球練習を開始した。
あ……
栫さんの投球に、球場がざわつく……何だ、今の球は?
もう一球投げる時に、球の握りを確認する。
ナックルだ!
栫さん、ナックルボーラーでもあるのか!
ナックルはかなり特殊な球で、無回転のボールが揺れながら不規則な変化をする。投げた本人にさえ、どこに行くか分からないボールだ。
金属バットなら多少芯を外しても、力づくで持っていくことは不可能ではない。
だが、ミートポイントの少ないみづほの木製バットでは、かなりの苦戦が予想される。
……間違いない。栫さんは、ナックル一本でみづほを打ち取るつもりだ。
栫さんとみづほの対戦は、女子同士とは思えないほど緊迫したものになった。
初回にナックルを封印していたのは、ギリギリまで奥の手をとっておくつもりだったのだろう。その証拠に、栫さんはみづほに対し、ナックルしか投げてこなかった。
コントロールもついている。10球投げたうち、ボールになったのは大きく曲がり過ぎた2球のみ。
受け慣れていないキャッチャーがポロリと落球する。
そして、残りの球を、みづほはすべてカットしてファウルで逃げた。
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俗に「妙な変化球は変化する前に打て」と言われるが、ナックルにそれは当てはまらない。
本物のナックルの場合、ボールが無回転のままやってくるので、バッターに到達する頃には、すでに激しく揺れているのだ。
ついでに言うと、普通の変化球は、しっかり引きつけて自分のタイミングで打った方が、ずっと良い。
正直、みづほもよく空振りせずについて行けるもんだと思う。
なにしろ、同じように投げても、ボールに受ける抵抗の違いでまったく違う球になるんだから。
あのミート力のあるみづほが、ボールをバットに当てるのにさえ苦労している。栫さんのナックルは、きっと本物だろう。
そして……みづほは、本当に楽しそうに、眼を輝かせて笑っていた。
打ち取るチャンスは、あった。
12球め。みづほの打球はふらふらと一塁側ファウルゾーンに飛んでいった。
ファーストの神崎さん、セカンドの早坂さん、ライトが追う。ファーストのボールだ。
神崎さんは、捕れなかった。変なドライブがかかっていたせいもあったが、打球はグラブの土手に当たって、ポロリと落ちた。
そして18球め。
「ボール。フォア」
四球。栫さんは、ついに力尽きた。命拾いしたみづほの粘り勝ちだった。
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さて。栫さんのナックル封じだが、それはたった今、みづほが実践した。
「何がなんでも出塁すること」である。
ナックルは非常に特殊な球で、まず球速が遅い。栫さんの場合、70km/h台だろうか。
握りも特殊でクイックしづらい、おまけに捕手も捕りにくいと来れば、盗塁を防ぐ手立ては難しい。
ナックルを投げるとバレたら、まず相手は走ってくる。どうしても比率を減らさざるを得ないのだ。
かつてメジャーリーガーが「ナックルを打つのは、フォークでスープを飲むようなものだ」と評したことがある。
それだけ本格的なナックルを打つのは難しい。
打者側としては、ナックルの合い間に投げるカーブやストレートを狙っていくことになるだろう。
栫さんとしては苦しいマウンドになった。ノーアウト一塁、相手は男子選手となる。
規定の2イニングを投げ終えるには、残り五人で3アウトをとる必要があり、出来なければ九人め終了の時点で、これまた規定により降板となる。
クイックモーションで第一球、カーブでストライクを取った。
少しホッとした顔をする。
牽制を入れて、第二球。みづほが動いた。投球動作と同時に、二塁に向かって走り出す。
ナックルだ。ストライク。捕るのがやっとの捕手は投げられない。
みづほ、盗塁成功。
第三球もナックルでストライクのコース。打者は手を出さざるを得ない。
ただ、このケースは進塁打でOKなので、無理せず一塁方向へ軽打した。
ファーストゴロ。みづほは三塁に進み、1アウト三塁、得点の好機である。
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それにしても……
それにしても、だ。
栫さん、すげえいいピッチャーじゃないか。
対戦したくて、うずうずする。
これでストレートがあと10km/h速かったら、打ち崩す自信は、到底ないだろう。
次のバッターに対しても、ナックルを軸にしたピッチングだった……キャッチャーの後逸が怖くないのだろうか。ナックルに対して、相当の自信があるようだ。
球速が遅い分、スクイズは警戒すべき局面だが、ファーストの守備位置が中途半端に感じる。
案の定、1ボール1ストライクからの三球め、ナックルをスクイズしに来た。
慌ててピッチャーとファーストがダッシュ。何とか処理するがホームは間に合わない。
スクイズ成功、ノーヒットで1対1の同点となった。
しかし、これで2アウト。
規定の2イニングまで、もうひとりとなった。
7人めの打者に対して第一球。ここに来て初めて、ナックルがすっぽ抜けた。
この回だけで、みづほに対する18球を含め、ナックルを立て続けに20球以上投げているのだ。
栫さんに疲労の色が現われはじめている。
「あいなちゃーん、がんば!」
「がんばってー、栫さんっ!」
両軍の女子から声援が飛ぶ。みづほも叫んでいた。
第二球も、ナックル。見送られボール。
第三球はストレート。100㎞/h台の本来なら打ち頃の球だが、超遅球のナックルの後だけに、速く感じたのだろう。少し振り遅れてファウル。
第四球。意地でもナックルを投げてくる。変化が少なくなったのか、はじめていい当たりが出る。打球は三塁線を襲うが、惜しくもファウル。
第五球、またもナックル。しかし力がない。
充分に引きつけて振り抜いたバットが、ボールを捉える。
またも三塁線を強烈なゴロが襲った……しかし「いい処に守っていた」上杉さんの、真正面。
きっと読んでいたのだろう。あらかじめライン際に守備位置をとっていたようだった。
上杉さんは頑張った。腰を落としてグラブを差し出す。打球の勢いを殺し切れずボールを前に落とすが、それを拾い上げると、懸命に一塁へ送球した。
間に合うか……間に合った!
ぎりぎりのタイミングだったが、これで3アウトチェンジ。
この日いちばんの歓声が球場を覆った。
「よっしゃー!」
マウンドでガッツポーズの栫さん。
鳴りやまぬ拍手の中、ハイタッチをしながら、じゃれ合うように先攻チームの女子選手たちが帰って来た。
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三回表。
降板した栫さんは、クールダウンのため一足先に試験終了、代わりに山野さんが後攻から先攻チームに移動した。純粋にバッティングの打席数確保のためである。
山野さんは先頭打者として、早速バッターボックスへ。
後攻チームの守備はファースト相楽さん、セカンド佐藤さん、ショートみづほ。
本職のポジションを守った佐藤さんは、巧かった。山野さんの打ったセカンドゴロを危なげなく捌く。
上杉さんも完全な振り遅れ。打球はセカンドへ。
佐藤さんは少し前に脚を進めながら捕球し、スローイング。
安定感のある、手慣れた守備だ。
早坂さんはレフトフライで3アウト、チェンジ。
三回裏、後攻チームは三人となったので、佐藤さん、相楽さん、みづほの打順となる。
対して先攻チームの守備は、投手が男子選手に代わり、上杉さんが専門のセカンドに入る。
以下、ファースト相楽さん、ショート山野さん、サード早坂さん……これは若干不安がある。
先攻チームは、男子選手と上杉さんが守備の要だった。
男子選手が抜け、上杉さんがセカンドに回ったことで、不慣れな三遊間に大きな穴が出来ることが予想された。
先頭打者の佐藤さんも、そこを狙っていたようだ。外寄りのボールを踏み込んで、強引に引っ張っていく。
やや弱い打球がショートへ行った。山野さんが前進して捕球する。
捕球は大丈夫。しかし、送球がどうか。体勢が充分でなかったのか山なりの送球になり、間に合わなかった。セーフ。
相楽さんの送りバントは小フライとなり、失敗。1アウト。
みづほの打順。当然、ヒットになる確率がいちばん高いところを狙っていくだろう。
バットが一閃し、鋭い打球が大きく空いた三遊間を抜けていった。
1アウト一二塁。二塁ランナーの佐藤さんに代走が送られ、佐藤さんのアットバットとなる。
佐藤さんの左狙いは徹底していた。
打球はサードの真正面だったが、捕球を焦った早坂さんがトンネル。
更に中継の山野さんが投げたバックホームが大きく逸れて、二塁走者が生還、1アウト一三塁となった。
先攻チーム、そしてふたりにとって痛いタイムリーエラーだった。
三塁代走で相楽さんの打席。無理やり引っ張りに行こうとしてフォームを崩し、空振り三振。
……厳しいことを言うが、自分の力量を直視せずに形だけ真似した結果である。自分のバッティングに徹した方が、まだ良かっただろう。
守備機会のなかった上杉さんだったが、最後に好プレーがあった。
みづほの右中間二塁打で1点追加。
さらに代走の一塁ランナーが三塁を回り、ホームを狙った。
中継に回った上杉さんがライトからの返球を受け取り、振り向きざまにバックホーム。送球はキャッチャーのミットにストライクで吸い込まれ、本塁タッチアウト、3アウトチェンジ。
見事な中継プレー。拍手の中、攻守交替となり、最終回に向かう。
また終わりませんでした><パート4に続きます。




