認定試験2
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「ほい、お疲れさま。ボトルの中味補充しといたぞ」
汗でびっしょりのみづほに、タオルと飲み物を渡す。
「ありがとうちーちゃん。あー、気持ちよかったぁ」
満面の笑みだ。
ああ、あれほど巧かったら、ノックだけでもそういう感覚になるんだろうな。見ていた俺も、本当に気持ちよかった。
ユニフォームを脱いで汗を拭いていたみづほだったが、やがてスポーツバッグを開けて替えのアンダーシャツを取り出した。
……嫌な予感がするが。
「おいっ、そこで脱ぐなよっ」
ああ、遅かった……すでにみづほはスポーツブラ姿になって、あろうことかブラに手を入れて、胸をタオルで拭いている。
乳が半分見えてるじゃねえかよ……近くの人がぎょっとした視線を送り、慌てて目を逸らす。
お前さあ。体は意外に女の子してんだから、もう少し自覚しろよ。
「みづほ……たくさん人がいるんだから、せめてベンチ裏で着替えなよ……」
「うん。じゃあ、ブラも替えてこよっと。汗かいちゃった」
みづほはスポーツブラのまま、アンダーとブラを持ってベンチ裏の控室に駆けていった。
……あいつ、変なとこで、まだ子どもだ。
「みづほちゃん。ちょっと」
グラウンドに戻ってきたみづほを、少し怖い顔をした上杉さんが呼び止めた。
三年生のお姉さま方がみづほを取り囲み、何やら話している。
「どした?」
少しシュンとした顔のみづほに話しかける。
「女の子が人前で裸になっちゃいけません、て……スポーツブラはセーフですよね、て訊いたらもっと怒られた……」
上杉さんたちと目が合ったので、深々とお辞儀した。三年生の皆さん、どうもありがとうございます。
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バッティングの試験も、一次試験が下位の選手から始められた。ピッチングマシンの球速は130㎞/hに設定されているそうだ。
男子高校生のエース投手が投げる平均値よりも少し速い。
全15球。真ん中が主体だが、ある程度左右にボールを散らすこともできる。
2球ほどカーブを混ぜる、とも予告された。
女子プロ野球で最速125㎞/hと聞いたことがある。
俺にとっては、まったく速い球ではないが、女子にとってはどうだろうか。
案の定、ヒット性の当たりを打つのに苦労している選手が多かったが、四番目に登場した希望ヶ丘の早坂さんの打球が凄かった。
体はちいさいのに、全球フルスイング。
スイングも安定していて、外野の深いとこまで楽々と持っていく。
対して、上杉さんは非力さを露呈してしまった。前に飛ばすのがやっとのバッティング……明らかに筋トレ不足だと思う。
逆に、モデルのような華奢な体つきで、身体能力だけでここまでやれるのだから、凄いなとも思うし、勿体ないとも思う。
緑陵高校では水谷先生の提唱で、練習後に筋力トレーニングを取り入れている。
野球の練習は、日没と同時に終了。
練習場にナイター設備はあるにはあるが、予算の都合上使ったことは一度もない。
当初は、日没後は走り込みに集中していたが、やがて水谷先生が切り出した。
「みんなのレベルアップには、筋トレは欠かせないわよ」
先生の大学時代の専門は、トレーニング理論。パワーだけでなくスピードを上げる筋トレの方法もあるとのことで、大屋監督も賛同した。
高校のトレーニングルームは共用。同じことを考えている部は多数あり、半ば取り合いになった。
水谷先生の活躍で、トレーニングルーム使用のスケジュールが各部毎に割り当てられ、俺たちはボール磨きやグラウンド整備をしながら、交替で筋トレに励んだ。
残りの時間を自主練習や走り込みに費やし、日々鍛錬。
ベンチプレス30㎏がやっとだったみづほも、水谷先生の指導であっという間に50㎏を上げられるようになった。
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パワーアップしたみづほの、バッティング試験。手にしているのは、愛用の木製バット。
「よろしくお願いします」
ヘルメットを取ってお辞儀をし、バッターボックスへ。
口をすぼめ、ふーーっと長く息を吐き、バットを構える。
マシンが腕を伸ばしてボールを投げてきた。
ど真ん中、ストレート。みづほは楽々と芯に合わせる。
ジャストミートした打球は、センター奥のフェンスにダイレクトで当たった。
その後は、基本に忠実なバッティング。
内角は引っ張ってレフト前、外角は流し打ってライト前に、丁寧にヒットゾーンに打ち込んでいく。
ボール球や難しいコースは見送る余裕さえあった。
2球あったカーブは、わざと狙い打つように強振。レフトオーバーで、二球めはレフトスタンドに叩き込んだ。
力通りというか、上々の結果だった。戻って来たみづほと、笑顔でハイタッチ。
「ナイスバッチ」
「嬉しいなー。飛距離伸びてるよねっ?」
ちなみに、受験生でフェンス越えを放ったのは、みづほと早坂さんだけだった。
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いよいよ、最終試験。最後は実戦形式で行われる。
受験生を二チームに分けて、残りはボランティアの男子選手を交えて対戦、の予定だったが……
問題が生じた。
女子選手のポジションがピッチャーひとりにセカンドが7人。
一度に全員をセカンドで守らせるわけにはいかない。
どうするかと思っていたら「全員が1イニングずつセカンドを守り、他のイニングは別のポジションに就く。投手は2イニング終了あるいは打者9人まで。四回表で試合終了」とのことだった。
妥当な決断だと思う。野球の守備は、守備機会を見るだけではない。バックアップや守備位置、中継プレーなど、ボールが飛んで来なくても、やるべきことはいくらでもあるからだ。
本来の動きは、専門のポジションでやり慣れてこそのものなので、まずはそれをチェック。
他のポジションの守備では、全般的な野球知識を駆使して、どれだけ動くことが出来るか。
さらにバッティングでは、相手投手の活きたボールにどれだけ対応できるか、などなどを見るのだろう。
四人ずつ二チームに分かれ、プレイボール。みづほは後攻側に回ったので、ショートの守備に就く。
どうやらセカンドを守る順番でチーム分けをしたようだ。例によって、一次試験の下位から、順番は固定している。
みづほのチームは8、6、4、1位。
相手チームは7、5、2位に、3位の栫さんが投手で投げる。
トップバッターの上杉さんを除いた、栫さん、早坂さん、神崎さんの三人が、ベンチ前で円陣を組んでいた。
「これが私たちの甲子園よー!頑張っていこー!」
「ファイトーぉ」
「おー!!」
いいな、あの掛け声。
後攻チームは、セカンドが一次試験8位の相楽さん。ファーストに6位の山野さん、サードに4位の佐藤さんが入った。
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プレイボール。バッターボックスに上杉さんが入る。この変則試合は、打順も変則的だった。
先攻チームは男子投手が相手なので、女子四人で打順を回す。男子は守備だけの参加。
攻撃は四回なので、最低三回は打席が回ってくる計算になる。
対して後攻チームは、栫さんが投手として投げるので、二回裏までは、男子も打席に入る。
三回裏からは女子のみの打撃。
ただ、試合が四回表で終了なので、打席数が三打席になるまではエクストライニングを設け、男子選手チームと対戦する……という複雑なルールだった。
後でみづほから説明を聞いたが、俺は未だによく分かっていない。
ショートに入ったみづほは、やや浅めの守備位置をとっている。守備範囲はやや狭くなるが、確実にアウトを獲ろう、との構えだ。
もちろん、バッターの上杉さんのスピードも考えての事だろうが、最大の理由は、やはり肩なのだろう。
『あたしの肩じゃあ、もうショートは出来ないよ……』
先日の昼休み、みづほが俺に言った言葉を思い出し、少し哀しくなった。
後攻チームの投手は、なるべく打たせて取るよう気を使って投げているのが、ありありと分かった。上杉さんの打球は平凡なセカンドゴロ。
いきなりの守備機会で緊張したのか、相楽さんがやや危なっかしいながらもアウトにする。
2番の早坂さんは、レフト前のクリーンヒット。さすがだ。
3番の神崎さんの打席。ボテボテのショートゴロをみづほが前進してキャッチ。
ダブルプレーはこの守備陣では無理だろう。二塁に投げようとする。
「ファースト!」キャッチャーからの指示。
相楽さんの二塁へのカバーが遅い。やむなく一塁へ送球、2アウト二塁。
ちいさな守備の乱れが連鎖したようだ。四番の栫さん、強めのサードゴロを佐藤さんが前に弾く。
落ち着けばまだアウトにできるタイミングだったが、佐藤さんは焦って一塁へ悪送球してしまった。
ライトのバックアップも空しく、早坂さんの生還を許す。
先攻チーム、1点先制。
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一回裏、後攻チームの攻撃。注目の、栫さんの投球だ。右のオーバースロー。
トップバッターは佐藤さん。
残りの山野さん、相楽さん、そしてみづほが肩を組み合っている。
山野さんが纏め役になっていた。
「なんて言おうかしら、相手にいいの言われちゃったし。でもみづほちゃんには、ホント感謝してるの。みづほちゃん居なかったら、私たちきっと、こんな試験してもらえなかったと思う」
「そんな、あたし何もしてないですよ」
相楽さんが笑って、頚を横に振った。
「そしたら私たちは、みんなにありがとうを言おうかな、そして、頑張ろう」
「はい!」
「じゃあ、いくよ……せーのっ」
「ありがとう!」
「そして」
「がんばろう!!」
先攻チームの守備は、ピッチャー栫さん、ファースト早坂さん、セカンド神崎さん。
ショートに上杉さんが入っている……ほぼ定位置だ。肩に自信があるのかな。
栫さんの投球練習をじっと見つめる。球速は100から110㎞/hてとこかな。正直速くは感じない。
カーブを投げる……おお、結構な落差だ。栫さんはカーブピッチャーかな。
あとはツーシームやチェンジアップなども持っていそうだ。
1番の佐藤さんに対して第一球。大きく曲がるカーブでストライクをとり、栫さんは笑顔を見せる。
第二球もカーブ。佐藤さんは泳がされ、打球はショートへ。
ショートの上杉さんは落ち着いて捕球し、ゆったりとしたフォームで一塁へ送球した。アウト。
これは……足の速い男子だと微妙なタイミングだったかもしれない。
2番の山野さん。栫さんはカーブを見せ球にして、ストレートで勝負した。
緩急をつけられた山野さんは振り遅れ、セカンドゴロ。神崎さんが処理する。2アウト。
3番の相楽さんもピッチャーゴロに仕留め、栫さんは上々の立ち上がりを見せた。
終わりませんでしたw
おまけに、今3書いてますが、まだ終わんないかもですww




