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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
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五月の蒼い風2


「ああ、腹減ったなぁ」

 昼休み、屋上でみづほと待ち合わせ。

 みづほのヤツは俺に弁当を持たせてくれなかった。

 ちーちゃんパパの分も作ったからお弁当箱が足りなくなったの。二人分を重箱に詰めるから一緒に食べよ、だってさ。

 今朝、裸を見られた腹いせではなさそうなのは、少しホッとした。


 ちーちゃんパパと言えば、みづほの手作り弁当を貰って大喜びだった。

「いやー大事に食うよ、ほんとにありがとう」

「んーと、玉子焼きとかソーセージとか、簡単なのばかりですから」

「今夜はお土産に美味しい寿司でも買ってくっから、みんなで食べようなっ!」

 親父のヤツ、チョー上機嫌で出社していった。

 海老で鯛を釣る、とはまさにこのこと。とりあえずでかした、みづほ。


「お待たせー」

 大きめの包みを持ってみづほが現れた。

 いそいそと俺の隣に腰かける……そんなくっつくなよ、人が見てるだろ。

「おべんと、おべんとー♪」

 ダメだ、まったく聞いてねえ。鼻唄混じりに包みを膝の上に乗せて開く。

 ご飯を詰めたタッパーがふたつあり、その大きい方とお茶のペットボトルを渡された。

「はい、ちーちゃんの分。タッパーを受け皿代わりに使ってね」

「おう」

 タッパーを開ける。ご飯の上に海苔が敷き詰めてあって、その下にあるのは……

「刻みシイタケ入りのそぼろよ。干しシイタケを使って、その出し汁で煮たの」

 そうか。とにかくそぼろということは、分かった。


 みづほは、俺が食べやすいよう斜めに座り直し、おかずの入った重箱を開けた。

「おお、美味そうじゃん」

 俺が分かるのは玉子焼きにソーセージ、豚肉の下に野菜が敷き詰めてあるの。

「えへへ。待ってね、豚しゃぶ風サラダにドレッシングかけるから」

 いや、悪いが腹が限界だ。みづほがドレッシングをかけてる側から箸を伸ばし、玉子焼きとソーセージを頬張りながら飯をかき込む。

「いただきまふ、もぐもぐ」

「あーっ。ま、いいや……味はどう? 薄すぎない?」

「うん、ふん、ふまい」

 ちょっと待ってろ。今、食うことに集中してる。

 みづほは怪訝そうにしていたようだが、俺の食うスピードを見て、気持ちに折り合いがついたらしい。

「いただき、ます」

 眼を閉じて箸を持った手を合わせ、ゆっくりと弁当を突つきはじめた。


 ふう。

 腹の虫がしずかになり、ようやく俺に人間的な感情が戻ってきた。

 改めて重箱のなかを見る。ずいぶん食っちまったような気がするな……

「みづほ、お前きちんと食えてるか?」

「大丈夫だよ。ちーちゃんたくさん食べてくれて、嬉しいな」

 ホントかな。みづほの表情からは穏やかな歓びしか読み取れない。

 もっと食おう。

「このそぼろ、味が染みてる。何というか……美味いよ」

「そーお? 嬉しい」

「玉子焼き、きれいに巻けてるよな。みづほが焼いたの?」

「このくらいできるわよ。あたしだって一応女なんだから」

 ああ。女ということについては、今朝で散々分からさせてもらった。


 かなりの量があったはずだが、完食するのに10分かからなかったと思う。

「ふーっ、食った、食った。ご馳走さま。こりゃ明日の弁当も楽しみだ」

「うん、明日も頑張る! ……でもね」

 みづほが片づけをしながら、頬を少し赤らめて口ごもる。

「ちーちゃん、明日来るのは6時にしてね……」

「うん……悪かった、いきなりやって来て」


 みづほの認定試験まで、一週間を切った。

 野球部の練習も、中間試験のテスト休み期間直前ということもあったが、みづほの試験に向けて全面バックアップ態勢をとってある。

 といっても、いつもとそんなには変わらない。体調の調整や調子の維持が主体だ。

 元来が、みづほを試合に出すために作られた特別ルール。

 合格は間違いないんだろうが、万が一とか超どんでん返しとか、何が起きるか分からないのが世の中だし、野球だ。


 屋上から見上げる空はどこまでも蒼い。

 俺たちの上に暗雲が立ち込めないことを切に願った――

 夏に向かって、この蒼空が続きますように。


「なあ、みづほ」

 俺の顔をみたみづほがハンカチを取り出し、俺の口もとをそっと擦った。

「ちーちゃん、ドレッシング付いてる」

「お、さんきゅ……50m走のタイム、いくつだった?」

「あ、こないだタイム取ってたやつね? 調子いいわよ。コンスタントに7秒きる」

 道理で陸上部のヤツが執拗に勧誘に来るわけだ。

「いいじゃん。遠投は?」

「平均で85mくらいかな。でもあれって、肩の強さよりフォームの問題だよね」


「じゃ、一次試験は楽々通過だな」

「でもね……」

 微笑みかける俺に、みづほはかるく息を吐いて空を見上げる。

 持っていた弁当の包みを傍らに置くと、膝を曲げて体育座りをした。少しスカートの裾が気になる。

「あたしの肩じゃあ、もうショートは出来ないよ……少し深いと高校レベルじゃアウトに出来ないもん」

 組んだ腕の上に、顎を乗っけている。

「男女の体力差って、つくづく思い知らされるなあ。純粋なパワーだけで考えると、チームの誰にも勝てなくなってる。野口くんとか竹本くんとか、伸び代どんだけあるんだろ。羨ましいと思うよ」


 みづほは、緑陵野球部では、もっとも完成された選手だ。

 しかも、さらに巧くなるための努力をけして怠らないし、どんな時でも絶対に手を抜かない。

 彼女のその姿勢が、チーム全員にどれだけ相乗効果を与えているのだろう。

 完成されたものならではの悩み。それを垣間見た気がした。


 かける言葉が正直見当たらない。

「……みづほの守備は、超一流だよ」

「ううん、分かってるの。今のあたしの守備は、ちーちゃんのサポートがあってこそよ。捕球はまだまだ頑張れるけど、スローイングは限界が近い、かな」

 みづほの顔は、少し笑っているように見えた。

「あたし、ちーちゃん無しでは生きていけない体にされちゃったの」

「そっ、それ、結構誤解を生む言い方だぞっ」

 『されちゃった』て何だよっ。俺、みづほの体には干渉してないぞっ。

「うふふっ」

 みづほは立ち上がると、昼の光に照らされながら、踊るようにくるりと一回転まわった。

 スカートがふわりと翻り、その眩しさに、俺は思わず視線を逸らして俯いた。

「友だちにそれ話したら、チョー受けたの」


 舞い上がったスカートが降りてくる。

 逆光を浴びてみづほは微笑んだ。

 後編です(#^.^#)

 次にいよいよみづほの試験です^^

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