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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校一年生編
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入学~チームの船出


「んまー! みづほちゃん、すごく可愛い! 制服似合ってるわよ」

「またまたぁ。お母さん、言い過ぎよぉ」

 緑陵の制服に袖を通したみづほが、かなりのテンションでお袋とはしゃぎ回っている。

「ううん、ううん、ほんとに。私、こんな可愛い娘がいて幸せよー、産んだ覚えはないけど」

「うふふっ。あたしも嬉しい、親孝行ができて」


 ふたりのかなり壊れた会話は別にして、みづほの制服姿はよく似合っていた。

 前身の桜陽女子の制服がおしゃれで評判だったので、それを踏襲したデザインだそうだ。

 緑陵のスクールカラーである鮮やかな緑色を基調にして、ワンポイントに桜陽の桜色を使っている。

 制服には、それ相応のヴァリエーションもあるそうだが、今日のみづほの出で立ちは、褒め過ぎを怖れずに言えば、桜の精がそこに顕れたようだった。


 今日は、新生緑陵高校の、入学式。

 いつもは自転車通学の予定だが、本日は父兄と一緒に最寄り駅からスクールバスで向かう。

 みづほの父親もバシッとスーツ姿で決めて、今日は一緒だった。


 かなり早目の時間だったので、バスはまだ空いていた。

 余っている二人掛けの席に腰を下ろすと、当たり前のようにみづほが隣に座ってきた。

 ――いつもと違う、清潔な匂いがしてくる。制服が変わっただけで、みづほが一気に大人っぽくなったような気がした。

「ちーちゃん、ネクタイ曲がってる」

 みづほの腕が伸びて、俺の制服を整えてくれる。

「さ、さんきゅ」


「なあ、みづほ」

「ん?」

「母さんが娘だどうだ、て言ってるけど、気にしなくていいからな?」

「何言ってんのよ」

 みづほの顔がぐい、と近くに寄ってくる。

「ちーちゃんのお母さんは、あたしのお母さんよ?」

「えっ? どうして?」

 今度は俺が訊き返す番だった。

「だから、育ての親。あたしが何度、お母さんの手料理もお弁当も食べたと思ってるのよ。今のあたしがあるのは、お母さんのお陰よ」

「ああ、そうか……」

「お父さんと、ちーちゃんパパのお陰もあるわね」

 ちーちゃんパパって言葉聞いたの、何年ぶりかなあ。


 野球部の面々と会うのは、実は一週間ぶりだった。

 三月末で野球部の練習はいったん終わり、四月初旬は入学の準備期間に充てられた。

「あなたたちは野球部員である前に、緑陵高校の学生だからね……最近野球しかしてないけど、そこんとこ忘れないでね」

 練習最後の日、水谷先生が俺たちに話し、ちいさな笑い声が漏れた。


 クラス編成の貼り紙で名前を探す。

 生徒数が増えたとは言え、一学年300名弱の中規模校だ。一年はA~Hの8クラス。

 みづほはA組。全部で25名しかいない。

 あからさまにはしていないが、これが特進クラスというヤツかもしれない。おそらく、学業面での専願推薦と、入試での成績優秀者が集められたのだろう。

 それだとしたら、みづほ、やったな。最初の関門はクリアだ。


 俺はH組。

「ずいぶん離れちゃったね」

 みづほが残念そうな声で話す。

「ああ」

 分かるヤツには分かる、かなり露骨なクラス編成だ……安田をはじめ、スポーツ推薦組が、ごっそりいる。

 まあ考えようによっては、野球に集中した環境でこれからの生活を送れるのかもしれない。

 ちなみに、一般入試組の度会や志田は、他のクラスに散らばっていた。


 入学式の時に気づいてはいたが、元女子校だけあって、生徒のほとんどが女子だ。男子は50名弱だろう。

「部員集めに苦労しそうだな」

 同じく今年から新設された男子サッカー部の笹田と、苦笑し合う。

 笹田ももちろん、H組だ。

「お前らはまだいいよ、九人だし。うちは下手したら、一年目は合同チームだよ……ま、それを覚悟で来たんだけど」




 野球部の新メンバーだが、志田の友だちだった竹本は、三月のうちに練習に数回やって来た。

 自ら志望するだけあって、なかなかの体格をしている。これは期待できそうだ。

 みづほの存在には少なからず面食らったようだが、まずは水谷先生の組んだ初心者用メニューをやってもらう。


 根来の出身中学で野球部をしていた有沢は、入学式の次の日に、入部届を出しに来た。

 安田と根来の説得に、ようやく決心がついたようだ。

 確かに背は小さかったが、けして鍛えてない体ではなかった。


 このふたりの入部は大きい。

 これで計10人……怪我人さえ出なければ、単独で試合がぎりぎり出来る人数だ。

 不完全ながらも、チームとしての体裁は、なんとか整った。


 昼休みに、俺と安田が監督室に呼ばれた。

 新チームの主将に俺、副主将に安田を指名したい、という話。

「主将ですか……経験がないので、正直何をすればいいのか分からないんですが」

 千秋せんしゅうシニアクラブでは主将を設けていなかった。

 試合では俺とみづほがゲームリーダーの立場で、チームを引っ張っていく体制だった。


「大きなチームでは、監督やコーチの考えを選手に説明したり、選手の足並みを揃えて同じ目標に向かって進めるよう、チームを纏める役だね。副主将は、主将を補佐する」

 大屋監督が説明した。

「うちのチームは年齢の上下関係もないし、俺と水谷先生のふたりで全員に目が行き届く人数だ。チームの代表くらいの気持ちで受けてほしい。もちろんチームの纏め役は積極的にやってほしいが」


 安田はなかなか首を縦に振らなかった。実力的にみづほを推したい、と言った。

「彼女は特別なことをしなくても、プレーだけでチームを引っ張っていける選手だと思います。みづほが主将でもいいくらいです」

 それが安田の意見だった。


「ふむ……」

 おそらく大屋監督も、選手としての実力だけを言えば、みづほが一番なのを実感しているんだろう。

 そのくらいみづほは突出している。

「君たちクラブチームの子がみづほくんをリスペクトしているのは、知ってる。男女の偏見なく見る目を持っている君たちは素晴らしいし、監督として誇りに思うよ。ただ、ね……」

 俺たちを見つめ直し、監督は言葉を継いだ。

「世間はそう見てくれない。第一、母体の高野連が女子を別枠、異分子と考えて、公式戦の出場を認めていないんだ。みづほくんを、そうした連中の矢面に立たせたくないんだ。女子というだけで差別したり、物珍しく色眼鏡で見る連中……そうだね。主将、副主将の役目に、うちの場合は『みづほくんを護る』を加えてもいいな」

 みづほを護る。一種の殺し文句だと思う。


「まずは今年一年間、引き受けてくれないだろうか。来年度、下の学年が入った時に任期満了だ。君たちに高校の三年間をまるまる背負わせるつもりは、初めからない。どうか受けてくれ」

大屋監督が俺たちに対して、深々と頭を下げる。

 ……大人って、ずるいよなあ。監督にそこまでされたら、俺たちに断る選択肢はない。


 こうして、緑陵高校の野球部は、不完全ながら船出の準備が整った。


 高校一年生編、スタートです。

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