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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
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みづほラプソディ2


「これから塾?」

 涙を拭いているみづほに、そっと訊ねる。

「今日は休みにする」

「それじゃあ、帰ろうか」

「ん」

 思えば、ここんとこみづほは塾に通ってばかりなので、ふたりで下校するのは久しぶりだった。


 校門を出たところで「ちょっといいかな?」と声をかけられ、みづほは名刺を渡される。

 神奈川の私立高校野球部とのことだが……知らない校名だ。

「知ってる?」

「いや……」

 ふたりで顔を見合わせて、小声で囁き合う。


 関係者と名乗る男は、やたら態度が大きかった。

「緑陵?知らないなあ。それよりうちは授業料無料、寮費無料の特待生待遇で迎えたいんだけど」

 いやいや、そっちの高校こそ俺たちゃ知らないぞ。野球全然有名じゃないだろ。


 男が鞄をごそごそ漁って、大量のパンフレットや書類を取り出し、渡そうとする。

「こういういい話はめったにないよぉ。できれば、この場で決めてほしいんだけど」

 何言ってんだ、こいつは……相手が中学生だと思って舐めてないか。

「……行こ」

「おう」

「すみません、高校の勧誘はクラブを通してください」

 みづほはお辞儀をすると駆け足でふたり、その場から逃げた。

「おーいっ! クラブってなんだ?」

 背後から男の声がする。

 まさかあいつ……シニアクラブも知らないでみづほをスカウトしに来たのか?


 おおきな通りの交差点を過ぎ、路地に入った時だった。

「やあ、やっと会えた。遠野みづほちゃんだね」

 男がふたり近づいてくる。嫌なニヤニヤ顔の男たち……ヤバい雰囲気がプンプンする。

 男たちは雑誌の記者だと名乗った。

 名刺を見せて、すぐに胸ポケットに仕舞おうとする。

「すみませんが名刺いただけますか?」

 みづほの言葉に、男は渋面を作りながら、仕舞いかけた名刺を二人分、渡した。

 ……案の定、知らない会社だ。

 いや、右上に書いてる雑誌名……多分エロ芸能誌じゃないか?恥ずかしながらお世話になったことがある。


「みづほ、話聞かない方がいいぞ」

「……えっ?」


 男は委細構わず話しはじめた。

 雑誌の企画に出てほしい、という内容。

 一躍野球界のアイドルになったみづほの、才能の秘密を徹底大解剖する、という話だった。

 野球の専門誌でもないのに……イヤな予感しかない。

「いや、簡単な身体測定とインタビュー、それとプレイしてる写真を撮りたいだけなんだ」

 それのどこが「徹底大解剖」なのだろう。

「もちろん中学生だから服は着てもらうよ。君の企画は裸はなし、だ」


「おい」

 みづほに耳打ちする。

「きっと違うぞ……裸じゃないけどすごく恥ずかしい水着とか着せて、股開かせたりするヤツだ」

「えっ……」

 みづほの顔が、みるみる赤く染まる。


 男のひとりが、俺を見た。

「彼氏も一緒に企画に出ないか?みづほちゃんと写真撮ろう。いい絵になりそうだ」

 男たちが小声で囁き合うのを、確かに聞いた。

「絡みか……」

「いいな、それ……本番行ければ裏で……」

 こいつらいったい、みづほに何させる気だ。


 逃げるぞ。みづほに目で合図をする。ここら辺りの呼吸は、野球でバッチリ掴んでいる。

「すみませんっ、お断りしますっ!」

 みづほがお辞儀をした瞬間、俺が背中で男を押しのけ、道を作る。

「あっ……」

 男たちが一瞬怯んだ隙に、みづほと俺はダッシュで逃げて行った。




「はぁ、はぁ……なぁみづほ、お前毎日こんな目にあってるの?」

 結局怖くて家には戻れず、自宅近くの神社裏に身を隠した。

「うん、最近は毎日じゃないけど……今日のは特にひどかった……」

「でも……やっぱ帰らないとな」

 もうすぐ日が暮れようとしていた。

「うん……」


 人の気配に注意を払いながら、夜に紛れて帰宅する。みづほは余程ショックだったのか、俺の腕を掴まえて離そうとしなかった。

「独りになるの、イヤ……」

 自宅に入ろうとしないみづほ。仕方なく俺ん家に来てもらう。

「そう、怖かったでしょ、かわいそうに」

 お袋が夕食の支度をしながら、ホットココアを二人分、作ってくれた。

「ありがとうございます」

 みづほはココアを少し啜り目を閉じて、ふーっと長い息を吐く。

「ちーちゃん」

「ん?」

「いつも、ありがとう」

 みづほがちょっと疲れた顔で、眩しく微笑んだ。


「みづほちゃんも楽な服に……千尋の洗ったのだけど、着る?」

 少しして、お袋が着替えを持ってやって来た。

「あっ、はい。ありがとうございます」

 着替えを手に取ったみづほは風呂場へ。脱衣場でみづほが着替えている気配を感じる……

「えへへ、ぶかぶかだぁ」

 俺のグレーのスエット上下を着たみづほは、あちこち体を触って感触を確かめながら、すっかり機嫌が直った様子だった。


「あ、そうだ。ちーちゃん、スマホ貸して」

「いいけど、どうして?」

「お父さんに連絡するの」


-----------------------

 from みづほ

 to お父さん

 件名:SOS!


 ちーちゃんのスマホを借りて打ってます

 家には怖くて帰れない 秋山さんちにお邪魔してます


 お父さん! 早く帰って来て!

 あたしもう、限界!!


-----------------------


「このくらい大げさにしとかないと、ね」

 屈託なく笑うみづほ……もう大丈夫、かな。


「あ、お父さん。おかえりー」

 泡食って帰ってきた父親に、みづほがにっこり笑って手を振った。

「みづほっ! お前、いったい……なんだ、よかった」

「でもひどい目にあったらしいぜ、特に今日は」

 腰が抜けたようにソファに倒れ込む父親に、既に帰宅していた俺の親父が真面目な顔で言った。


 俺の家族も含めた、家族会議が始まる。

 議題はもちろん「これからのみづほの安全を考える」だ。


 一部始終を聞いたみづほの父親は、腕組みをしながら「そうか……済まなかった」と謝罪の言葉から始めた。

「世の中にはどうしようもない輩が一定数いるが……それは嫌な思いをしたな。高校の失礼なヤツは、そんないい加減な仕事してたら、すぐにクビになるだろう。雑誌のヤツらも、失敗したな。多分みづほに関わることは、もうないと思う」

「どうしてだ?そういう奴らってしつこいだろ」


 親父の問いかけにみづほの父親が言葉を継ぐ。

「考えてみろよ、みづほは今現在の瞬間、有名人になっている。そんな有名な15歳の娘にいかがわしい事させてみろ。みづほの人生が壊れるだけじゃなく、流通してる雑誌なら大問題になって潰れるぞ。みづほを使った企画自体が成立しないんだよ……俺だったら体育大あたりのよく似た娘を使って、目線を入れて企画を通す。本人にはもちろん黙って」

 親父が口をあんぐりさせて聞いている。

「本人じゃない方が、却って自由度が高まる好例だな。いずれにしても、本人に声かけたのはそいつらの大失敗だよ。当事者に警戒されるから、便乗企画さえ通らなくなってしまった。念のため先方に釘を刺してはおくが、みづほのとこには、もう来ない」

「遠野お前、悪知恵回るなあ……」

「お前ほどじゃないよ」


 エロ雑誌に関しては、みづほはピンと来ない感じだった。確かに、まったく無縁の世界だろう。

「あの人たちは嘘ついて、あたしに何をしようとしたんですか?」

「いや多分な、微妙に嘘はついてないと思うんだ。うーん、口で言うのも憚れるなあ……とんでもない目に遭うとこだった、とみづほちゃんは分かってくれたらいいよ」

 親父の言葉に、みづほの父親が目をつぶって伸びをする。

「ま、そういうことだ」


「エロ本の話は、もういいよな」

 みづほの父親がこれからの事について話しはじめた。

「結論から言うと、さ……みづほ。お前はいつもどおりでいいよ」

「えっ?」

「早朝のランニングも続けていいし、学校も毎日行っていい。塾も通いなさい」


 呆気にとられるみづほに、父親は話を続ける。

「学校に呼び出された後、俺が仕事に戻った理由は有給休暇を取るためだったんだ。俺はしばらく、ずっと家に居る。いちばん危ないのが下校時間と塾の帰りだから、その時間になったら、俺が車で送り迎えするよ」

「……お父さん」


「野球関係者には、選抜大会でみづほの実力は充分に知らしめただろ。問題は一般の人たちだが…スポーツニュースで数回報道されただけ。その後音沙汰なければ、ああそういう人も居たな、くらいで、きれいさっぱり忘れてくれる。今のみづほは、実はその程度のもんなんだよ」

みづほの父親は、みづほをじっと見つめながら話した。

「俺はその期間を、一ヵ月と踏んでいる。一ヵ月間、俺はみづほと一緒にいよう」

「お父さん……」

 みづほが父親を、瞳をうるうるさせて見つめている。


「遠野お前、まるで父親みたいじゃんかよ」

「バッキャロー、日本よりみづほの方が大切に決まってんだろ」

 親父の混ぜっ返しに、みづほの父親が耳を真っ赤にさせて反論する。

「ああ……そうだな。今まで父親らしいことを俺はしなかった……みづほ、すまん」

 みづほがとうとう泣き出した。

「お父さん……ううん、いいの……お父さんはずっと、あたしのお父さんだから……世界一大好きなお父さん……」

「みづほ……」

 俺たちはしばらく、みづほ父娘がしっかり抱き合う姿を見させられる羽目になった。


 みづほの父親の行動は素早く、読みも的確だった。


 早朝のランニングと登校は、俺が一緒に居る。その時間帯に何かあることはなかった。

 校内でもできるだけ、みづほを独りにはさせなかった。俺や度会、それとレッズ女子たちが積極的に力になってくれた。

 下校時刻になると、塾に行く時間。

 レッズ女子たち、それと度会がみづほと一緒に裏門まで行く。そこから父親の車で、塾へ。

 度会はみづほのために、自分の通う塾を変えてくれた……緑陵志望の度会は、みづほと同じカリキュラムなのだ。

 みづほの父親は、送迎する人数が多いとみるや、車をバンに替えた。

 塾までみづほたちを送り、契約した駐車場でみづほの帰りを待つ……という状況が続いた。

 

 元々、真面目にトレーニングを続け、真面目に学校に通い、真面目に野球をしてきた毎日を続けていたみづほである。

 そんな地味な日常に、つけ入る隙は見つかりはしない。

 みづほの父親が言った通り、一ヵ月もするとみづほの周囲は静かになっていった。


 その一ヵ月の間に体育祭があったのだが、幸いなことに、何事も起こらなかったようだ。取材についてはすべて断っていたし、隠し撮りは防げないが、どこも記事にはしなかった。

 あるいは、俺たちは知る由もないが、みづほの父親が何かしら手を打ったのかも、しれない。


 エロ雑誌の部分を詳しく書き過ぎたので、一部省略w

 そういうお話じゃないのにね……悪い癖です(^-^;

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