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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
15/297

進路

 クラブ選抜戦。本当に得難い経験をした、と思う。


 懸命の近畿の守備も追いつかず、ショートとセンター、レフトの三人の真ん中にポトンと落ちた、俺の打球。

 手を叩きながら本塁生還を果たす、みづほ。そしてそれが、決勝点となった。

 ベンチのみんなとハイタッチした後に、みづほが俺に向かって大きく手を振る。

 その時のみづほの、泣き笑いの表情。


 七回表、最終回を三者凡退で切って落とした、マウンドの桐谷のガッツポーズ。

 優勝の瞬間、グラウンドに駆けて行く東京チームの選手たち。


 櫻田と堅く交わした握手。

 練習を切り上げて全員で応援に来てくれた、千秋クラブのみんな。

 関根監督に、俺の親父お袋……みづほの父親の姿もあった。


 目を閉じただけで、決勝戦の場面が次から次へと、鮮明に浮かび上がってくる。


 こうしてクラブ選抜戦を戦ってきて、新たに芽生えた感情がひとつあった。

 俺はみづほと、これからも一緒に野球をしていたい。

 これで終わりにしたくはなかった。

 みづほが高校でも野球を続けるのならば、一緒の高校でチームメイトとして、もっと側に居たい……という感情だった。


 お祭り的な大会とはいえ、シニア日本一のレギュラーだった。すこぶる気分はいいが、週が明けてみれば待っていたのは、いつもとほとんど変わらない中学校の日常だった。

 野球のクラブ活動は、学校の部活動とはまったくの別枠なのだから、当然と言えば当然。

 優勝した直後、俺とみづほに、関根監督がしてくれた最後の訓話を噛みしめる。


「秋山くん、遠野さん。まずは、おめでとう。君たちが為し得たことは、誰でもできるような簡単なものではありません。しかし大きな世の中から見れば、君たちは単に、野球で勝っただけです。それ以上のものじゃあ、決してないんです。何か大きな仕事に成功すると、自分が偉くなったように思う人がいますが、それは大きな勘違いです」

「はい」

「はい」

 俺もみづほも、姿勢を正したまま、関根監督を見つめた。

 監督は伏し目がちに、しかし淀みなく話す。

「まずは、大会に関わった皆さん、そしてチームメイトに感謝をしなさい。自分ひとりの力で得た勝利じゃない事は、重々承知しているはずです。君たちは優秀な野球選手ですが、世の中には君たちよりも凄い人は、いくらでもいます。野球がうまいことを理由に甘えたり、驕ったりせずに、これからの将来を歩んでください」

「はい」

「はい」

「……楽しみに、してますよ」


 監督の言う通りだと思う。野球がなければ俺はただの中学生だ。

 みづほの助けもあって活躍できたとは言え、選手としてさえ、俺はまだまだだろう。

 天狗には絶対ならない。

 自分にそう言い聞かせながら、俺は退屈な授業を大人しく受け、休み時間には友達とバカやって過ごした。




 だが、みづほは、周りがそうさせてくれなかった。


 話は今朝に遡る。

 リトルシニア選抜大会は、ケーブルテレビで放送中継されたが、その親会社である全国ネットのテレビ局が、昨夜のスポーツニュースで、みづほを大々的に取り上げてくれたのだ。

 言うまでもなく、準決勝でみづほの特集を組んでくれたテレビ局だ。


 テレビには何度も、「美しい」としか形容しようのない、四回表のみづほの「例の」ファインプレーが映され、次いで高須のシンカーをクリーンヒットするみづほ、決勝のホームを踏むみづほ、優勝の瞬間に泣きながら歓喜の輪に加わるみづほの姿も流された……みづほ、また泣いてたんだ。

 ちなみに決勝のポテンヒットを打ったのは俺だが、幸か不幸か、背中しか映ってなかった。


 追い討ちをかけるように、東京チームを率いた漆畑監督がみづほの才能を熱っぽく語り、大会のMVPを獲った櫻田が、自らの好守や快打の陰には、みづほからのアドバイスやヒントが多大にあって、自分ひとりの力ではここまで活躍できなかっただろう、とインタビューに応えていた。

「本当のMVPは遠野さんだ、と思います」

 櫻田は、きっぱりと言った。


 ああ、関根監督の談話もあるんだ。テレビでも相変わらず飄々としている。

「遠野さんですか……うーん、そうですねえ。すごく優しい子ですよ……あ、そうそう、感心するのが、自分をよく知ってるとこですね。自らの能力を、過大にも過小にも考えていない。これは、15歳という年齢を考えると、驚くべきことだと思いますね」

 うーん、さすが監督、含蓄あるなあ。


 みづほが地元の私立高校を受験して、新設される野球部で野球を続けたいと熱望している、とテレビは紹介していく。

 続いて、みづほのインタビュー。

「野球を……もっと……したいです……」

 と、一言。

 ああ、知ってる。傍で聞いてたから。

 優勝や何やらで胸がいっぱいになってたみづほは、口の中でもごもご言うばかりだったので、きっと放送に拾えそうな言葉が、これだけだったんだろう。


 画面に登場したのは、先日に引き続いて桑野さんだった。

「現在、高野連は、女子の公式戦参加を認めていません。みづほさんはこれだけの才能がありながら、現行のルールでは、甲子園を目指すことさえできないのです。私は一野球人として、みづほさんの道を拓いてあげたいと、強く思いました」

 真面目な顔で、言葉を締めくくった。


 俺とみづほは早朝のランニングを早めに切り上げて、俺ん家で親父が録画してくれた特集を観ていた。

「みづほお前、『面と向かって話すと、大人しくて可愛い子』って言われてるぞ」

 俺の茶化しに、みづほがちょっとむくれる。

「だって、テレビカメラにマイクなんて、初めてだったもん……泣いた後で顔も気になったし」

 ずっと俯いてたのは、そのせいだったのか。

 でも『野球になると人が変わる』てのは、ほんとだもんな。テレビの人たちも、みづほのことよく見てるわ。


 親父が出勤の支度をしながら居間に現れた。

「あ、そうそうみづほちゃん。緑陵の大屋監督が『くれぐれもよろしく』って言ってた。多分いろんな高校から特待生の話がわんさか来ると思うけど、どうか緑陵に入ってください、てさ。みづほちゃんが決めることだから、俺は伝えるだけ、な」


「あたし、緑陵に行きますよ? 男子野球部で声かけてくれたの大屋監督だけだし」

 不思議そうな顔のみづほを見て、親父が苦笑する。

「いや……これからが凄いんだよ、きっと。シニア日本一の立役者が、可愛い女の子。おまけに元プロ野球選手にテレビ局の応援までついてる。今や、みづほちゃんを欲しくない学校なんて、どこにもないよ。まあそれは大人の事情で、みづほちゃんには関係ないけど」

「今朝、お父さんが『火の粉がかかったらいつでも言え。俺がふり払ってやる』って言ってた……いったい何のこと? て思ったけど、そういうことなんですね」


「うん」

 親父が苦虫を噛み潰した顔で肯いた。

 試合直後でさえ、10校ほど「話だけでも」とオファーが殺到してたそうだが、少しそっとしておいてくださいと、片岡さんたちが必死にブロックしたそうだ。

「みづほちゃんは、ほんと頑張ってるよ……その頑張りの代償がこれって、やり切れないな」


 そうだ。緑陵と言えば。

「父ちゃん、俺も緑陵に行きたいんだ」

「えっ?それ、ほんと!?」

 みづほが俺の手を取って、眼を輝かせる。

「ねえねえ、ちーちゃん……ほんと!? あたしと一緒に、野球してくれるの?」


「ちょっと待つんだ、千尋。おーい、母さーん、ちょっと来てくれーい」

 親父が俺を制止し、お袋を呼ぶ。

「こういう大事なことは、ふた親の前できちんとやるもんだ……さあ、話しなさい」

「うん……はい」

 俺は居住まいを正し、両親の目を見る。

「父ちゃん、母さん。俺、緑陵高校に行きたい。緑陵の野球部で、みづほと一緒に野球をしたいんだ」


 俺の隣で、みづほが両手で鼻と口を覆い、眼をうるうるさせている。

 泣くなよ……頼むから、泣くなよ……


「分かった」

 親父がニヤリと笑う。

「お前、緑陵受験するんだな? 入れそうか?」

「うっ」

 緑陵の前身である桜陽女子は、意外に偏差値が高い。

 超がつくような進学校ではないが、この地区では上から数えた方が早いはずだ。


 俺はと言えば、野球ばかりやって来た人間。自慢じゃないが、勉強に関しては落ちこぼれている。

「そうだよちーちゃん、頑張んないと。こないだの数学、23点て何よあれ」

 みづほが口を挟む。

「うっせーな。みづほみたいに頭良くねーよ……つか、人の点数バラすなよっ」

「千尋っ!あんた、テスト悪いの隠してたわねっ!!」

「あうっ。いや、今はそーゆう話じゃ……」

 お袋の剣幕に思わず怯む。


「お前、俺に頭、似ちまったんだなあ」

 親父が優しい顔になり、くるりと背を向けた。

「あ、そうそう。言い忘れてたけど、緑陵の大屋さんから、お前にも言伝てがあったんだよ。お前を野球特待生として迎え入れたいから、今度挨拶に来ます、ってさ。お前さえよければ、無条件で緑陵に入れるぞ」


「……とーちゃんっ!!」

 思わず叫び声をあげる。早く言えよう、そういうことは……

 ちょっと肩の力が抜けちまった。

「うん……俺、行くよ、緑陵に……」

「やった……やったぁ……あたし、受験頑張るからっ!」

 隣で大はしゃぎするみづほの声も、上の空で聞いていた。


 クラブ選抜戦の後日譚を含みます。


 この作品を書いてて思わぬ体の変化が……体重が落ちてきたのです。

 どうやら筆者も、千尋やみづほと一緒に、試合を戦ってきたようです(#^.^#)


 思わぬダイエット効果でした♪

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