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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
14/297

クラブ選抜戦・決勝戦3

 みづほの登場に、スタンドの熱狂は最高潮に達した。

 同点で迎えた終盤、試合の行方はどっちに転ぶか分からない。

 延長になれば、まだ機会はあるが、もしかすると、これがみづほの最後の打席。

 そして現行のルールでは、みづほは高校野球の公式戦に出られない。

 ということは、これが公式戦最後の打席になる可能性があった。


 マウンドの高須が、眼光鋭くみづほを睨みつける。やはり勝負処だ、と思っているのだろう。

 もしみづほを出塁させてしまえば、次は大会屈指の好打者、櫻田。

 四番の宮永は、今日はタイミングに四苦八苦しているが、長打力がある。

 その次に控えているのは俺だが……俺だって準決勝でホームランを打っている。


 みづほもバッターボックスから、高須を見ていた。闘志を内に秘めているのか、いつもと変わらないように見えた。

 俺には分かる。

 いつも通りのみづほなら、今この瞬間も、守備形態や投手の仕草、捕手の動きを同時に観察しながら、頭をフル回転させて情報の収集整理を繰り返しているのだろう。

 そしていざ始まったら、イメージ通りに体を動かしていくのだ。


 セットポジションから、高須が第一球を投げる。

 初球はシンカー。

 どうやら高須は、シンカーを決め球でなく、ストライクを取る球として、ピッチングを再構築したようだ。ストライク。

 二球めはカーブ。

 高須のカーブは、他の変化球に比べて精度が低いが、ここは頑張ってストライクにした。


 これで高須は、ツーストライクとみづほを追い込んだ。


 三球め。外に逃げるスライダー。ギリギリのコースで、みづほはカットする。

 四球めはインコースにカーブ。ボール。

 五球め、外寄りのストレートで勝負……みづほは付いてくる。

 バットを合わせ、三塁線を鋭いゴロが襲う……惜しくもファウル。


 マウンドで大きく深呼吸をする、高須。

 スタジアムの観客も、その緊張につられるように、固唾を飲んで見守っている。


 六球めは、ストレートを外に外してきた。

 みづほのバットがピクリと動くが、見送る。ボール。


 おそらくバッテリーは、外のスライダーか、あわよくばシンカーでみづほを打ち取ろう、と考えていると思う。

 スライダーは甘く入れば、きっと巧く運ばれるだろう。

 シンカーは……初回に痛打された記憶が、まだ付き纏っているのかもしれない。

 そんなせめぎ合いの中、高須は勇気を振り絞って、七球めを投げる。


 低めの、シンカー。ストライクぎりぎりからボールになる、最高の球だ。

 カウントがカウントだけに、手を出さざるを得ないコース。

 スピードも乗っている。おそらく高須の会心の一球だろう……


 しかし、みづほは平然と見送った。

 ボール。

 高須がわずかに、天を仰いだのが分かった。


「うわあ……」

「すげえ……」

 ベンチから、思わずちいさな声が漏れる。

 俺も同じ意見だった。

 なぜ、あれを見送れる?

 普通のヤツならストレートのタイミングでスイングして、空振り三振。

 かなりの巧打者でも、自分のスイングができずに、よくてカットだろう。


 手が出なかった、という雰囲気ではなかった。

 まるであそこで、高須があのボールを投げるのを分かっていたように、感じた。


 高須に、投げるボールは残されていなかった……

 外いっぱいのスライダー、またはストレートしか選択肢はない。

 しかし高須は逃げなかった。八球め。外いっぱいに、渾身のストレート。

 みづほは平然とバットを合わせ、ボールをライト前に運んでいった。


 みづほのヒットに湧いたのは、東京ベンチだけではなかった。観客席から割れんばかりの拍手と歓声が、グラウンドに届く。

 やがて沸き起こる「みづほ」コール。

 

 み・づ・ほ! み・づ・ほ!


 一塁ベース上で、胸に手を当てて戸惑うみづほの姿が、堪らなく可愛かった。


 先頭バッターが塁に出て、迎える打者は三番の櫻田。ここは是非チャンスを広げたいところだ。

 ここで櫻田は……なんと送りバントの構えをした。

 あの強打者が、バント?! 高須としては半信半疑だったろう。初球は低いボール球から入る。櫻田はバットを引いた。


 今思えば、この初球ボールが、勝負の分かれ目だったかもしれない。


 二球めも低めのストレート。

 櫻田はボールを上から潰すようなバントを試み、一塁方向へのファウルとなった。

 これで本当に送りバントの可能性が高まった。


 三球め。一塁手はバントケアのため前にダッシュし、二塁手は一塁のカバーに行く。

 高須の選んだボールは……外角高めのストレート。あわよくばフライアウトを狙ったボールだ。


 高須が投げる瞬間、東京が動く。

 一塁走者のみづほがスタートを切った……スティールだ!

 近畿の遊撃手は二塁ベースへ移動。

 その瞬間、櫻田がバントの構えを解き、バットを引く。

 そして踏み込んで、強引にボールを引っ張っていく……打球は大きく空いた三遊間を、抜けていった。


 バントのフェイクから、ヒットエンドラン成功。

 無死一、三塁の大チャンスとなった。


 さらっと紹介したが、櫻田でなければできないバッティングだっただろう。

 まずバントファウル、あれがわざとだったのが凄い。普通なら、むざむざストライクカウントを相手に与えない場面だ。

 あれで相手守備は、バントシフトを採らざるを得なくなった。


 1ボール1ストライクの三球め、相手にとってもストライクが欲しいカウント。

 バントの公算が高いとはいえ、櫻田相手にカウントを悪くするのは避けたいだろう。

 そこを狙ってエンドランを仕掛けた。

 そこしか、なかった。もっともこれはベンチの指示だが。

 初球ボールが分かれ目だった、と言ったのは、そういう理由。


 ついでに言うと、高須の外寄りの球を三遊間に持っていったのも、櫻田ならではだった。

 振り遅れてセンターから右に打球が行きがちになるボール。

 (近畿バッテリーも、そこまで計算に入れて投げたコースだったはずなんだ)

 間違ってセンター前に転がすと、二塁カバーしていた遊撃手の真正面、併殺打となるところ。

 強引に引っ張って強い打球にしたのも、見事だった。


 櫻田が一塁ベース上で、ほんとに小さなガッツポーズを作っていた。


 無死一三塁。バッターは四番の宮永。最終盤のここは、一点もやりたくない場面だ。

 相手は前進守備のバックホーム態勢となる。


 外野フライも打たれたくないこの場面、高須は徹底して低めを突いてきた。ボールの上を叩かせてゴロで打ち取ろう、という腹づもりだ。

 宮永は信頼できるバッターだが、今日は高須の投球にタイミングを狂わされている。

 サイドスローの、右打者の背中からやって来るボールに対応できていない…ほとんどの打者がそうだった。

 1ボール2ストライクで追い込まれた四球めのシンカーを空振り、三振。


「すまん……頼んだ」

 悔しそうな顔で引き上げる宮永から、声をかけられた。

「――おう」


 一死一三塁。依然としてチャンスには変わりない。

 内野は中間守備。打球によってはバックホームも、併殺も狙う位置取りだ。

 ただし宮永と違って、俺にはスクイズの可能性もある。その対処のためか、ファーストは少し浅めだった。


 ベンチのサインは「打て」。

 俺に任せてくれるらしい……ありがたい。

 といって、明確なプランがあるわけではなかった。

 高めのボールを押っつけるように打って外野フライがベストだが、きっとそれは望めない。

 高須は低めにボールを集めてくるだろう。

 ゴロゴー……内野ゴロと同時に、三塁ランナーのみづほがダッシュする作戦もあるが、それはあまりにリスキーだ。

 相手の守備位置はバックホームが可能なうえに、飛んだコースが悪ければダブルプレーも有り得る。


 となれば結論は……「打て」。強い打球を打って、みづほを還すことだけを考える。

 シンプルだが、それしかなかった。


 大きいのは、要らない。バットを短く持って打席に向かう。

 低めのボール、そして外のボールは捨てる。

 外角は、ストレートなら届くが、スライダーだとバットの先に当たって凡打してしまう。

 狙いは少し内に寄ってくるストレート、またはシンカーだ。


 一球めはなんと、外に大きく外したウエストボール。あちらさん、スクイズも警戒しているらしい。

 もちろん、表情には出さない。涼しい顔で見送る。

 二球めから勝負。外ギリギリのストレート。狙っているフリをしながら見送る。ストライク。

 三球めに外へのスライダー……外ギリギリ、ストライクのコール。


 これでお膳立ては揃った……外、外と来て、次は真ん中から内角の低めだろう。

 球種は、90%以上シンカー。

 ふと、三塁ランナーのみづほと、目が合った。

 みづほ…還してやるからな。次、打つよ。目で合図を送る。

 みづほが軽く頷いた……シンカー来るよ、打って。

 そう言っているような気がした。


 セットポジションから、高須の四球め。真ん中低めへと、渾身のボールがやって来る。

 このコースに限ってストレートは有り得ない……シンカーだ!

 鋭く落ちていくボールに食らいついていく……当たれっ!!


 想像以上の落差に態勢を崩されながらも、バットを合わせて、振り抜いた。

 バットはボールの下を叩き、ふらふらと上がった打球がショートの頭上を越える。

 ショート、センター、レフトが、必死になって俺の打球を追い、レフトがダイビングしながらグラブを差し出す……


 落ちろ! 落ちろっ!!


 俺は絶叫しながら、一塁に向かって全力疾走した。


 クラブ選抜戦はいったん完結です……えっ? 完結? と思われた方wごもっともです。

 結果については後日譚を用意してますよん♪

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