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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
中学三年生編
13/297

クラブ選抜戦・決勝戦2

 立ち直った高須の球は、なかなか打てなかった。

 二本の二塁打で一点差に詰められた三回裏。

 一番岩部が内野安打、無死一塁で迎えたみづほの第二打席は、送りバント。連続出塁は途切れたが、点差や状況を考えると妥当な采配だ。

 しかし、三番櫻田は、外のスライダーに手を出さざるを得ず、セカンドゴロの進塁打がやっと。

 四番宮永は全くタイミングが合わず、三球三振だった。


 四回表も、近畿チームの猛攻は続いた。打順関係なく、バンバン鋭い打球を飛ばしてくるので、気の休まる間がない。

 1アウトながら、2本のヒットで走者一三塁のピンチ。

 カキーン。

 鋭い金属音とともに痛烈なゴロが、幸田投手の足元を襲う。

 センター前に抜ける……誰もが失点を覚悟した。


 しかし。

 二塁ベース近くに守備位置を移していたみづほが、スライディングしながら、余裕を持って逆シングルでキャッチ。

 そのまま踊るように二塁ベースを左足で踏み、2アウト。

 その左足を軸に、高く伸び上がってジャンプし、一塁に向かってボールを投げた。

 みづほの頭から帽子が脱げて、ドームの天井目がけて飛んでいく。


 たった今眼にしたプレーは、野球選手のそれではなかった。

 あたかも、スタジアムに降臨した天女がみづほの体を借りて、気紛れに美しい舞を披露してみせたとしか思えない、あまりにも優雅で儚い一連の動き。

 流れるような動作のひとつひとつ、みづほの一挙一頭足が、スローモーションとなって俺の目に焼き付いた。

 一塁アウトを空中で確認したみづほが、歓びの表情を浮かべながら地上にゆっくり降りてくる。

 みづほの前髪が、後ろに結んだおさげがふわりと舞い上がり、それより遅れて帽子がグラウンドに落ちてきた。


 一瞬、鎮まりかえる後楽園ドーム球場。

 時が、止まった。

 俺と一緒で、誰もがみづほの姿に釘付けになっていたのかもしれない。

 が。次の瞬間、スタンドが総立ちとなり、割れんばかりの拍手と歓声がドームを包んだ。


 已まない拍手の嵐のなか、出迎えた幸田とグラブでハイタッチをしながら、ベンチに駆けて行くみづほ。

 ……常識では有りえないプレーだった。

 定位置近くにいたみづほが、いつの間にベース近くまで移動していたのか?

 鋭いヒット性のゴロを、なぜあんなにも柔らかく捌けるのか? 疑問は尽きない。


「うーんと、ね……打った滝川くんは典型的なプルヒッターだ、ってことは昨日と今日で分かってたから……幸田くんの投げるコースが真ん中低めのカーブだから、当たり損ね以外は右に行かないだろう、って……最後はバッティングのインパクトの瞬間ね、それで打球の方向が読めたの……」

 打席の準備をしながら訊いた俺に、みづほはちょっとモジモジして、照れたように話した。

「だから、準備はできてたの。あとはバウンドのタイミングを合わせるだけ」

「――すごいね」

 ほんと、それしか言えなかった。


 四回裏、東京の攻撃。

 この回のトップバッターは俺。まだ球場内のどよめきが、収まらない。

 高須が怖い顔をしている。ヤツもまたみづほの守備を見て、何か感じたのだろう。

 何とかしないと、せっかく押し戻しかけた流れが、また変わってしまう。みづほのプレーには、それだけの価値があった。

 こっちとしても、掴みかけた流れを離すわけにはいかない。

 絶対に――打ってやる。


 高須がセットポジションで構える。第一球。

 さっきの打席と同じく、消えた球が手前で現れ、浮き上が……らずに、ストンと落ちた。

 シンカーだ。ストライク見逃し。

 高須のヤツ、みづほたちに打たれて封印していたシンカーを、一球めから復活させた。

 それにしてもすごいキレと落差だ。

 あいつら、ホントにこの球、打ったのか?!


 ……思い出せ。思い出すんだ。

 みづほと櫻田のあの打席を……タイミングとバットの軌跡をイメージするんだ……

 高須の一球めのシンカーは、試運転。

 俺を仕留める決め球に、もう一球シンカーをきっと投げてくる。


 二球め。一球めと同じ軌道にストレート。

 コース的には真ん中近くの打ち頃のはずが、さっきのシンカーが目に焼き付いて、タイミングが遅れる。ファウル、ツーストライク。


 三球め――マウンドの高須の雰囲気から察すると、一気に勝負をつけてきそうな気がする。

 だとすると、決め球のシンカーを使ってくるだろう。

 来い。バットを少し短く握り直し、構えた。

 高須が投げる……イメージと少し違う。少し外寄り……スライダーだ!

 打ち気に入っていた俺は、スイングするしかない。上体を屈めて腕を伸ばす。届け……! バット、届いてくれ!


 ボールはバットの先に当たった。インパクトの瞬間、手に痺れが来る……完全に芯を外された。

 それでも強引に振り抜く。ファーストへのファウルフライだった。


 五回の表裏はともに無得点。

 六回表、東京は継投策を採った。

 投手、幸田に代わって桐谷。

 右のオーバースロー、江戸川のエースで、全国大会の経験もある。

 球の速いピッチャーで、この大会は北海道戦の先発と、準決勝のリリーフで登板した。

「ライン際、注意しといて」

 守備に就く前、みづほが俺たちにボソッと呟いた。

 宮永、そして櫻田が短く肯く。


 残り二回。点差はわずか1点。決勝は息詰まる接戦となった。

 一本のヒット、ひとつのミスが勝負の分かれ目になるだろう。


 近畿の先頭打者は、三番の田中。桐谷は、いきなり強力クリーンアップとの対戦となる。

 振りかぶって第一球。外へストレート、ストライク。

 球は走っているようだ。

 二球めのストレートを田中が捉える。

 三塁線への強い打球だ。櫻田が横っ飛びで押さえ、素早く立ち上がって一塁へ送球した。アウト。

 いきなりみづほの助言が活きた形になった。


 ファーストの宮永が目を点にしてみづほを見つめている。

 いや、みづほには超能力なんかないよ。彼女なりの理由があって、予測してるはずなんだ。

 後で訊いてみよう。

 それにしても櫻田の守備が見事だった。急造のサードとは、とても思えない。センスの違いをまざまざと見せつけられた思いだった。


 四番、谷岸。

 みづほの話では、というよりチームの共通認識だが、彼がいちばん怖いバッターだ。

 選球眼もいいし、パワーもあるので、打球は引っ張りが多いが傾向が掴めない、とのこと。

 この場面では、オーソドックスな長打ケアの守備形態で臨むしかないだろう。

 今日の谷岸は2打数2安打。得点に絡む二塁打を打っている。


 東京のバッテリーも、そこは分かっている。初球は外のボール球から探りを入れてきた。

 谷岸はもちろん、ぴくりとも動かない。

 二球めもボール。三球めはインコースにストレートを投げて、上体を起こさせた。ストライク。

 四球め、カーブでストライクを取りに行った。

 ――ヤベえ、甘い!

 ほぼ真ん中に来たボールを、谷岸は見逃さなかった。

 鋭いスイングに乗せてボールは高々と舞い上がり、レフトスタンドに入っていく。


 同点ホームラン。

 帽子のツバを握りながら足でマウンドを馴らす桐谷の背後で、ガッツポーズを作った谷岸がダイヤモンドを走っていった。


「まだ、同点、同点!」

「後ろ、きっちり抑えよう!」

 内野陣から声が飛ぶ。

 そうだ、まだ負けてるわけじゃない。

 桐谷の調子もけして悪くはなさそうだ…打った谷岸が凄いだけだ。


 しかし近畿の強力打線は続く。五番大島、左バッターだ。

 比較的右寄りに守備位置をずらす。

 桐谷もしっかり腕を振って、渾身のストレート――よかった。ダメージは少ないようだ。

 ライトフライに打ち取る。ツーアウト。次打者は空振り三振で、六回表を終了した。


 六回裏、東京の攻撃。近畿は、高須の続投だった。

 まあ、そうだろうな。2点は取られたが、五回を投げて3安打1四球。

 ジャストミートされたのは、初回のみづほと櫻田だけ。調子はかなりよさそうだった。


 先頭打者は、みづほ。

 そういや、さっきの助言のことだけど……と、守備形態の質問をしに、近づこうとする。


 みづほは静かに、打席の準備をしていた。

 両手首にリストバントを巻き、眼を閉じながらヘルメットを被る。

 取り出したバットを祈るように掲げて、口から長い息を吐いた。


 ――集中している。

 蒼い炎を宿したかのように一瞬、みづほの体が光彩を放って見えた。

 声をかけられる雰囲気ではなかった。

 息を吐き終わったみづほと眼が合う。

「行ってくるね。ちーちゃん」

「ん……ああ、ガンバ!」

 かるく微笑むみづほに、そう応えるのが精一杯だった。


 もはや中学野球のレベルを越えてる気もしますが……全国のトップレベルの試合と言うことで、ご容赦を(^-^;

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