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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編・秋
114/297

秋季東京大会・本戦開幕(一回戦&二回戦)


 秋季大会本戦の組み合わせ抽選には、主将の俺と、顧問の水谷先生が参加した。

 東京都の場合、シード校が存在せず横一線で組み合わせが行われるので、とんでもない死のブロックが出来る時があり、やっぱり緊張する。


「よう」

 抽選会場で、俺と目野の井上が立ち話していると、声をかけられた。

 帝山の櫻田だ――そうか、こいつも新チームの主将になったんだ。

「優勝候補同士で、何の相談だい?」


「言ってくれるじゃねえか、甲子園優勝校が、さ」

「そうだよ、優勝おめでとう」

「そんなん、もう過去の話さ」

 櫻田はかるく口角を上げただけで、俺たちのツッコミをいなした。

「――知ってのとおり、秋季はうちはチャレンジャーだよ、三年の抜けた穴がデカすぎる。試合しながらチーム作りさ……予選通って、ホントよかったわ」

 弱気の発言とは裏腹に、櫻田の眼光はプライドと自信に溢れてて、鋭い。

 ――帝山、きっと強いな。


「で、何の話、してたんだ?」

「いやさ――約束してるんだ、互いに直接当たるまで絶対負けんじゃねえぞ、って。それを確認してただけ」

「ふうん……」

 それを聞いた櫻田が、わずかに鼻を鳴らす。

「お前ら、仲いいんだな。同じ西東京なのに」


「多分、みづほのお陰だと思うよ」

「ほう――遠野の?」

 井上と櫻田の返答がハモって、少しおかしかった。


「試合してる時は敵同士なんだけど、個人的にみづほを応援してるヤツって、ホント多いんだ。目野とは特に仲が良いけど、他のチームからも声はよく掛けられるよ、頑張ってくれって」

「ふうん」

 創部当初は、一年生ばかりの、しかも女がレギュラーのチームなんて……という目もあるにはあったが、その度に、みづほの活躍が全ての偏見を吹き飛ばしてくれた。


「そうだな――確かに緑陵と試合しても『このヤロー』とか『ギッタンギッタンにしてやる』とか、そんな感情は湧かないもんな」

「そうそう、第一、遠野のプレーがすっごく綺麗でクリーンなんだよ――男子部員もそれに引っ張られてるから、緑陵全体にクリーンなイメージがあるよなあ」


「褒め殺しかよ……それにしても『このヤロー』てなる時あるんだ、櫻田でも」

「うん」

 表情に変化はないが、櫻田の口がわずかに歪む。

「全国に行くと、たまにいるぜ。闘志とラフプレーを穿き違えてるヤツが」


「なあ」

 櫻田が俺の胸を、コツンと小突く。

「緑陵も、目標は優勝だろ?」

「――分かり切ったこと、訊くなよ」

 緑陵だけじゃない。井上の目野も、そして櫻田の帝山も、目標は優勝、そしてセンバツ出場だ。

 そして、その切符は一枚、多くて二枚。ここに居る三人ですら、絶対に全員は出られない。

 それを争う闘いは、限りなく厳しくなるだろう。


「甲子園は、何回でも行きたいよなあ――体も心もギリギリになるけど、それでもまた行きたくなる」

「俺も、前回は背番号11だったからな。やっぱ今のチームで、甲子園に行きたいよ」

 櫻田の呟きに井上も同調する。

 思えば俺だけが、甲子園の土を踏んでないんだなあ……くー。




「アキ、お帰り――組み合わせ、どうだった?」

 学校に戻って来ると、チームのみんなは既にユニフォームに着替えてて、練習の真っ最中だった。


 結論から言うと、都立目野とはまったく別の山になった。

 決勝まで進まないと、目野との対戦はない。


 目野の主将、井上は、抽選後も会場で仁王立ちになったまま、完成された組み合わせボードをじっと眺めていた。

「秋山――俺たちとやるまで、負けんじゃねえぞ……」

 通りすがりに、こっちを振り向くこともなく、ちいさく呟いた。

「おう。お前らも、な」

 俺も短く応えただけで、視線を合わせないまま立ち去った。


 練習を中断し、みんなでトーナメント表を確認する。

「一回戦の相手は、都立明青ね。結構強いとこだよね」

「うん」

 甲子園出場経験はないが、本戦大会の常連だ。

「目野とは、決勝か……他の甲子園組は、みんなこっちに来ちゃったな」

 早田実は三回戦、帝山とは準決勝で当たることになっている。

「大日三の山が、結構凄いことになってるな――有力校がわんさか」

 準々決勝で当たる山だが、大日三を筆頭に、名の知られた強豪校が目白押しで、ここは死のブロックだろう。

 とは言えども、緑陵も二回戦に都立雪家、三回戦に早田実が控えているので、楽な組み合わせではない。


「そしたら早速、あたしらの出番だねっ」

 赤川さんが張り切っている。

 対戦相手の情報を得るために、マネージャーたちの偵察隊が結成された。

 もはやみづほも「あたしも一緒に行くー」と駄々をこねることはない。彼女らに、全幅の信頼を寄せている。

「キコ、紫苑、花ちゃん。頼んだわね」

「任しといて」


 相手データの収集は、緑陵にとって大きな意味を持つ。

 みづほの特別な視界は、プロ野球観戦の修業を積んで、さらに冴えるようになった。

 画像データからでもかなりの精度で情報を読み取り、それに根来の頭脳も加わって解析が進められ、試合前ミーティングを行う頃には、大まかな方針や作戦があらかた出来上がっている。

 それは、試合を行うにあたって、緑陵への大きなアドバンテージとなっていた。 


 週末には一回戦が行われる。あと一週間もない。

 明日にはマネージャーたちは、ビデオカメラを片手に、現地へ向かっているだろう。


 こうして開幕した、東京都秋季大会。

 一回戦の都立明青戦は、偵察三人娘が収集してくれたデータのお蔭で、終始優位に試合を運ぶことができた。

 緑陵の先発は、満を持してエースの安田。

 技巧派の安田にとって、相手打線のデータ解析は大きな武器だ。

 苦手コースを絡めてタイミングを外しながら、低めにボールを集め、凡打の山を築き上げた。

 さらに安田は、リリースポイントをずらす投球も、何度か試みた――おそらく今後対戦する、早田実の清田を意識して、だと思う。


 野手側としては、内野ゴロばっかなので、結構大忙しだ。

 みづほの守備は、相変わらず華麗だ――セカンドに打球が行く度、一緒に守ってる俺たちでさえ、胸がときめいてしまう。


 それと――6番ファーストのスタメンで出た、野口の復調が大きかった。

 一打席めこそ、高めの吊り球を空振って三振に倒れたが、二打席めは低めのストレートを軽々とバックスクリーンに叩き込み、チーム第一号のスリーランで、貴重な中押しを演出した。

 元来、緑陵打線は1番から5番までの出塁率が高く、そこで得点するパターンが多かったのだが、出塁率が高いということは、6番野口の打席で走者がいるケースが非常に多いことも意味する。

 ここで、長打力のある野口がランナーを還してくれたら、得点力は倍増するに違いなく、そして今日はそうなった。


「んあーっ!」

 不思議な叫び声を発しながらダイヤモンドを周る、野口。

 久々に見るガッツポーズは、やっぱりすごくカッコ悪かった。


 点差が開いたところで、安田は四回を投げてお役御免。西井にスイッチし、最後は竹本が締めた。

 8対1、七回コールドで快勝。

 純粋な実力差だけでは、これほどの得点差で勝てはしない相手だった。

 やはり事前の情報戦で勝ち得たデータ――これが、緑陵の大きな武器となっている。


 二回戦は大方の予想どおり、都立雪家が勝ち上がってきた。

 東東京ではベスト4まで進出したこともある、都立の強豪の一校だ。

 エース肥後の評判がよく、攻守にまとまった好チーム、というのが戦前評だったが……雪家の一回戦が俺たちの試合直後だった事が、緑陵に有利に働いた。

 つまりみづほが、まる一試合を生で観戦する機会を得た、ということであり、雪家が勝利を決める頃には、みづほの観察眼が縦横無尽に働いて、投打ともほぼ丸裸になっていた。

 肥後が決め球のスライダーを投げる時の、わずかな癖まで看破された。


 というわけで――初回から緑陵打線は、肥後のスライダーを狙い打ち、猛攻を繰り広げた。

 みづほの先制タイムリーを皮切りに、長短打を織り交ぜ3点先取。

 立ち上がりで早くも決め球を奪われた形の肥後は、苦難のマウンドとなった。


 一方で3点のリードは、先発の安田をかなり楽にした。

 球質が軽く一発の危険が常につき纏う安田であるが、連打さえ食らわなければ、ホームランを打たれても簡単には追いつかれない。

 いつも通り丁寧に内野ゴロを量産させ、打たせて捕るピッチングを続けた。


 肥後は、狙い打たれたスライダーを見せ球にして、ストレートとカーブで勝負する配球に、早々に切り替えてきた。さすが、好投手と評判が高いだけのことはある。

 しかもストレートが、みづほの言葉を借りるなら「いい軌道を通ってい」て、なかなか打ち崩すことが出来ない。

 3対0のまま、試合は中盤に向かった。


 五回裏、緑陵の攻撃。1アウト一塁で打席はみづほ。

 このケース、みづほは四球を含め、繋ぎを意識したバッティングをする。対する雪家は、ヒットを阻止するべく、今や半ば定番となった、みづほシフトを採ってきた。

 内野を深め、外野を浅めに位置取り、単打になるゾーンを極力減らす守備体系だ。


 いつものみづほなら、ライン際やショートの深いところなど、可能な限りヒットになりやすいコースを狙って打っていく。

 ところが、今日のみづほは、警戒シフトに真っ向から勝負していった。

 外のカーブを狙い、流し打っていく。

 セカンドとライトの間の、わずかなポイントを狙った打撃である。


 コーン。

 乾いた快音とともに、ヒット性の打球がセカンドの頭を越していく。

 後退しながらジャンプ一番、いっぱいにグラブを伸ばすセカンド――届いたっ!

 走りながら悔しそうに天を仰ぐみづほ。

 みづほシフトとの勝負は、相手セカンドの超ファインプレーに阻まれた。

 余談だがみづほは最終打席で、ほぼ同じバッティングをしつつも僅かに修正を加え、今度はライト前ヒットをもぎ取った。


 試合は六回裏、粘って四球で出た松元を一塁に置き、野口が肥後の渾身のストレートをジャストミート。

 貴重な追加点となる2点本塁打となり、またもや野口の超カッコ悪いガッツポーズを見させられる羽目になった。


 安田は七回を零封し、竹本にマウンドを託す。

 竹本も安定感のあるピッチングで雪家打線を抑え、5対0で勝利。

 緑陵はベスト16、三回戦に駒を進めた。


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