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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
111/297

みづほ、恋のキューピッドになる2


 花が、安田に惚れてる?

「――ということは、こくるつもり?」

「うん。ヤッスと仲良くさせて、出来れば今日中に。だから、二人きりの時間をなるべく作るの」


 ああ――そうだったのか。今日はそれのお膳立て、てわけか。

「いきなり二人でデートってのも警戒されるし、かと言ってみづほとあっきぃだけじゃ頼りないから、私がお目付け役に――って、あっきぃ、聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ――そうか、花は安田のことを……なあ、花って……」

「変わってると思う?」

 安田のおっさん顔は、少なくとも女子たちの恋心を煽るような風貌ではない。


「いや、男を見る目があるな、って思ってさ」

 安田とは、ジュニアの頃から長い付き合いだ。顔は昔からおっさんで、ずんぐりむっくりの短足で、おまけに度を越して毛深いが、中身は立派な二枚目だ。責任感が強く、男らしく、滅多に弱音を吐かず、独特のユーモアで包んで他人を思いやる心も持っている。

「――あいつに惚れるなんて、花もなかなかやるな、と思うよ」

 それを聞いた青柳さんは、ほんとに嬉しそうだった。

「あっきぃがそう言ってくれるなら、何も心配ないわね――でも花ちゃん、ヤッスのいちばん好きなとこは顔なんだって」

「そりゃ変わってるわ」


「で、今後の計画ですが――もうじき、はぐれてた花ちゃんたちと合流することになってます」

「ふんふん」

 青柳さんが企み顔で、俺に耳打ちしてくる。

 ていうか、策士青柳さん、何もかも計算づくだったんだな。

「みんなで昼食を食べて、水着のまま部屋に戻るの」

「そして?」

「九月からはヤッスのマッサージを、花ちゃんに担当してもらうから、その練習を部屋でやろうと思うの。ビキニのままでやるから、破壊力は抜群。裸のヤッスに裸の花ちゃんが密着して、ふたりは急接近間違いなしよ」

「おお。なかなかえげつないな」

「そしてあたしたち三人は素知らぬ顔で出掛けて、しばらく二人きりにさせるの――」

 青柳さん、どんだけ怖ろしい人なんだ。


「そろそろ花ちゃんたち、ここに来る筈だけど――いけないっ!」

 青柳さんが素っ頓狂な声を出した。

「どうした?」

「みづほ、まだ泳いでるっ!!」

 ――ほんとだ。あのペースでいったい何㎞泳いでんだ、あいつは。

「まじかよーっ。ヤバいぞこれは」

「あっきぃ、止めてあげて!」


 ほどなく安田たちがやって来た。

「はぐれちまってさ。悪かったな」

 照れ臭そうに話す安田は花としっかり手を繋いでいて、花が嬉しそうに安田の右手に曳かれていた。

 たった今、気づいたけど――ふたり並ぶと、背の低い花の方が、安田より脚が長いのな。


 プールサイドで優雅に昼食を摂り、シャワーを浴びて水気をとり、スイートルームへ。

 計画通りに水着のままで、花は安田のマッサージの手ほどきを、青柳さんから受けることになった。


 部屋のベッドにふたり腰かけて、安田のマッサージをする花。何度か練習していたらしく、手際がなかなかいい。これなら、問題なくエースのマッサージを担当できそうだ。

「そうそう、それでいいの――あたしが教えることは、もうなさそうね。花ちゃん、最後まで続けて」

「はい……」

 安田と花は、肌と肌が直接触れ合う状態になってて、ふたりとも頬がほんのり桜色だ。


「そしたら花ちゃんがマッサージしてる間、あたしたちはスパにでも――って、みづほ寝てんのっ!?」

 気づくと、安田たちがマッサージしている隣のベッドで、ビキニのみづほがすうすうと寝息を立てていた。

「うーん。たくさん泳いで飯食って、腹も膨れたので眠くなったんだろうな……」

「みづほって、ほんと子どもね」

 すっかり大人の体してて子どもも何もあったもんじゃないが――それにしても大きな枕を抱きかかえて、夏の陽射しを浴びて無邪気に眠るみづほは、確かに可愛らしかった。


「仕方ないわねえ、みづほも」

 苦笑しながら青柳さんがかるいため息を吐く。しかし微笑ましく見ていたのも束の間だった。

「う……ん」

 寝ているみづほが少し身悶えたかと思うと、両手を腰に掛けて、眠ったままビキニのパンツをするすると脱ぎ始めたのだ。

「みづほっ! あなた、何やってんのっ!!」

 慌てた青柳さんがバサッとバスローブをみづほに掛けた時には、すでにみづほの白い尻が露わになっていた。


「やれやれ……いったい何なの、この子――」

 呆れたようにみづほを見つめる青柳さん。

 だが、騒ぎはこれだけで治まらなかった。

「あ……ん」

 びっくりするほど艶めかしい声とともに、バスローブの下で脚を器用に動かしたかと思うと、みづほの足首からビキニのパンツがストン、と落ちた。

 次の瞬間には、肩の辺りでみづほの腕がもぞもぞしている――ブラも脱ごうとしているのは、明らかだった。


「みづほ、みづほっ! 起きなさいっ!!」

 もはや猶予はなかった。青柳さんがせっかく掛けてくれたバスローブさえ半分はだけて、みづほの体がほとんど見えてる。

 青柳さんは寝ているみづほに馬乗りになったと思うと、ベチベチベチッ! と見事な往復ビンタをかました。


「みづほっ! しっかりしてっ!!」

「ん……あ……紫苑――あたし、寝ちゃってたのね……」

 ようやく目を覚ますみづほ。

「そんな呑気なことは、自分のカッコ見てから言ってよね」

「えっ――?」

 起き上がったみづほから、はらりとバスローブが落ちる。

 ――ああ、ブラも脱げてた。みづほ、すっぽんぽんだ。


 俺はしばらく呆然として成り行きを見守るばかりだったが、ふと隣のベッドを見ると、安田も花も、マッサージの途中で固まったまま目を点にして、みづほの裸をガン見していた。


「きゃっ! どうしてあたし、裸なの!?」

「みづほが自分で脱いだの――どんだけ悪魔なのよ、まったく」

 ようやく事の次第に気づいたみづほに、青柳さんがバスローブを羽織らせる。

「悪魔って――その、ごめん……」

 青柳さんの計画では、安田と花の雰囲気が良くなったとこを見計らって、俺たち三人はスパか買い物に出掛けて、二人きりにさせるつもりだったんだ。

 それをみづほが、全部持って行っちまいやがった。




「まあ、いいか――みづほ、服着よ。あたしたち、キコとこころちゃんのお土産買ってくるから、花ちゃんはマッサージ続けといてね。あっきぃも服着て。買い物行こ」

 気を取り直した青柳さんが、有無を言わさぬ表情で次々と俺たちに指図した。

「あ――はい。行ってらっしゃい」

 ビキニの水着姿で安田をマッサージする花を残して、俺たち三人はホテルの部屋を出た。


「今からたっぷり、二時間くらいは戻らないよにしましょ。ルームキーも全部持って来ちゃったから、あの二人、部屋に缶詰めよっ。にしししっ」

 青柳さんの忍び笑いが、まるで遣り手ばばあのようだ――死んでも口にはしないが。


 さて、スーベニアショップで、少し途方に暮れた。

 女子のお土産って、何がいいんだろう。

「キーホルダー……とか?」

「子ども相手じゃないのよ、あっきぃ。まあ、男子のプレゼントのセンスは、当てにしてないけど」

 ここでも青柳さんのほぼ独壇場だった。

「ここはスパが充実してて、エステもあるでしょ。だから、入浴関連の商品とか、化粧品とかがたくさん売ってるの」

「ふうん」


 なんと、みづほも意見があるらしい。

「あとね。野球女子に欠かせないのは、日焼け止め。どうせ汗で流れちゃうんだけど、最近は強力なヤツもあるから」

「でも肌質とかあるから、直接塗るヤツは本人に選ばせた方がいいわね。あたしたちは付き合い長いから、使ってる物も大体知ってるけど――ね、これなんか、どう?」

「うーん……SPFは人それぞれだけど40は欲しいなあ」

「キコ、少し敏感肌よね」

「うん。PAは3+ないと、部活には使えない」

 女子ふたりが、チンプンカンプンの話をしている。


 赤川さんとこころには、日焼け止め入りの化粧クリーム。

 真奈美さんたち、うさぎやのスタッフにも、花の形をした石鹸を買った。

「今回の作戦会議はね、ずっと『うさぎや』でやってたの。そのお礼」

「でも真奈美さんの話は、見事に参考にならなかったよね。『私との勝負に勝ったら好きにしていいです』て、ストリートファイトで言い寄る男を倒して来たとか、いったいいつの時代のケンカ番長よ」

「すげえな、それ……」

 真奈美さんの怪力を知ってるヤツにとっては、さもありなんだが、あれだけの美人に男の気配がまったく無い理由が、これで分かった。


 土産を買った後はラウンジで時間を潰す。

「ケーキ、おいしいね」

「うん、おいひい」

 ケーキセットを頼み、一息ついたところで青柳さんが話を切り出した。

「みづほ、友達だから敢えて訊くわ。さっきのアレ、いったい何? 全裸になる寝相なんて、聞いた事ないんだけど」


「うー。ごめんね、紫苑。あれはね……」

 みづほの説明によれば、何かに抱きついて寝ないと熟睡できない例の寝相の他に、体を締めつける類の衣服は、寝ている間に全部外してしまうんだそうだ。

「だからね、ブラもパンツも、起きた時には大抵脱げちゃってるの」

「パジャマのズボンも?」

「アウト。パンツごと脱いでる」

「じゃあ、旅館によくある、浴衣の寝巻きも――」

「帯は必ずほどけてる。気づけば、マッパよ」

「ふうん。じゃあ、うっかり居眠りも出来ないわね。寝ながらいきなりパンツを脱ぎだすJKって、想像を絶するわ」

「いやっ、そこまでひどくはないと、思うんだけど……」


「でもさ」

 青柳さんが、少しだけ真顔になった。

「じゃあ、さっきのアレ。水着で寝ちゃった時点でほぼアウトだって、分かってたじゃない。みづほには、そういう自覚はなかったの?」

「うー、だから、ごめんねぇ……泳ぎ疲れて少しだけ横になって、花ちゃんのマッサー見学するつもりが、いつの間にか……あたしの考えが甘かったです……」

 すっかり小さくなってシュンとしてるみづほに、青柳さんもこれ以上は強く言わなかった。


「みづほはさ、あっきぃの家に居候してるんだよね?」

「うん」

「寝る時、何着てんの? まさか、裸じゃないよね?」

「ワンピースのパジャマ着てるよ。それなら締めつけないから、現時点で全裸を防ぐ唯一の方法」

 そうだったのか。みづほがパジャマの下に何も着てない理由も、それで分かった。

「あっきぃ、いいこと聞いたわね。みづほがパジャマ着てる時は、ノーパンノーブラよっ」

 そんな、返答に窮する話題を俺に振るんじゃないよっ。

「やだあ。部屋以外ではパンツは穿いてるわよ。ベッドに入る前に、脱いで寝るの」

 いや、結構な確率で穿き忘れてるだろ。例えば、決勝前日の朝みたいに。




「そろそろ、部屋に戻っていい時間かなあ……」

 青柳さんが時計を見て、呟いた。

「あ。それからここのお代は、全部花ちゃんが持ってくれることになってんの。自分で払おうと思わないことね、お小遣いの数か月分が、飛んで無くなるわよ」

「お……おう、わかった……」

 割り勘だといくら払えばいいのかは、怖いので訊かないことにした。


「そう言えば訊き忘れたけど、みづほ……」

 部屋へのエレベーターで、青柳さんがみづほに耳打ちするように囁く。

 小声だが、狭い室内なので、俺にも聞こえてきた。

「あの日って、寝る時どうしてんの? 押さえるものがないと、ベッド血だらけじゃない」

 多分、生理のことかな。俺にも女子のことは、だんだん分かってきた。

「試行錯誤したわよ……うちはお母さんが死んじゃって、相談できる人がいなかったから。今はおっきいナプキン使って、フンドシ締めてぎっちり固定。これで今んとこ、大丈夫」

「ひえー。苦労してんのねぇ」

「ほんと、いらん苦労よね」

 俺も結構苦労して、素知らぬ顔で聞いてない振りをした。


「ただいまぁ」

 スイートルームのドアを開けるが、返事はない。

「花ちゃんたち、どうしたのかな……」

 そろそろと部屋に入った俺たちが見たのは、スイートルームの広いバルコニーで夕焼け空を見ている二人の後ろ姿だった。

 水着のままバスローブを羽織ってるようで、安田と花は並んで立って、手を繋いでいた。


「うまくいった、のかな……」

「そうみたい、ね」

 青柳さんとみづほは顔を見合わせて、ひそひそ囁きながら、微笑んだ。


 さて。

 城石家の計らいで、豪華で楽しい一日を過ごした俺たちだったが、花の恋の行方を、正式に知らされてはいない。

 みづほに訊いたら「成功したけど、まだ彼氏彼女じゃないんだって。どういう事かしらね」と要領を得ない。

 みづほお前、男女の関係にちょっとうとすぎるぞ。


 こうなったら――困った時の青柳さんだ。

 賄賂にジュースを一本差し出し、情報を求める。

「大成功よ。雰囲気を察したヤッスが先に、好きだ、って花ちゃんに告白してくれたんだって。こういう事を後輩の、しかも女の子にさせるわけにはいかない、って」

「おお。安田、相変わらず男前だなぁ」

「まったくよ。鈍感な誰かさんに、爪の垢煎じて飲ませたいくらい――でも、花ちゃんは野球部のマネージャーでしょ。部員同士で交際するとマネージャーの仕事に差し支えるから、今はまだ仲の良い友達のままで、ヤッスが三年になって野球部を引退してから、正式にお付き合いしましょう、て話になったの」


「安田――ほぼ完璧な回答だよな。その場で考えついたとしたら、すげえよ」

「うん……確かにあの日のヤッスの反応を思い出すと、前々から気づいてたのかも知れないわね――ねえ、あっきぃ」

「ん?」

 青柳さんが、なんだかモジモジしている。

「あっきぃは、これからどうするつもり?」


「どうするつもり、って――俺が?」

「ほら……今は仲の良い友達だけどさ、これからどうするつもりなの?」


 ん……と。

「いや、安田に彼女が出来たからって、ヤツとの付き合いは変わんないよ」

 俺の返答に、青柳さんがポカンと口を開けた。

「どーして私が、あっきぃとヤッスの関係を心配すると思うの?」


 ヤバいっ。どうやらトンチンカンな事、言っちまったらしい。

「ごめんごめん。紫苑とはこれからもずっと友達でいたいと思う……」

「あー、頭痛くなるわぁー。ち・が・う・わ・よー! 私の事じゃないっ」

 これは――白旗を上げるしかなさそうだ。

「ホントにごめん――いったい、何のこと?」


「あーもうっ! あっきぃに話を振った私が、馬鹿だったわよっ! ずっと野球だけやってなさいっ」

 青柳さんの機嫌がいきなり悪くなり、俺に背中を向けたかと思うと、スタスタと歩き去っていく。

「だからいったい――何のことだよ……」

 再び俺が問う声は、青柳さんの背中に弾き返され、空しく響くだけだった。

 二年生夏編、完結です。

 タイトルと違って、みづほは何にもしてないですね(笑

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