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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
110/297

みづほ、恋のキューピッドになる


「ちーちゃん、明日プールに行こ?」

 夏休みもあと数日。野球部の練習も隔日くらいになり、明日は貴重なオフの日だ。

 猛暑の中の密度の濃い練習で、多少バテてはいるが、元々体を動かすことは嫌いじゃない。

「いいよ。近くの市営プールかい?」

「ううん、ホテルの会員制プールだって。花ちゃんが招待してくれるの」


 城石 花。

 一年生の野球部マネージャーで、緑陵でも一、二を争うと言われる、評判の美少女だ。

 そういや花の実家は、相当な金持ちだって聞いた事がある。


「すげえな……俺らが大勢で押しかけて、大丈夫?」

「あら。行くのは、あたしとちーちゃん。それと安田くんに花ちゃん、あとは紫苑の五人よ」

「え? ずいぶん変わった面子だな」

 住んでる地域の関係上、俺とみづほがよく一緒に遊ぶのは度会だし、女子が加わる時は、赤川さんと青柳さん、みづほの三人は大抵一緒だ。

 部活でいつも一緒だから気づかなかったが、部活や学校以外で安田とつるんで遊びに行くのは滅多になかった。


「うん。女子会の話し合いで、行くメンバーが決まったの。実は新しい水着も買ってあるんだ――ね、いいでしょ?」

 会員制のホテルのプールなんて俺たちには、とんでもなく場違いな気もするが……

「お母さんからは許可を貰ってるの。ね? 一緒に行こ?」

 いつになく、みづほが積極的だ。

 それに、なあ――いつもながら、みづほは嘘が超下手だ。隠し事があれば、すぐ顔に出る。

 今回、必要以上にニコニコしてるのは、何か裏がある証拠なんだ。

 しかしこの場合、悪い企み事ではなく、ちょっとしたサプライズを用意してる、そういう顔なんだよな。


「ああ、いいよ」

「やったぁ。楽しみにしてるね」

 こんなことで無邪気に喜ぶみづほが、時々たまらなく愛おしい。

「ちーちゃんは水泳の準備だけしてくれたらいいから。後はあたしに任しといて」


 待ち合わせの場所には、安田と青柳さんが既にいた。

「おはよ。これで全員揃ったわね。花ちゃんが車で迎えに来てくれる手筈になってるの」

「え? これで全員なのかい?」

 青柳さんの言葉に、安田が意外そうな顔をする。

 どうやら安田も、ほとんど何も知らされてないようだ。


 向こうから高級車がしずしずとやって来て、俺たちの前でスッと停まる。

 ドアが開いて、高そうな夏物のワンピースを着た花が降りてきて、上品に一礼した。

「皆さま、ごきげんよう。今日はお招きにいらして下さりありがとうございます」

「わー。花ちゃん、きれい」

 女子たちが一斉に声を上げる。

 ほんとに辺り一面に花が咲いたような雰囲気で、どこのお嬢様かと――あ。花はそういうお嬢様だった。

 いつもジャージ姿で泥だらけになってマネージャーしてるので、すっかり忘れていたよ。


「ホテルまで車移動か――これ、リムジンて言うんだっけ?」

「お邪魔しまーす。わぁ、中も広いんだねー」

 やや気後れしてる俺たちに比べ、女子たちは打ち合わせでもしてるのか、ずかずかと車に乗り込んでいく。

 行先は郊外のリゾートホテルだった。かなりの敷地面積で、ゴルフ場やテニスコートもある。

「スパ&リゾート、て感じかな。トレーニングルームもあるけど、今日は筋トレ禁止ね」

「はぁい」

 青柳さんの解説に、みづほが残念そうに応えた。




 俺たちが通されたのは、なんと最上階のスイートルームだった。

「花ちゃん、ここで着替えていいの?」

「はい。裏口の向こうに専用エレベーターがあるので、水着のままプールまで行けますよ」

「ひええ……」

 花、どんだけお嬢様なんだ。


「安田、お前どんな水着持ってきた?」

「いや。普通の海パンだよ」

「だよな」

 別室に分かれてバスローブとビーチサンダル姿で、専用エレベーターへ。

 花が手慣れた様子で、カウンターにルームキーを渡すと、バスタオルその他のプール道具一式を渡された。

「持つよ」

「ありがと」


 やはり専用の男女更衣室に分かれてバスローブを脱ぎ、出口近くで女子たちを待つ。

「おお」

「かなり立派なプールだな」

 プールは室内と屋外、競技用や子供用も含めて四つほどあり、屋外には小規模なウォータースライダーもあった。

 夏休み期間中でもあり、人はそれなりに多く、活況を呈している。

 思ったより高級感は少なく、野球日焼けの俺たちも臆せず過ごせそうだった。


「お待たせ」

 バスローブを脱いだ女子たちを、一瞬眩しくて直視できなかったのは、けして比喩ではなかった。

「うわぁ……」

「お前ら、やたら布地少ないな――」


 三人ともデザインは少しずつ違うが、揃いも揃ってビキニ姿だった。

「ちょっと恥ずかしいんだけど、さ――」

「こういうとこだから、大胆なの買ってみたの」


 それにしても、見違えるようだった。

 青柳さんだって小柄だが結構可愛いし、スタイルだって悪くない。パレオを腰に巻いたビキニも、ばっちり似合っている。

 しかし、花はそれ以上かも知れない。足が長くて顔の小さいモデル体型が、小さなフリルのついた花柄ビキニで際立っている。件の美少女ぶりも手伝って、振り返る男たちの視線をめちゃくちゃ集めていた。


 布地だけで言えば、みづほのがいちばん面積が少なかった。濃いブルーのシンプルなビキニだが、鍛えに鍛えた抜群のボディラインが、もの凄い破壊力で伝わってくる。

「みづほお前、すごくカッコいいぞ」

「ありがと――裸で歩いてるみたいで、結構恥ずかしいけどね」

 お前、もっとあられもない恰好であちこち歩き回ってるじゃないか――という言葉は、みづほの名誉のために飲み込んでおいた。


 綺麗でセクシーで、カッコいい女子たちに比べて、俺たち男子陣は、なあ……

 学校に着てくるような普通の冴えない海パンに、俺は短髪の野球焼け、どっから見ても普通の高校生。

 安田はそれに輪をかけていた。

 おっさん顔に、こう言っちゃなんだが胴長短足。安田は投手に特化したトレーニングをしてるので、足腰はがっちりしているが、意外にスポーツマン体型ではない。

 それに――俺は知っていたが、すごく毛深い。胸毛にヘソ毛、脛まで剛毛で真っ黒だ。


 だが、意外なことに安田の剛毛は、女子たちに概ね好評だった。ここまで毛深いと、却って潔く感じるのかな。

「わー。ヤッス、毛皮着てるみたい。暑くないの?」

「大丈夫に決まってるじゃないか。あまりじろじろ見るなよ」

「ねねっ、少し触ってもいい? わー、ふかふか。花ちゃんも触ってみなよ」

「あっ――はい」

 ビキニ姿の美少女たちに囲まれて体をぺたぺた触られる安田の姿は、なんだか満更でもなさそうで、やけにおかしかった。


 手始めに屋外プールで、楽しく水遊び。

 ウォータースライダーにも何度か挑戦した。女子の楽しそうな悲鳴が、少し心地いい。

「ねえ、初めて知ったけど、ビキニって……」

「うん。すぐ脱げそう」

「ひとつ、勉強になりました――気をつけなくっちゃ」

 ちょっと、聞かなかったふりをしておこう。


「やっぱあたし、ひと泳ぎしたいなあ」

 体を動かしてスポーツマンの血が騒いだのか、ビキニをかるく直しながらみづほが呟いた。

「そうね――ねえ、あっきぃも行こ」

 青柳さんに促されるまま、三人で屋内の競技用プールへ移動。

「安田たちと、はぐれそうだけど?」

「いいから、いいから」

 見渡すけど、どこに行ったのやら分からない――まあ、花がいるから、迷子にはならないだろう。


 俺と青柳さんはプールサイドで飲み物を採って、みづほの泳ぎを眺めていた。

 こうして向かい合って座っていると、俺と青柳さんがデートしてるみたいだ。

「あのビキニにキャップとゴーグルって、超絶似合ってないな」

 というか、その無自覚なギャップが、却ってセクシーな印象を与えてはいる。

「みづほって、泳ぎもすごい巧いよねえ」

「ああ。中学は水泳部だったから――都大会で決勝まで行ってる筈だよ」

「ふうん……みづほって、ほんと何をやらせても一流だわ――」

 綺麗なフォームで泳ぎ続けるみづほは、美しい水の生き物と化していた。


「そろそろ、安田たちを探しに行かなくっちゃ」

 腰を浮かせる俺を、青柳さんが押し留める。

「ダメ。ヤッスと花ちゃんは、二人っきりにさせるの」

「えっ――どうして? みんなで遊んだほうが楽しいよ」

 それを聞いた青柳さんは、やれやれという表情になった。

「鈍感にも、程があるわ。みづほ可哀そう――あっきぃ、まだ分かんないの?」

「分かんないのって、何がさ?」


「あのね。キコが話さなかった? 花ちゃんて、野球部の誰かを好きになってマネージャーになった、って」

「えっ――うん」

 春の早いうちに、後片付けをしながら、赤川さんが俺にそう話してくれたことを思い出した。

「うーんと……つまり花と安田を二人きりにさせるってことは――」

 ああ。やっと分かった。青柳さんが苦笑しながら、かるく何度か肯く。


「そう。花ちゃんはヤッスに恋してるの。ほとんど一目惚れだったそうよ」


 一話で収まりませんでした。

 後編に続きます。

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