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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
105/297

西東京大会決勝戦 (VS早田実業2)


 二回裏は後続が続かず、緑陵無得点。


 三回表、早田はラストバッターの綿貫さんから。

 打球は、綺麗なセンター返し――これがみづほの守備範囲なんだから、相手バッターはどんな気持ちなのだろう。

 スライディングしながら逆シングルでキャッチ。俺も手慣れたもんで、みづほからボールを受け取る位置に既に入っている。

 流麗な動きでみづほがバックトス。その美しさに思わず目を奪われそうになるが、見惚れている余裕はない。ボールを受け取ると、視線の端にあったファースト目がけ、矢のように送球する。アウト。


 2アウトからヒットを打たれたので、先頭打者が出塁していたら失点のピンチになっていたところ。その意味でも、このアウトは大きかった。


 三回裏。攻撃前の円陣で、みづほが意外なことを言った。

「綿貫さんの調子、今イチだって?」

「うん」

 そういう頭はなかったな。現に打ち捕られているし、変化球のキレもハンパないように感じる。

「必要以上に、ストレートでの勝負を嫌がってるよね。いろんな可能性を考えたけど――船田くんの惜しい当たりのファウルがあったよね。あれからほぼ変化球一辺倒の配球になった」

「あれはチャンスボールでしたよね――結果的には俺の打ち損じ」

「二球めだったし、船田くんの仕事はファウルで正解よ? ――まともなコースに来る速球は、現時点ではスライダーと思った方がいい。半分以上はボール球になるから、じっくり見てね。狙い球は各自任せるけど、消去法でカーブになると思う。相手の使える球種を、じわじわ潰していきましょ」


 カーブも簡単に打てそうなボールではないが……だがこうして、具体的な対処を提示してくれるのは助かるし、こっちの士気も上がる。


 先頭打者はピッチャーの安田。左投左打の安田もまた、本塁ベースぎりぎりに立ってバットを構えた。

「みづほ。安田にもあの打ち方するよう、言ったのか?」

「ううん、直接は言ってない。うちのエースにデッドボール当てられる方が怖いもん。多分、あたしたちの話を聞いてたか――安田くん自身が自分で考えてやってるんじゃないかな」

 投手といえども、バッターボックスに立てば打線の一角を担う。死球も辞さない覚悟で、綿貫さんにプレッシャーをかけ続ける道を選んだのだろう。


 打撃のあまり良くない安田に対しては充分通用すると踏んだのだろう、早田バッテリーはストレートでもストライクを取ってきた。

「――どう? みづほの見立ては」

「うん。ストレート、微妙に抜けてるよね。シュート回転が多くて、思ったとこに行ってない。失投が怖くて変化球頼りの配球になってるかな」

 調子が今イチというのは、嘘やフカシではないようだ。


 円陣に加わってない安田だが、みづほの読み通りカーブを打っていった。

 打球は三遊間へのゴロ。ショートがグラブを差し出すが届かず、ボールがレフトへ転がっていく。

「安田が打った!」

「事故った!!」

 いや、それは言い過ぎだ。

 ともかくノーアウトのランナーが出た。


 続く志田は、送りバント成功。

 1アウト二塁で、トップバッターの福富が左打席に立つ。みづほがレクチャーしたのだろう、松元と安田と同じように、本塁ベースぎりぎりの位置取りだ。

 綿貫さんは左バッターには投げにくいようだ――その意味では、松元の攻め方は大正解だった。

 スライダーを結果的に封じられた状態では、確実にストライクを取れるボールがカーブしかない。3ボール1ストライクとなった時点で、福富の優位は明らかになった。


 五球めのカーブを狙い打てる状況である。

 案の定、カーブが来た。難しいコースだったがタイミングはバッチリ。センター前に巧く弾き返す。

「ナイス、福富!」

 センターの反応が良く、本塁突入は阻まれる。

 しかし1アウト一三塁で、打順は何でも出来る船田と、理想的なチャンスとなった。


 さあ、ここでどう動くか、だが――まず考えるのがスクイズ。しかし緑陵が小技を得意とすることは、相手も研究済だろう。最大級に警戒されるに違いない。

 次には、早いカウントでの盗塁。福富は足があるので、有効だろう。1アウト二三塁になれば併殺の危険がグッと減るので、ゴロゴーなど作戦の選択肢が広がる。

 さらにそれを発展させ、二盗と本盗を組み合わせたディレードスチールもあるが……これは相手に隙がない限り、危険な賭けだろう。


 一球め、ベンチのサインは『待て』だった。

 相手も様子見で、外に大きく逃げるスライダーを投げて来る。ボール。

 ファーストとサードがかなり前進してきて、スクイズ警戒は明らかだった。


 二球め、緑陵が動く。

 カーブでストライクを取ってくるか、ウエストかと予想していたが――なんと、渾身のストレートだった。

 一塁ランナーの福富がスタートを切る。盗塁だ。キャッチャーが腰をかるく浮かせ、セカンドがベースカバーに入る。


 この球を、船田は打っていった。ランエンドヒット。

 このコースと球速なら当然、みづほの助言どおりにスライダーをイメージしただろう。軌道の違いに戸惑ったに違いない。

 しかし船田は、巧かった。

 ゾーン内に来たボールを多少振り遅れながらも、しっかりと流し打つ。

 カキーン。

 打球は詰まりながらも、ベースカバーの為に大きく空いた一二塁間へ転がっていった。


 ランエンドヒットからの、ゴロゴーだ。

 セカンドが回り込んでどうにか追いつき、捕球する。

 二塁はもとより、本塁も間に合わない。一塁へ送球、アウト。

 三塁ランナーの安田が、同点のホームを駆け抜けた。




 2アウト二塁、打席にはみづほ。いやが上にも追加点の期待が高まる。

 回も浅いし、まだ同点。ここは早田バッテリーも、勝負に来た。いちばん自信を持ってるだろうスライダーから入ってくる。外に外れ、ボール。


 基本的に綿貫さんのスライダーは、ストレートと同じタイミングで大きく曲がる、空振りを奪うボールだ。

 ただこの回は、ストレートがほぼ見せ球であることが露呈してしまったため、ほぼ見送られている。

 こうなると曲がりすぎるスライダーは、ただのボール球だ。スライダーを投げるほど結果的にカウントが悪くなり、マウンドを苦しくしている大きな原因となっていた。

 3ボール1ストライクからの五球め、勝負をかけたスライダーはわずかに外へ。四球となる。

 そして、俺の打順。


 2アウト一二塁、内野はかなり深い守備を敷いている。対して外野は、定位置より若干浅い程度だ。

 二塁ランナー福富の本塁突入を阻止するべく、前進守備のバックホーム態勢を敷きたいのはやまやまだが、俺の長打力をケアしたギリギリの選択なんだろう。

 みづほなら、内野と外野の間に打球を巧く落とすんだろうけどな……生憎、凡人の俺には、そんな器用な真似は出来ない。


 焦っちゃダメだ。何度も自分に言い聞かせて打席に立つ。

 セットポジションの構えから、綿貫さんの一球め。外に変化するスライダーを見送った時、綿貫さんの顎がかるく上がった。

 二球め。カウントを取りに来たカーブを狙い打ち、フルスイング。

 カキーン。

 いい当たりの大飛球がレフトに上がり、球場が歓声と悲鳴に包まれる――自分では分かっている、ファウルだ。手応えはあったが、タイミングが少し早かった。


 俺の打球を見た綿貫さんの目つきが、少し変わった。キャッチャーのサインに三度首を振り、何かあるな、と思わされる。

 果たして三球めは、シュート回転で内角に食い込んでくる、ストレートだった。慌てて腰を引いて避ける。ボール。

 ――そうだよな。スライダーが見送られるのが分かった今、主軸の打者相手に、カーブだけで勝負するというのは無理がある。ある種、開き直りを見せた投球だ。


 四球め、力のあるボールが内角を抉る。ストレートだ。

 見送るというより、手が出なかった。ストライク、主審の手が上がる。

 これで2ボール2ストライクと追い込まれた。


 次のボール、見極めが大切だ。三球続けてストレートは、まさかないと思うが――分からない。

 ストレート&スライダー8、カーブ2くらいの意識で打席に臨む。

 ストレートの軌道の場合、選択肢はストレートか、スライダーか。スライダーなら、ゾーン内か、それとも外か。

 外野に転がせば、現在の守備位置と福富の足なら、得点も可能だろう。

 とにかく、ボール球には絶対手を出さない。その気構えが重要だ。


 五球め。ストレートの軌道、これなら主に横の変化への対応だ。

 ボールが嘘のように、よく見えた。ベースのかなり手前で外に変化していく――スライダー。これならボールになる球だ。

 自信を持って見送った。ボール。これでフルカウント。


 綿貫さんのラストボールを待つ俺は、自分でも驚くほど落ち着いていた。さっきのボールがよく見えていたことで、自信を持ったのかもしれない。

 だから、アウトローに曲がりながら落ちていくカーブに対しても、踏み込んでタイミングよく振り抜くことが出来た。あたかも、あらかじめそこにボールが来ることが、分かっていたかのように。

 カキーン。

 ――もしかしてみづほの目には、いつもこんな風にボールが見えてるのかな。

 レフトの頭上を越していく打球の行方を見ながら、そんなことを考えていた。


 福富に続き、みづほもホームを駆け抜けていく。2点タイムリー二塁打。

 スタンドを、ベンチを渦巻く熱狂の中にあって、俺は冷静に、この手に残る不思議な感覚の余韻を味わっていた。

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