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俺の幼馴染は甲子園を目指す  作者: かのさん
高校二年生編
101/297

西東京大会準決勝 (VS都立目野4)


 同点ホームランを打たれ、気落ちしている筈の村田さんと、今季初対戦。

 2アウトランナー無し、ある意味ノープレッシャーでの打席だ。


 結論は――思ったより球が重かった。ストレートに押され、浅いセンターフライ。

 長身から振り下ろされる独特の軌道を辿っており、結果的に詰まらされてしまった。

 八回裏終了。


 九回表、安田は続投。

 ここからは、ワンプレー、一人の走者、さらに言うと一球の良し悪しが勝敗を分けるだろう。

 下位打線相手だが、油断はできない。

 目野の打線は、下位でもバットを強く振ってくるし、安田の球質の軽さといったら、常識を超えている。


 1アウトから7番の島田がヒット。続く九条さんは送りバント成功で、2アウトながら二塁と、一打勝ち越しの場面を作る。

 バッターは途中からレフトの守備に入った中島さん。


 安田は、球数は130球を越していたが、ボール球を混ぜながら丁寧に投げていった。

 初見の相手には、緩急をつけて的を絞らせないこと、低めにボールを集めて内野ゴロを打たせること。このバッテリーは、徹底してそれを実行している。


 中島さんは泳がされて、ボテボテのセカンドゴロとなった。

 3アウトチェンジ、九回裏の攻撃に移る。


 緑陵は1アウトから、野口がレフト前ヒット。速球に強いところを見せる。

 この段階になると、ひとつのアウト、ひとつのヒットで、スタンドから大きな歓声や悲鳴が飛んで来る。


 続く根来は送りバントを選択し、2アウト二塁と、奇しくも九回表と同じ状況になった。一打サヨナラのチャンスだ。


 ここで安田の打順だが、ベンチは代打を送った。

 度会だ。

 ストレートに強い梶本も考えられたが、ここは度会の経験に賭けたのだろう。

 ブルペンを見ると、出張してきたこころに、竹本が例のリラックスおまじない――ほっぺたグリグリ――を受けていて、そこだけ空気が和んでいた。


 村田さんとしても、ここで打たれたら即終了なので、渾身の投球が続く。

「度会ーっ! 頑張れーっ!!」

 ここで野次のひとつも飛ばすべきなんだろうが――先輩ばかりなので、どうしても遠慮が入る。第一、中心選手のみづほや安田、根来が、野次を飛ばすようなキャラじゃない。

 ちなみに、安田はそういう野次にもの凄く強い。「ピッチャー、ボール来てねえぞー!」と言われても、球が遅すぎて来てないのは事実だし。


 度会にも、この打席に期するものがあったのだろう。

 センターに巧く弾き返し、歓声と悲鳴が一瞬上がる。

 しかし、バックホーム態勢で前進していたセンターの守備範囲だった。

 センターライナーで3アウト。秋に引き続き、試合は延長戦に突入した。




 十回表。マウンドに竹本が上がる。バッターは1番の主将、若林さん。

 目野には、竹本は経験の少ないピッチャーという認識があるのだろう、早速セーフティバントで揺さぶりをかけてきた。

 打球はフェア――巧いバントだ。三塁前に転がっていく。


 竹本は素早かった。

 マウンドから駆け下り、そのままボールを素手で拾うと、ノーステップで矢のような送球を一塁に投げた。

 際どいタイミングだが、判定は――「アウト!」

「竹本、ナイスフィールディング!!」

「おう、あたぼうよ」

 親指を立てて竹本がニカッと笑う。

 実際に「あたぼうよ」と言うヤツは初めて見たが、とにかく成長を遂げているのは、レギュラーだけじゃない。


 ――それにしても、最近の竹本は堂々としている。

 こころのおまじないのせいだろうか、体に余分な力が入ってないので、投げるボールに伸びがある。

 竹本は快調に、目野の怖い上位打線をぴしゃりと三人で抑えた。


 さあ、十回裏の攻撃だ。


 村田さんは続投、緑陵の先頭打者は志田。

 志田もまた、初球にセーフティバントで揺さぶりをかけるが、ファウル。打球の具合から察するに、まだ充分に球威はありそうだ。

 志田は、粘った。

 出塁率は今イチだったが、緑陵の1番を一年以上張っていた男だ。今まで積み上げてきたモノへの矜持はあっただろう。


 三球ファウルを続け、九球めのストレートを見送る。

「ボール。フォア」

「志田ー! カッコいいぞー!!」

 待望のノーアウトのランナーだ。これは大切にしたい。

 四球ひとつで歓喜に湧き返る緑陵ベンチを、村田さんはわずかに眉間に皺を寄せて見ていた。

 感情がすぐ顔に出ていた井上とは対照的に、表情をほとんど変えない村田さんだった。

 

 打順は1番に戻り、福富。ベンチは送りバントを選択した。

 球威のあるストレートの勢いを巧く殺して、一塁側に転がす。犠打成功、1アウト二塁となる。


 右打席に2番の船田が入る。ベンチのサインは、ダミー。ということは、自由に打っていい。

 多分、船田の意識にあるのは流し打ち。特に一二塁間からライト方向だろう。

 これならアウトになっても最低限の進塁打となるし、ライトフライでも志田は足があるので、飛距離が充分なら犠飛で三塁へ進める。


 ただ、目野の守備陣が流し打ちを意識した布陣になってない――ということは、ひと悶着ありそうだ。

 初球から案の定、船田がベースに被せ気味に構えてるのに、インコースにズドンとストレートが来た。

 ストライク。

 本来、村田さんはそんなにコントロールのいい投手じゃない。下手すりゃ死球もあるだろうに、凄い度胸と集中力だ。


 目野内野陣の守備位置は変更なし――ということは、意地でも進塁打を打たせないつもりだ。

 もちろん投球と同時に位置取りを変えることもあるが、多分、インコース主体の配球になるだろうと思われた。

 ――こりゃあ、船田も腹を括んないといけないかな。

 相手がインコースを攻めて来るなら、進塁打のセオリーは無視して、引っ張って強い打球を打つことも辞さない覚悟が必要になる。無理に流し打とうとすると、バッティング自体が壊れてしまう。

 二球めもインコース。チェンジアップはボールの判定。


 三球め、やはりインコースに来た速球を、船田は強く振り抜いた。

 カキーン。

 強烈なゴロが、サードの脇さんを襲う。

 脇さんはゴロの真っ正面に走り込み、体にボールを当てて前に落とした。

 二塁ランナーの志田は、大きくリードを取っていたが動けない。

 ボールを拾い上げた脇さんが一塁へ送球、アウトとなった。2アウト二塁。


 この場面で、この試合で最も当たっている打者、みづほの登場となり、スタンドの両側から地鳴りのような喚声が湧きあがり、球場を包み込んだ。


 一打サヨナラのチャンスは、変わりない。

 みづほを前にして、目野はタイムを取り、マウンドに内野陣が集まった。


 現在一塁が空いていて、目野にとっては失点即敗戦の、この状況。

 みづほと勝負するか、敬遠し塁を埋めて俺と勝負するか、話し合ってるんだろう。

 俺は、きっとみづほと勝負するだろう、と確信に近いものを感じていた。

 試合の流れ、球場の雰囲気、理由はいろいろあるが、何より目野ってのは、そういうチームなんだ。上手く言えないけど、そうなんだ。


 バッターボックスに立っている、みづほの様子をそっと窺ってみる。

 みづほは、両手でバットを掲げ、何かの祈りのように静かに眼を閉じている。集中しているのは、明らかだった。


 眼を閉じたままのみづほが、ゆっくりと息を吸い、そして吐く。みづほの周囲の空気が瞬間サッと冷えるので、それと分かる。

 みづほの眼が開くのと、キャッチャーの相馬さんが本塁に戻って来たのが同時だった。

 相馬さんが座って構えただけで、場内が大きくどよめき、拍手が湧き起こる。


 勝負だ。


 

 

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